夜の町
よく考えて行動しろという姉メアリーとの約束をさっそく破ってしまったかもしれない。そんな後悔の念が押し寄せてくる。
父アルファラドは大変厳しい人だったので、俺は夜中に町をうろつくのは初めての経験なのだ。少し心細い。
「とりあえず町から離れたいとこだけど……」
いかんせん魔法の修行ばかりやっていたものだから町の外に出たことがないのだ。町の外は真っ暗闇。
元来の面倒くさがりな体質が顔を出す。
「……今日は宿屋に泊まって明日明るくなってから出て行くか」
家には執事やメイドが住み込みで働いている。もし家出に気付かれたら探しに来るかもしれない。俺はお金持ち御用達の宿ではなく、通りの裏路地にあるようなさびれた宿屋を探すことにした。俺はずんずんと町の奥に歩を進める。店の明かりが徐々に少なくなっていきあたりが薄暗くなっていく。
そのとき複数の男女が言い争っているような声が聞こえた。黒いシルエットが三つ浮かぶ。
俺は全身に魔力を集中させた。すると暗視ゴーグルを使ったように良く見えるようになる。
「いいじゃねぇか嬢ちゃんオレたちと楽しもうぜ!」
「やめて、放して! 人呼ぶわよ!」
「こんなとこ誰も来やしねぇぜ。おら抵抗すんな!」
酔っぱらった大男二人が華奢な女の子の腕を掴んで抱き寄せた。
「きゃあっ! 誰か助けてっっ!!」
今揉め事は避けたいんだけどなぁ。これを見過ごしたらさすがに寝覚めが悪い。
「その子嫌がってるだろ。放してやりなよ」
近付いて割って入る。
「なんだこのガキ邪魔すんっいててててっ痛ぇ放せっ、放してくれっ!」
俺は大男Aの腕を掴み、曲がらない方向に曲げようとしてみた。大男Aが「うぎゃぁぁ!」と叫び声を上げる。
「てめぇコラッ!」
大男Bが俺の顔面に拳を繰り出してきた。
ゴッ!
と鈍い音が鳴る。
「へっへっへ、ガキが。大人をなめると痛い目に遭うんだぜっていってぇぇぇええ!」
大男Bの拳は俺の眉間に当たったが、どうやらその衝撃で指の骨が折れたようだった。
「まだやる? それなら次はこっちからいくぞ」
殴るそぶりを見せると大男たちは一目散に走り去っていった。
「あ、あの。ありがとうございました」
少し震える手で俺の両手を握ると女の子はお辞儀をした。
「わ、わたしアイリスって言います」
そう名乗った女の子アイリスは目鼻立ちが整っていて、大人になったら絶対美人になるだろうなと予想できた。今は14、5才くらいかな。
「……わたし21ですけど」
顔を少し赤らめて答える。
ん? 俺の心の声に返事した? と思ったらどうやら声に出てしまっていたらしい。どこからだ。
失敗を隠すように俺は早口でまくしたてる。
「あの、いくら大人でもこんな暗い夜道を一人で歩くのはどうかと思いますよ。危ないですよ。このあたり店もないし、ほらこの宿屋だってまるでお化け屋敷みたいだし」
といって路地に面したボロい宿屋を指差す。
「まるで今にもお化けが――」
「わたしのうちです。その宿屋」
「え……ああ……そう、なんだ。…………なんか、すみません」
空気が重いってこういうことを言うんだろうな。




