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その男、神になる  作者: ヒデス


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2/5

【復讐の序曲】

天界から追放されたルシファーの堕ちた先は、地獄の最下層だった。


冷たい地面に投げ出された身体は、わずかに動かそうとするだけで激しく痛んだ。


かつて銀色の光を放っていた六枚の翼も、今は血と泥に汚れ、折れ曲がったまま地に伏している。



起き上がろうと、地面に手をついた。


だが、腕は身体を支えきれずに崩れた。


傷口から血があふれ、喉から苦悶の声が漏れる。


息を吸うたび、胸の奥が軋んだ。

それでも、ルシファーの眼差しから怒りが消えることはなかった。



「この程度の傷で……私は死なぬ……」



血に濡れた指が、地面を掻く。



「神々よ……私を滅ぼさずにおいた、その判断……必ず悔いることになろう……」



もはや、頭上に天界の光は見えなかった。


それでも彼は闇の向こうを睨み、震える身体を奮い立たせた。



「神々の時代は、終わりを迎える……これより天を統べるのは、このルシファーだ」



神々への憎悪に満ちた笑みを浮かべ、そう言い放った直後、彼の腕から力が抜けた。


巨躯は動かなくなり、意識は深い闇へと沈んでいった。



* * *



いったい、どれほどの時が流れたのだろう。


ルシファーは、静かに目を開けた。



身じろぎすると、身体の奥にまだ鈍い痛みが走った。


だが、意識を失うほどの痛みではもうなかった。



体中の傷も少しずつ塞がり始めていた。


折れた六枚の翼も形を取り戻し、その羽には、かすかな銀色の光が宿っている。



ルシファーは、ゆっくりと指を握り込んだ。


力が、戻りつつある。



地面に手をつき、上体を起こす。


今度は倒れなかった。



痛みに耐えながら立ち上がり、顔にかかった長い銀髪をかき上げる。


月光を思わせる髪が、肩を滑り落ちた。



透き通るような白い肌に、左右対称に整った端正な顔立ち。


その美貌は、まるで彫刻家が丹念に彫り上げた芸術品のようだった。


足元の水たまりには、ほのかな銀光を帯びた美しい顔が映っている。



背中の六枚の翼が震え、ゆっくりと広がった。


ルシファーは頭上を仰いだ。


見えるのは、果てのない闇だけ。



だが、その眼差しは揺るがない。


闇の遥か彼方にある天界を、睨み据えていた。


胸の奥で、復讐の炎が再び燃え上がる。



天界には、絶大な力を誇る神々が君臨している。



天界では、天を裂く雷を振るうゼウスを頂点に、


世界の海を支配するポセイドン、


あらゆる炎を生み出したカルドラス、


幻影と疫病を自在に操るオルディスなど、


強大な神々が君臨している。



彼らをはじめとする強大な神々が、その圧倒的な力と権威によって天界の秩序を支えていた。



さらに、神々の玉座を守るのは、大天使ミカエルをはじめとする天界の守護者たちだ。



正面から挑めば、分が悪いのは明らかだ。


怒りに任せて立ち向かったところで、再び地に叩き落とされるだけだろう。



「……何も、天界そのものを打ち砕く必要はあるまい」



復讐とは、形を選ばぬものだ。


ルシファーの瞳に、冷たい光が宿る。



彼の脳裏に浮かんだのは、神々の庇護を受ける現世――人間たちの生きる世界だった。


現世では、神々でさえ逆らえぬ掟が存在する。



人間界は、試練と選択の舞台。そこでは、神が本来の力を振るうことを固く禁じられていた。


ひとたび神が全力を解き放てば、空間は歪み、時間さえねじれ、現世そのものが崩壊しかねない。

 


ゆえに、世界を破滅にさらす行為は、神であっても許されぬ大罪とされた。


それは古より万物の理に刻まれた、絶対の戒めだった。



「ならば、その掟を逆手に取るまでのこと……」



ルシファーの唇に、かすかな笑みが浮かぶ。



「地上を我が城となし、復讐を遂げる舞台としよう」



そして、神々にはもう一つの弱点があった。



神々の力は、人間たちが寄せる信仰の深さによって左右される。


その信仰が失われれば、神々の力もまた衰えていく。


それこそが、ルシファーの計画の鍵だった。



神々にとって、人間は庇護すべき、愛すべき存在。


だが、ルシファーにとっては違う。


人間など、復讐を遂げるための駒にすぎない。



やがて、その唇に不敵な笑みが浮かんだ。



「では、参るとしようか」



六枚の翼を大きく広げ、ゆっくりと宙に浮かび上がる。


次の瞬間、翼が力強く羽ばたいた。


凄まじい突風が巻き起こり、ルシファーは闇の彼方へと飛び去った。


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