俺は呪われているらしい。
セレスの魔法を目の当たりにした俺は、先日の男の魔法とそれを無意識のうちに比較していた。
もちろん、戦いの中でお互いに必死だったので正確な事は分からない。ただ、男の魔法はもっと何か、発動までにタメがあった気がする。来るという予兆があったから、俺も辛うじて避けられた。
だが今のセレスの魔法は撃つまで、いや撃ち終わるまで何が起こったのか全く分からなかった。
それも起きた結果から、何があったのかを推察しただけだ。もちろん戦う気は無いが、もし仮に、あの時戦ったのが男ではなくセレスだったら、俺は何か策を講じる暇もなくバラバラにされていただろう。
改めてこの世界が異世界である事と、個人の力の格差を思い知らされる。悪人や権力者にこの力を振るわれれば、メイのような普通の子供はなす術もない。
「どうしたの? ぷに太郎」
気にするな。やれやれ。
「ふふっ、スライム君にも少しは見直してもらえたかな? これに懲りたら次からは水を掛ける前に一声かけて欲しいね」
人は見かけによらないと言うが。
まあ、こいつほど極端なやつはそうは居ないだろうな、やれやれ。
⭐︎
その後は特に問題もなく、どんどん先に進んでいった。しかし、既にあの日から二週間以上経っている。メイは殴られて気を失っていたし、俺も戦いに必死だった。事が終わった後もメイを運ぶので精一杯で正確な場所は覚えていない。
「この辺だと思うんだけどなぁー」
メイは辺りを警戒しながらも、積極的に調査に参加している。セレスの「貢献次第では銀貨五枚」という条件が効いているらしい。
報酬の件もそうだが、昨日の焼き菓子や、泊まる際にメイに差し入れたチーズ入りのパンと良い、必要なタイミングで報酬を渡すのがいやらしい程に上手い。まるで優秀な営業マンみたいだ。
本人の飄々とした振る舞いも、こちらを警戒させない為の計算……と、見るのは考え過ぎだろうか。
「メイ、探してくれるのは嬉しいがあんまり離れないでおくれ。いざという時に守れなくなるからね」
いずれにしろ、ここまで来たら乗るしかない。まあ、嘘をついている様子はなさそうだし、守られる身としては、彼女が優秀であるに越した事はない。
「あー、あった! メイの鎌! っし! よしよしよし! あぁ、良かったぁ〜……」
どうやらあの日の鎌を見つけたらしい。俺はぴょんぴょん跳ねて喜ぶメイの近くに寄る。
雨と泥で汚れているが、確かにメイのだ。村長の鎌は少し大ぶりだったからな。何より、物を大切にするメイの事だ。機会があれば、ずっと探しに行きたかったに違いない。
「ぷに太郎、アレお願い!」
メイは俺の身体に鎌を入れる。少し身体に付けおいてから、鎌を震わせて軽く洗う。そうするとほんの10分ほどで、刃は磨き抜かれた包丁のようにピカピカに蘇った。明らかに落とす前より綺麗になったぞ。やれやれ。
「ほう、そんな事も出来るのかい。まるで魔法だね」
むしろ魔法で出来るのかい。俺のアイデンティティが泣くぞ、やれやれ。
「じゃあ、この辺りが私たちがいた場所で間違いなさそうね。ぷに太郎、何か分かる? ここで何があったか覚えてる?」
まかせろ。ちょうど鎌の他に、もう一つ気になっていたものがある。俺は出来ればそれを拾って、あいつの元に届けてやりたかった。
俺は鎌の落ちていた場所との距離を測りながら、そのままぐるりと一周する。すると、ものの数分で薄汚れたナイフを見つけた。
それを見たセレスは目を丸くした。
「これは……材質は普通の鋼だが、柄に文字が刻まれている。ルーン武器だね。間違いない……ここに例の男がいたみたいだ。お手柄だね、スライム君」
セレスが俺の頭を撫でた。やれやれ、変態とはいえ美人に褒められるのは悪くないぞ。
「こんな武器をわざわざ置いていくはずがない。ここで、何かトラブルがあったと考えるのが自然だろうね。まったく、君はどこまで知っているのやら」
考え込むセレスを押しのけて、メイが俺を抱きしめる。
「ここからずっとずっと、ボロボロになって私を運んできてくれたのね……。ぷに太郎、大好きよ」
やれやれ。ご主人様は最近、俺にデレデレで困るぞ。はあ、困ったな。かーっ、辛いぞ。やれやれ。
「ふぅ……ずっと眺めていたい光景だ。だが、あいにく今は仕事中だからね。さっさと片付けて、続きは家で見させてもらおう」
セレスはまた右目を隠すと、ナイフを見て、それから俺を見て、最後に地面を見た。
その刹那、うっ、と口元を押さえてしゃがみ込む。
「セレス、大丈夫!?」
驚いてメイが駆け寄ると、セレスは青い顔で口元を拭った。明らかにただ事では無い。
「ああ……取り乱してすまない」
「セレス。セレスには何が見えてるの? あの時あった事だよね。教えて。ぷに太郎に何があったか、メイも知りたいの」
何やら不穏になってきたな。気持ちは嬉しいが、俺はメイには知って欲しくない。出来れば知らないまま、忘れて欲しい。
だが、そうはいかないらしい。
「……まあ、こちらは協力してもらってる身だ。他言無用で頼むよ」
セレスの神妙な面持ちに、メイは唾を飲み込んだ。彼女はふっと笑うと、軽く咳払いをする。
「……と、勿体ぶってみたが、すまない。事情が分かる訳じゃないんだ。ただ、僕の目は少し特殊でね。左目で見ると、そこに絡み付いた因果や悪意が見えるんだ。ここでは分かりやすく、『呪い』としようか。それがこのナイフと、そこの地面から漂っているのさ。それこそ、悍ましい程にね」
「ひっ!」
セレスがメイの立っている場所を指さすと、メイは後ろに飛び退こうとして足を滑らせた。間一髪で俺がキャッチする。
「あ、ありがと……」
セレス。お前な。
「そしてここに来て、ようやく君が普通のスライムじゃないと分かったよ」
セレスが立ち上がって、薄く笑う。
「君にも絡みついてるね。その『呪い』が」




