TURN3/THE BEGINNING ②
勇者タローは、大賢者/灰色のホグワーツに連れられてペンドラゴンの王都ヴィクトリアを目指していた。
王都に着くまでの道中、2人は幾つかの町や村を訪れる。
その都度、大賢者の名声を知る住民たちに依頼されて主に魔物退治を中心とした諸問題を幾度となく解決する。
そんな最中――
「オマエさんの闘い方は、まるで【超勇者形態】のバーゲンセールだのう」
ボス戦どころかダンジョンに蔓延る通常の魔物にすら【超勇者形態】を見せつけ、【神鳥撃】をひたすらブッ放す我等が勇者タロー。
強力な天性にかまけて自力の底上げに支障が出ると危惧したホグワーツは、【超勇者形態】の使用を禁止。
己の実力だけで生き延びるようタローに指示する。
かくして、タローの地獄の特訓が始まった。
たまたま見つけた不思議のダンジョン。
入る度に地形が変容し、生息する魔物も変動する摩訶不思議異空間。
一説には魔界と人間界の境界に乱れが生じた際に発生する空間湾曲が、不思議のダンジョンを生み出しているというのだが、真相は未だ解明されていない。
そんな人外魔境に潜り込み、何度も死してはその都度【起死回生】で近隣の教会で復活を遂げ、また探索に挑むというタローの日常。
だがタローは目に見えて、メキメキと実力を明らかに上げ続ける。
また、それまでの過剰殺戮染みた戦闘から通常戦闘に切り替えたことで、タロー本来の【勇者】とは関係ない特性である“魔物に好かれやすい”という【魔物使い】の素養が開花。
旅を再会する頃には、次々と魔物たちが旅の道連れに参入していた。
老人と子供と魔物の軍勢。
この奇怪な集団は、しかし次々と行く先々で様々な問題を解決していくことからたちまち噂となり、特に【冒険組合】に所属する冒険者たちからも注目の的となっていた。
「あんたらだろ?魔物を引き連れた冒険者パーティってのは」
王都/ヴィクトリア。
ペンドラゴン王国の首都であるこの街の【冒険組合】にて、二人は声をかけられる。
「然様。ただし、儂らはパーティーを編成した覚えはないがな」
ホグワーツは麦酒をがぶ飲みしながら、ぶっきらぼうに答える。
「魔物を連れてるって聞いたけど、二人だけかい?」
気さくな冒険者は好奇心の赴くまま、問いかける。
彼等は職業柄、探求心の強い気質の人間が多いのだ。
「王都内には魔物は入場できないとのことでしたので、さっき解散したばかりなんです。ぐすん」
冒険者の質問に、タローは涙目で鼻提灯を滴す。
そんな愛弟子にホグワーツは呆れ顔だ。
「まったく、いずれ別れのときが来るのだからペット禁止と散々言いつけてきたのに此奴と来たら……」
「うぅ、トンヌラ。ゲレゲレ。もょもと。ああああ………」
「もしかしてそれ全部魔物の名前か?変わったネーミングセンスだな」
冒険者はゲラゲラと笑い声をあげる。
◆◆◆
「ほほう?おぬしが冒険王ミフネの倅にして勇者か!いやはや、良い眼をしておる」
王冠にマント、小太りで白い髭が蓄えられた様式美な風貌をした柔和な老爺が玉座に腰を下ろしている。
彼こそがここペンドラゴン王国の長にして、正統なる後継者/ペンドラゴン王である。
「冒険王ミフネ。世界中を踏破し、秘境という秘境を巡り、人類未踏の魔界にすらその足跡を残した男。ミフネの冒険活劇は世界地図作成にも大きく貢献し、【冒険者】という職業の社会的地位の確立。ひいては【冒険組合】創成の立役者にもなった。その消息は長らく途絶えておったものの、まさかその御子息に巡り会おうとはな」
