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吉乃の日常2

昼休みが終わると、学園での用事が終わった私は生徒たちの住居エリアに戻る。


(学園の仕事も終わったし、次は夕食の支度ね)


 朝とは違い今はお日様の匂いがして、解放感に背伸びをした。


(んん〜! よし、その前に買い出しに行かなきゃ)


 住居エリアは、学園の門を背にして左に女子寮。右に男子寮がある。その真ん中には、日用品から食料品まで取り扱うお店があるのだ。


「こんにちは〜」

「あら、いらっしゃいヨシノ」


 陳列をしている恰幅のいい女店主にはお世話になっている。彼女はさっぱりとした性格で、私にはこの学園に関しての先輩のような印象だ。


「今日はいい魚が入ってるよ」

「本当? 魚かぁ……」


 今夜の夕食に出席のサインをしていた寮生たちの顔を思い浮かべる。


(たしか、アレルギーはないはず)

「うん、貰うわ。ムニエルにする」

「いいねぇ!」


 私は魚の他に野菜や調味料を購入して寮へと帰宅して一休み。お気に入りの銘柄の紅茶を口に「ふぅ」と息を吐いた。


(この午後のひと時がいいのよねぇ)


 誰もいない静かな寮。

 もちろん、寮生で賑わう室内もいいけれど、一人の時間も必要だ。なんというか、園児たちのお昼寝タイムの静かな時間を思い出す。


(まあでも、保護者への日誌とかで忙しくはあるんだけど)


 「ははは」と思い出に笑っていたら、寮の扉が開く音がして顔を上げた。


(おかしいわね? いまだ授業中のはずだけど……)


 玄関へ走ると、寮生の一人であるマーガレット・ブレアが虚ろな目でフラフラと帰ってきた。


「マーガレットちゃん?! どうしたの、具合悪いのね?」


 マーガレットは胸を上下させながら、コクリと頷いた。

 私は、サッと彼女の額に手を当ててハッとする。


「熱があるわね。階段は登れる?」

「登れる……」


 マーガレットは薄紫色の髪を乱して、息苦しそうだ。

 私はフラフラとする彼女を支えて部屋まで送る。ベッドへ四肢を投げ出したマーガレットのブレザーを脱がせて、私は急いで一階に下りた。


(冷やす物と、水分補給……)


 きっと帰宅する前に医務室へ寄ったはずなので、薬はあとでいい。


(医務室の先生に来てもらわなきゃ)


 素早く必要なものをまとめて、マーガレットの部屋へ戻ると、彼女は寝間着に着替えてベッドへ入っていた。


「着替えたのね、えらいわ。体を冷やすわね」

「……ヨシノさん、ありがと」

「お礼を言うのは、体調が良くなってから受け取るわよ」

「ふふ、なにそれ……」

「元気なマーガレットちゃんから聞きたいの」


 顔を赤くして汗をかいている彼女の額に張り付く髪を指で掬う。


「とりあえず休んで。なにかあったら呼んでね」

「わかった……」

「いい子」


 ウトウトし始めた彼女の邪魔をしないように部屋を出た私は、マーガレットを気にしながら夕食の支度を始めた。


 下校して賑わう寮は十八時になれば夕食だ。そして夕食が終われば、女子寮は各々過ごす時間で、私は今、談話室で寮生とともにお茶をしている。


「ヨシノさん、聞いてよ〜!」

「はいはい」

「最近、恋人が冷たいの!」

「それは良くないわね」


 おしゃべりに花を咲かせる女の子たちの中に入れてもらう中、学生らしい彼女たちの近況や悩みを聞いている。


(微笑ましいわ)


 学業の隣には常に悩みや喜びがある。それを聞かせてもらえるほど信頼されていることが、私は嬉しかった。


(あら?)


 視界の端に映った女性徒に、私は声をかける。


「真帆ちゃん」


 名前を呼ぶと、真帆はこちらを向けて一緒にいる寮生を見た。


「一緒にお茶をどう?」

「あ、えっと、宿題あるから! また今度!」

「わかったわ。後で部屋に行くから」

「うん、待ってるね!」


 笑った真帆は足早に階段を上がっていく。それを見送って、私は寮生に振り返った。しかし、あれだけはしゃいでいたのに、今は萎びた花のように空気が少しだけ重くなっているように感じる。


「みんな、どうしたの?」

「ヨシノさんは聖女さまと同じ異世界から来たんだよね?」

「そうよ」

「私たち、ヨシノさんがいた世界のこと聞きたいな」

「そこまで面白い話はないけど」

「いいの!」


 私の世界に興味を持ってもらえることは、とても光栄だ。

 「早く話して!」とキラキラ瞳を輝かせる彼女たちに苦笑して、私は就寝時間まで自分の世界のことを話すことになった。。


 寮生が自分の部屋へ帰ったことを確認する点呼をし終えた私は、真帆の部屋のドアを叩いた。

 コンコン。


「真帆ちゃん? 私よ」

「吉乃さん!」


 花が咲くように笑って部屋に招き入れてくれた真帆は、小さい子供のように「早く早く!」とベッドへ引っ張る。

 一日の終り、この時間は真帆と同じ時間を過ごすのが、習慣になっていた。


「今日ね、こんな授業があってね!」

「ふふ、真帆ちゃん落ち着いて」


 話したいことが多いのか、真帆は上手く言葉がまとまらないみたいだった。


「ウールドリッジ先生が凄く厳しいの! ウトウトしてたら目をこんな風に吊り上げてね!」

「容赦がないのね」

「そうなの」


 ワイワイキャッキャ! 談話室を断った理由の宿題はちゃんと終えたらしい。水を得た魚のようにはしゃぐ真帆。

 そして一通り話が終わると、真帆は寂しそうにポツリと呟く。


「吉乃さんは、元の世界の夢とか見る?」


 顔を少し俯かせ、私のストールをキュッと掴む真帆は、どこか頼りなくて、私は彼女の頭を撫でた。


「もちろんよ。今夜も園児たちと遊ぶ夢かも」

「あはは、吉乃さん夢の中でもお世話するの?」

「ふふ、たまには旅行に行く夢を見たいわ」

「その時は私も連れてって?」

「当たり前でしょう?」

「やった!」

「さあ、今日はもう寝ましょ」

「はーい!」


 嬉しそうに目を細めた真帆と話し終えると、部屋へ戻った


(今夜は真帆ちゃんと旅行にいく夢が見たいわね)


 今日一日の出来事を振り返りながら、習慣の日記を書く。


(もうすこししたらマーガレットちゃんの部屋にも行かなきゃ)


 ペンを置き、私は窓の外を見た。

 天気は晴れ。星もよく見える。学園から遠く離れた街の小さく灯るライトを眺めた。


(いつか街にも行ってみたいわ)


 まだ行ったことのない街へ思いを馳せながら、私は一日の終りを感じるのだった。


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