↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/25

第17話 ジレンマか。決断か。

 2008年1月。九条衛治と美有希の間に有栖が産まれた。

 2015年4月。東京事件が発生し有栖は最(・)後(・)に(・)救(・)出(・)さ(・)れ(・)た(・)小(・)学(・)生(・)となった。

 事件から16年。有栖と家族はまだ事件の中に居た。


「うん……。その、私はちょっと特別だから、その特別を活かすべきかなって」

「ウチの娘だからな、特別なのは当然だ。で、有栖が言う特別はなんだ?」


「東京事件の被害者で、後天性サヴァン症候群で、Heritageの検証AIのユーザー」

「東京事件が含まれると冗談には出来ないな。確率はどれくらいになるのやら」

「そうだよね。でも、サヴァンまでは偶然。検証AIユーザーはきっと違う」


 衛治と美有希は至って冷静に有栖の言葉を引き出す。

「……まずはサヴァン症候群から話してくれるか」

「サヴァンを疑ったのは、クレー射撃のスコアが良すぎたからだけど……」

「つい最近だな。だけど?」

「ボールの動きが予想出来たんだよね。事件の後から」


「学校からも運動は問題無いと聞いて、安心したわ。でも、凄い特技よ」

「あの頃はそれが当たり前だと思って。興味は銃に向いていたし」

「そうね、鉄砲に夢中だったわ。それで、クレーがどう飛ぶか、解るのね?」

「うん。どう飛ぶか解るから、どこを狙えば良いかも解る。だから当たる」


「それで有栖は、何かおかしいと感じたんだな?なんでだ?」

「周りの人が凄く驚くの。私には当たり前なんだけど……」

「有栖が社会性を身に付けて、周りが見えるようになった。成長を喜べ」

「……父さんは、喜べることを見つけるのが上手いね」

 衛治は静かに頷く。


「有栖は何かおかしいと感じた。サヴァンのことは山崎先生から?」

「自分で調べて……。それで孝之先生に聞いたら、そうだろうって」

「……その特別を活かそうと思う前向きさは、親として誇らしいわ」

「……そう言ってくれる人が母さんだから、きっと私はこうなんでしょ」

 美有希も静かに頷く。



「検証AIは国から支給されるヤツか?コレが偶然ではないと思うのは何故だ?」

「だって、私は追跡対象でしょ。AIの実験をするのも都合が良いだろうし……」

「……母さんと父さんの娘らしい、非常にクレバーな考えだな!」

「はいはい。それに風見さんのも、ペアになる検証AIだし。偶然じゃ……」


「……風見さんって?有栖は特別だけど、その風見さんも何か特別なの?」

「あ、その……、上司で。国防とか……、自衛隊の仕事は力が入るかな……」

「なるほどね……。風見さんには、有栖より先に検証AIが支給されてるはずね」

「あ!そっか。母さん鋭い!やっぱり風見さんも、何か特別なんだ!」


「有栖にとっても、その風見さんは特別なのかしら?」

「……えっ!えぇっ!な、なんで……」

「……明らかに動揺しているわね」

「……明らかに動揺しているな」


「聞いてないのに、風見さんって。有栖から名を聞いたのは真壁さん位ね」

「ま、相手によるが、やっぱり有栖の社会性はちゃんと育っているようだ」

「年頃の娘なんだから、鉄砲とアメカジ以外に興味が向いて良かったわ」

「はぁ……。父さんと母さんには、ずっと心配を掛けさせてるのね……」


 有栖の嘆きとは裏腹に衛治と美有希はお互いの顔を見て静かに笑っている。

(風見……、自衛隊……、まさかな)

(上司の風見さんと、救出部隊の風見さん、……まさかね)

(父さんと母さんが風見さんを知ってる?……まさかね)


「ところで有栖。その検証AIは他のパーソナルAIと何が違うんだ?」

「他がよく解らないけど、決断は人がするべきってのが基本かな」

「お!面白いな。思考の外部化についてAIの意見を聞いてみたいぞ!」

「え!父さん、なんでそれを?」


「ん?何がだ?」

「今、思考の外部化って。父さんはその言葉をどこで聞いたの?」

「HeritageのWebサイトにも書いてあるが、まずは自分で考えないとな」

「う、うん。そうだね。自分で考えなきゃね」

(父さんも風見さんや氷川さんと同じことを言うんだ。なんか嬉しいな)



