第7話 2人の理由、2つの理由
平日の昼時。
霞が関からほど近い高級店の個室で高城は外務省職員と相対していた。
「で、高城。何がどう進んでるんだ?」
「例の動画について、資源開発の事前調査という体裁で我々に依頼が」
「例の動画はAIが標的を指定して、ってヤツのことでいいな?」
「はい、それです」
「……こんな場所だから解ってるが、……この状況も必要なことだな」
「はい。ここで話した。ということが」
「他に頼れるルートは?」
「NSSにウチの営業が出向しています」
「なんだ、本命と繋がってんのか」
「一応。ですが霞が関は縦割りなので」
「……解った。お互い録音はなし。知ってることを可能な限りな」
「はい。済みません、那知さん」
「依頼は経産省あたりからか?その上はHeritage Projectか?」
「そんな感じです」
「で、理由はともかく、アフリカに行くと?」
「はい、そうなります」
「何かの時は防衛省に連絡が行く。……が、これで外務省の顔も潰れないな」
「はい、済みません……」
「……まぁ、解った。拠点はケニアの?」
「はい。そこのPMC子会社に。……予想していたような場所ですが」
「PMCから頼れる先は?」
「社長は元SEALsで、罰則なしです」
「調査員ってことになるのは、どんなヤツだ?」
「たぶん自衛官だった者と、銃が多少は扱える2年目の女子で……」
「自衛官のほうはたぶんってことで解るが、その2年目の女子ってのは?」
「2人とも所持許可を持っています。女子はクレー射撃がかなり上手いと」
「2人ともってのは稀だが、他にそれらしい理由があるんだろ?」
「……2人とも、Heritage Projectの検証AIユーザーですね」
「なんだ、2人ともHeritage Projectのモルモットじゃねーか」
「そうなのですが、アフリカが最初から予想されていたようで……」
「高城。……知らん顔をするのも、必要だからな」
「はい。大丈夫です、解っています」
「……念のため聞くが、PMCの社員にはならないよな?」
「はい、もちろん」
「……アフリカは別にして、その2人なのは何かしらの理由があるはずだ」
「きっと……。なので、簡単に見捨てることもないと、思いたいのですが……」
「人一人の命は国に比べりゃ軽いのは事実だよな」
「それは、もちろん……」
「……高城。東京事件で、国は相当反省したと俺は思ってる」
「……そうですね。良い政治家が増えた気がします」
「Heritageは、ホントに国を守りたいんじゃねーのか?」
「それは自分も思っています。でなければこんなことする辻褄が合わない」
「高城。何かあったときは、ちゃんと証言してくれよ」
「……はい。その為に録音しておきましたから」
「ハハっ!お前も冗談が言える様になったか。H&C商事はイイとこみたいだな」
「えぇ。正にプロ集団ですよ、那知さん」
午後のH&C商事オフィス。
高城は昼の会合について風見に報告する。
「風見さん。ちょっといいですか」
「あぁ。どうだった?嫌な顔をされたか?」
「えぇ、思いっきり」
高城が口角を上げて話す様子に風見も笑って返す。
「自分がアフリカ時代のころから、テロ対策室に居た人なので……」
「筋を通しに来たのは、解ってくれたか」
「はい。……心配されました。誰が行くのかとか、頼れる先はあるのかとか」
「……そういうのは大事にしてくれ。この先もな」
「あと、那知さんもHeritageのことは、同じことを言ってましたよ」
「そうか。……そう思いたいしな」
高城からの報告を受けた風見は小田と会議室の予定を確認する。
奥の会議室の予約を取り小田のデスクへ向かう。
「小田部長。ちょっといいですか。会議室は取ってあるので」
「えぇ。構いませんよ」
一番奥の防音会議室で風見と小田が向き合う。
「高城が外務省には話しを通してきましたので」
「承知しました。真壁さんにも風見さんから伝えてあげてください」
「……そうします。たまには連絡しないとですね」
「調査内容と見積りはまとまりましたか?」
