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第16話 違いに葛藤

 会議室にA課メンバーと小田が揃う。

 それぞれが持つ情報と意識の違いから表情は百人百様だ。


「急で済まん。アフリカの状況を確認したんで、情報共有。あと報告な」

「まず報告は、氷川さんはシステム部と兼任だが、A課に異動してもらった」

 この件は高城も佐伯も有栖も驚かない。

 むしろ当たり前といった顔をしている。


(やっとか……)

(透花さん1人で抱えることはこれで減るか~)

(何かあったら守るためだよね、きっと)


「グレーなとこは残るが、同じ課として情報共有がやり易くなるからな」



「風見さん。いよいよすっか?アフリカ行くの」

「あぁ。具体的な日時は、経産省と外務省と調整してからだがな」


「部長の私から先に。皆を不安にさせている点は謝らせてください」

「風見さんとは何度も話し、気になる点については考えました」

「憶測の域を出ませんが、国の目的は国防。日本を想っての動きでしょう」


「小田部長。そう考えるのは何故です?」

「掛かる労力や時間、そうでなければ辻褄が合わない。やる意味がない」

 誰もがそう考えたいが誰かが言ってくれると安心できる。

 小田は部長である自分がやることと理解していた。


「小田部長。私からも補足。風見さんと有栖ちゃんには話したことだけど」

「はい。お願いします、氷川さん」

「例の動画。あの決(・)断(・)す(・)る(・)A(・)I(・)をHeritageは脅威と捉え、対策を取りたいのね」


「思考の外部化への対抗と対策。ですよね、氷川さん」

「そ、有栖ちゃんが言った通り。放っておけばバカになるだけだからー」


「小田部長、氷川さん、九条さん。解りました、有難う御座います」

「いいえ、佐伯さん。理解と納得は別ですが、現場の同意は重要ですから」

「それでは風見さん、説明を」


「はい、小田部長。それじゃ……」

 風見は復元ファイルとアフリカの状況について説明する。



「東京事件の首謀者がアフリカって、都市伝説っすよね?」

「国家機密のはずだから、それも情報操作かもな」

「そんなのをアダムとイヴが見つけて、ここで話して平気なんすか?」

「アダムとイヴが見つけたファイルは、オリジナルじゃないからな」


「……それって、どういう意味っすか?」

「ネット上のキャッシュを集めて復元。ファイルそのものは入手してない」

「……内容は事実でも政府は白を切れる。そういうことですか?」

「高城が言う通り。現に俺等に何もないだろ?」


「……情報源がオリジナルでなければ、まぁ、どうにでも言えるっすね」

「そうだ、翔太。それに俺等が言いふらすメリットもないしな」



「風見さん。アルさんの情報通りなら、例のアフリカ国内はかなり複雑……」

「あぁ。資源開発の視点では、政府が情勢を把握したいのは本当だろう」

「……仇討ちは、その調査員がダシにされるのでは?」

「俺も高城と同じ考えだ。調査員に何かあれば、介入の名目が立つからな」


「OverProtectが護衛に付くって言っても、めっちゃ危険じゃないすか!」

「監視衛星で自衛隊とアメリカ軍も常に見てるがな」

「え!?そうなんすか?」

「OverProtectはアメリカ含む政府意向で設立。実務の影響力のためアルが社長な」



「風見さんと九条さんが検証AIのユーザーってのも、今回の理由っすよね?」

「そうだな。積み重なった偶然の再現性確認も実験対象だろうな」

「実験対象?決(・)断(・)は(・)人(・)が(・)す(・)る(・)べ(・)き(・)って何なんすか!?危険な目に遭ってまで……」

「翔太。Heritage Projectが求めているのは、覚悟だと俺は思ってる」


「覚悟って何すか!?死にに行けってことっすか!?」

「翔太ちゃ……、ちょっと落ち着いて」

「佐伯!少し落ち着け!」

「だって!なんで社会人2年目の女の子が、国防のために命張るんすか!」


「確かに覚悟っつったら、翔太が言うような状況もあるかもな」

「でもな、決断による結果も受け入れられるか。だから覚悟だろうな」


 風見の言葉を聞いた有栖は驚きそして安心した。

(昨日、イヴと話したこと。風見さんも同じように考えてるんだ……)

