学園長襲来!
……まったく。フェルミナに斬りかかろうとする奴が出てくるとはな。次からはもっと気をつけないと。
簡易結界であれくらいの攻撃防げるとはいえ、それをしたらフェルミナに気づかれるからな。
フェルミナは良い奴だから、自分が斬りかかられたことに気づいたら、色々気にして、有りもしない自分の非を探し出すからな。そうさせないためにも、全力で隠蔽しないと。
そう警戒を強めていると、フェルミナがこちらに小走りで駆け寄ってきた。
「お疲れ。な、言ったろ。フェルミナなら誰が相手でも勝てるって」
その言葉にフェルミナが、微妙な顔をする。
「そんなことないよ。イグニスさん、結構強かったし。今回は、初見で不意をつけただけ。次やったら多分負ける」
うーん、あの圧勝ぶりを見てると、謙遜にしか聞こえないんだけど、フェルミナのことだから、本音で言ってるんだろうな。
自己肯定感が低いのがフェルミナの欠点だ。だから、周りがそれを補ってやらないといけない。
「そうか? 次やってもフェルミナが勝ちそうな気もするけど」
「私じゃ無理だよ。そういえば、ウェネスの試験、時間、大丈夫? そろそろじゃない?」
「間もなく、五と半の刻三十分になります。魔術学部受験生の内、受験番号A-1からA-500は魔術棟訓練場A、受験番号A-501からA-1000は魔術棟訓練場B、受験番号A-1001からA-1500は、魔術棟訓練場Cに移動してください」
フェルミナの言ったそばから、アナウンスが響く。
「そうだな。それじゃあ行くか」
「うん」
まぁ、ほどほどに頑張るとしよう。
■□■□■□■□
そして十分後。俺達は、試験会場に到着する。
魔術学部の試験会場の入り口にも、騎士学部と同じように、模擬戦での受験生の組み合わせと、使用するコートが書かれた看板が設置されていた。
さて、俺の相手は――
「ん?」
「どうしたの、ウェネス?」
「いや、ちょっと待って」
おかしいな。俺の名前が無い。
騎士学部の試験会場にあった看板もそうだが、こういう数多くの情報を纏めて掲示しているものには、基本的に、知りたい情報に目が自然に止まるようにする『検索』が掛けられている。だが、どんなに探しても、俺の名前が一向に見つからない。
念の為、俺の方でも『物探し』――色々な探し物を見つける為の魔術を使っても反応がない。
「うん、やっぱり無いな。フェルミナ、俺の名前見つけられる?」
「え? うーん……確かに無いね。どうしてだろう?」
フェルミナは10秒ほど探してから言う。
「試験官さんに聞いてみる?」
「そうだな」
そう言って、試験官のもとへ向かおうとした時――
「その理由、儂が教えてあげよう」
突如、背後から、偉ぶって古臭い喋り方に似つかわしくない、少女の声が飛んできた。
その声に対して、俺は――
「いや、試験官の人に聞くんで結構です」
普通に断った。振り向きすらせずに。
「即答だと!? てかそっちの小僧、せめてこっちを見ろ!」
少女の声がそう言った途端、俺の顔が右頬から引き寄せられる。
へぇ、空間ごと引っ張ってるのか。結構高等技術だな。普通の魔術師なら、モノを引っ張る時は、大体、魔力の縄か何かを生成して、それを操って引っ張る。空間を操って引っ張るなんて、中々の実力者だな。
なら、こちらも相応の技術で対抗するのが礼儀か。
『魔力探知』で空間の魔力を把握する。
なるほど。空間を包み込む形で魔力を動かしてるのか。それなら、その中に魔力を通せそうだな。
魔力が作用し、操作されている空間。その中に魔力を流し、こちらも空間に作用する。向こうが空間の動きを弄るのであれば、こちらは、空間の性質を弄り、本来、空間には無い性質である伸縮性を持たせる。
その結果、空間を引っ張ろうとすると、空間が伸び、引き寄せることが出来なくなった。
「おぉ、見事! うーん、このまま魔術勝負をしたいところじゃが、今は、話の本筋はそこじゃない。はぁ、仕方ないのぅ」
少女の声はそう言うと、突然、目の前に人が現れた。
転移魔術か。
「なんですか? 俺、魔術学部の試験が今からあるんで、手短にお願いします」
面倒臭くはあるが、ある程度の魔術の腕を持って、一瞬とはいえ魔術勝負で張り合った相手だ。ある程度の敬意は持って接しよう。
「まぁ、あのお前の名前が書かれていない看板。あれやったの儂なんじゃ。テヘペロ」
目の前の少女が、ウィンクしながら舌を出す。
……何だこの人。えぇ……。
「待て、引くな引くな! 若者に合わせてチャーミングにやってやっただけじゃろ!」
「若者に合わせたって……。あなたも見た限り、俺たちと同年代に見えますけど。というか、あなた、何者ですか?」
