寝坊助女はシゴデキらしい。
次の日の早朝、俺たちは三人で森に出かけることとなった。
魔物は夜行性が多いので、朝方から調査に出て昼過ぎには終えたいというセレスの意向である。
「ほら、セレス。私は支度出来たわよ。そろそろ起きなさいったら」
「うーん、後ちょっと……」
やれやれ。これで三回目である。
もう日の出はとっくに過ぎている。昨日あのまま家に泊まったセレスは、自前の寝袋の中で蓑虫のように蹲っていた。
「まあ、メイはお金が貰えればなんでも良いけど」
ふむ。
俺も既に男が死んでいるのが分かっているので、この調査に乗り気かと言われると複雑な気持ちだ。だが、ここでダメな大人の姿を見せるのはメイの教育上よろしくない。よかろう。
放水! プシューッ!
「あばばば! な、なんうぶぶぶぶ!」
水を吹き付けられた彼女は狼狽して寝たまま転がりまわるが、ようやく目が覚めた。
「ほら、ぷに太郎も起きろって言ってるよ。セレスって見た目はしっかりしてそうなのに、中身は残念よね」
「面目ない……。というか、ビショビショなんだが。まあ僕が悪いのは認めるけれど、一張羅なのにどうしてくれるんだい?」
「ぷに太郎ー、乾かしてあげて」
やれやれ。俺はセレスの身体に巻き付くと、コートの水分を吸着する。
「おお……これは凄いね……!」
ついで、靴下、スカート、シャツの中と身体中をグネグネと動き回る。
「あはっ……んっ、これは中々……んくっ、新しい刺激だ……ひゃぁんっ♡ やらあっ♡ そ、そこらめぇっ!」
はあ、喘ぐな。メイの教育に悪い。
少し口を閉じてろ。
「ああっ、触手が口にぃ♡ おごっ、おっおっ、んー! ぷはあっ、あむっ♡ はあ、もっとぉ……♡ 」
「……なんかヤダ! もうおしまいー!」
ふん、乾いたぞ。なんか途中から様子がおかしくなっていたようだが、気のせいか? やれやれ。
「はあ……はあ……。まさか朝っぱらからこんな辱めを受けるなんてね……。ジュル……最高だよ……」
「きもーい!」
馬鹿なことしてないで行くぞ。真面目にやれやれ。
*
森の入り口まで着くと、セレスが俺たちを振り返った。手にはコンパスに水晶がぶら下がったようなアクセサリーを持っている。
「さあ、それじゃあ君たちが男と遭遇した地点まで道案内を頼む。一応魔除けは渡しておくが、気休め程度だ。道中に魔物や獣が襲ってきたら、僕がなんとかしよう。スライム君はメイちゃんを守ることに専念したまえ」
「セレスって強いの?」
「ふむ……難しい質問だが、森で出会った男やゴブリンが10くらいの強さなら、僕は大体50ってところかな。これでも元冒険者だ。森でのイロハは熟知しているつもりだよ」
頼もしい。朝から寝坊して喘いでいた女とは思えないな。
まあ、特に疑う理由もないのでどんどんと先に進んで行く。魔除けのおかげなのか、魔物は一匹も現れず、洞窟までついた。ここいらでだいたい半分だろう。
だが、このまま何事もなく到着するかと思われた時だった。
風に乗ってふわりと、生臭いにおいがした。
「待った」
最初に声をかけたのはセレスだった。
指差した方向を見ると、少し先の茂みの奥で黒っぽい何かが動いている。注意深く目を凝らすと、大きな熊がいた。どうやら食事中のようだ。シカを食べている。
「迂回しよう」
そっと彼女が言った時、ガサッと反対側の茂みからも音がした。ウサギか何かが通ったらしい。その音を聞いて熊と目が合う。
「大丈夫だよ、大人しくしてれば平気だよ」
メイが落ち着いた様子で言うが、セレスは首を振る。見ると、右目を瞑っていた。
「いや、あれはもうダメだね。明確に敵意を向けている。それにあれは、人の味を覚えている目だ。やるしかない」
そう言うとセレスは少し身を乗り出して、ローブの袖を少し捲った。こちらに迫ってくる熊に向かって、右手を前に差し出し、左手で帽子を押さえる。
「気は進まないが、見逃して犠牲者が出ても困るのでね」
その瞬間、スン、と風が肌を凪いだ気がした。セレスの髪が後ろに乱れると同時に、クマの身体が胴体から裂け、後ろに吹き飛んだ。
衝撃波、いや、鎌鼬か。
じっくり見るのは初めてだが、これが魔法か。凄まじいな。
「すっご……」
メイは目を丸くした。さっきまでは正直言って二人とも半信半疑だったが、なるほど元冒険者の肩書きは伊達では無いらしい。
「さて、これでまた他の獣が集まってきても面倒だ。先を急ごうか」
セレスは風で乱れた服を整えながら、事もなげにそう言った。