「大まかに資源、国内情勢、直近の出来事。……警護費用が高いですね」
「……OverProtectはクリーンですからね」
「……そう言っていいですね?」
「いいですよ。後の政府が額や使い道で騒ぐかもしれませんが」
「時の政府の意向ですから。会社を作ったのも含め」
「成果物は報告書ですが、欲しいのはあのMagI/Oみたいなデバイスでしょう」
「そこは私も話します。動かなくても解る事は多いですから」
「透花さんが喜びそうです」
「分析官の工数を乗せておいてください。氷川さんの知見も役に立つでしょう」
小田と風見はお互いに腑に落ちない事があった。
「風見さん。アメリカが関わらないのは、不思議ではありませんか?」
「日本もアメリカも意図があるのか、それとも双方でとぼけてるのか」
「……そうですね。でも、なぜか?の理由が解らない」
「……それを言ったら、そもそもアフリカにPMCを作ること自体が」
「……風見さんもそう思いますか」
「海外拠点を作りたいのは、まぁ、解ります」
「それだけじゃない。と思いますよね」
「国が安定しているケニアなのは解ります。でも、なぜアフリカ?なのか」
「そうですね。アフリカの理由が解らない」
「……いったん保留ですか」
「そうですね。これ以上議論しても答えは出ませんね」
風見は会議室から戻りスマートフォンの電話帳を開く。
(個人携帯のほうが良いか……)
スマートフォンを持ち替え紫苑にSMSを送ると直ぐに返信があった。
(……肉を食べたいのか。ステーキ、ヤキニク、串から選んで~)
(返信早いな。……串か。焼きとん、焼き鳥のお店を探しておきます。と)
紫苑の返信が早かったのは過去資料を検索しているときだったから。
(会議中でなくて良かった。……でも、過度の期待はダメよ、紫苑)
(串って返したのは私だけど、そうそう、こういう人よね。フフ)
(……きっと、何か動きがあったのよね)
新宿駅から少し歩いた裏通りに紫苑は立っていた。
「紫苑ちゃん。悪い、待たせたね」
「いえ。……久しぶりですね、風見さん」
(九条が言ってた通りだ。確かに雰囲気が少し違う。前より自然な感じ?)
「……なんだ紫苑ちゃん、不思議そうな顔して?俺の顔、忘れた?」
「何言ってるんですか。イケメンの元上司を忘れたりしません」
「そりゃなにより。紫苑ちゃんは髪型変えたのか。良いじゃん、似合ってる」
(ちょっと!何があった?コレはイケナイ!また、惚れるわ。フフ)
風見が予約の旨を伝えると店の奥の2人席に案内された。
「酒は飲んでも平気なのか?」
「一緒に呑む相手によりますね、立場的には。風見さんは?」
「今のところはまだ大丈夫だな」
2人はビール頼み話し始める。
「……何か動きが、あったんですよね?」
「資源開発の事前調査ってことで、俺と九条ちゃんがアフリカにな」
「えぇっ!……九条を?」
「まぁ、驚くか。翔太は驚きを超えて怒ってたけどな」
(場所も危険だけど、2人で海外出張ってことでしょ?いやいやいや……)
「……紫苑ちゃんの心配は、場所よりも九条ちゃんと俺の2人でってほうか?」
(いやいやいや、何がどうなってるの?風見さんが自分から言うのも……)
「まぁ、それはいいんだが、気になるのは……」
紫苑は色々な意味で戸惑っていた。
「いや、よかないでしょ!で、気になるのは他のこと?はぁ……」
「……済まん、紫苑ちゃん。俺はこういうの疎くてな」
「……フフっ、アハハ!やっぱり風見さんですね、安心しました」
「……紫苑ちゃん。本題に入る前に聞いてイイか?」
(風見さんが困った顔をしてる……。やっぱり何かあったんだ)
「紫苑ちゃん、俺を見て驚いてるよな?俺は……、変わったか?」
「……そうですね。前よりもポーカーフェイスではなくなったかも」
「そうか。まぁ、それも悪かないか。じゃ、本題に」
「ちょっと!ちょっと!何それ!私は何にも解んない!」
「……そうだな。ちょっと時間をくれ。いずれちゃんと話すから」
「フフ、アハハ!……今日のところは勘弁してあげましょう」
「あぁ。そうしてくれるか」