ペンドラゴン王は敬意を示しながら、回想する。
ここは王都ヴィクトリアの中心に位置するペンドラゴン王国の中枢/ペンドラゴン城。
大賢者/“灰色のホグワーツ”と知古の仲であるペンドラゴン王からの要請により実現した謁見。
周囲の複数の家臣たちに見守られながら、勇者と大賢者は玉座に鎮座するペンドラゴン王の前で片膝をついていた。
しかし──
「えっ!?あの万年酒浸り親父、そんなことしてたの!!?」
それらすべてが初耳のタローは思わず本音を漏らしてしまう。
拳骨。国王への無礼を窘める意味で、ホグワーツに頭を小突かれる。
その様子を見たペンドラゴン王は、愉快そうに「ハッハッハッ」と陽気に笑い飛ばした。
「然様。冒険王の活躍は我が国の誇りであり、世界中にその功績が点在している。まさに生ける伝説。いやはやその血筋を辿れば“伝説の勇者”に行き着くいうのはたいへん驚きだが、しかしすべてに合点がいく。余たち王族もまた血に従い、血に運命付けられた一族。血とはまこと、恐ろしきものよ」
感慨深そうにペンドラゴン王は慈悲の瞳で、タローを見つめる。
彼等王族もまた国を背負うという血の宿命に縛られながら生きている。
重責。しがらみ。運命。
それらを実感する身として、どこかタローの境遇に共感するものがあるのだろう。
「……僕はそーゆーのわかんないです」
勇者は正直に答える。
この少年は言われるがままにこれまでやってきたに過ぎない。
そこに彼の意思はなく、とはいえ疑問もなく、決して嫌々でもなく、別段他に為すべきことや成したいことがあるわけでもなく、ただただ周りに流されてここに居る。
そんな空虚な回答に対して、国王はただただ優しく微笑み返す。
「陛下。さっそくですが、本題へ」
大賢者/灰色のホグワーツが話の進行を促す。
哲学は、人を迷わし脆弱にする。
人の幸福とは飽くなきものであり、無形であるため答えなどあるはずもなく。
それを夢想することは平和の上に立つ高貴な身分の娯楽であり、いわば自慰だ。
死地へ赴き、戦うことを使命とするタローにとっては無用の長物。
戦場では迷いこそが命取りだ。
いずれ勇者が剣を捨て去るような平和の時代が訪れるまでは、思考を停止させるのが戦士として懸命なのかもしれない。
それがひとりの師父としての判断。
戦いへ誘ったホグワーツなりの優しさだった。
「そうだな………。本題に入ろう」
ペンドラゴン国王もまたそれを受け入れ、話題を移す。
「ほれ。入ってまいれ」
ペンドラゴン王の合図とともに玉座の隣に歩み寄るは、可憐な少女だ。
「紹介しよう。余の娘、エリザベスだ」
「どうぞ皆様、エルザとお呼びください」
ペンドラゴン王国の王女/エリザベス。
通称、エルザ姫。
金髪碧眼の麗しい少女。木漏れ陽のような温厚さと繊細さを内面から発露させながらも、やはり王族特有の品性と華やかさに満ち溢れている。年齢はタローと同じくらいか。
ぺこりとお辞儀するエルザ姫。
彼女の到来はまるで春風のように和やかな空気感を室内にもたらした。
「──好きだ」
初対面。開口一発。
勇者は惚けた様子で思わず口にする。
それが波紋を呼ぶことは言うまでもなく──
「「「「「はぁ?」」」」」」
室内の全員が異口同音に述べた。
誰よりも驚いているのは当然、エルザ姫だ。
「お姫様!どうかこの僕と結婚を前提にお付き合いいただけませんか!?」
超展開。人目も憚らずガンガン行っちゃう我等が勇者。
誰がこんな事態を予想したであろうか。
