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剣と魔法のカンパネラ  作者: 飛車成 流
入学編

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4/6

ウェネス・フォルヴェルネの入学試験

 試験開始の合図、それと同時に、俺は魔術を展開する。

 まずは様子見。火炎魔術(フロガ・マギア)の中級魔術(クラス・メソン)『爆炎(エクリクスィ)』を同時に百。

 単純な魔術である『爆炎』でも、これほどの数が同時に放たれれば、上級魔術(クラス・メガス)にも引けを取らない迫力と火力になる。


 光が爆ぜ、直後に轟音。そして、火煙。

 煙が晴れた、その場には――


「たっく、いきなり馬鹿みたいな火力を叩き込んできおって。もう少し年寄りを労れ」


 無傷で、服に焦げ一つ付いていないソフィアが立っていた。

 結構速く撃ったつもりなんだけどな。いや、これ、常時張ってるタイプの簡易結界か。


「年寄りって……。一体何歳なんですか?」


「さぁ? 三百くらいから面倒くさくなって考えるのやめたからの」


 真実か冗談か、そんなことを言うソフィア。テキトーだなぁ、真実にしろ冗談にしろ。


「じゃ、今度は大きな音とか無しで行きますよ。お年寄りなら、吃驚して心臓止まっちゃいますもんねっ!」


 そう言って、一息でシンプルな魔力弾を生成する。その数、千。それらを一気にソフィアに向けて放つ。

 躱すのは無理。簡易結界くらいなら破れるように威力も上げてある。なら、しっかりとした結界を張る必要がある。その隙を狙う!



 その時、ソフィアが口を開いた。


「ふむ、良いな。魔力量、魔力出力、魔力制御どれをとっても、そこら辺の魔術師が束になっても敵わんレベルじゃ。ただ、お前、実戦経験は少ないじゃろ。特に自分と同格の相手との」


 ―—直後、俺の放った魔力弾が、すべて、俺に向けて返ってきた。

 金色の球体。それが俺の対応しづらい位置をねらって飛んでくる。


 うわ、不味ったな。『略奪(クレヴォ)』か。

『略奪』、それは相手の物品の所有権を奪う魔術だが、ソフィアが使用したそれは、魔術にも効果があるように改良されている。つまり、先程放った千の魔力弾、その操作権限は今、ソフィアにある。

 普段なら、こっちの魔力量と魔力出力で押し返すんだけどな。相手の魔力量と魔力出力が同格な上に、効率的に奪えるように改良された『略奪』。奪い返すのは無理そうだ。



 ……と、普通ならそう考える。でも、俺は違った。

 こちらも負けじと『略奪』を発動させる。勿論、相手の効果が先にかかっているから、まず奪えない。



 だから、その効果、術式構造、魔力操作を観(・)る(・)。


 目に魔力を込め、相手の魔術の構造や流れを見えるようにし、それを読む。

 どこのどの構造がどういうふうに作用しているのか。それを細かく見ていき、脆弱性を探る。


 そして見つけた。

 魔術を奪えるように改良されている影響で、魔術の高度さの割に、術者本人との繋がりが弱い。これなら、相手の『略奪』そのものに、こちらの『略奪』をかけられるように改良したら奪え返そうだ。


 改良を続ける傍ら、魔力弾を更に追加する。今度は、結界でも防げない威力と貫通性を持たせた、より複雑なものを。

 放った側から奪われる。それでいい。

 こちらに向けて飛んでくる魔力弾を躱しながら、改良を行う。


 ―—できた。


 改良した『略奪』を一気に魔力弾に流し込む。

 そして、主導権を奪い返し、撃ち返す!