「さて、伝えずに済むならと考えたが、有栖から聞くことになるとな……」

「え?何を?……父さんと母さんは、何を知っているの?」

「サヴァン症候群まではな」

「え?サヴァンのことは、孝之先生につい最近聞いたことだよ……」


「父さんは有栖が鉄砲に興味を持ったことで、色々と可能性を調べたのよ」

「……その可能性の中に、サヴァンがあったの?」

「山崎先生にも聞いたわよね。もしそうなら、どうしてあげれば良いか」

「否定せず受け入れる。ただ、長けた能力だとしても、過度の期待もしない」


「医者の立場ではそうでしょうけど、そんな事を言われたって。ねぇ」

「テロに巻き込まれ、更に銃に興味を示す。そんな事を言われたって。なぁ」

「勿論、有栖を責めてるわけじゃないわよ」

「父さんと母さんが、私が普通に暮らせる努力をしてたのは解ってるよ」


「ねぇ、有栖。特別を活かす時って、近いの?」

「うん」

「それは、有栖だから、……有栖じゃなきゃ、どっちだ?」

「……私じゃなきゃ、だと思う。あと、きっと風見さんも」


「それは危険なのか?」

「……うん、多分」

「風見さんは、守ってくれるの?」

「え?うん、そうだね。あと関連企業の警備会社が、護衛に付いてくれるから」



「その仕事を引き受けるのも、ここで話すのも、有栖は覚悟を決めた訳だな」

「……フフ、アハハ。私なりに話すか悩んだけど、父さんのが上か」

「どっちの方が、覚悟が必要だった?」

「父さんと母さんに話す方。2人にも覚悟を求める事になるはずだから」


 衛治も美有希も目を瞑り静かに頷く。


 そして衛治は天井を見上げ大きく深呼吸をして話始める。

「父さんも母さんも覚悟ならとうの昔にしている。事件の当日にな」


 美有希は優しく微笑み衛治に続く。

「ニュースでテロを知った時、野戦病院になった駐車場で有栖を見付けた時」


「あとは、2人の山崎先生とサヴァンの可能性を話した時だな」

「生き延びて、得た何かの能力を活かすと言うなら、有栖の思う通りに。って」


「これまでの人生は、当然父さんと母さんの方が有栖より長い」

「でもこれからの人生は、有栖の方が長いわ」

「これからの後悔も、有栖の方が長くなるな」

「そうならないようにするのも、親の務めかしらね」


「なんでも許すって言ってる訳じゃないのは、解るな?」

「事件被害者の有栖が、命を軽んじるとは思えないからよ」

「その有栖が、こうしたいって言うなら。な」

「そうね……、仕方ないわね」


(父さんも母さんも、私なんかよりずっと前に、覚悟を決めていた訳か)

(有栖が俺達の元を離れる時か)

(子の成長は嬉しいけれど、やっぱり寂しいわね)


「うん。解った。……でも大丈夫。私は後悔しないから」



 翌日の始業時間。

 有栖が予定表を確認しているとスマートフォンに東条からSMSが届いた。

(東条さんがSMSって珍しいな、なんだろ?)

(コッソリ連絡ください……か。社食にコーヒーでも買いに行くかな)


 有栖は社食に向かう途中で東条に電話を入れる。

「あ、東条さん。九条です。どうしたんですか?」

「……」

「はい。今週中に大きな物は発送する予定です」

「……」

「そうですね、急ですけど今日の午後なら……」

「……」

「はい、オッケーです。着いたら念のためSMSで。それでは後ほど」

「……」



「高城~。外務省は現地でいいな?その前に経産省でな」

「はい、風見さん。自分も、もう出ますんで」

「九条ちゃん。アフリカに送る荷物、頼んじゃって平気か?」

「はい、大丈夫です。今日明日の時間、取ってあります!」


「あ~、九条ちゃん。お土産、適当に選んで一緒にコンテナに」

「……缶チューハイとか日本製の食品が良いですかね」

「それ良いね、喜ぶぞ。一応、量と品目に気を付けてな」

「専門外ですからね。……C課に聞いてきます」


 機材を定期便のコンテナに詰込んでアフリカに向けて発送する。

 護衛のための機材はもちろん現地PMCのOverProtectが用意する。

 有栖が準備するのは電子機器と日本製の食品だ。

(通信はOverProtectの機材と現地携帯通信網。ハンディ機はお守りかな……)

(PCと中間バッテリーに電源タップが自前。ここが境界線か)

(電源タップは機械式スイッチの技術転用。コンセントから向うは未知の世界)

(イヴとアダムが入った端末と、ノートPCは機内持ち込みで……)


 何(・)か(・)が(・)仕(・)掛(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)かもしれない。


 有栖も当初はこの感覚には驚いたがすぐに慣れた。

 A課の活動領域は日本とは違うのだと自身に言い聞かせた。


 有栖は1人オフィスに残り準備を進めていた。

(よし!風見さんと氷川さんが用意したリストのブツは揃いました!)