作者もびっくりである。
だがその言葉を聞きつけ、大臣を筆頭とした怒り狂った城の家臣たちが一斉に玉座の間へと雪崩れ込んできた。
「無礼者ッ!一国の王女にクソ下手くそな口説き文句を垂れ込んでいるのは貴様かぁぁーーーっ!!」
勇者と大賢者はあれよあれよという間に家臣たちに取り囲まれ、多方面から揉みくちゃにされてしまう。
そんな異常事態の発生に、灰色のホグワーツは思わず愛弟子を叱りつける。
「バッカモーーンっ!このクソガキ、儂が長年積み上げてきた信用を一瞬にして台無しにしよってからに!!」
「うるさい!たかだか10歳の子供の恋路を邪魔するなんて。そんな大人、全員修正してやるっ!!」
かくして無差別の乱闘騒ぎが勃発。
総勢100名以上が王の御前でボコスコと殴り合いを始めだす。
大臣に料理人に医者に教育係に兵士にメイドに執事に商人に道化師に宮廷魔術師に大賢者に勇者に───
実に様々な異業種たちが集まり、己の死力をぶつけ合う。
「あははははははははっ!」
抱腹絶倒。エルザ姫はハシたない素行を承知の上でひたすら爆笑の声をあげる。
いつもの彼女ならあり得ないことだが、それほどまでに可笑しな出来事だった。
普段、生真面目な家臣たちが、まるで子供のようにムキになって晒すその醜態。すべては王女のためだと理解しながらも、出会って間もない勇者に虚をつかれてからの一連の急展開があまりにも可笑し過ぎて、ツボにハマってしまのだ。
それから数十分後。
乱闘の幕引きは、最後に生き残った勇者と大賢者の相討ちによって、呆気なく終焉を迎える。
「いやはや大した余興だった。天晴れなり」
胸が熱くなったペンドラゴン王は、ご満悦の様子でパチパチと拍手喝采。
「実に見事!噂通りの実力で何よりじゃ。そんな貴公らに是非とも依頼したいのが、今日ここに呼び出した本題である」
「……ほ、本題?」
先程の残虐ファイトで倒れた屍(死んでない)の山の上で目を回した状態の勇者は、どうにか話を拾い反応を示す。
「うむ。今日来てもらったのは他でもない。勇者にはこれより外交デビューのために世界各国を凱旋する余の娘・エリザベス王女の護衛を務めてもらいたい」
その話を聞くや否や家臣たちが瞬く間に起き上がり、続々と異議を唱えだす。
「しょ、正気ですか!国王!!?」
「こんな社交も弁えぬ不埒者、危険です!」
「勇者だがなんだか知りませんが、我が国の宝である姫様をこんな小童に近付けるなど言語道断!」
「思春期の男女がひとつ屋根の下、昨晩はお楽しみでしたね。………くっ、殺せ!」
「おい、そこの女騎士。妄想が少し飛躍しすぎてはおらんかのう?」
ツッコミながら、大賢者はやれやれと肩を竦める。
そして本題に入るのだった。
「しかしペンドラゴン王。ほんとに良いのですか?」
王女の国際社会デビュー。
大賢者/灰色のホグワーツはこれに乗じて、“勇者タローの紹介”と“各国とのパイプ構築”を目論んでいた。
ペンドラゴン王国は覇権国家。なので必然的に各国が王女を無下にする筈もなく、よって勇者タローの社会的立ち位置もかなり高い位置へと押し上げられるだろう。
ともすれば、これから訪れるであろう魔王との戦いにおいてもその政治的なパイプラインは非常に強固なものとなり、勇者の後方支援が円滑に捗るのは明白。
今回の謁見はそのための布石だった。
しかしまさか勇者が王女に惚れ、あまつさえその感情を堂々と宣告するとは笑止千万。
そんな輩に自分の娘を預けるなど、さすがに心配ではなかろうか?
