暴走特急フレイン
朝一で俺たちはセントの町を出た。俺の家からの追っ手も来ていない。運良くまだ家出がバレていないのか、それともあきれられて勘当でもされたか。あの父親からすると後者の確率の方が高い気がする。どちらにしろ遠く離れてしまえばこっちのもんだ。
「カイル君ほんとに何も考えてなかったのね」
「だからそう言ったじゃないですか」
俺たちは地図を頼りに東へ東へと向かっていた。
「わたしがレンゼンに行こうって言わなかったらどうしていたわけ」
アイリスさんはわたしがいてよかったでしょとでも言いたげな顔をしている。
レンゼンとは俺たちが住んでいたセントの町とは比較にならないほど大きな商業都市だ。そこに行けば仕事も住む場所もどうにかなるだろう。まぁ俺は家からふんだくってきたお金がまだ山ほどあるから仕事を探すつもりはないが。
お昼になると道沿いにあった大きな岩に腰掛けて、アイリスさんの作ったおにぎりを二人で食べる。しばしの休憩の後、俺たちはまた東に向かって歩き出した。
「アイリスさんやっぱり馬車に乗っていきましょうよ。お金は俺が出しますから」
「歩いて行けるのにそんなのもったいないでしょ」
アイリスさんは俺を置いていきそうな勢いでずんずんと先へ進む。
俺一人なら空を飛んでいくことも出来るんだけど。
そういえば転生してからというもの、あまり楽した覚えがないなぁ。これじゃ前の人生と大して変わってない気がする。
夕日が地平線に沈みかけた頃、ようやく俺たちはレンゼンにたどり着いた。
「さすがに疲れたわね。じゃあわたしは宿屋を探してくるから、カイル君は食事が出来るところを探してきてくれる?」
アイリスさんはそう言ってレンゼン市内に消えていった。疲れたという割には汗一つかいてなかったな。
俺は普段から微弱な魔力を体全体に張り巡らせているのでそれほど疲れてはいないが、アイリスさんは俺が見た限り魔力はない。それなのにあの体力。もしかしたら初めて会ったとき俺が手を出さなくても一人でなんとかなったんじゃないか、などと考えていると――。
「やっと見つけましたよカイルさまっ!」
後ろから女性の声がした。
やばっ! うちのメイドに見つかった。と思って振り返ると、そこには黄金色の長い髪をなびかせ肩で息をしている長身の美女がいた。
「フレイン!? なんでお前がここに……」
いや訊かなくてもわかる。こいつも貴族だ。魔法で俺を探し出したに違いない。
「それはこっちのセリフです! なぜわたくしを置いて町を出ていったのですか」
「いや俺はもうテオール家の人間じゃないから――」
「わたくしの何がいけないのですか?」
行き交う人たちが立ち止まって俺たちを見る。見世物じゃないぞ。
「そういうことじゃなくてだなぁ……」
俺が返答に困っているとアイリスさんに声をかけられた。
「……え~と、カイル君。その人はだれ?」
アイリスさんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。そんな顔もまた可愛らしい。