「なっ!?」


 ソフィアが、驚愕と感嘆の混ざった声をあげる。


「見事! やはりお前は面白いな!」


 ソフィアは楽しそうに言いながら、自身も紅色の魔力弾を出して、相殺する。

 場面は、均衡を取り戻した。


 互いに出方を窺う。



 その時、ソフィアがにやりと笑って言う。


「小技は破られるか。なら次はド派手にいこう!」


 ソフィアは腕を振り上げる。


 次の瞬間、黒雲が発生し、試験場を包む。

 そして、湿った空気の匂いをはらんだ風が、吹き始めた。

 瞬く間に、頬を殴るような大雨を伴い、暴風となって吹き荒れる。


 そ(・)れ(・)は、上級魔術の更に上。

 或る者は自然の猛威を欲し、また或る者は強大な魔物の脅威を求め、それを生み出した。

 それは、事実上の最高階位の魔術。

 そして、ごく一部の魔術師の切り札。


 ―—災害魔術(クラス・ディザスター)だ。


「あの~、これ入学試験ですよね?」


「そうじゃな! しかし、魔を愛するものとして、それが、久々に見つけた対等な相手に遠慮する理由になるか!?」


 楽しそうに言うソフィア。



 対等な相手、か。確かに、それは俺も欲しかったところだ。

 今朝から見てきた、学園の受験生を思い浮かべる。

 誰も彼も、光るものはある。フェルミナも、才能だけで言えば、俺以上だ。

 しかし、それでも、まだ発展途上。俺には届いていなかった。

 これは俺の生い立ちの特殊さのせいでもある。だから半分、諦めていたところはある。しかし、それでも、落胆が無いわけではなかった。


 だけど。


 対峙する相手を見据える。

 世界最高峰の学園である、アステナ王国総合学園『セレスティア』。

 その学園長を務めるソフィア。

 王国最強の魔術師と謳われるその名前は、俺でも聞いたことがある。


 ……俺と対等、か。



 面白いじゃん。


「……そうですね。じゃあ、こちらも遠慮せずに行きましょう!」


「ああ! 是非とも!」


 この状況で的確な魔術は……、うん、これで行こう。


「『天貪る大鷲(グリフォン)』!」


 災害魔術の一つ。

 それは、一つの国を滅ぼしたとされる、伝説の魔獣を模っている。

 特筆すべきは、その対空性能。

 本来であれば、重力魔術で鳥と同じ速さで空を飛び、中級魔術で敵に攻撃を仕掛けて余力を削る。それが、魔術の空中戦のオーソドックス。勿論、暴風雨のなかでの対空戦なんて不可能だ。


 しかし、この魔術は、音を置き去りにして飛び、上級魔術と同等の火力で町を薙ぎ払う。こんな暴風雨のなかでも、対空戦が可能だ。


 魔術で生み出した伝説の魔獣の背に乗り、ソフィアに向かって空を翔ける。

 そして、


「『烈風(ウラガーン)』!」


「『紫電(ケラブノス)』!」


 俺の放った風魔術(アネモス・マギア)と、ソフィアの放った雷魔術(ブローム・マギア)が、それぞれ、互いの結界に阻まれる。


 やっぱり、しっかり張られた結界は破れないか。


 なら、ここからは解析勝負だ。

 相手の結界、その構成を見抜き、それを貫通できるようにこちらの魔術を改良する。

 その工程が、どちらが早く終わらせることができるかで、勝敗が決まる。


 伝説の魔獣が放つ烈風と、暴風雨に轟く紫電が激突を繰り返す。


 解析を進めながら、相手の魔術を防ぐ。言うは易く行うは難し、だ。

 そもそも、魔術の解析自体、深い魔術の理解が必要になる。常人なら、慣れるまで三十年はかかるだろう。

 俺は、他の人よりかは、解析し慣れている方だけど、それでも、一瞬で解析できるわけでもない。それが、ソフィアほどの魔術師が張る結界となれば、なおさらだ。


 ―—だけど、



「だからこそ、面白い!」


 互いに、魔術を撃つペースを上げる。

 相手の魔術をこちらの魔術で打ち消せずに、結界に頼る場面が増える。

 その結界を読んで解析する。


 このレベルになると、少しの読み間違いが、相手に大きなリードを許してしまう。だから、一度も読み間違えは許されない。


 そのギリギリの緊張感が心地よい。


 魔術を放つ。

 相殺される。

 魔術を放つ。

 結界に防がれる。

 解析を進める。

 魔術を放たれる。

 相殺する。

 魔術を放たれる。

 結界で防ぐ。

 解析を進められる。


 魔術を撃つ刹那、相手より先に解析しきれるかどうかの瀬戸際での攻防。

 そんなギリギリの戦いも、いや、ギリギリの戦いだからこそ、長くは続かない。


 解析を終え、結界の脆弱性を見つける。

 ソフィアに目を向け、目が合った。

 彼女はにやりと笑う。

 そうか、ソフィアも終わったか。なら―—


「最後は、早打ち勝負で決めましょうか!」


「ああ!」


 互いに魔力を練り、改良した魔術に流し込む。


 そして―—


「『烈風』!」


「『紫電』!」


 互いが放った魔術は、互いに解析し尽くした結界を、すり抜けるように貫いた。


 次の瞬間。



 雷が俺の肩を貫き、風がソフィアの脇腹を抉った。

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