「それでは本題に入りましょうか。風見さん」
「……Heritage Projectのこと、何か聞いてないか?」
「Heritageの名は出てませんけど、テロ対策の会合でAIの影響が副題に」
「それはアフリカの例の動画が影響してるよな?」
「タイミング的にはそうですけど、……意識付けというか、そんな印象が」
「紫苑ちゃんの直感として、悪意を感じるか?」
「いえ。様々な外圧から日本を案じていると感じます」
「……俺も同じなんだ。陰謀論って話ではなくてな」
「はい。……国防というか、日本がちゃんとやっていける様に、というか」
「まぁ、そう思いたいってのも、あるがな」
「もうひとつ。アフリカの拠点設置。何処が言い出したか解らないか?」
「OverProtectのことですね?素直に聞いてみましょうか」
「……紫苑ちゃんには悪いが、小娘が聞くなら許されるか」
「……そうです。私に出来ること。国は守りたいですが、仲間あっての話です」
「紫苑ちゃん。何か、あったか?……いや、済まん」
「……先日、父の、父さんの最後を聞けて」
「……そうか。良かったら今度聞かせてくれよ」
「はい。それじゃ次回のデートの理由にしますね」
「そりゃ、流石に親父さんに申し訳ねぇーな」
酒にも情にも溺れず冗談で返せるのは大人の時間だろうか。
深夜。風見の自室。
週末の喧噪が窓のガラスを揺らし人の営みを伝える。
照明の消えた部屋ではスマートフォンのモニターが淡く光る。
「さて、アダム。アフリカの例の動画、と聞いたらお前は何を挙げる?」
『はい、隼人。今なら内戦の戦闘時と思われる動画が候補として有力では』
「見せてもらえるか」
『はい、隼人。これですね。同じ内容の動画がネット上で複数確認出来ます』
アダムが見せた動画はAIが人を標的として指定する正に例の動画だ。
「俺が思い浮かべたのもコレだ。アダムの見解を聞かせてくれ」
『はい、隼人。……非常に抽象的な質問です。具体的に知りたいこと……』
「決断は人がするべきと言ったお前は、この動画を見てどう思う?」
『はい、隼人。起きる事象を踏まえれば、本来は人がするべき判断かと』
「そうだな。自身で判断できない国民が増えるのは、国力を落とす」
『はい、隼人。生物としての本能にも反すると思えます』
「自国にそんなことを望むのは、非効率だと思う。一部の独裁国家を除いてな」
『はい、隼人。管理と運営コストに見合わないと考えられます』
「俺は例の動画、単純に兵器ビジネスの宣伝だと思ってる」
「そして日本は、そんなAIの対抗策を探っている」
「AIに影響を受けず、受けてもそこから脱する方法の実証実験」
「それは、人だけでなくAIも同じ。それをやってるのがHeritage Project」
風見は考えていることを吐き出した。
「アダム。お前とイヴに課された、いや、設定されたゴールはなんだ?」
『はい、隼人。……その答えを見付けるお手伝いが、私とイヴの役目です』
(なるほど。そこはボカされるのか。……いや、本当にそうなのかもな)
「俺と九条ちゃんはアフリカに行くことになる。お前とイヴが理由のひとつ」
『はい、隼人。その理解は私もイヴも同意です』
「そして、客観的に能力に長けた元自衛官と、なぜかデキる一般人」
『はい、隼人。実証実験としては都合の良いサンプルです』
「偶然と仕組まれたこと。この確率自体も実験対象だろう」
『はい、隼人。実証実験なら可能性として考えられる範囲かと』
「国に仕えることに異論はないが、死んでもいいとは思わない」
『はい、隼人。その結果は、私もイヴも存在意義を無くします』
「意見が合ったな。九条ちゃんと俺のことを頼むわ」
『はい、隼人。隼人が望むことをサポートするのが私の役目です』
(この会話はモニターされてる。ここからは賭けだ)
「俺と九条ちゃんにアダムとイヴ。アフリカ行きの理由として納得だな?」
『はい、隼人。……予想としては充分かと。他にまだ?』
「OverProtect設立と内戦。知ってたかのように、なんでアフリカなんだ?」




