新キャラ登場だぞ。やれやれ。
モコモコモコモコモコモコモコモコ
「ぷに太郎すっごーい!」
そうだろうそうだろう。俺の進化は止まるところを知らないぞ、やれやれ。
モコモコモコモコモコモコモコモコ
メイの体を洗った翌朝、またレベルアップした俺は新しいスキルを習得していた。
「あわあわだー! すげー!」
石鹸化である。ただ今、家の裏庭でメイの全身洗濯中である。メイは俺の泡立ちが余程気に入ったらしい。体を擦り付けては羊のようにモコモコになって目を輝かせている。
プシャーッ
「ヒャー!」
俺は泡だらけのメイを目掛けて口から水を吐く。どこが口なのかは知らんが。
昨日、図らずも自分の体から体液を出せることに気付いた俺は、それを意識的に出来るのではないかと考えた。
そんなわけで今日は早朝から井戸に降り、こうして水を蓄えてきたのだ。
結果、普通に出来た。これで俺は、洗剤、洗浄、乾燥までを一人で担うことの出来る最強のスライムへ至った。ちなみにそれぞれのモードは自由に切り替え可能である。
「気持ちいいけど……やっぱり服脱いだ方がいいんじゃない? へばりつくし、洗いにくいもん」
ダメだぞ。ズボンに手を掛けたメイの手を捕まえる。
外は誰が見ているか分からないからな。後で乾燥出来るし、夜また部屋で洗うから問題ないぞ。やれやれ。
メイはそれを振り解いて、今度は逆に俺を捕まえた。俺はまた石鹸モードに切り替える。抱きしめた手から、つるんと滑ってこぼれ落ちた。
「ぷに太郎もニュルニュルしてるー! あっはは、キモ〜い♡」
再び水を放出する。
「あ、怒った♡ ざっこ〜♡」
ふう……次はお湯とシャワー機能の実装が待たれるな。一先ず、これで衛生面はひと段落といったところか。何より、メイが喜んでくれたのが嬉しい。
あとは食生活と、住環境、衣服をどうするかというところだが、水が楽になったのは大きいな。
俺が感慨に耽っていると、頭の上にメイが飛び乗ってきた。水を吸ってルームクッション大に膨らんだ身体は、子供一人くらいなら簡単に載せることができる。
「さあ、行くのよぷに太郎。このまま家の中まで私を運びなさい」
やれやれ、甘えて良いと分かった途端にこれだ。だが俺もメイを甘やかしたいのだから仕方ない。要は、需要と供給の一致というやつだ。
移動式ウォーターベッドとなった俺はそのままのそのそと、メイが指差した方向に進む。
今日はそのまま昼寝でもするかと思った時、ふと後ろから声がかかった。
「ちょっと、そこの君。待って、そこの女の子」
振り返ると、見たことのない女がいた。黒髪で歳は20代後半くらいか。寂れた村には不似合いな凝った刺繍のローブを纏っている。ぱっと見のイメージは学者か魔術師といったところで、泰然とした立ち振る舞いから、明らかにここの住人とは育ちが違うことが分かる。
「おねえさん、誰?」
メイが怪訝な顔をした。知り合いではない。俺はメイを降ろすと、少しだけ前に出た。女は俺を一瞥したが、気にならない様子で話を続ける。
「ああ、すまない。警戒させてしまったかな。僕はセレス。王都から派遣された調査員だよ。実は村長さんから、君が魔物使いの男に襲われた話を聞いてね。ちょっと話を聞きたいんだが、良いかい?」
*
場所をメイの家に移し、俺たちはセレスと向かい合っていた。
「大まかな話は聞いている。君たちは森で、魔物使いの男に襲われたそうだね」
「うん、そうだよ」
メイは男に接触した経緯とセレスの質問に端的に、また正確に話した。
セレスは腕を組んだまま難しい顔をしている。疑っている訳ではなさそうだが、それでも信じられないといった様子だった。
だが、俺は彼女の話を聞く姿勢を見て、信用出来そうな女だと思った。
「気を悪くしないでほしいんだが、君が今話した事を全て鵜呑みにするとしたら……よく無事だったね」
一通り話を聞いたあと、腕組みをしながら顎に手を当てて考え込んでいたセレスが口を開いた。これ以上の聞き込みは無駄だと思ったらしい。
「ぷに太郎がいたから」
怪訝な顔をしたセレスの前で、メイが得意げに俺を撫でる。
客人に椅子を貸しているので、今は俺がメイの椅子だ。当然だが、座り心地は比べるまでもない。
「そのスライムのことかい?」
「うん。ぷに太郎が守ってくれたの」
「ほう……」
セレスが俺を見る。まるでその話題を待っていたという風な様子で、今度はまじまじと俺の身体を観察し始めた。
なんだ? 俺の内に秘められた圧倒的な力に気付いたか?
