美しい光
全身を焼き切るような熱風に目を閉じたが、私の体にはそれ以上の衝撃は来なかった。代わりに肌に触れたのは春風の柔らかい空気だった。
「……え?」
ギュッと閉じていた瞳をそっと開けると、私とウールドリッジの前に立ちはだかる肩まで伸びた黒髪。光に包まれた姿を人物は、ふわりと笑った。
「吉乃さん、ウールドリッジ先生大丈夫ですか?」
「ま、まほ……ちゃん……?」
「はい! 白石真帆ただいま参上です!」
この白い光と黒い光に混じる灰色の空気の中に立つ真帆はいつもと変わらない笑顔で私と彼に尋ねてきて。私は戸惑いながらコクリと頷いた。
しかし、ハッとする。彼女も危ないのに、その表情には余裕すら感じられる。
「真帆ちゃん逃げて!」
妹同然の真帆を失う恐怖に、ウールドリッジを抱きしめる手に震えるが走る。けれど、彼女は「大丈夫だよ」と呟いた。
「吉乃さん、前に読んだ絵本を覚えてる?」
「えぇ」
「そこにヒント、うぅん答えがあったの」
「答え……?」
真帆の言っている言葉が理解できなくて、震える下唇を噛み締める。私には「真帆ちゃん……」と言葉を紡ぐことしかできなくて、彼女の笑みの表情に困惑する。
「ねぇ。あたしね、もう大丈夫だよ。吉乃さんを守れるよ」
「なに、言ってるの……?」
魔物に似た瘴気が、霧を集めて赤く光り始めた。「ひっ」と小さく喉の奥で悲鳴を上げた。
「シライシ、遅いぞ」
「先生!!」
全身傷だらけのウールドリッジがやれやれといった風に真帆に言って、彼女は「ごめんなさい」と乱れたウールドリッジを珍しそうに見た。
その時、赤い光源が大気を最大に集める。真帆は瘴気と対峙した。
「もう弱いあたしじゃない!」
獣のように唸り声を上げた瘴気を前に、真帆の背中は力強い。
小さく深呼吸をすると、小さな白い光が集まりだす。それは真帆からと地面から発生して、まるで風に集まる綿毛のように柔らかく温かい。そして、小さな魔力はいつの間にか大きな魔法陣を描いていく。
「空の涙よ虹に輝け。大地の花よ虹に届け」
私はその呪文にハッとした。それは、絵本に書かれていたーー
「――ルミノーサ・サンクタ・ウィンクルム!!」
真帆が最後の呪文を唱えると、白い魔法陣が輝く。そして瘴気から放たれた赤い光線を塞ぐ。そして、赤い光線の先端から白い光の蔦が包むと瘴気まで伝い、その姿は花が咲くように散った。
「すごい……」
これが真帆の魔法。神々しく思わず見惚れる美しい光景を私は初めて見た。
浄化された瘴気は小さな光の柱のようになって消えていく。
「吉乃さん大丈夫ですか?!」
振り返って駆け寄ってきた真帆に呆気に取られながら「大丈夫」と返事をすると、彼女は首に抱きついてきた。
「よかったぁぁ!!!」
なにがなんだか分からず目を白黒させていると、疲労に染まる声が耳に届く。
「おい、離してやれ」
「えぇ〜」
「今のが真帆ちゃんの魔法……?」
「そうなの!」
鼻高々に答える真帆に、私はどこか現実感がなくて。喜びたいのに精神状態はそれどこではなく戸惑うばかりだ。
「もしかして、最近留守にしがちだったのは……」
「そう、あの絵本の掠れていた文字を解析して、実践で使えるように試してたの」
「聖堂に行ってお祈りしたり」と少し疲れを滲ませながらも笑う真帆の影の努力。彼女は聖女としての役目を全うしようといたんだ。
「真帆ちゃん」
「なあに?」
最初は巻き込まれたことの不安と、真帆の依存で少しだけ怖かった。でも、今はもう彼女は私の手を離れて、こうして立派な聖女になった。誇らしいと思うのは違う。私は真帆の苦しみや不安が報われたことを喜んだ。
だから、私は彼女に贈る言葉は「よく頑張ったね」でも「大変だったでしょう?」でもない。
「ありがとう」
この一言にはたくさんの意味がプレゼントのように詰め込まれている。それが届くかは分からないけれど、ただ私は思ったのだ。
「うん!」
太陽のような笑顔を浮かべて頷いた真帆が眩しく目を細めた。
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