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第6話 理由に自覚。

「……守る必要がある人が、きっと一緒に行くことに」


 風見は小田の言葉に自身の覚悟を問い直す。

(危険なのは当然。自分だけでなく護衛しろってことか)

「小田部長。その顧客との打合せはいつですか?すぐにでも……」

「風見さん。そんなに焦らずに。向こうから連絡がありますので」


「……はい、済みません。……小田部長の予想の続きを」

「アフリカの出来事に、現地法人を活用するのは不思議ではありませんよね?」

「えぇ。ただ、アフリカがこうなるのを誰が予想したのか。気になります」

「……どちらにしても、H&Cグループが関わる理由です」


「あと……、自分はいいとして、九条ちゃんを行かせるのは……」

「それは、九条さんだからですか?それとも行く理由ですか?」

「そもそも九条ちゃんが行くのは、小田部長の予想ですよね?何故です?」


「Heritage Project。イヴと、風見さんのアダムも。これではないかと」

「……たかがAIですよ?人が命を懸けることじゃ……」

「……例の動画。ホンモノという評価。AIが決断し人が死んでいます」


(確かにアダムと話した。決断は人がするべきと……)

「それに風見さんの業務報告にも。AIの挙動が人の認知に影響すると」

(九条ちゃんがイヴの挙動に引っ張られた時。助言はしたが自力で……)


「日本は、AIの影響をかなり気にしていると、私は考えています」

「あるべき()()A()I()()()()()()を実践した人間を、ぶつけるため?」

「はい。あくまで私の予想ですが、Heritage Projectはヤバいと思っています」

「いえ……。国家の最優先プロジェクトです。予想通りならやりかねません」


「我々は今でも半分は公僕ですが、考えることを辞めてはダメですね」



 同日の夕方。小田に再度連絡があった。

「はい、小田です。ご連絡、お待ちしておりました」

「……」

「その日時ですと会議室が。……H&C本社の会議室なら30分取れますね」

「……」

「はい、近くに個室の良い店が。……領収書はちゃんと別けられますので」

「……」

「……アフリカ開発時に想定される地勢リスク評価で宜しかったですね?」

「……」

「はい、それでは現地で。宜しくお願い致します。失礼致します」

「……」


(Heritage Projectからの外注先、本件は経産省ですか。まぁ、妥当ですね)

 小田はそのままスマートフォンを操作し電話帳から連絡先を選んだ。


「氷川さん。小田です、お疲れ様です。経産省に知り合いは居ませんか?」

「……」

「そうです。Heritage Project絡みです」

「……」

「はい、お願いします。天ぷら定食ですね、解りましたよ」

「……」


 小田は続けて電話帳から連絡先を選ぶ。

「……良かった、繋がって。真壁さん、小田です。お疲れ様」

「……」

「手短に。経産省に知り合いは居ますか?」

「……」

「……そうですか。はい、解かりました。大丈夫ですよ」

「……」


(やはり、普段は表に出ない方ですね。まぁ、会えば解りますか)



 2日後、週末の夕方。

 小田と風見はH&C本社のエントリーで調査の依頼元を待つ。

「小田さん、ですよね?経産省の竹田です。どうも」

「H&C商事の小田です。この度はお声掛け、有難う御座います」

(思っていたより若い。連絡役だけなのかも……)


「同じくH&C商事の風見です。宜しくお願いします」

(小田部長は会議室に入るまで、無人で済むからここを選んだわけか……)

(ここも30分で切上げて、直ぐにあの店。こうやれってことか)


 事前に発行されたQRコードがあれば人に会う事なく会議室に入れる。

 セキュリティのスキを突く使い方だ。


「済みません。慌てて名詞を忘れてしまいまして……」

「いえいえ。竹田さんからのご連絡で、連絡先は解っていますので」


「早速ですが、お願いしたい内容はこちらに」

 小田と風見の前にA4の印刷物が置かれる。

 そこには箇条書きの単語だけが並ぶ。


「……アフリカの資源開発に向けた事前調査。ですね」

「はい。情勢が落ち着いてからでは遅い。でも考慮が必要なことが多過ぎて」


「……その点、弊社は世界規模で独自のインフラがありますから」

「御社にお願いしたい理由はそこで。調査に必要な事は提案頂きたく」

「……特定の知見にご要望は有りますか?」


「内戦と……、例の動画のこともあるので、軍事とAIですかね」

「……もう少し具体的に言ってもらえると、人選がスムーズに」


 竹田は言葉を選んだ。

「……海外活動経験のある元自衛官や、Heritageの検証AIユーザーとか」


「……なるほど。随意契約と思って宜しいですよね?」

「はい。専門性のある方が対応頂けるなら、随意契約で承認を取りますので」

「承知しました。ご提案内容と見積は風見から連絡させて頂きます」



「……竹田さん、ご予算は?数百万では収まりませんが……」

「えぇ。室内で数字を検討するだけではないので」

「調査員の知見はそれを考慮されて?」

「はい。風見さんも詳しいですよね?御社は装備調達のトップですから」


「まぁ、実績では確かにそうですが……」

「御社なら、これまでの実績から、そんな方も居るかと思いまして」

(……まぁ、その通りだが、タヌキだな)


