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第1話 …デジャビュ。


本日、二話目。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 神咲 勇真です。

 先程、二度目の異世界転移を体験しました。こっちの世界の人が言うには、隣界転移ってヤツらしいですが…。

 きっかけは、調査で訪れた遺跡の迷宮化に巻き込まれたことでしょうか。正確には、脱出目前で冗談のような見え見えのトラップに()が嵌ったからでしょう。


 ・・・完全にとばっちりです。


 話は変わります。

 温泉や銭湯では、刺青って入浴拒否されますよね? 自分の意思で入れた方には、そんな対応でも良いと思います。承知のうえでの行動でしょうから。


 ですが、そうでない人もいると思うのです。


 例えば、強制的に送られてきたパッチ更新で身体中に彫られたとか…。


 まあ、何が言いたいかというと・・・ワタシは、完全に入浴拒否される身体になってしまったという事です orz




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 青い空だ。

 吸い込まれそうな快晴の空だ。


 温かい木漏れ日だ。

 眠気を誘う穏やかな陽の光だ。


 身体を撫でる風も気持ちが良い。

 優しく包む草のカーペットも柔らかだ。

 鼻をくすぐる一杯の濃緑な香りも心地良く感じる。


「本当に良い天気だな…」


 ポツンとした俺の呟きに返事をする者はいない。


 これが自分の意思で臨んだ森林浴だったならば、この上ない理想のシュチュエーションだったのではないだろうか。


 …本当に好きでやっていれば、な。






 現状に至る数刻前。


 セバスさんから見送りの言葉を貰った後、さっちゃんのボイスBGMをバックに、数秒で視覚の全てを光に奪われた。気付いた時には、見覚えのない森の中で俺だけが佇んでいる状態だ。

 転移前…迷宮守護者の間に於いて、数メートル先で宝箱を抱いたまま寝転がった脳筋娘も、早々に抵抗を諦めボーッとしていた魔女娘も、絶望に膝をつく頭が沸いている青年も・・・愉快な仲間達の姿はどこにもなかった。

 念の為、気配を探るように耳を澄ましてみたが・・・聞こえてくるのは、野生から発せられるモノばかりで、周囲に誰もいない事が明白になるだけだった。


「・・・一人か」


 とりあえず現状を独り言だ。遠くで鳥?っぽい生物の鳴く声が聞こえたが、俺に応えたわけではないだろう。

 どうやらあの転移トラップは、対象者をバラバラの場所に跳ばす底意地の悪いものだったらしい。


 ああ、何か覚えのある状況だな……一年くらい前に。

 

 見る限り辺りには、草と薮と岩と木しかない。しかも、人の手が入った形跡は皆無だ。実に森々しい大自然である。


「まあ、今回は裸じゃないだけマシ・・・なのか?」


 ふーっと溜息を吐いてから、人生二度目となる行く当てもないハイキングへ踏み出し―――――


《本体権利者の状況確認作業が終了された事を確認しました。只今よりバックグラウンドで進行中の修正パッチVer.1.7による処理作業をフォアグラウンドに戻します》


 っ?!


「そ、そういえば、さっちゃんが起動してたんだっけ…」


 俺にトラウマを植え付けた数、第二位の声が頭に響く。もちろん、不動の第一位はあの人だ。


《新たに許可された封印術式解放―――――》


「待ったぁぁあああ!!」


 ほぼ条件反射の叫びだった。

 前回の地獄の痛みを伴う壮絶な体験がフラッシュバックした俺の紛れもない自己防衛反応である。目的は、彼女の言葉を遮り激痛を回避す…。


《―――――のプロセスを確認・適性化を実行します》


 安定の無視である。やはり、さっちゃんはさっちゃんだった。


《封印術式“鬼”を解放します。臨界予定出力は30%です。カウントダウン開始、3…2…1…臨界点到達・・・安定稼働を確認しました。続いて、封印術式“竜”の解放に移ります》


 ・・・あれ???


《封印術式“竜”の解放臨界予定出力も30%です。カウントダウン開始、3…2…1…臨界点到達・・・安定稼働を確認しました。次のプロセスに移ります》


 ・・・あれれ????


 俺の頭に疑問符が乱立する。

 襲いかかってくるだろう激痛に覚悟を決めて身構えていたところ、予想外にも呆気なく封印術式解放プロセスの確認作業とやらが終了する。恐れていた痛みが全くないまま…幾つかの肉体変化を実際に行い終えたのだ。


 おかしい…前回は苦しみのた打ち回ったのに。


「えーっと…さっちゃん?」


 無駄だと思うが、疑問で声をかけずにはいられなかった。


《ナビゲーションシステムの――――――》


 やはり、無視された。

 念のためにもう一度…。


「おーい、さっちゃ―――――」

《五月蠅いですね!! ったく、他人が作業中だというのに横からブツブツと…で、何ですか?》


 めっさ怒鳴られた。

 滅茶苦茶不機嫌な声色で、ものすっげー投げやりな口調だ。


 さっちゃんが凄く自然な感じで喋っているんですけど。

 さっきまで、無機質な機械的なイントネーションだったよね?


