ゴールドの誘い
一銭にもならないヨルンガルドとの決闘の翌日。厄介ごとから解放されて気分は晴れやか。
ヨルンガルドは朝早くレンゼン市を発ったとフレインから聞かされた。ヨルンガルドを慕っていた追っかけの女性貴族たちも彼に愛想を尽かしたのか、それぞれ自分の町に帰っていったようだ。
少し可哀想なことをしたかなぁとヨルンガルドを憐れんでみたりしたが、詮無いことなのですぐにやめた。
トントン
部屋のドアを叩く音がする。
ノックをする時点でソフィではないとわかる。フレインかな。
「カイル君いる?」
ドアをちょっとだけ開けて隙間からアイリスさんが顔を覗かせる。その仕草が可愛らしい。
それにしてもアイリスさんが俺の部屋を訪ねるのは珍しい。もしかして何か厄介ごとかな、と不安にかられる俺。
「何か用ですか、アイリスさん」
「カイル君にお客さんが来てるんだけど、すごくきれいな人とかっこいい人よ。二人とも冒険者なんだって」
あ~もしかして、と二人の顔を思い浮かべる。俺の不安が的中したかな。
「あのアイリスさん、俺はいないって言っておいてもらえますか?」
「えーと、ね、それがね……もうここに来てもらってるの」
とアイリスさんがドアを全部開けた。
アイリスさんの横には見知った顔の二人が立っていた。アルマさんとザイードさんだった。武装している。
「いないって誰がいないの?」
アルマさんが目を細める。これにザイードさんも続く。
「おれたちを追い返そうってのか」
「あ、いやそういうわけじゃ……はは」
アイリスさんが「ごめんね」とジェスチャーをしながら行ってしまった。
「まあいいさ。それよりちょっとおれたちにつきあってくれ」
とザイードさんが言う。
いまさら断れないので仕方なく二人の後をついていくことにした。
アルマさんとザイードさんは目立っていた。二人とも容姿端麗ということもあるが、それ以上に二人は数少ないゴールドランクの冒険者だからだ。
自然と一緒に歩いている俺にも行き交う人たちの視線が集まる。悪目立ちしている。
「あの、そろそろ説明してもらえますか」
誰も口を開こうとしないので仕方なく俺が一番に開口する。二人は立ち止まった。
「カイルくん魔霧の里って知ってる?」
アルマさんが髪を耳にかけながらきいてくる。
「マ・キ・リの里、ですか? いえ、聞いたことないです」
「ここから南にある小さな集落なんだけど、最近そこの人たちと連絡が取れないって依頼があって何組かのシルバーランクの冒険者が様子を見に行ったらしいの。でもその冒険者たちとも連絡が取れなくなっちゃったみたいでわたしたちに直々に依頼があったっていうわけなの」
「これはゴールドランクの冒険者にだけ依頼された仕事なんだけどよ、カイルもいた方がいいんじゃないかってアルマと話し合ってさ。あ、もちろん報酬は払うぜ」
「だからお願い。カイルくんも一緒に来てくれないかしら?」
アルマさんが両手で俺の手を握ってくる。
なんだか厄介な依頼そうだ。
「ゴールドランクの人たちへの依頼なんですよね、俺が行っても大丈夫なんですか?」
やんわりと断る方法を探る。だが、
「ギルドの方の了承はとってあるわ。この間のキングゴブリンの一件であなたの実力は証明済みだもの」
アルマさんは続けて、
「実はわたしの知り合いのゴールドの冒険者が、昨日一人で魔霧の里に向かったんだけど彼女も戻って来なくて……」
とアルマさんの握る手に力が入る。よほど心配なのだろう。
ゴールドランクのこの二人の頼みを無下に断ったりしたら、誰に何を言われるかわかったもんじゃない。
「……わかりましたよ、一緒に行きます。ただし報酬はきっちり貰いますからね」
「ありがとうカイルくん!」
「そうこなくちゃな!」
アルマさんは辛そうな顔から一転表情がパアッと明るくなり、ザイードさんは楽しそうに俺の背中をバンバン叩いた。
この際この二人に恩を売っておくのも悪くないのかもな。
……てゆうかザイードさん、いい加減叩くのやめてください。




