第6話 ダンジョンに向けて
「で、良いスキルだったか?」
ギルドにスキル申請に行った翌日のこと。
登校するや否や、そう聞いて来たのは悠真だ。声を抑えようとはしておらず、なんなら周りにも聞こえる様にそう言った。
「うーん、まぁまぁかな?」
「まじかよ?そんなに良かったのか?」
周りが少し聞き耳を立てているのが分かった。俺が一年半経ってもまだスキルが出現していないと言う話はとっくに広まっている。おそらく可哀想な感じで思われていたので、これからはそれもなくなるだろう。
「"まぁまぁ"って言っただけなんだけど?」
「だからだよ。固有スキルってさ、正直言って結構使えないのばっかりなんだよ。だから少しでもダンジョンで使い道があるってだけで良スキルに見なされるらしいぜ。しかも、普段から謙虚なことばっかり言うお前の"まぁまぁ"だろ?実際かなりの良スキルと見た」
少し周りがざわざわとしてきた。
それに少し満足気な顔をすると、悠真はまた声を一段階大きくしてフォローした。
「って言ってもスキルの詮索はマナー違反だからな。続きはベッドで聞くよ」
「アホか」
これにも少しざわざわとしたが、そちらは女子達のものが多かった気がする。
「とりあえず今日は早速ダンジョンを覗きに行ってみるよ。悠真も高木ダンジョンでやってるんだろ?」
それなら向こうで会える可能性も高い。
「いや、俺は最近は鳴尾ダンジョンだな」
「え?そうなの?中級の?」
鳴尾ダンジョンは、一昨日救急車で運ばれた病院の近くにあるダンジョンだ。つまり中級である。
「まぁな」
「マジかよ!学生で中級ダンジョンに行けるなんてやるじゃん」
「たまたまパーティに恵まれただけだけどな。今は大学院生の人達と組んでやってるけど、相性が良いらしい。ちなみに菜月も同じ鳴尾ダンジョンだぜ?」
「おぉ、まじかー」
なんとまぁ、すぐに追いつくと意気込んでいた二人は既に中級のダンジョンに行っているらしい。
「確か中級ダンジョンの最低条件って…」
「レベル30と、初級ダンジョンのボスの討伐だな」
レベル30か。レベル20でオリンピック選手並みの身体能力という事は、悠真は既に人間離れした身体能力を持っていると言えることになる。
「まじかよ。たった一年半でそんなとこまでいけるなんて、二人ってもしかしてチートスキル持ち…?」
「いやいや、パーティメンバーに恵まれただけだよ。菜月も他のメンバーは全員社会人って言ってたしな。もし今日初級に行くんなら気をつけろよ。ソロだと初級でも二層までにしておけよ。三層からは"罠"が増えるからな。俺たちに追いつこうとして無茶だけはするな。死ぬぞ」
"罠"と言った時の悠真の顔は真剣そのものだった。
何故なら、ダンジョンで怪我をする、または命を落とす原因の半分はダンジョンに仕掛けられた"罠"が原因だからだ。これも講習で口酸っぱく教えられた事だ。
それにしても、悠真や菜月に追いつくとか威勢のいいことを言っておきながら、かなりの差ができてしまっている事にようやく気がついた。
残りの授業は、少しだけ気が重かった。
*
放課後。
ついに俺は高木ダンジョンへとやって来ていた。
自宅から見て高校と高木ダンジョンとはほぼ逆方向なので、一度家に寄ってから自転車で来ることにした。帰りが楽な方がいい。
高木ダンジョンは、ホームセンターくらいのそこそこに大きい建物だった。ギルドと同様に外観は少し味気ない。
緊張しながら中に入ると、正面に受付窓口がいくつかあり、横の方には二階に上がる階段もあった。
まずは階段で二階に上がる。
そこには武器や防具を買えるショップがあった。
店はそこそこに広いが、お目当ての店員さんに声をかける。熊みたいな大男の店員さんだ。頭がスキンヘッドなので大丈夫だが、これで毛があったら熊かと思ったかもしれない。
「すみません。大石さんですか?柊の息子の結都と言います」
「ん?おぉ!柊の倅か!連絡受けてるぞ!」
大石さんは、父さんが昔から知っている人らしい。
最近はギルド以外にも安いショップがあるが、品質の当たり外れがあるから、最初はここに行けと言われた。
倅…って初めて言われたかも。
「あんまり父ちゃんには似てねぇなぁ?母ちゃんの方が似てるか」
「え?母を知ってるんですか?」
「あぁ、まぁな。お前さんの母親はそりゃあ綺麗な人だった。姿も心も。柊なんかにゃもったいない人だったぜ」
その言葉には苦笑いしか返せない。
父さんの事も好きだったし、尊敬もしているから。