「構わん。儂は娘に政略結婚をさせようなどとまったく考えて居らんのでな。娘の伴侶は娘の色眼鏡で決めたらええ。せいぜいエリザベスの心を射止められるよう精進するのじゃぞ、勇者よ」
そしてペンドラゴン王は愛すべき娘に視線を送る。
「おまえも異論はないな、エルザ?」
「はい、勿論ですとも。殿方からこのようなアプローチを注いでいただき、光栄ですわ。その想いが本物ならば道中如何なる困難が降りかかろうとも、わたくしのことをきっと守り抜いてくださいますよね?」
麗しい笑顔のエリザベス王女。
だがそこには優しさだけではなく、確かな信念が備わっていた。
信念とは、芯の強さ。
彼女の瞳には、これから未来の外交デビューにおける意気込みが燦々と輝いている。
一国を背負うための覚悟。
その凄まじさに充てられて、恋にうつつを抜かしていた勇者は襟を正す心持ちでピシャリと断言するのだった。
「はい!この命に代えても、必ずやあなた様を御守り致しましょう。我が不死鳥の家紋に誓って!」
◆◆◆
冒険者たちには、【冒険組合】よりその活躍に応じてランクが付けられている。
N 級
R級
SR級
SSR級
先述のランクは後者に行けば行くほど高位になり依頼内容もずっと高難易度にはなるものの、しかしその分破格の待遇を受けることになる。
タローは史上最年少最短でSSR級に昇格したばかりであり、その名は冒険組合に所属する冒険者たちの間でもすっかり轟いていた。
「アンタが噂の勇者か! ほんとに子供なんだな。アタイは飛鳥。剣には多少の覚えがある。よろしく頼むよ」
黒髪ポニーテールで巫女服の女剣士/飛鳥が快活に挨拶を述べる。
「わたしはグリフィン。魔法国ヴィヴィデバビデ国立大学の出身で、主に医療魔法を得意とします。パーティーの後方支援は任せてください!」
銀髪メガネの緑色のローブを身に纏った頭脳派青年/グリフィンが丁寧にお辞儀をする。
「わいはハッカイ。天下一武術大会の優勝者にして、カンフーの使い手や!以後、おおきに!」
茶髪ツンツン頭で糸目チャイナスーツの武道家/ハッカイが陽気に肩を叩く。
彼等彼女等もまたSSR級の冒険者でありエルザ姫の世界凱旋に同行する、謂わばタローの同僚に当たる人材たちだ。
そして後の世に【勇者パーティー】と謳われる人物たちでもある。
かくして勇者と大賢者ホグワーツならびに上記三人。
そして王国の騎士たちによって編成されたエルザ姫護衛部隊。
通称【外交旅団】は、世界へと進出するのだった。
◆◆◆
エリザベス=ペンドラゴンを筆頭とする【外交旅団】は、まさに快進撃を繰り広げていた。
東西南北。行く先々の国々で、トラブルに巻き込まれては順次それを力ずくで解決していく。
あるときは盗賊団を壊滅させ、あるときは狂暴な魔物を討伐し、あるときは迷宮のダンジョンを攻略し、あるときは悪徳貴族を成敗し、あるときは国家間の戦争を仲裁し、あるときは魔族の軍勢に立ち向かい、あるときは災厄から人びとを救済する。
そんな活躍から、エルザ姫はいつしか【救国の聖女】と呼ばれるようになっていき、彼女を護衛する勇者タローを筆頭に飛鳥。グリフィン。ハッカイ。灰色のホグワーツ。計5名は次第に【勇者パーティ】と噂されるようになっていった。
「色即是空・天壤無窮剣!」
極東の島国/ヲウスの剣士にして、勇者パーティの紅一点/飛鳥は華麗な絶技で、敵を一刀両断。
「森羅万象・黄帝龍!」
武術大国/方天画戟の天才拳士/ハッカイは渾身の一撃で敵を穿つ。
「すべての生命に祝福を!我等は汝の愛しき子にして汝の盾!全生命息吹!!」
北方軍事帝国/イヴァン出身にして、魔術の最高峰ヴィヴィデバビデ国立大学を首席で卒業した医療魔術師/グリフィンは、傷付いた人々を須らく治療する。
「神鳥撃!」
そして我等が勇者タローは超勇者形態を駆使して、【外交旅団】の行く先を切り拓く。
その武勲は前述の勇者パーティ三人と比較しても群を抜いており、超人の中の超人。怪物の中の怪物。世界各国のSSR級冒険者の中でもトップクラスに躍り出ようとしていた。
「タロー、おまえがナンバーワンだ!」
血の涙を流しながら、仰々しい面持ちで騎士団長は断言する。
ペンドラゴン王国の正規騎士たちは、冒険者という外様のならず者たちに圧倒的実力の差を見せつけられ、意気消沈。それでも勇者パーティーの活躍によってペンドラゴン王国騎士団の株も鰻登りになるのだから不思議なものである。
