第4話 全男子の夢?
父さんはさっき【視覚強化】って言ってたはずだ。じゃあ、この【視覚強化・大】は何だ?
「ね、ねぇ?この【視覚強化】ってさ、人の服が透けて見えたりするかなぁ?」
「どこの漫画だよ」
ですよねー。激しく同意です。
「ちなみに父さん、今日のパンツ、あの穴が空きかけてる縦ストライプの奴だよね?」
「うぉい!!!!マジで見えてんのか!?」
「ちょっと危ない!前みろ前!死ぬ死ぬ!!!冗談だって!テキトーに言ったんだよ!洗濯物たたんでるの俺なんだから当てて当然だろ!」
くそーやっぱり合ってんのか…。いや、そりゃそうだよな。
服が透けて見えて、【視覚強化・大】って名前のスキルが出てるとなりゃ、ほんとに見えてるって事だよな。
………って事は、ちゃんとスキルを意識して制御したら透けなくなるのか?
うん、と。………こう、か。いや、薄目にしても意味ないか。
ピントを合わせる感じ…?
………お?おおおお!透けてない!透けてないぞ!服着てる!
試しに頭の中で念じると、見事に父さんの服はちゃんと透けなくなった。………ちゃんと透けなくなったって何だよ。初めて聞いたよそんな日本語。
でも良かった。制御できるなら、日常生活に支障もないはずだ。
「まじで驚かせんなよ…。全男子の夢を叶えちまったのかと思ったぞ」
どうやら叶えてしまったらしい…。
全男子の夢がそんなもんでいいのかとは思うが、間違いなく羨ましがられると言うことはそうなのか?
「おい結都、【視覚強化】でもな、そう残念に思うことはねぇぞ。視覚強化は十分に役立つスキルだぜ。昔の知り合いに持ってた奴がいてな。一緒に潜った時はずいぶん助けられた。
そもそもがダンジョンの中は常に薄暗い。だから通常の六割ほどしか見えてないとも言われてるんだ。だから言ってみれば常に片目を閉じてるみたいなもんだ。それが【視覚強化】があれば普段と同様に見えるらしい。それから一番のメリットが罠の発見だ。薄暗い洞窟の中で、仕掛けてある罠が圧倒的に見つけやすい。だから実際かなりアタリな方だよ」
「そう聞くと便利そうだね」
そこまで教えてもらって、ダンジョンへのワクワクが少し戻ってきた。
「そうだ。明日は放課後にでも探索者ギルドに来いよ。あーそれか、明日は大事をとって休むか?」
げ、ほんとだ。スキル発現したら申請しないとじゃん。
これ、大丈夫なのか?犯罪にも使い放題な気がするけど…。まぁ、なる様になるか。スキルが凶悪だから逮捕されたなんて話は聞いてことないし……。
「これってさ。もしも犯罪者っぽいスキルが発現してしまったらどうなるの?」
「あぁ、たまに【詐欺】とか【変装】とかの犯罪にも使えるスキルが発現してるやつはいるな。ただ、特に何か措置があるわけじゃない」
俺が普通の【視覚強化】だと思っているだろうから、おそらく嘘をついているわけではないだろう。
「そうなの?危なくない?」
「確かにギルドでは誰がどんなスキルを持ってるかは把握してるから、それっぽい犯罪が起きた時には警察から照合の依頼が来たりする。だから何かあった時には疑われやすいって言う事はあるな。でもそれ以外は特にない。【詐欺】のスキル持ってる奴こそ、詐欺を働かないもんだ。それにそんな小物を警戒するより、単純に高レベル探索者の方が脅威だからな。
今後【核爆弾】みたいなスキルが出てきたら、問題になるかもだけどな」
そうなんだ。
そう言うことなら、普通に探索者ギルドに行っても大丈夫そうだな。
早速明日行こう。学校は………休むか。
ついに俺も探索者…。
すぐに追いつくからな、悠真、菜月、待っとけよ!
