第7話 打倒スライム
探索者ギルドの受付横の入り口を抜けると、そこは広い空間だった。三十メートル四方はあると思った。
何人もの探索者達がダンジョンに入る前の待ち合わせや準備をしている。この時間はやはり学生が多いようで、同じ学校で見たような顔も何人かいた。
学生は学生同士で組んでいる所が多いみたいだ。
広場の一番奥に階段があって、そこからダンジョンに入れるらしい。
階段の目の前に立つと、少し生暖かい風が吹いて来ている。
防具が緩んでいないか、ポーションがホルダーに収まっているかを再確認してから、槍を握り直す。
少しだけ息を吸って、階段を降りていった。
階段は三十段ほどだった。
階段の先は洞窟だった。初級ダンジョンは基本的に洞窟の様な作りになっていることが多いらしい。それでも道幅は五メートル程あり、片側一車線の道路ほどの広さがあるので圧迫感はない。
【視覚強化・大】のスキルがあるからか、全く暗くはない。
晴れの日の様にはっきりと見える。
後ろから別のパーティーが横を通り過ぎ、それを見て思い出したように進み出す。
この広い道が本通りと呼ばれ、これを進んでいけば次の層の階段へと辿り着くらしい。
そして、横にちらほらと側道があり、そちらは道幅が一メートル程狭くなり、迷路状になっている。
本通りにもモンスターは出るが、側道の方が圧倒的に多い。そして側道には、罠がある。
初級の一層と二層には罠はないけど。
さぁ、最初のモンスターを探そう。
意気揚々と本通りを行くと、どうやら本通りも真っ直ぐではないらしく、結構左右に大きく曲がったりしている。側道とかを通れば近道になったりしそうだが、下手に入ったら迷いそうだ。
側道に入る時にはマッピングと言って、しっかり道順を書き留めておかないといけない。初級の一階層といえど、全体の広さは三キロ四方以上もあると言われていて、普通に迷えば死ねるレベルだ。
歩き始めてから一分ほどで、先を歩く探索者パーティーが何かを迂回し始めた。
初級の一層でお決まりのモンスター。スライムだ。
意外と大きい。高さは百五十センチくらいあって、お饅頭みたいな形。昔のゲームだと水色や青色の物もあるが、目の前にいるのはドブの様な色をしている。
杏さんの話だと、スライムは動きが遅いため、無視もできる。下の階層に行きたい人は避けていくことが多いらしい。
スライムの倒し方は簡単だ。
身体の中のどこかにある核を傷つければ良い。
と言っても、泥色なので、どこに核があるのか分からない。真ん中という訳でもなければ、どうやら中でウニョウニョと移動しているという説もある。
一応スライム液と言うドロップアイテムもあるのだが、討伐にかける時間を考えたらタイパが悪いためみんな討伐したがらない。
俺は今回ダンジョンが初めてのソロなので、戦ってみることにする。気持ちが焦っているといっても、いきなり下に降りるほどの不用心でない。
「とりあえず一回突いてみるか」
槍を持って来たので、少し離れた所から安全に刺せる。
「えい!」
ブツッ。刺した感じはそんな具合だ。
例えるならば爪楊枝でバナナを皮の上から刺したときの様な感じ、表面に膜の様な物があるのか、最初だけ弾力があって、その後はするっと入る。
スライムは何事もなかったかの様にぷよぷよしている。
ただ、俺を敵と認識したのか、少しずつこちらに近づいて来た。歩くよりも遅いけど。
一度槍を引き抜くと、槍がドブ色の粘液でベトベトになった。
「うえぇ……。こりゃ、誰も倒したがらない訳だよ」
しかしこんな事で諦める様な俺ではない。
スキルが出るまでに一年半も待ったのだ。ようやく念願のスキルを得て……。
念願のスキル……?