俺がそう言うと、目の前の少女は、待ってましたとばかりに、その長い真紅色の髪を手で靡かせ、橙色の瞳を輝かせ、名乗った。
「儂の名前はソフィア・グランデ・ガーネット。この学園で、学園長をやっておる者じゃ」
「あ、そうですか。で、学園長さんがわざわざなんの用ですか?」
「いや少しは驚こうよ!?」
先程まで圧倒されていたフェルミナが、別の驚きを目に宿してツッコんでくる。
「いやぁ、でもさ、わざわざ相手を圧倒する為に、魔力を出して、凄そうな態度を取る相手だよ? なんというか……、逆にショボい」
「ショボい!?」
ソフィアがショックを受けたように言う。
いやまぁ、魔力量的にはさ、出して見せてるだけでもイグニスなんて目じゃないくらいの量だよ。たださ、それを出して見せてるっていう精神的なところがさ、別に怖くない感じがする。
「で、なんの用ですか? さっきから話が進んでないんですけど」
ショックを受けている最中のソフィアに言う。
「はぁ、お前って奴は……、まぁ良い。ここじゃ人も多い。学園長室で話をしよう」
そう言うと、ソフィアは、手を軽く床に翳すと、魔術陣を出現させた。そして、一気に手を振り上げる。
次の瞬間、俺達は、整った部屋に居た。
「さ、適当に腰掛けてくれ。お前達は、紅茶とコーヒー、どっち派だ?」
「コーヒー、それも出来るだけ苦いやつで」
「紅茶をお願いします。ミルクと砂糖は無しで」
部屋に置かれたソファに座りながら言う俺達の注文に、ソフィアは頷いて、手を鳴らす。
すると、カップが二つ飛んできて、俺達の前のテーブルに置かれる。
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
行儀の良いフェルミナに倣って、俺も礼を言い、カップに口をつける。
うん、丁度いい苦味だ。
「ん、とても美味しいです」
「じゃろ。良い茶葉を使っておるからな」
フェルミナの言葉に、ソフィアが嬉しそうに頷く。
「さて、まどろっこしい話は得意じゃないし、ウェネス、お前も好きじゃないじゃろ」
ん? なんで俺の名前を知ってるんだ?
……あぁ、そっか。この人学園長だもんな。知ってておかしくないか。
「まぁ、好きじゃないですね。なんで、単刀直入にお願いします」
「模擬戦相手、儂に変更じゃ」
「了解です。どこでやります?」
即座に帰ってきた返事に、即答する。
「いや、ちょっと待って! え、どうしてですか? というか、ウェネスも、理由聞かないの?」
この場で一番常識的な感性を持つであろうフェルミナが待ったをかける。
「いやだって、どんな理由があっても、学園長が決めたことなら、この学園内ではひっくり返らないだろうし。理由を聞いたところでじゃん?」
「せめて聞こうよぉ」
「まぁ、フェルミナがそう言うなら。で、どうしてですか?」
「ん、だってお前、他の受験生と戦わせるには強過ぎるじゃろ。他の受験生が束になっても敵わんくらいには。じゃったら、儂が相手しなくちゃ実力が測れんじゃろ」
何故か、こちらから視線を逸らして言うソフィア。
「本音は?」
「お前、滅茶苦茶面白そうじゃん? フェルミナの魔力量0も気になるが、お前の方が個人的には興味深い。そしたら、手合わせして色々試したくなるのが、魔に関わる者としては当たり前じゃろ?」
……なるほど。そういうことか。ふーん。
「分かりました。んで、どこでします?」
「儂の実験室でやる。試験会場じゃ、人が多いしな」
そう言うと、ソフィアは指を鳴らす。
次の瞬間、テーブルとソファはそのままに、周囲が、白い壁に囲われた、だだっ広い空間に変わる。
「ここは、学園の地下に位置していてのぉ。多少の衝撃なら、学園に影響もでないじゃろう」
そう言われて、『魔力探知』を使う。
オーケー。思う存分力を振るえるってほどじゃないが、まぁ、模擬戦をやるには十分だろう。
「そういえばウェネス。何となくで、フェルミナも連れてきたんじゃが、何か支障があるか?」
「ん? 大丈夫ですよ。むしろ、やる気出てきた」
「そうか。なら、フェルミナ。お前に、この模擬戦の審判を頼んでも良いか?」
「謹んでお受けさせていただきます」
フェルミナが深々と頭を下げる。
俺とソフィアは、フェルミナから距離をとって向かい合う。フェルミナのいるソファの辺りには結界が張ってあるので、攻撃がフェルミナに当たる心配は無いが、気をつけるに越したことは無い。
「両者、構え!」
そう言って、腕を上げるフェルミナ。
「3、2、1、始め!」
掛け声とともに、フェルミナが腕を振り下ろす。
そして、次の瞬間、
――光が、爆ぜた。




