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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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黎明と命令


「……つまりは、さ。俺はこの精霊銃(マグナス)で、母を目指しているってわけ。魔法を憎んではいない。だが、ただの魔法を望んではいない。母さんはこれを魔法具(マジックアイテム)の最高傑作だと言った。魔法をまるきり再現……いや、ただの魔法以上のものを生み出す可能性を秘めていると。だから俺は、母の意志を、思いを受け継ぐ」


 強い感情をその身に宿したメルクはそう強く語った。


「……王女に、クレアに俺が魔法を教えようと思ったのは、王女様に俺と似たようなものを感じた気がしたからだ。同情とも少し違う、よくわからない感情を感じたからだ。辿ってきたことは全然違うが、クレアと俺はどこか似てるんだよ。だから……」


 メルクはそれ以上言葉に表現できない。魔法に恵まれたエリートと魔法に見放された王女。言葉だけでは相反する二人だけど言葉では語れない何かをメルクは感じていた。


「……アナ、お前の意見は必ずしも間違ってはいない。けど、早とちりはよくない。クレアに悪いだろう?」


 真実を知ったアナは過ちを悔いるように俯き、クレアはどこか晴れた表情を浮かべていた。


「……勝手なことをしてしまい、申し訳ありません。(あまつさ)え、お兄様に魔法を使ってしまったこと、己の愚行にお兄様の顔を見ることすらできません……」


 俯くアナはそう呟く。メルクは頭をポンと叩いて、励ましの言葉を伝える。


「まぁ、説教はまた後にして……俺も最近眠りが浅くて困っていたんだ。深い眠りをありがとう、な」


 少し冗談じみて、けれど妹を気遣うその言葉と手の温もりに、アナは涙が流れそうなのを必死に堪えた。


「……っていうか、もう朝になっちまったな」


 カフェの窓からは朝の日差しが漏れ始めている。長話というのも程があるものだ。


「……そうですね。わたくしも帰らなくてはいけません。アナ様、素晴らしいお話ありがとうございました。メルク様もこれから改めて……」


 と、丁寧な口調でクレアが席を立った途端——。


「王宮政府より通達! 本日午後までに我々に従い、適切な安全行動を取ってもらう!」


 高らかに鳴る笛の音と共に勇ましさを覚える男の声音が響き渡る。


「……王宮からの緊急通達? いったい何があった?」


 メルクは不思議に思い、外へと飛び出した。メルクの景色に映ったのは宙に投げ上げられて舞った大量の羊皮紙が石畳の地面にひらひらと落下するさまと鬼気迫る表情と鋼の甲冑を纏った姿で街を渡り歩くサン・カレッドの王族直属の騎士達であった。


 一目でわかる異常事態にメルクは落ちていた羊皮紙を一枚手に取る。


「……本日午後未明、西方より未曽有の脅威が迫る。女王の託宣により起こることは確定事項。抗うことは叶わない。その為、サン・カレッド住人及び観光客は午前中に騎士団の指示に従い避難を済ませるように。その際、各自食糧・必需品を運ぶことが望ましい。緊急時に住人各位で共有しあい、命を繋ぐために。最後にこの知らせは事実であり、王宮からの命令事項だ。従わない場合の安全は一切保証しない。以上、王宮直属騎士長、ヴァルフェルク・ガヴェイン」


 脅迫するような命令の羊皮紙はこれから起こる災厄を明確に記していた。メルクの目に留まったのは最後の名前。ガヴェイン卿、それはこの国の紛うことなき騎士の名。フロンティアにその名を轟かせる誇り高き男の名だった。


「……ガヴェイン卿、これが本人のものなのだとすれば、この命令は本物だろうが……」


 メルクが思考を巡らせるうちに戻りの遅いメルクにクレアとアナはカフェから飛び出てくる。


「メルク様、何があったのですか?」


 クレアがそう問うと、メルクは怪訝な顔を浮かべて。


「……それは、俺がクレアに問いたいところだ。これ」


 手渡した羊皮紙をクレアが見ると驚愕を隠せない表情になった。反応から、全く知らないことが窺える。

 アナも別の羊皮紙を拾い上げ、顔を強張(こわば)らせる。


「……察しているとは思いますが、わたくしは全く存じておりません。これを見て、初めて知りました」

「……そうか。で、これは本物なのか?」

「はい。この字はガヴェイン卿が書いたものを印刷にかけたものです。おそらく、母の友人と言われる占い師の占いをそのまま字にしたものか、と。そうであるならば、間違いなく……」


 クレアの表情には疑念が残ったままのようだった。


「……わたくし、今から王宮に戻ります。少し、母に尋ねなくてはなりませんので」

「そうだな。一度、状況を確認した方がいいだろう」

「はい。お二人とも、お気をつけて」


 クレアは急ぎ、準備を済ませ、出発する。クレアが去った後、メルクに駆け寄ったアナは話しかける。


「……どうしましょう、お兄様? 騎士についていきますか?」

「……そうだな。とりあえず、様子を見よう」

「わかりました。お兄様についていきます」


 クレアが家に帰った数分後、メルクとアナもまた歩み始めた。


 この時、サン・カレッドには間違いなく危機が迫っていた。それは、事実だと理解しているからこそ、サン・カレッドの住民はパニックに陥ったことは、もう少し後のことだった。


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