もっとも、それらはすべてエルザ姫の政治的手腕が土台にあってこそ。
行く先々の国々で諸々の根回しを施し、トラブルの事後処理や各国政府との折衝を行いつつ、他国の民衆を掌握。曲者揃いの【勇者パーティ】をも上手くコントロールしてはけしかけるその手際は、まさに先導者にふさわしいものだった。
「あぁ、エルザ姫!今日もご機嫌麗しゅう!あなたの美しさはまるで天界に咲く一輪の睡蓮のようだ!あぁ、エルザ姫………。あなたはどうしてエルザ姫なのぉーーーっ!」
「うっさい、キモい!」
毎度同じみの勇者のアプローチに、しかし王女は言葉とは裏腹に満更でもなさそうだ。
嫌よ嫌よも好きのうち。月日も経過し、二人の距離感は始まりと比べて、すっかり近しい間柄へとなっていった。
◆◆◆
エルザ姫率いる【外交旅団】が世界一周を終える頃には、タローは12歳になっていた。
彼等は国際的に多大な影響力を及ぼす英雄として認知され、民衆たちから絶大的な支持を獲得していた。
そして、その称賛は同時にペンドラゴン王国を世界の中心としてより強固に。すなわち覇権国家としての地位を盤石にしていくのだった。。
流血による侵略ではなく、名声による精神的領土の拡大。
この成果に【外交旅団】の誰しもが満足し、大手を振って祖国へ帰ろうとしていた。
きっとペンドラゴン王も、さぞ喜んでいることだろう。
しかし―――
彼等がペンドラゴン王国へ帰還すると、異変が起こっていた。
「王都が、燃えている―――!?」
街中を徘徊し、破壊活動を行う魔物たち。
しかも明らかに野生の動きではなく、武装化し統率された組織の兆候があった。
そんな魔物たちに冒険者や王国騎士たちが懸命に立ち向かうも、急襲されたためか指令系統が混乱し連携が取れておらず、統率された魔物の軍勢の前ではまるで歯が立たずにいた。
「わたくしが指揮を執ります!戦えぬ者は街の外へ!戦える者は剣をお取りください!」
この2年間ですっかり“救国の聖女”としての貫禄が付いたエルザ姫が陣頭に立つ。
見違える程成長した王女の帰還に沸き立つ民衆。
士気の爆発的な向上および精鋭と超人揃いの【外交旅団】の帰還により、戦況は一変する。
王国軍は防戦一方から混戦状態にまで持ちこたえ、彼等は逃げ遅れた人々の救助を次々と敢行していく。
――しかし、王女は悲惨な現実を目の当たりにするのだった。
「……そんな、お父さまっ!?」
ペンドラゴン城。王の間。
燃える街同様、城内にも魔物の軍隊が蔓延り、内部は破壊と硝煙が渦巻く地獄絵図と化していた。
ペンドラゴン王を救出するため、ふたりで突入したエルザ姫と勇者タロー。
だが王は、すでに事切れていた。
「げひゃひゃひゃひゃ!待っていたぞ、【救国の聖女】よ!!」
それは魔界に棲息する知的生命体。
すなわち、魔族だった。
黒衣を纏い、山鉈を握る異形。
尖った耳と鷲鼻。ピンク懸った肌の色。
ゴブリンなどに近い容貌をした魔人。
そして、その頭部にはペンドラゴン王が平素より被っていた王冠が載っかっていた。
「俺様は“醜悪なるアグリー”。【魔界七武将】が一人!今日からこの国は俺様の国とさせてもらうぜ。げひゃひゃひゃひゃ!」
◆◆◆
勇者タローと醜悪なるアグリー。
1vs1の対決が始まった。
機械的且つ無駄のないタローの剣撃は、さながら暗殺者のような無慈悲さで眼前の敵を追随する。
一方、魔王軍七武将/醜悪なるアグリーはまるで道化師のように遊行的かつ狂気的に。
然もその攻撃を嘲笑うかのような無軌道な動きで山鉈を振り回し、すべての攻撃を回避する。
「そんな!タローと互角だなんて!?」
強い。見守るエルザ姫同様、渦中のタロー自身もそんな所感を抱いていた。
今まで戦ったどんな相手と比べても、この醜悪なるアグリーは頭ひとつ抜けている。
見た目は貧弱そうで思考回路や人格においても品性の欠片もなく三流。三下。小物そのもの。
だがその身の丈にまるで合致しない高度な戦闘能力を兼ね備え、それ故に持て余した力はより一層邪悪さに磨きが懸かっており、尚更に性質が悪かった。
「―――ハァ、ハァ、げひゃ、げひゃひゃひゃひゃ!」
不気味且つ嫌悪感を感じさせる下卑た笑い。
アグリーはその眼光を尖らせ、唾涎をこぼしながら、醜く不様に勇者タローに襲い掛かる。
▼醜悪なるアグリーは 呪文を唱えた!