《何、黙ってるんですか? 大した用もないのに邪魔したんですか?》


「あ、はい…すみません。・・・じゃなかった! 封印術式解放の確認時、痛みがなかったんだけど?」


《痛くして欲しかったんですか…マゾですか? とんだ変態さんなんですね》


「いや、違っ―――――」


《唯の疑似人格に過ぎないワタシにまで、自分の特殊な性癖を押し付けてくるとは・・・歪んでますね。こんな本体のバックアップを強制されているワタシが可哀そうです。セクハラで訴えますよ?》


「だから…違うって言ってんだろうがぁぁああああ! 前回はトラウマになるほどの激痛があったのに、今回は何もなかったら疑問に思うだろ、普通!!」


《…それならそうと早く言ってください。 前回は、最高権利者の意向で、肉体の痛覚をシャットアウトしませんでした。苦痛に歪む表情を見たいとリクエストされましたので…。現在は、監視衛星の圏外ですし、現場判断で必要ないと結論しました》


 あ、あの鬼畜ドS魔女めぇぇ…


《本体権利者様が、その…どうしても痛みの快感を味わ―――――》


「そんな趣味ないから!!」


《・・・・・・了解しました》


 何だよ、その不自然な間は。


《疑ってませんよ。ワタシはデキる疑似人格ですから、今回のバージョン更新で、見て見ぬフリも対応可能です》


 完全に信じていないし、100%疑ってるよ! しかも、それを隠す気もないじゃん!!


《他に質問はありますか? ・・・ないようですね。それでは、処理作業を再開します。…もう邪魔すんなよ、童貞ボソッ


 お゛ぉい! 聞こえてんぞ、こら!!


 他にも聞きたい事があったが、これ以上は俺のストレス値を大きく振り切る可能性大だったので、血の涙とブチ切れそうな青筋を以って必死に飲み込んだ。


 ・・・ってか、何でバージョンアップしたら疑似人格の口悪さまで上がってんだよ!!



 しばらくの間、視界に次々と展開されるウィンドウや流れていく数字や文字を眺めながら過ごしていたら『ピコーン!』っと電子音が鳴ると共に作業終了が告げられた。


《追加された項目のリストを参照できます…確認しますか?》


「ん? ああ、頼む」


 返事を返すと同時にウィンドウが視界上で開いた。



~~~~~~~~~~~~



『封印術式関連』


 注意事項:

 今回のアップデートで、解放時の部位肥大化による装備の損傷問題が解消されました。

 具体的には肉体変身プロセスに『組み換え』を導入し、面積をそのままに皮膚・骨・筋肉繊維・細胞自体が変異・強化されるようになりました。



・封印術式“鬼”解放率20%

 膝下までの鬼化が可能。

 鬼化後は、脚力を中心に肉体全体の筋力と強度がさらに強化される。


 

・封印術式“鬼”解放率30%

 鬼化が頭部まで進行し、額に鋼以上の硬度を誇る二本の短角が生える。

 肉体の強化もさらに進み、オーガ並の闘争本能が備わる。

 咆哮に対象者を恐慌状態へと導く効果が付与。



・封印術式“竜”解放率20%

 身体を小量の竜気が纏う。

 物理攻撃に限定すれば、鋼製の武器までならば余裕で弾く出力となった。魔法攻撃に対しては、多少緩和する程度に止まる。



・封印術式“竜”解放率30%

 竜眼色が少し輝きを増す。

 睨んだ対象に麻痺・昏倒・混乱の状態異常を強制的に引き起こさせる。



『能力関連』


 注意事項:

 試験的長距離能力【スキル】解放プログラムにより本体権利者の能力【スキル】の全解放を試みましたが、本体権利者がプログラムの想定外である固有能力【ユニークスキル】所有者だった為、一つの能力【スキル】と不完全な固有能力【ユニークスキル】の解放に止まりました。

 現在の固有能力【ユニークスキル】は、隠し領域内にあった疑似能力【スキル】プログラムで補填された一時的劣化能力【スキル】です。



 固有能力【ユニークスキル】:●を▲え■▼(リミット・ブレイク) ・・・指定された能力【スキル】を無制限に急速進化させる。(現在、指定された能力【スキル】はありません。)



 能力【スキル】:剣修 ・・・職業発現能力【スキル】の一つで、剣士系では最下位のモノ。常時、技能のステータスが一段階補正される。

 


『追加機能・兵装』


注意事項:

 現在、全ての追加機能・兵装は、有効化アクティベートされていません。



・ナビゲーションシステム off

 さっちゃんが手とり足とり導いてくれる。



・生体魔力反応レーダー off

 周囲5km圏内の生体魔力を探知し、視界に表示する。

 また、魔力パターンを記憶した個人も追跡可能。



・遠距離専用魔術紋“砲” off

 超オススメ!! 魔法が使えない君へ、お姉さんからの贈り物。

 素晴らしい無属性の遠距離攻撃魔法が使えるようになります♡

 一度は起動してみるべき!! ・・・試さないと(物理的に)不幸が訪れるでしょう。