 そして自分は特別だと思い返す。


「あの、私……」


「言ってることは解りますが、九条さんに求めることっすか!?」


「あの!」


 有栖の声が会議室に静寂を呼ぶ。


「……佐伯さん。その、心配してくれて有難う御座います……」

「私には、Heritage Projectがアフリカに行かせたい理由があります」

「え?九条さん?なにそれ?」


 有栖は天井を見上げ大きく深呼吸をして話し始める。

「私、東京事件の最(・)後(・)に(・)救(・)出(・)さ(・)れ(・)た(・)小(・)学(・)生(・)。聞いたこと、ありますよね……」

 会議室の空気が凍る。

 それを知る者も知らない者も驚きの表情を隠せない。


「イヴとは、私がアフリカに行く理由が何かあるはずって、話していました」

「イヴが支給されて、東京事件とHeritage Projectの関係を調べました」

「だけど、出てくるのは都市伝説みたいなのばかりで……」



「去年の秋に、事件直後から中学生までお世話になった先生に再会しました」

「小学生の頃から得意だった事や好きな事、全部事件の後の事です」

「自分でも感じたんです。射撃の結果が良すぎるなって」

「そして調べたら見つけました。……後天性サヴァン症候群」


「東京事件のとき、頭を怪我してるんです」

「先生にも相談したら、そうだろうって」


「事件被害者で、頭の怪我でサヴァンになったなら、凄い確率だなって」

「だから私は、イヴが支給されて、アフリカに行くんだなって」


「さっき、風見さんが覚悟の話しをしましたよね」

「私も昨日、イヴと話してたら、覚悟の話しになったんです」


「その……、望んだものではないけれど、特別は活かすべきだなって」

「サヴァンになった過去を受け入れ、得た能力を活かす未来も、覚悟かなって」


「だから、アフリカには行きます。それが私の覚悟です」


 有栖の告白は皆を驚かせた。

 だがA課の皆が感じたのは有(・)栖(・)だ(・)か(・)ら(・)という妙な納得感。



 小田が風見のデスクの横に立ち指示を伝える。

「風見さん。色々と時間が掛かりましたが、アフリカに向かう段取りを」

「はい、小田部長。経産省の竹田さんには今メールを入れておきました」


 風見の携帯から着信音が鳴る

「って、話してるうちに電話ですね」

「風見さん、打合せは最短の日時で」

 風見は小田にハンドサインを返し電話に出る。


「はい、風見です。竹田さん、連絡が遅くなって申し訳ありません」

「……」

「はい。本日夕方でも構いません」

「……」

「はい。それでは前回と同じ店で。予約出来たらまた連絡致します」

「……」

「それでは、失礼します」


「風見さん。17:00に個室が取れました」

「承知です。連絡入れておきます」



 当日16:55。H&C本社からほど近い小さな料亭。

 美味い料理に安心して酒が飲めると政府関係者御用達のH&Cが運営する店。


「小田さん、風見さん、お待たせしました」

「神谷さん。こちらこそ、前回から時間が掛かってしまい、申し訳ありません」

「大事な部下をアフリカに行かせるならば、慎重にならざるを得ませんから」


 挨拶代わりの近況報告を済ませ店内に。

 個室に通され店員からは前回と同じ緑茶で良いかと尋ねられる。

「はい、お願いします。……あと、お茶請けに甘いものを少し」


「神谷さん。お茶が来るまでに少し。具体的な依頼は紙?口頭?」

「……時限インクを使って紙で」

「承知しました。内容については後ほど」


 運ばれたお茶請けと緑茶が各々の前に置かれ店員が部屋を出た。

「小田さん。このお茶請けはお店のお任せですか?」

「もしかして神谷さんは、甘いものはダメでしたか?」

「いえ。逆です。常温の焼きプリンはセンスが良い。砂糖を控えられる」

「喜んで頂けてなにより。さぁ本題に入りましょうか」


「では建前、我々には本音ですが……。とにかく知りたいのは最新勢力分布」

「神谷さん。例の動画で、勢力分布がかなり変わっているようで……」

「その通りです、小田さん。二大勢力の衝突だったはずが、どうも……」


 小田と風見は顔を見合わせ頷き風見が口を開いた。

「共に独裁政権を倒した二大民族で、その2つの衝突だったはず……、ですね」

「えぇ。元はどちらも国軍。政府、反政府という呼び方も便宜上に近い」

「神谷さん。それが4つに分かれているのでは?ですよね」

「……そうです。衛星写真で戦闘部隊の動きを追うと、そう見えます」


「政府、反政府のそれぞれが、AI肯定派と否定派に分かれているようです」

