第2話 新たな世界
「結都さぁ。さっき大我の奴にまた何かされてなかった?」
二時間目の体育の授業中。
体育館の壁にもたれながら、悠真と隣り合って座っていた。
サボってるわけじゃないよ。今は見学中だから。
目の前ではクラスメイトがバレーボールをしている。
コートが一つしかない関係で、今は見学する時間なのだ。できればずっと見学がいい。
自分で言うのもなんだが運動神経が悪いわけではない。どちらかと言うと良い方だ。しかしどうにも暑い。それだけで動く気力が削がれていく。
「大丈夫。英語のプリント見せてただけ」
悠真には、大我君とのいざこざはあまり言ってない。
悠真は結構ケンカっ早いし、探索者として活動してレベルも少なからず上げているので結構強い。何があったか言えば大我君とモメるだろう事は火を見るより明らかだ。
大我君もダンジョンには行っているらしいが、悠真とどっちが強いんだろう?
そんな事を考える余裕があるのも悠真のおかげだ。
気分が悪いから考えない様にしようと思っていた矢先。
コートの反対側にいる大我君がこちらを見ながら取り巻きとヒソヒソと何かを話し、笑っている。
「まぁ何かあったら言えよ。お前のスキルが発現するまでは、俺が盾になってやるからな!」
「なんでスキル発現までなんだよ。そっからも守れよ」
なんなら一生そばにいてくれ。
面倒見の良い悠真なら良い奥さんになれる。悠真の作る味噌汁は絶対うまい。
「いや、だってお前絶対」
「おい悠真!交代でこっち入ってくれよ。向こうは大我いるからよー。レベルバランスがきちーよ」
「あいよー!」
行ってしまった。寂しい。
いや、俺はそっちじゃないよ。ノーマルだよ。真っ当に女の子が好きです。
「結都ー!」
ん?この声は。
バレーをしているコートの向こうで菜月がこっちに手を振っていた。
よいしょ、の掛け声と共に立ち上がると、コートをぐるっと回って反対側に行く。
体育館の真ん中にネットを引いて、こちら側で男子がバレーボール、向こう側では女子がバスケをしているのだ。
「よお、サボり?」
ネット越しに菜月へ声をかける
さっきまでバスケをしてたのは知ってる。何で知ってるかって?見てたからだよ。
菜月は首筋に流れる汗をタオルで拭きながら、水筒で水分補給していた。
どうにかしてその水筒になれないものか。タオルでも良い。体操服でも可。
「休憩中よ。サボりはそっちでしょ?」
「違うよ。見て勉強してる」
これは昔からよくつく嘘だ。別に勉強はしてない。ただ見ているだけだ。もっとも今は逆に男子達に見られてる。俺じゃなくて菜月のせいだ。
菜月はこのクラス、いや学年でもマドンナ的な存在だ。幼馴染というだけで気安く話してるといつも白い目で見られる。でも学校では俺から話しかけたことはない。いつも菜月の方から話しかけてくるんだから仕方ない。なんだかんだ俺も菜月と話したいし。
「そっか。結都は昔から運動神経良いもんね」
「うん。また嫌味かな?」
「違うよ?昔から結都はさ、見たらすぐ真似できるタイプじゃん?最初は参加せずに見ててさ、途中から入ってきてめっちゃ上手いみたいな?」
それはまぁ、あながち間違いでもない。
というより、スポーツでも何でも初めてする時はどうしたらいいか分からないんだよな。だからちょっと外野から眺めて、自分なりに分析して、真似してみる。するとそこそこ形になる。みたいな。
「うーん、そうまっすぐ褒められると困るな。でもすみません、今回はサボってました」
「うん。結都は正直でよろしい」
屈託なく笑う菜月に見惚れてしまう。
菜月が下の名前を呼び捨てで呼ぶ男子は俺と悠真だけだったりする。密かな自慢ではあるが、小さいなと自分でも思う。
「危ない!」
「結都、避けろー!」
「ファー!」
え?
一つは悠真の声だとすぐに分かった。
振り返ると、青と黄色の物体が一メートルほど先の空中に浮かんでいた。
ん?何だこれ?あぁ、バレーボールか。
誰かのスパイクでも飛んできたんだろう。でも、なんか遅くないか…?