それとも、このプニかわな見た目と触り心地に興味があるのか。やれやれみんなそう言う。困ってるんだ。
「少し、この子を視せてもらってもいいかな?」
「ぷに太郎を?」
「ああ。別に痛いことはしないよ。楽にしてくれたまえ」
セレスは椅子から立ち上がると、俺の正面に回る。
そして右手で自分の右眼を覆った。左眼だけで俺を見る。先程までと何か雰囲気が違う。
なんだ中二病か?
……とは思わない。割となんでもありの世界だ。「鑑定!」とか「魔眼――」みたいなやつだろう。やれやれ。教えてもらおうか。この世界で俺が、どれほど強くなったのかを。
「……普通のスライムだね」
なんだと?
それから首を傾げ、もう一度右眼を隠す。
じーっ。
「うん、やはりただのスライムだ」
そんな馬鹿な。
「そんなことないよ」
メイが俺を抱き上げた。
「ぷに太郎はすごいんだから。掃除も出来るし、あわあわになるし、怪我も治してくれるんだよ」
「怪我を?」
「さっき言ったでしょ。私を襲ったやつ、怪我してたって。でもぷに太郎が治したから歩けるようになったの。それにすごく優しいし、私が困ってる時はいつも真っ先に助けてくれるんだから」
…………
「あと抱き心地もいいし、ぷにぷにだし、冷たくて気持ちいいし、夜は一緒に寝てくれるし――」
……やれやれ。
「私の自慢の友達だよ」
身体が震えた。
「あっ、また泣いてる。ふふっ。ざぁこ♡」
やれやれ。
メイは笑いながら俺を抱きしめた。
セレスはそんな俺たちを黙って見ていた。顔が赤い。いや、それどころか、鼻息を荒くして身震いしている。
「素晴らしい……まさに種族を越えた友情。いや、『愛』と呼んだ方がいいね? なるほど少女とスライム。初めはこんなクソ田舎に派遣されて、実に退屈な任務と思っていたが……こんなところで君たちみたいな逸材と出逢えるとは。とても、興味深いねぇ……」
「えっ、何? セレス?!」
やれやれ。やはり俺は人を見る目がない。
先ほど信用出来そうと言ったのは撤回するぞ。メイも俺も、その手の奴にはトラウマなんだ。変態は今すぐ帰れ。
俺は女の足を身体で押し込んで、今すぐ家から追い出そうとした。
「なんだ君。僕にも懐いてくれるのかい? 嬉しいねえ」
セレスはまだ居座るつもりらしい。気をよくしたのか、自分の態度を省みる様子もなく、咳払いをしてまた椅子に腰掛けた。
「話はだいたい分かった。どうやら君たちとここで出逢った事は、僕にとってとても幸運だったようだね」
やれやれ、こちらは絶賛不運だと感じているぞ。
「メイ、そしてぷに太郎。どうやら今回の事件の調査は君たちの力が必要らしい。村の平和のために、協力してくれるよね?」
「えっと……つまり、どういう事?」
「君たちを雇いたい。報酬はそうだな、一日に銀貨二枚ってところでどうだい?」




