新スキル習得だぞ!やれやれ。
翌朝、日の出とともに目が覚める。昨日あんな目に遭ったというのにブラック企業で培った習慣は簡単には抜けないらしい。
とはいえ、疲れはもう殆どない。やはりこの身体と昨晩メイが必死に給餌してくれたお陰だろう。
隣を見ると、メイはまだ俺を抱いたまま、泥のように眠っている。やれやれ、無理もない。
異世界の洗礼と言ったところか。まさか転生二日目で死にかけるとは思わなかったな。もう少し転生者に優しい世界であって欲しいぞ、まったく。
流石にあんな事はもう滅多に無いと思うが、これからのことを考えるとこのままじゃダメだ。もっと生活のインフラから整えていかなければ。
とりあえず、メイが寝てる間に掃除しておくか。
「んぅ……ぷに太郎ぉ……」
そっと腕を抜けようとすると、メイが一際、俺を強く抱き寄せた。
やれやれ。
そういえば、眠くなって来たところだった。ちょうど良い抱き枕もあるし、もう一眠りするか。やれやれ。
俺はメイに少しだけ身体を預ける。ところどころ傷んで綻びが出来た薄い麻の服は、少し引っ掛けただけでも破れてしまいそうに薄い。小さな胸から心臓の音が聞こえた。一定のリズムを刻むその音に耳を傾ける。どこが耳なのかは知らんけど。
でもとにかく、確かに聞こえる。本当に良かった。
その音を聴いているとやけに安心して、気付いたら俺はまた微睡に落ちていた。
*
目を開けると、メイの顔が隣にあった。彼女は俺が起きたのを動きで感じ取ると、普段とはうって変わった優しい笑顔で微笑みかける。
「おはよう、ぷに太郎♡」
なんだ夢か。解釈不一致だぞ俺。やれやれ。
チュッ
ん?
「あむっ、れろっ、あーむっ」
……何をしてるんだ、こいつは。
俺はピョンと跳ねると、メイの手をすり抜け、頭の上に乗った。
メイは両手を上げて俺を捕まえると、またそのまま自分の胸に置く。
「だって……まだ心配だったから……」
いつからこんな過保護になったんだか。変な性癖に目覚めたかと思ったぞ、やれやれ。
……将来が心配だな。
*
結局、昼過ぎまで二人で寝ていた。
ーーレベルアップしました。
ーーレベルアップしました。
ーーレベルアップしました。
はあ、煩いアラームだ。メイの過剰なスキンシップのお陰で朝から三回もレベルアップしてしまったぞ。この分だと一ヶ月もあればレベル99になってしまうな。
メイそろそろ起きろ。
俺はゆさゆさお腹の上で揺れる。
「どうしたの? お腹減ったの? 唾いる?」
洒落にならんから人聞きの悪いことを言うな。まったく、よく寝られるものだ。昨日の夜から何も食べてないんだからお前の方が空腹だろうに。
「じゃあご飯にしよっか。今日は昨日採ってきた野草を…………って、ああっ!」
うん?
「持ってきてない! どっかに落っことして来ちゃった! そういえば鎌は? ぷに太郎、鎌は? 鎌は持って来てくれた?」
俺はフルフルと体を振る。無茶言うな。
「あー! どうしよー……採りに行く? いやいやいや、無理無理ムリ!」
そうだな。やめておけ。……というより、厳密にはこいつの中では昨日の出来事はまだ終わっていない。
メイの認識ではゴブリンと男は俺がボロボロになって追い払ったことになっている。今朝の過剰なスキンシップもそのトラウマと負い目からだろう。何とかして伝えてやりたいが、あいにく俺が喋れない。
そうして考えている間に、メイはベッドの下をゴソゴソと弄っていた。そして中から錆び付いた四角い小さな缶を取り出す。机に置くとジャラリと音がした。
「はあ……しょうがないかー……」
缶の中にはそれなりの量の銅貨が入っていた。成程、へそくりか。この世界で初めて見た貨幣に俺はしばらく目を奪われた。
「ダメだよ! これはぜったい食べたらダメっ!」
メイはテーブルの上に置かれた缶を手元に引いて、自分の体で隠す。
まったく人の事を何だと思ってるんだ。お前が大切に貯めた金を食べるわけないだろ。だが……なんというか……
錆び付いた缶の蓋を見た。何故だろう。昨日まで考えもしなかった事が、今日は理由は分からないが出来る気がする。戦いの経験なのか、それともあのポンポン上がるレベルのせいなのか。とにかく、試さずにはいられなかった。
「あーこらっ! ぷに太郎!!」
メイの声を無視して触手で缶の蓋を取る。そのまま体に取り込み、錆をゴシゴシと身体の中で擦ってみた。
思った通りだ。この身体、錆を落とせるぞ。
「うわー、すご〜! 凄いけどキモ〜。もうチューするのやめよっかな」
どうやら俺はまた強くなってしまったようだな。スキル「錆落とし」を習得したぞ! やれやれ、また俺何かやってしまったか?