ゆっくりとボールが近づいてくる。
あーこれは当たる。顔面に。手を出して、頭を引っ込めるが、自分の動きがおっっっっそい。絶対間に合わない。
お?ん?なんだかすごいスローモーションみたいになってる。
しかもやたらと見える。
回転どころか、縫い目まできっちり見える。
いや、それどころじゃない。
どんどん近づいてもう目の前まで
「ぶっっ!!!」
「結都っ!」
バゴッと言う音がして、俺は見事にボールを顔面で受け止めた。そして体育館の床に投げ出される。
「おい結都!大丈夫か!お前大我!今のわざとやっただろ!」
「は?アクシデントだろ。悪気はねぇよ」
「探索者やってて、あんなノーコンスパイク打つわけねぇだろうが!このヘタクソが!」
「あぁ!?なんだとコラ!?」
遠くの方で悠真が大我君を怒鳴りつけているのが聞こえる。
でも大丈夫。床にも頭は打ってないし、脳震盪とかにはなってなさそうだ。痛かったし、まだ視界が回ってるけど。
それよりさっきのスローモーションみたいなのは何だったんだろ?
走馬灯……みたいな?でもバレーボールで走馬灯はちょっと大袈裟じゃないか?まぁ打ちどころによっては、なのかもだけどさ。
「結都大丈夫!?」
菜月の声がして、誰かが身体を起こしてくれた。
ネットを回って来てくれたのだろう。うわー。菜月にカッコ悪いところ見せちゃったな。俺のせいじゃ無いんだけど、合わす顔無いわー。
「大丈夫大丈夫。頭も打ってないし、ちょっと痛かっただけだから。俺の鼻、凹んで無いよな?」
仮にも探索者をやってる大我君が打ったスパイクだ。高校一年生の威力では無いだろう。
ようやく視界が治ってきた。
パチパチと瞬きをして、一番近くにいた菜月にお礼を言おうとして。
俺は固まった。
「どうしたの…?」
「んー?」
もう一度瞬きして、目を擦って、よーく見てみる。
なんだか菜月の体操着が、うっすら透けて見える。
いやいや、そんなわけあるはずない。
上の白い服はまだしも、紺色の短パンが透けて見えるなんて事は無いだろう。
「え?何?結都?ほんとに大丈夫?」
俺の様子を異常だと感じたのか、菜月が顔を覗き込んでくる。しかしそんな事をされてる間にも、菜月の体操着はどんどんと透けていく。
「なんだ…これ?」
もう一度目を擦った時には、菜月はほぼ下着姿になっていた。淡いピンクの、小さいフリルがついた可愛らしい上下揃いの下着。
「結都、鼻血!」
たらーっと鼻から生温かいものが垂れた。
「あっ…いや、これは決してやましい気持ちからではなくて!」
「何バカ言ってんの!誰か保健室の先生呼んで!」
菜月が首に巻いていたタオルを押し当ててくる。
いや、ちょっ。何これ、めっちゃ良い匂い。汗拭いたんじゃないの?汗がこんなに良い匂いなの?何食べてるの?主食がお花なの?
「上みちゃダメ、血が喉に垂れ込んで気分悪くなっちゃうから。下向いて!」
いや、下はマズい。色々見えてしまう。余計に鼻血が止まらない。死んじゃう死んじゃう。
と言うかそこでやっと気づいたが、落ち着いて周りを見渡してみたところ、菜月だけでなくクラスメイトの誰も彼もが下着姿に見える。男女関係なく全員だ。
何で?やっぱり頭を打ったのか?
これが幸せな幻覚なら、女子だけで良いんですが?
あれ?でも悠真のパンツ。確かにさっき着替えた時と一緒だ。
いや、見ようと思って見たんじゃないよ。悠真が、姉ちゃんが旅行のお土産に買ってきたとかって見せてきたんだよ。俺はノーマルだし。いやこんなに言い訳してると逆に怪しいか。
「先生こっち!」
わけわからないことが起こりすぎて頭がパンクしそうになった時。
ようやく保健室の先生がきてくれたみたいだ。
「大丈夫?ボールが当たったの?」
「先生、様子がおかしいんです。頭を打ったのかも」
保健室の先生が目の前にしゃがみ込む。
先生のお胸が目の前にあった。
しかも、大人の色気が詰まった黒の下着。
そこで限界を迎えた。
鼻から大量の血を吹き飛ばしながら俺の意識は途絶えた。
「結都ー!?」
「きゅ、救急車呼んで!」