*
翌日。
俺は学校を休んで、探索者ギルドに来ていた。家からは自転車で十五分ほどの距離だ。
探索者ギルドと言っても、建物の外装はただの役所だ。隣に建っている市役所と何の変わりもない。もっとドラゴンの頭の剥製とか飾れば雰囲気出るのに。
くだらないことを考えながら、探索者ギルドへと入る。
入ったら番号札を取って、電光掲示板で番号が呼ばれるまで待つらしい。初めて来たけど、まんま役所だ。
平日の午前中だからか、他に人はほとんどいない。硬めの椅子に座って順番を待っていると、悠真と菜月から「風邪でもひいたか?」とMINEが来ていた。「スキル出た、今ギルド」と送り返したところで、順番が来た様だ。
「おはようございます。どうぞおかけ下さい。探索者ギルドの平田と申します。本日は固有スキルの申請でよろしかったでしょうか?」
窓口では綺麗なお姉さんが朗らかに対応してくれた。
「あ、はい。もう一年半も経つんですがようやくスキルが出たので」
「それは大変でしたね。ではこちらの用紙の、ここからここまでをご記入ください」
「はい」
用紙は簡単な項目ばかりだった。
俺は財布からマイナンバーカードなどを取り出して、上から空欄を埋めていく。美人なお姉さんを待たせていると思うと落ち着かないが、急いで書いて字が汚いと思われたくもないので、なるべく丁寧な字を心がけた。
「はい、お願いします」
「はい、ありがとうございます。あ、やっぱり君が柊さんのお子さんだったのね」
「ええ、父がいつもお世話になっています。えーっと、平田さん」
事前に父さんから聞いていたんだろう。
何となく窓口の奥の方を覗くが、父さんの姿はない。
「ふふ、お世話になっているのはこちらなのよ。ではスキルを見ていきますね。手のひらをこちらに出してください。痛くはないので大丈夫ですよ」
平田さんがカウンター下から、クッションを取り出して机に置いた。その上に手を乗せろという事だろう。俺は言われたままに手を乗せる。
「では、今からこの石を手のひらに乗せますね。この石を乗せると、名前とレベル、そして固有スキルがわかる様になっています」
平田さんは手袋でそれを持ち上げると、ころっと手に乗せられる。何の変哲もない石に見えたが、確かに小さなステータスウィンドウが浮かび上がり、それには先ほどの内容が書かれていた。
「あ、これは………【視覚強化・大】?
【視覚強化】自体はそこそこ見ることのあるスキルなんですが、これは初めて見ました。ご自身でどう言った効果があるなど分かりますか?」
やべー。めっちゃハッキリ出ちゃってんじゃん。
どうしよう。服が透けて見えるって言った方がいい?いや、出来れば言いたくないなー。もしこの能力がどこからか流出したりしたら、女性達からの俺を見る目がとんでもない事になりそうなんだよな。透かして見ていなくても、覗き魔みたいな扱いを受けるかもしれん。
うん、なるべく言わない方向でいきたい。とぼけよう。
「いえ、まだ昨日発現したばかりなのでよく分かってないんですよね。そちらのデータベースでどんなスキルなのか調べてもらえますか?」
「そうですね。少し検索してきます。ただ、今までに聞いたことがないので…。とりあえず、少しお時間いただきます。このままこちらでお待ちくださいね」
わー、同じスキル持ってる誰かが正直に"服が透けて見える"って言っちゃってたら終わる。どうしよう。いやどうしようもないんだけど。
「おー、結都。体調は大丈夫か?平田はどこ行ったんだ?」
そこにやってきたのは父さんだった。
どこからか見ていたのだろう。何かあったのに気づいて来てくれたみたいだ。
「いやそれが、俺のスキル、【視覚強化】じゃなくて、【視覚強化・大】ってスキルだったらしいんだよね。それでどんな効果かわからないから、調べてくれてる」
「え!?マジかよ!俺も聞いたことねぇスキルだ!絶対ユニークスキルだぜ!」
ふぅー!あぶねぇ、助かった!
このスキルヲタクが言うなら間違いない。
息子がユニークスキル持ちだった事に両手放しで喜ぶ父親を尻目に、心の中でそっと胸を撫で下ろした。