「AIの肯定派と否定派ですか?」


 神谷と竹田はお茶請けを口に入れ共に腕組みで思考を巡らす。

「頭を使う時に甘いものは助かるな、竹田」

「小田さんとこの店の配慮に頭が下がります。政府御用達も納得ですね」

「AIの肯定派と否定派は、今か後か、ということか。解るな?竹田」

「さっさと内戦終結か、自分達で考え国を動かすか。ですね?風見さん」


「はい。お2人の認識は、自分が現地PMCから聞いた情報と同じです」

「政府側からが礼儀ですが、実際には誰にどの順番で会うか、難しいですね」

「風見さん、小田さん。……その順番については、別途お打合せを」



「……では、本音の方ですが、神谷さんと竹田さんは何処まで?」

「Heritageの目的は国防と国力を念頭にした各種検討。そう理解しています」

「今回の具体的な依頼内容については?」

「例の動画のAIにHeritage Projectの検証AIを接触させる……」


「予想していた通りですね、風見さん」

「そうですね、小田部長。神谷さん、サンプル回収は?」

「はい、可能ならば。例の動画のAIはスタンドアロンで動いているはずで」

「我々は決(・)断(・)す(・)る(・)A(・)I(・)と呼んでいます。サンプル回収も想定範囲ですね」


「小田さん、風見さん。先程もお伝えしたが、建前は我々の本音です」

「解っています、神谷さん。ただ危険が伴う以上、努力目標です」

「風見さん。こちらもそれは解っています。ただ、出来る限りは……」

「それだけでは、……いえ、出来ることはします。国益のために」


「具体的な依頼内容は書面でお待ちしています」

「はい、早急に」


 神谷と竹田が店を出るのを確認し小田が口を開く。

「失礼な言い方かもしれませんが、あのお2人はやはりデキますね」

「えぇ。アルから聞いた事をほぼそのまま言い当てました」


「それと風見さん。ヒヤッとしましたが、よく我慢を」

「済みません、つい……」

「風見さんでも、と少し驚きました」

「役割分担。我々の役目ですが、昨日の九条ちゃんの覚悟を聞くと……」


「それが当たり前でしょう。今の我々はただの会社員のはずですから」

「……そうですね」



 地下鉄の階段を上がり地上に出る。

 定時で会社を出ればかろうじて活気が残る地元の商店街に戻ってこられる。

 有栖は昔ながらの洋菓子店の前で足を止めた。


(父さんは甘いものが好きだけど、いつから買わなくなったかな)


「ジャンボシュークリームとジャンボプリンを3つずつください」


 商店街を抜け少し歩くと有栖の実家がある。

 学生時代は1人暮らしをしていたが就職に合わせて実家に戻った。


(お土産持って家に帰るって、凄く久しぶりだな)


「ただいま~」

「お帰り、有栖。あら、そこのお菓子、久しぶりね。限定品?」

「う~ん、普通のヤツ。しばらく食べてないなと思って」

「ふ~ん、そう。父さんが喜ぶわ」


「タマネギカレー!こっちも凄く久しぶりだ!父さんが作ったの?」

「代休で休みだったからな。しばらく料理もしてなかったし」

「今日はシュークリームとプリンもあるから!」

「そうか。ご馳走だな。コーヒー淹れるか」


 炒めた大量のみじん切りタマネギとスペアリブにシシトウ。

 カレールウは使わずに赤缶のカレー粉で作る父のカレー。

 銀座のインドレストランのカレーを参考に作った特性だ。


「さ、母さんは座ってて!父さんは洗い物。私がコーヒー淹れるから」


 週末にしか使わなくなったコーヒーポットがテーブルに置かれる。


「……有栖。何か話があるんだろう?バンドマンの彼氏でも出来たか?」

「アハハ!父さんのギャグは捻り過ぎで、ねじ切れそう!」

「ねじ切れそうまで繋げる有栖がスゲーよ!」

「……そんな返しが出来る父さんもスゲーよ!」


「はいはい。で、どうしたの有栖」

「父さんと母さんには心配掛けっぱなしで……」

「親が子を心配するのは当然だし、有栖の経験では仕方ないだろう」

「……事件のことで何かあったの?」


「去年の秋に山崎先生に会ったんだ」

「え!そうなの!なんで言ってくれないの~」

「ごめんなさい。また父さんと母さんに、心配掛けちゃうかなって思って」

「……有栖なりに考えてのことだったんだな。で、どうした?」


「うん……。その、私はちょっと特別だから、その特別を活かすべきかなって」


 有栖はその夜自分の覚悟を話す。

 それは自分の両親にも覚悟を求める事。

 有栖には話すことそのものが覚悟。


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