(……そういば、イヴに頼ってないな。お土産はイヴと選ぶかな)


 有栖の携帯が揺れている。

(東条さんだ。……今、話せますか?……電話しちゃった方が早いか)


「九条です。どうされましたか?」

「……」

「はい、オフィスです。みんな外出中で」

「……」

「ホントですか!直ぐに行きます!」

「……」

「……えっと、今出れば10分くらいです」

「……」

「はい、解りました!それでは後ほど」



 オフィス街の昼時だが店頭には様々な風貌が行列を作る。

 有栖が店に入るのを躊躇していると店先の店員が声を掛けてくれた。


「九条様でいらっしゃいますよね?」

「え、あ、はい……」

「どうぞこちらに……」

「え、あ、有難う御座います」


「急に悪かったね、九条さん。それじゃランチを2つお願いします」

「かしこまりました。10分ほどお待ちください」


「ココ、お昼は初めてかい?」

「真壁先輩の送別会と、ちょっと前に課の飲み会で。夜の2回です……」

「そうか。ランチのメニューは1つだけど夜の半額だから、凄く混むんだ」

「それで!芸能人?も並んでましたよ」


「昼の予約はH&C関係者だけでね。福利厚生も兼ねるから」

「そうなんですね。店員さんが声を掛けてくれて助かりました」

「接客も良いよね。大手の接客研修にも講師として行くからね」

「……あ!新人研修の時の講師の方!案内してくれた店員さんだ!」


「じゃ、料理が来る前にコレを渡しておくよ」

「Raijin Armsのシャーシストック?ロングアクション用ですね」

「OverProtectに風見さんのM700が預けてあると聞いてね」

「え?風見さんのですか?……OverProtectで働いていたんですか?」


 東条は少し驚いた顔でしばし沈黙。

「……参ったな。風見さん、話してなかったのか」

「あの……、聞いちゃいけない事なら、これ以上は……」

「私も、OverProtectに居てM700を使っていた事しか、知らないけどね」


「東条さんは、風見さんから聞いたんですよね?」

「うん、そうだね。お互いの銃遍歴を話した時にね」

「隠してたってより、聞かれなかったから話さなかった。の方かと」

「風見さんだと、そうだね」


 個室の引き戸がノックされ料理が運ばれてきた。

「アハハ!東条さん!何ですかこれ?アナゴとかき揚げがデカ過ぎ!」

「大きいよね!嬉しいよね!」

「ウチの社食のえび天もデカいんです。ここの職人さんが作りに来るんですよ」

「え!そうなの!それは食べに行かねば!」



「デザートをお持ちしました。ごゆっくり……」


「……東条さんは、風見さんとはいつから?」

「2年前かな。Raijin Armsの設立が決まって一時帰国した時にね」

「じゃ、お互いにそれ以前の事は、あまり知らないんですか?」

「立場的に経歴はお互い知っているけど、個人的な事はあまりね」


「立場的にって?」

「私は今年度からH&C商事の社外取締役だからね」

「え!え!……済みません、……知りませんでした」

「気にしないで。A課との関係でね。商事は未上場で情報公開していないし」


「あの……、じゃあ、私のことは?」

「……実はアメリカに居る頃にニュース雑誌で見てね。もしかしてと……」

「この前、A課の皆には話したんです。アフリカに行く理由が私には有るって」

「そうだったのか。九条さんの覚悟だね。皆、驚いたんじゃ?」


「そうですね。色々な意味で。……今は私が驚いています」

「九条さん……。私は何か失礼な事を言ってしまったかな?」

「いえいえ!違います!……覚悟。東条さんの口からも覚悟って言葉が」

「あぁ。私もH&C商事とA課に関わる立場。Heritageの事も多少はね」


「風見さんにも、覚悟を決める、アフリカに行く理由があるんですよね?」

「済まない。立場的には知っているんだが、……本人に聞いてみるといい」

「……父さんと母さんにも、アフリカ行きを話せたんですけど……」

「たいしたものだ。それに九条さんの御両親なら……」


「父さんも母さんも、私よりずっと前に覚悟を決めていました。フフ」

「そうか。……それで、ご両親には話せたけど?」


「……風見さんにその理由を聞くのが、一番覚悟が要るかも。ですね」


 それは有栖の本心。

 それは傷を負うジレンマか。

 それは幸運の可能性の決断か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。