こう見えて女性には優しい人(なお私は範疇外のようです)
午前も終わりに差し掛かったころに、私はぶちりと雑草を引き抜いた。
今日の雑用は、植物園の手入れ。
広い温室は、四季折々の花や、外国の植物から薬草まで幅広く魔法で管理されているが、雑草などは人の手で手入れしないといけない。
「はあ、終わった……!」
バスケットに入れられた多くの雑草は、私の労働の証明だ。
(疲れた……。それに腰痛い……)
ずっとかがんでいたせいで、体は疲労に喘いでいる。
(お弁当はここで食べようかな)
生徒ではない私に食堂の使用権はない。交渉すれば可能になるかもしれないが、さすがに学生たちの場に立ち入る気にはなれなかった。
(それに、たまには良いかもしれない)
穏やかな植物園は心が休まる。花の匂いや、空気の流れは独特で、お気に入りの場所になりそうだった。
(あ、でもウールドリッジ先生との授業は、無理かな)
そう残念がっていると、背後から声をかけられた。
「おい、寮母」
落ち着いた、けれど少し威圧感のある声は、もう聞き慣れたものだ。そもそも、私を寮母と呼ぶ教師は、ここでは一人しかいない。
「だから、私の名前は寮母じゃないですよ?」
顔を向ければ、濃紺のシャツに灰色のベストと黒革の手袋をはめたウールドリッジが私を見下ろしていた。
「どうしたんですか? ウールドリッジ先生」
「たまたま通りかかった」
「あ、薬草ですか?」
ウールドリッジは応用魔法の研究と実践を専攻している。あらゆる物質の要素が必要らしい彼の授業には、こうして調達することもあるのだ。
(私にも、その雑用が出されるのよねぇ。おかげさまで少し詳しくなった気がするわ)
「今回は生徒が捕まらなくてな。アイツら俺を見たら逃げる」
「面倒事を頼まれると思ってるんでしょうね」
「だろうな」
「女生徒には頼まないんですか? ウールドリッジ先生は女性徒に人気ですし、頼まれたら喜ぶ子もいるんじゃ……」
「女性を手足に使うわけないだろう」
(私はいいんだ)
女性の扱いに長けているウールドリッジには、彼の矜持があるらしい。
(範囲外なんだろうけど、ちょっと悔しいわね)
女性として見られていないということに、軽く反発したくなるのを堪えた。
「それより昼はまだか? もしそうなら学食の後に……」
「あ、すいません。私、お弁当なんです。あと、この通り汚れているので、今日の図書館はナシで……」
「なら、ここですればいい」
「ここですか?」
「あぁ」
「でも、ウールドリッジ先生のご飯は……?」
「おまえのをよこせ」
「暴君……?」
有無言わさない彼に、私は溜息をはいて「わかりました」と言った。
汚れを払いって立とうとした時――。
「うわ、」
「おい」
痺れた足がぐらりとバランスを崩す。すかさず抱きとめられて、私はウールドリッジの胸に倒れ込んだ。
「すいません! 汚れが!」
身なりを気にする彼の洋服に泥でもついたら一大事だ。もしかしたら魔法でカエルにでも変えられるかもしれない。
顔を真っ青にした私は、彼から体を離す。やはり胸あたりに汚れがついてしまっていた。
「べ、弁償します……」
「別にいい。これくらいなら魔法でどうとでもなる」
杖を出して小さな円を描けば、汚れはみるみる落ちていき跡形もなくなくなった。
「魔法って、便利ですね」
「厄介事もあるがな」
「ウールドリッジ先生が言う厄介事って興味あります」
「よせ。思い出したくもない」
クールな彼が、げんなりした表情をした。
(本当にいやなことだったのね……)
憐憫の目で見つめる私を、ウールドリッジは「その目はよせ」と言った。
「ほら、行くぞ。食事を取るにはうってつけの場所がある」
私は、ウールドリッジに促されて植物園を歩き出した。
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