大人でも、諦めたくない
私は悩んでいた。ウールドリッジを好きだと気付いたは良いが、これからどうしようかということだ。ただ一緒にいれれば幸せで済めば良いのに欲深い私は愚かなことに独占欲を抱いてしまった。いやな女。
(そもそも、好きになることすら烏滸がましいのに)
それでも、この学園で一番多く時間を共にしている優越感に似た感情は暴走しそうで、自分に恐怖を感じてしまう。
(私なんて……)
でも好きなのだ。彼のことがどうしようもなく好きで遠目からでも見つけてしまうくらいには重症だと自覚している。
(それに……あぁ、いやだな)
頭を過った考えに頭を振る。もっと傍にいたい。もっと話したい。もっともっと……。とめどなく溢れていくるのは不相応な理想ばかりで。
(関係を壊すのは怖いけど。頑張るだけ、頑張ってみようかな……)
せめて、この世界にいる間だけでも彼の瞳に映っていたいと思った。恋愛で傷ついたことはいくらでもあるのだから、今更追加されたって屁でもないと決断する。だって、この恋を諦める方が、この先ずっと引きずることが想像できるのだ。
(まずは先生の好みのタイプだけど――)
これまでのことを思い起こしながら歩いていると、外回廊から見える芝生できゃあきゃあと可愛らしく声を上げている女生徒たちがいた。
「どうしたの? 楽しそうね」
「あ! ヨシノさん!」
彼女たちは私を見ると、笑い声を上げていた明るい表情のまま「聞きました?」と問いかけてきた。
「なにが? 面白いことでもあった?」
「それが、ウールドリッジ先生にデートのお誘いが来たんですって!」
「え?」
「よくあることだとは聞いてたけど、他校の先生からも人気なの」
「へ、へえ」
「その先生、すっごく綺麗で色っぽいって噂ですよ」
「そうなの」
恋の話で盛り上がる女性徒たちの間で、私の頭の中はグルグルと混乱していた。分かっていたのに実感がなかった私は今痛烈に思い知らされている。
(先生、モテるんだった……)
性格に難有りだが、あの見た目だ。一目惚れする人は多いだろうし、彼の性格を理解して好意を抱く人間だっている。後者はまさに私のことだ。
「デートするのかな?」
「大人のデートってどんなのかしら!」
「ねえ、ヨシノさんはどんなデートをしたことあるの?」
「私? そ、そうね……ご飯を食べたり、映画を見たり……」
うろ覚えの思い出達を引っ張り出してみるが、どれも似たようなものばかりでバラエティが貧相だ。語るほど経験もない。
「その人の好みにも寄るんじゃないかしら?」
「そうなのね。デート私もしてみたい!」
「服を選ぶの迷っちゃうわね」
「想像しただけで楽しいわ」
「それじゃあ、私はこれで」
そそくさとその場を後にした私は自分が驕っていたことを痛感する。同業者とは恋愛をしない主義だと言っていたのに、私もその範疇だし、そもそも彼の恋愛遍歴と浮き名を流した女性たちの系統は、私とは正反対だ。
(色っぽくて、大人の女性……)
ボディラインが美しく、豊満な胸、魅惑的な赤いリップが似合う唇……。私は、自分の胸元をチラリと見た。貧相まではいかないが、大きくもない。普通。とても普通。
(それに……)
思い出される過去の恋人たち。私の性格は自他ともに認める世話焼きだ。それが保育の仕事にも合っていて子供にも好かれている方だった。だからだろうか、最初はその性格が好きだと言ってくれていたのに、付き合いが長くなると「母親みたいだ」と言われてフラレてばかりいた。
(先生にも、そう思われて拒絶されたら……)
きっとショックで立ち直れない。でもウールドリッジへの恋心を捨てることも出来ない。私は人生最後の恋になると予感していて、なら頑張ってみようと決意したばかりだ。だから努力は惜しまない。
(とりあえず、世話焼きな性格をウールドリッジ先生だけにはしない!!)
彼の具体的な理想は知らないが、プレイボーイというからには派手で自立した女性のはずだ。外見は変えられないが性格はなんとなる……かもしれない。
私は今日から始めることを決めて、心のなかで拳を握りながら、作戦を考えることにした。
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