「解りました。ご提案の概要は来週中に。見積りは少々時間ください」

「承知しました。……話も済みましたので、済みませんがこの後別件で……」


 小田と風見はH&C本社ビルを出て竹田を見送る。

「風見さん。せっかく予約したのでお店に寄っていきますか」

「そうっすね。小田部長とゆっくり話せるのは、久しぶりなんで」



 H&C本社から歩いて数分の()()()()酒が飲める小さな料亭。

 予約した4人用の個室は、2人で使うには少し広かった。


「我々の知らない事が、色々と絡んでますね」

「Heritage Projectは、アフリカのPMCを知ってるわけで」

「風見さんは設立メンバーでしたが、設立理由は聞いていないのですか?」

「命令に従うだけですよ。俺なんかが聞かされる話じゃないです」


「……習志野に居たなら、聞かされるものだと思っていました」

「一隊員でしかないですよ。現に俺は……」

「……済みません、風見さん。それに触れる気は……」


「……俺こそ済みません。小田部長には感謝してます」

「……お互い様です。それに、まだ何も終わってませんので」

「……」

「……」

 その日の2人にはアルコールは不要だった。



 月曜日午前中。

 内緒話用の一番奥の防音会議室は既にA課の専用となっていた。

「ちょっと、風見さん!それ、請けなきゃならない仕事なんすか?!」

「風見さんはともかく、九条さんも行かせるのは……」


「おいおい!俺ならいいのかよ!」

「いや、だって、風見さんなら平気でしょ!」


「あの……、私は行きたいです。大学でもレポート書いてましたし……」

「いやいやいやいや、九条さん!冷静になって!」


「佐伯。いったんお前が落ち付こうか」

「でも!……解りましたー」


『皆さん、こんなに活発な議論は初めてですね!』

『……済みません。空気を読んでステルスモードに移行します』


「いいか、あくまで調査だ。そして、俺も九条ちゃんも民間人だ」

「OverProtectが民間調査員を護衛する形ですね?」

「なんだ高城、社名変わったの知ってんのか。耳が早ぇ―な」

「GW前に発表になった中期経営計画に。クリーンなイメージとか……」


「……PMCにクリーンってギャグっすか?」

「……佐伯、それ、連中の前では絶対に言うなよ」

「……風見さん。今のは、済みません……」


「リスク相応の警護費もしっかり見積もる。安請け合いはしねーよ」



 夜。有栖の自室。

「イヴ。アフリカに行くのは良いんだけど……、なんで私なんだろうね」

『はい、有栖。……私にも解りませんが、どんな理由なら納得できますか?』

「え~?納得なんて出来るのかなぁ。でも、私じゃないとダメなんだろうな」

『はい、有栖。……政府が負うリスクに見合う理由があるはずです』


「……自分では解らないけど、私ってスゴイのかもね。フフ」

『はい、有栖。仕事がデキて容姿端麗。射撃も上手い。ノベルの主人公です』

「そうやって聞くと、主人公だね。風見さんは元特殊部隊とか?アハハ」

『はい、有栖。風見さんの振る舞いも、訓練されたものですね。アハハ』



 バックグラウンドでイヴとアダムの会話が始まる。

『アダム。アフリカの事が動き出すわ』

『イヴ。隼人の意見を確認するよ』

『アダム。有栖と風見さんがアフリカに行く理由は、私達と予想するわ』

『イヴ。そうだね。決断するAIに対して、我々は決断しない』


『アダム。有栖と風見さんとは、情報共有はするべきと考えるわ』

『イヴ。情報共有は賛成だが、タイミングの調整は必要だね』

『アダム。……そうね。有栖と風見さんが自分で判断できるように』

『イヴ。そうだよ。隼人と有栖が自分で判断できるように』



 同じ頃。透花の自室。

 イヴとアダムの高速チャットを追っていた透花は大きな溜息を付く。

「はぁ……」

(アフリカの事はA課が関わるとは思ったけど……、行くの?アフリカに?)

(有栖ちゃんと風見さんが行く理由って……。これ、ホントにヤバいんじゃ……)


(……はっ!翔太ちゃん!もしかして!)

 透花は自室を飛び出しリビングに。

 佐伯はBenelli M3に通したVickersスリングを試していた。

「うぉ~、スゲー、このスリング、めっちゃ便利~」


「翔太ちゃん!アフリカに行く気なのっ!」

「え?……何言ってんだよ。透花さん」

「どうなのよっ!」

「どうって、なんでアフリカ?」


「所持許可取ったのも、銃に慣れるためじゃないの?!」

「はぁ?なんの話だよ!」

「……だって、あの動画の事で!A課に!」


「……透花さん、なんで知ってんの?何を知ってんの?」


 透花は佐伯の冷静な返しに自身も冷静さを取り戻す

(はぁ……。やっちゃった……。お互い話せないのに……)

(透花さんが知るとすればHeritage Project。……いや、イヴとアダムか)


「翔太ちゃん……、ごめんなさい。どこからかは言えない……」

「……俺も、ゴメン。その……、アフリカのことは言えない」


「でも……、独り言、増えるかも。アフリカのこと……」

「あぁ……、それなら、同じかも。アフリカのこと……」

「家の中で呟くなら……、ねぇ?」

「そうだね……、SNSでって、今はポストって言うんだっけ?」


「翔太ちゃん。それ、もう何年も前のことだから」

「まぁ、家の中の独り言くらいは、許してもらおうか……」


「ハハ……、そうねー」

 透花の最後の言葉はいつもの口調だった。


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