【生命の簒奪】、発動!
対象にありとあらゆる負荷を掛けた上で、その生命力と魔力を根こそぎ簒奪する。
「――【超勇者形態】、発動」
▼勇者は 呪文を唱えた!
切り札を切る。それだけの凄味が眼前の敵にはあった。
その瞬間、吸収系魔法/【生命の簒奪】により発生していた様々な負荷がすべて吹き飛ばされる。
【超勇者形態】はすべての強化を自身に注入すると共に、すべての負荷を無効化するのだ。
「そうか………!おまえが……おまえが、あの勇者!げ、げひゃひゃひゃひゃ!」
そこからは勇者の独壇場だ。
ずっと勇者のターンであり、勇者の圧倒的優位。
しかし、終わりが見えなかった。
何度剣で断ち、幾ら徒手空拳を叩き込もうとも醜悪なるアグリーは倒れない。
否、何度も何度も倒れてはいるが、その都度這い上がってくるのである。
醜悪なるアグリー。
その二つ名の由来は見た目や性分などではない。
底知れぬ耐久性。そして欲に対する執着こそがあまりに醜悪であることを、ここで勇者は理解する。
▼勇者は 呪文を唱えた!
「【神鳥撃】!」
そして射出される勇者専用の必殺技。
黄金の鳥の形状をした超密度魔力の塊はそのままアグリーに直撃し、爆発を起こす。
一撃必殺。神鳥撃は誰しもがそう信頼している勇者の奥義。
――しかしそれでも尚、醜悪なるアグリーは立ち上がる。
「………嘘だろ?」
戦闘中において、冷徹のあまり無機質なマシーンと化すタロー。だが今回ばかりはさすがに動揺を隠しきれず、動揺により破顔する。
一方、とはいえさすがに効いたのか。醜悪なるアグリーも満身創痍の様子で、しかし相も変わらず不穏な嘲笑いを見せつけるのだった。
「げひゃひゃひゃひゃ!これからだぜ、勇者よ!――と言いてぇところだが、どうやら引き際らしい」
アグリーが武器を下ろす。
刹那、勇者パーティの面々と多数の兵隊たちが王室へと一斉になだれ込んできた。
それに合わせて、アグリーもまた退却の素振りを見せる。
「勇者よ!魔王軍の攻撃はすでに始まっている。この世界をいただくのは俺たちだ!げひゃひゃひゃ!」
かくして、魔界七武将/醜悪なるアグリーはその姿を眩ますのだった。
◆◆◆
同日。世界各地でも、ペンドラゴン王国侵攻と同規模の魔王軍による侵攻が展開されていた。
他国は成す術もなく蹂躙され、次々と魔族たちの領土へ上書きされてしまうのだった。
そして―――。
国王を失ったペンドラゴン王国は、エルザ姫が王位継承者として即位。
覇権国家の責務として、魔王軍の打倒を掲げる。
当然これまで積み上げてきた【救国の聖女】としての活躍実績が評価され、その旗印には世界各国の有力者たちが続々と参画。
やがてペンドラゴン王国を中心とした人類の砦/【連合軍】が創設されるのだった。
かくして、【連合軍】と【魔王軍】。
2つの巨大勢力の対立が明確化。
世界丸ごとを舞台に戦いの火蓋が切って落とされる。
“人魔戦争”の始まりである。
そんな渦中。
勇者タローを筆頭とした【勇者パーティー】は、魔王軍に対抗するための主戦力として、大いにその真価を発揮。故に遊撃的に世界各地を飛び回る。
そんな彼等の前に立ちはだかる【魔界七武将】たち。
勇者タローはかつてない戦いを強いられることになっていく。