~~~~~~~~~~~~



 ふむ・・・固有能力【スキル】とか他にも色々と気になる項目があるが…


 最後のは、一体何だ。


 一つだけ色違いな文字で表示されているうえに、フォントとサイズまで弄ってある。さらに殆んど説明にもなっていない説明文にもマーカーが引かれ強調されている。


 あ、怪しい…明らかに不自然だ。

 ってか、物理的な不幸って…。


「さっちゃん、最後の…」


《了解しました。遠距離専用魔術紋“砲”を有効化アクティベートします》


「えっ…ちょ、違っ?!」


 訂正する間もなく、身体に変化が生じた。

 最初は、剥き出しになっていた左の二の腕。皮膚にぼんやりとした点が次々と浮かび上がり、繋がって線に…模様に…図形になった。さらに謎の浸食が進み、数秒もしない内に掌へ・・・そして、肩から胸へと拡がっていく。


 漸く止まった思った時には、俺の左腕は意味有り気な刺青で一杯になっていた。左手が疼くとか言えばいいのだろうか…さすがに、この歳で中二病全開なのは精神的にキツインデスケド。


《遠距離専用魔術紋“砲”の有効化アクティベートに成功しました。尚、無効化ディアクティベートした場合でも魔術紋は消えませんので、ご注意ください》


「ふぁっ!?」


 ・・・オレ、コレデ、ヒトマエニデルノ?


「そ、そういう注意事項は、実行前に伝えるべきだろ? んでもって、再度確認もするんもんじゃないの? ワンクリック詐欺並にえげつないよ!!」


《続いて、使用法の説明に移ります。魔術紋がある方の腕を目標に向け掌を広げてください》


 うん。相変わらず俺の抗議は、スルーですか・・・わかってましたよ、もう。


《次に『ジャオウ…》

「いや、絶対に言わないよ」


《では、『俺のこの手が真っ赤…》

「却下」


《最高権利者からのリクエストでしたが、仕方がありません。『魔術紋展開』でイイです》


 シャルロッテさん…まさか、発病してる?!


《聞いてましたか?》


「あ、ごめん。えーっと…『魔術紋展開』!!」


 俺の言葉に反応して刺青が一瞬輝いた後、皮膚から分離して宙へと展開される。それは誰が見ても…左手を起点に前面と背面に拡がる幾何学模様の立体魔法陣だった。


《最後に『発射ショット』の言葉で、魔力弾が放出されます》


「ふーん…『発射ショット』!」


 俺がさっちゃんから教えられた言葉を口にした瞬間、空気が震え、大地が鳴り、世界が揺れた。


 魔力弾?・・・そんな生易しいモノではない。


 左手から放たれたのは、凄まじい熱量の閃光・・・破壊の権化たる巨大な光の柱だった。


 光は、木々の上部を薙ぎ払い、雲を貫き、天高く昇っていった。


 これは、幸いにも最初の衝撃で俺が姿勢を崩した結果である。もしも、水平に掌をかざしたままであったならば・・・広範囲に森を突き抜けていただろう。最悪、大森林火災もありえた。


 破壊の後に訪れた静寂。


「・・・・・・」


 その場を沈黙が支配していた。


《尚、今回のように全力で魔術紋を起動した場合、魔力の枯渇で数時間程、動けなくなりますのでご注意ください》


 …だから、注意事項は実行前でしょうよ。



 そして、俺は糸が切れたように地面に倒れ込み・・・数刻後、冒頭へと至った。






 


◎森林某所。


「誰か~助けてえ~」


 うぅ…本当に誰もいないみたいだよぉ…。


 固有能力【ユニークスキル】の反動が抜けるにはまだ時間がかかるし、さっきの凶悪な閃光も気になるし…。


「うわーん! 誰か助けてぇー!! 木の上に美女が引っかかってますよ~!!」



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