俺様何様エドワード・ウールドリッジ先生
お弁当を食べ終えた私が向かう先は図書館だ。あの独特の本の匂いと重量感ある空間は、元の世界の図書館とは比べ物にならない。海外だったら似たようなものなのかもしれないが、今の私はこの世界の図書館が気に入っている。
(もう来てるかしら?)
重い扉を小さく開けば、ひし形のモノクロタイルとバーガンディカラーの書棚が出迎える。二階まである空間は見上げるほどに高い天井から吊られたライトがきらめく。本の日焼け対策のため昼間なのに少し薄暗い室内は厳粛で雰囲気があった。
私は図書館を見回す。いつもなら本を読むための長机に座っているのだが、今日はどうやら私のほうが先だったみたいだ。
(なにか本でも探してようかしら)
二階へ通じる螺旋階段を上がり、目指す書棚のコーナーは歴史書だ。
(相変わらず、どこから見たらいいかわからないわ)
膨大な書物を有する学園の書棚は隙間がないほど本で埋め尽くされている。学園に在籍できる三年間で読める量ではない。
「あれ? 寮母さん?」
寮母さんと呼ばれるのは大体私だ。
反射的に振り向けば、この学園の制服に身を包んだ小柄な男子生徒。どうやら同じ歴史書コーナで吟味していたみたいだ。
「こんにちは」
「どうも。寮母さんなにしてるんですか?」
「待ち合わせしているんだけど、少し早めに来てしまったみたいで……。なにか本でも読もうかなって」
「待ち合わせって……もしかしてウールドリッジ先生ですか?」
「そうよ」
肯定すれば、男子生徒は「うわ」と顔をしかめた。
「怖くないんですか?」
「なにが?」
確かに近寄りがたい雰囲気ではあるけれど、恐怖を抱いたことなどない私は、男子生徒の問いかけに疑問を返す。
「あのウールドリッジですよ?!」
「そうね」
「そんな軽い感じですか?! だってウールドリッジって……!」
「――俺がどうしたか?」
昂ぶった声を上げていた男子生徒の声に被せる低い声に、私たちの時は止まった。
「あ、」
顔を真っ青にした生徒がブリキのように、ギギギとぎこちなく見上げると。
「ひぇ」
そこにはウールドリッジの姿があった。
「俺がどうしたか聞いている」
「ひぇ……えっと」
「えっと?」
目を細め、好戦的に唇を弧に描くウールドリッジと、半ばパニックに陥っている生徒。
「美しく優秀な先生だと……
「そのとおりだ」
「俺の美貌は良いことは今更だがな」と生徒を見下ろすウールドリッジ。
「し、失礼します!!!」
これ以上ここにいてはならないと思ったのか、男子生徒は脱兎の勢い姿を消し、書士の「走らない!」という怒鳴り声が遠くで聞こえた。
(可哀想に……)
威圧に耐えられなくなったのだろう。彼のわざとらしい笑みは生徒の中では怖いらしい。確かに。
「待たせたか?」
「いえ? 今きたところなので」
パッと表情は普段の彼に戻って、その切替の速さに(さすがウールドリッジ先生)と感心と呆れが混じり合う。
「さて。時間は限られている。今日はどんなことを知りたい?」
「あの」
「ん?」
「退いてもらわないと動けません」
ウールドリッジは手を本棚に置いて寄りかかっている。この体勢はいわゆる壁ドンみたいなもので、私は動けないどころか視界も彼でいっぱいだった。
「あぁ、悪いな」
少し恥ずかしかったのは私だけなのか、彼はなんともないように、ひょいっと体を離した。
(この大したことじゃないって顔、慣れてるわね)
恋愛経験値が高い彼からしたら、壁ドンなんて羞恥の欠片にもならないみたいだ。
(それにしても、先生の香水いい香りね)
そういえば職業柄か、香水なんて縁遠かったことを思い出して、私は過去にどんな香水を付けていたか思い出したりしていた。