「あぁ」
思わず独り言が漏れた。
そうだ。スキルの存在を忘れてた。
【視覚強化・大】は、ダンジョンの中が明るく見えるだけではない。物を透過して見えるのだ。
生き物の中まで見えるかどうか分からないが、物は試しだ。
んー………。
「見えた!」
まだスキルを使う感覚に慣れておらず、少し時間がかかるが、確かにスライムの身体の中にそれっぽい丸い物体がある。
しかもそれは、スライムの体内を八の字を描くように動いていた。
その状態を維持しながら、槍を握り直す。
核の大きさはピンポン玉くらいだ。
しっかりと狙いすまし、槍を素早く突き出した。
ハズレ。ベトベト。そんで地味に臭い。
もう一度。核は見えてるが、槍の熟練度が低い。と言うよりも無い。狙ったところにいかない。
「おりゃ!」
「もういっちょ!」
「こんにゃろ!」
「当たれ!」
…
…
…
「はぁ…この!」
「はぁ………はぁ…これでっ!」
二十回近く槍を突き入れ、ようやく核に当たった。手に持つ槍に、たしかに硬い感覚が伝わってきた。
時間はかかったが、こちらにダメージはない。無傷だ。途中で通り過ぎていったパーティーの女性探索者達に、なんだか微笑ましい目で見られた事以外は。
「ぐわぁ…。ようやくか…。ふぅ」
核が壊されたスライムは破裂とかしそうだなと思っていたがそんな事はなく、ドロっと形が崩れてそのまま透明になって消えていった。うーんファンタジー。
スライムがいた場所に、小瓶が現れる。
それを手に取ると、ドブ色だったスライムからドロップしたとは思えないほど、きれいな水色の液体が入っていた。少し揺らすと、少しだけ粘度があって化粧水みたいだった。
そしていつの間にか、槍や体中に付いていたベトベトの粘液も綺麗さっぱり消えていた。
返り血なんかも消えるのだろうか?それなら洗濯も楽で良いな。我が家の洗濯大臣としては、ダンジョンの汚れ物をどうやって洗うかと考えていたのだが、杞憂だった様だ。
さぁ、これからどうするか。それが問題だった。
まず、二層に行ってラットと戦う選択肢は無い。
槍の扱いが下手すぎて、どうにもならない。
スライムの核よりはラットの方が大きいだろうが、外して噛まれたくない。ビビり…?いや、今の段階でポーション使うと出費が痛い。痛すぎる。これはリスクマネジメントだ。
「よし、スライムで槍の練習するか」
俺は二層には行かず、一層でスライムを倒しつつ槍の熟練度を上げる事にした。
まずは本通りのスライムを駆逐する。そう決意して本通りを進んだ。
すると二匹目のスライムが一分ほどで現れる。
他の探索者が狩っていかないためだろう。今はありがたい。
スライムとの再戦。
今度も槍を突き入れる事、二十回。ドロップは無し。
二十回も槍を出し入れしてたらそこそこに疲れる。まだレベルも1だろうし…。
次だ次。
三匹目もすぐに見つけた。
また通りがかりのパーティーに笑われた。今度は男子高校生のパーティーだった。明らかにバカにされた感じだった。見てろよ。今に追い抜かしてやるからな。
怒りを込めながら槍を突き入れる事、三十回。ようやく核に当たった。
今度はスライム液がドロップした。
「いや、全然上手くならないし、回数さっきより増えてるし…」
腕が疲れてきた。
ダメだ。あと一匹見つけたら折り返そう。
そして次のスライムをまた見つけた。
今度も槍を必死に突き入れる。十回やっても当たらない。
「おーおー頑張れよー新人」
「特級探索者も近いぞー」
今度も探索者パーティーが通りかかった。
次は三十歳そこらの男性三人組パーティーだ。
声をかけられたのは初めてだった。チラリと会釈すると、その中に槍を持った人がいた。
目が合うと、優しく話しかけてくれた。
「槍を振ったのは初めてかい?」
代表作、
空間魔法は殴る(近接戦闘)ための魔法です!~アルと狐のダンジョン回遊記~
もよろしくお願い致します!




