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16/21

こう見えて女性には優しい人(なお私は範疇外のようです)

 午前も終わりに差し掛かったころに、私はぶちりと雑草を引き抜いた。

 今日の雑用は、植物園の手入れ。

 広い温室は、四季折々の花や、外国の植物から薬草まで幅広く魔法で管理されているが、雑草などは人の手で手入れしないといけない。


「はあ、終わった……!」


 バスケットに入れられた多くの雑草は、私の労働の証明だ。


(疲れた……。それに腰痛い……)


 ずっとかがんでいたせいで、体は疲労に喘いでいる。


(お弁当はここで食べようかな)


 生徒ではない私に食堂の使用権はない。交渉すれば可能になるかもしれないが、さすがに学生たちの場に立ち入る気にはなれなかった。


(それに、たまには良いかもしれない)


 穏やかな植物園は心が休まる。花の匂いや、空気の流れは独特で、お気に入りの場所になりそうだった。


(あ、でもウールドリッジ先生との授業は、無理かな)


 そう残念がっていると、背後から声をかけられた。


「おい、寮母」


 落ち着いた、けれど少し威圧感のある声は、もう聞き慣れたものだ。そもそも、私を寮母と呼ぶ教師は、ここでは一人しかいない。


「だから、私の名前は寮母じゃないですよ?」


 顔を向ければ、濃紺のシャツに灰色のベストと黒革の手袋をはめたウールドリッジが私を見下ろしていた。


「どうしたんですか? ウールドリッジ先生」

「たまたま通りかかった」

「あ、薬草ですか?」


 ウールドリッジは応用魔法の研究と実践を専攻している。あらゆる物質の要素が必要らしい彼の授業には、こうして調達することもあるのだ。


(私にも、その雑用が出されるのよねぇ。おかげさまで少し詳しくなった気がするわ)

「今回は生徒が捕まらなくてな。アイツら俺を見たら逃げる」

「面倒事を頼まれると思ってるんでしょうね」

「だろうな」

「女生徒には頼まないんですか? ウールドリッジ先生は女性徒に人気ですし、頼まれたら喜ぶ子もいるんじゃ……」

「女性を手足に使うわけないだろう」

(私はいいんだ)


 女性の扱いに長けているウールドリッジには、彼の矜持があるらしい。


(範囲外なんだろうけど、ちょっと悔しいわね)


 女性として見られていないということに、軽く反発したくなるのを堪えた。


「それより昼はまだか? もしそうなら学食の後に……」

「あ、すいません。私、お弁当なんです。あと、この通り汚れているので、今日の図書館はナシで……」

「なら、ここですればいい」

「ここですか?」

「あぁ」

「でも、ウールドリッジ先生のご飯は……?」

「おまえのをよこせ」

「暴君……?」


 有無言わさない彼に、私は溜息をはいて「わかりました」と言った。

 汚れを払いって立とうとした時――。


「うわ、」

「おい」


 痺れた足がぐらりとバランスを崩す。すかさず抱きとめられて、私はウールドリッジの胸に倒れ込んだ。


「すいません! 汚れが!」


 身なりを気にする彼の洋服に泥でもついたら一大事だ。もしかしたら魔法でカエルにでも変えられるかもしれない。

 顔を真っ青にした私は、彼から体を離す。やはり胸あたりに汚れがついてしまっていた。


「べ、弁償します……」

「別にいい。これくらいなら魔法でどうとでもなる」


 杖を出して小さな円を描けば、汚れはみるみる落ちていき跡形もなくなくなった。


「魔法って、便利ですね」

「厄介事もあるがな」

「ウールドリッジ先生が言う厄介事って興味あります」

「よせ。思い出したくもない」


 クールな彼が、げんなりした表情をした。


(本当にいやなことだったのね……)


 憐憫の目で見つめる私を、ウールドリッジは「その目はよせ」と言った。


「ほら、行くぞ。食事を取るにはうってつけの場所がある」


 私は、ウールドリッジに促されて植物園を歩き出した。

 

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