ただ大石さんの言葉も、父さんを敵視したものではなく、揶揄うくらいのものだったため、別に嫌な気分にはならなかった。
「それで今日はダンジョンに入るのに槍と防具を買いに来たんです。とりあえず今日は様子見で二層までの予定です」
「そうだったな。一層と二層はスライムとラットの階層だ。最初に槍を選ぶのは賢い選択だな」
そう褒められて、槍と防具を見繕ってくれた。
槍は俺の身長から少し短いくらいの物で、防具は革だ。胸当てだけ金属がついている。それだけでもつけてみると少し重さを感じた。
「レベルが上がればすぐに重さは気にならなくなる。その格好で、まずは受付に行け。必要なことを教えてくれる」
「ありがとうございます!」
「決して、無理はするなよ。あとこれは餞別だ。武器と防具の分も俺が出しといてやる。とっとけ」
渡されたのはヤ◯ルトくらいの小瓶に入った赤い液体。ポーションだ。探索者以外にも需要は高く、一番安い物でも一つ三万円はする。武器と防具も合わせるとその倍ぐらいにはなった。
「いやいや!悪いですよ。父さんからお金もちゃんと渡されてますし」
「なぁに、お前の母親には昔何度も助けてもらったんだ。そのくらい本当に大したことねぇよ。あいつにも俺から連絡しとくから。これから命かけようってガキが遠慮なんかしてんじゃねぇ。気になるなら、稼げるようになったら酒でもおごってくれや」
バシッと強めに背中を押されてたたらを踏む。
「ありがとうございます!」
大石さんから父さんに連絡してくれると言うのであれば後は大人たちに任せよう。
深々とお辞儀をして一階へと戻った。
一階の受付はやや混雑しており、並ぶのも少し気が引けてしまう。
建物の入り口に案内の人がいるから、聞いてみようか。
身長は低めだが大人の色気のある女性だった。
建物に入った時から気にはなっていたので、この際話しかけてみよう。
「すみません、初めてダンジョンに来たんですが、受付に並べばいいですか?」
「あら、あなたもしかして柊さんの?」
「え?えぇ、息子の結都です」
おいおい。どこもかしこも、父さんの息がかかりすぎてるぞ。ありがたいのだが、なんだか親戚の家に来てる気分になって来た。そのうち"大きくなったわねぇ、覚えてないと思うけど"とか言われそうだ。
「ふーん。柊さんの…。高校生だったっけ?ふーん。
確かに平日のこの時間は学生さんも多くて混むのよね。それなら、今回は特別に私が説明してあげちゃう」
「あ、ありがとうございます…」
その瞳に怪しい光が一瞬見えた気がしたが、気のせいだろう。【視力超強化】をもってしても、気のせいという物はあるだろうきっと。
「私は横川よ。横川杏。杏ちゃんって呼んでね」
「いや、ちゃん呼びはちょっと…年上の方ですし…」
「えーそれなら杏さんでもいいわよ」
「では、杏さん、よろしくお願いします」
「はぁい!杏ちゃん頑張っちゃう!キラっ⭐︎」
えーっと、これは何か返事をした方がいいのだろうか?まずい!杏さんが固まってる。リアクション待ちしてる……!
「杏ちゃんかわうぃーね!よろしくぅ⭐︎!」
チャラいを売りにしている芸人並みにハイテンションで返事してみた。
「うーん!合格!よしよし」
どうやら期待には沿えたようだ。ご褒美の意味なのか頭を撫で撫でされた。にしても"キラッ⭐︎"は年代が出てるな。
「うーん。まず、武器と防具は大丈夫そうね。上で買ってきたんでしょ?なら大丈夫。
あとは、今日一番大切な事を言うわね。一人で行くのなら、一層、行けても二層までにしておきなさい。三層は今日はダメよ。分かった?」
俺は頷く。もとよりそのつもりだ。
「それから、ポーション出して」
「え?あぁ、はい………これです」
少しもたついてから、バッグのサイドポケットの中に入れたポーションを取り出して見せる。
「遅い。ポーションはいつでも使えるよう、防具のホルダーに挿しておくのよ」
杏さんが俺の腰あたりを指さして言った。
確かに、ポーションがすぐに取り出せるかどうかで生死に関わる事もあるだろう。これは有益なアドバイスだ。
それにしても防具にホルダーがあったなんて、どこだどこだ?
「ほら、ここよ。ここに挿れてみて」
「ぎゃあああ!」
耳元で囁かれた瞬間、思わず飛び退いた。
「叫ぶなんて失礼ね。有料もんよ?今日使ってもいいわよ。それじゃ、頑張ってイッてらっしゃーい!」
とんだ目にあった…。
薔薇には棘がある。そんな言葉を思い出したのだった。




