子供に囲い込まれた
「ヨシノ様。貴方は聖女様にとって無くてはならない存在のようです」
「どうか、聖女様のためにも一緒にいてくださいませんか?」
ガレスは女の子の感情の機敏に細心の注意を払いながら、私をジッと見つめる。その瞳は打算もありながらも、真摯だ。
(彼女の感情の揺れで、この世界はどうにでもなってしまうということ?)
それなら、どこで暮らしていても危険なのは同じだ。
ならば、ここで生活しながら帰る道を探すのも選択も出来る道もある。
(それに……子供を見捨てるなんてこと、絶対にできない)
唸っていた声をなくし、私は大きく頷いた。
「わかりました。彼女といます」
「……!! ヨシノ様ありがとうございます!」
「やった!」
パアっと喜びに染まる二人の顔に、私は苦笑した。硬かった表情が柔らかくなり、その顔が幼い園児たちの笑顔にそっくりだったからだ。
(やっぱり、子供は子供らしくないとね)
顔見合わせ笑う二人は、年頃相応だった。
「そうなれば、早く手続きをしないといけませんね」
「手続き?」
今度は、私と女の子が顔を見合わせる。
手続きとは、なんだろうか? このまま王宮に留まり、瘴気を祓いに行くのではないかと思っていた私には、彼の言うことがイマイチ分からない。
「マホ様の魔力は一級ですが、先程のようにコントロールと知識が足りません。なので、我が国の王立魔法学園に入学していただくことになってます」
(なるほど、さっきみたいな現象を抑えるためにも必要ね)
ガレスは唇に手を寄せ、私の処遇になにか思案しているようだった。彼は政治者として、相当な素養がある。
「追って連絡いたしますので、今日はゆっくり休んでください」
「わかりました」
彼が長い足を進めて部屋を出ると、私たちは二人きりになった。
(処遇が決まるまではのんびりしようかしら)
ぼんやり考えていると、隣に座っていた彼女がバッと頭を下げた。
「ワガママ言ってすいません!」
「え?! あ、あ〜〜。むしろ助けられなくてごめんね?」
私が、もっと早く手を伸ばしていれば、もしかしたらこんな状況にはならなかったかもしれない。今となってはたらればなので、考えるだけ無駄なことだろうけど。
「そんなことないです! あたし、お姉さんがいなかったらと思うと……」
眉を下げる女の子に、私はまた「大丈夫」と寄りそう。
すると、女の子は安心したように呼吸を安定させた。
「あの、あたしは白石真帆っていいます。気軽に真帆って呼んでください!」
肩まである栗色のボブヘア。大きな瞳。張りのある頬に、小さな唇。年頃の可愛い少女は、こちらを見て笑う。その笑顔はこちらに移るほど魅力的なものだった。
「私は滝沢吉乃。よろしくね真帆ちゃん」
「はい! よろしくお願いします吉乃さん!」
これが彼女の本当の姿なのだろう。
明るく朗らかで、人を惹きつける存在。なるほど、これは聖女と言われるわけだ。
「とりあえず、王子様が言うように休もう。休息は成長期の子供には大切なものだからね」
「ふふ」と小さい笑みを浮かべて、隣りにいる真帆へ顔を向ければ、彼女は忽然と姿を消していた。
(へ?!)
飛び退きそうになるほど驚いて、慌てて周囲を見渡せば、奥の部屋から大きな声がした。
「吉乃さあーん! こっちに超大っきいお風呂あります!!! すごい!」
先程まで、あんなにも縮こまっていたというのに、真帆は順応力が飛び抜けているようだ。部屋の探検を始めている。
(若さってすごい)
私は、その明るさに引っ張られるように腰を上げて、一緒に部屋を見て回ることにした。
(なんだか、真帆ちゃんと一緒なら大丈夫な気がしてきた)
真帆が聖女として成長を遂げて世界を救う姿を思い浮かべる。そんな未来も、そう遠くはないのかもしれないと思ったが、そのためには私の力が必要で。
この手に世界の命運を無理矢理握らされているような、そんな違和感と使命感に、私は自身が堪えうる器なのかと不安に思う。
(どうして私が、こんなことに……)
そんなこと思っても口には出来ない。
強制ではあったものの、それを選んだのは自分だ。その選択をしたのだから、私は真帆のために生きなければいけない。
(それに、やっぱり真帆ちゃんの手を振り払うなんて、出来ない)
それが、子供を守る保育士としての職業病なのか。それとも自分の命が惜しいのか。
その答えを、私はまだ見ないふりをした。




