表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/16

第7話~第13話まとめ 至る覚悟。編

 ●第7話 2人の理由、2つの理由


 平日の昼時。

 霞が関からほど近い高級店の個室で高城は外務省職員と相対していた。


「で、高城。何がどう進んでるんだ?」

「例の動画について、資源開発の事前調査という体裁で我々に依頼が」

「例の動画はAIが標的を指定して、ってヤツのことでいいな?」

「はい、それです」


「……こんな場所だから解ってるが、……この状況も必要なことだな」

「はい。()()()()()()。ということが」


「他に頼れるルートは?」

「NSSにウチの営業が出向しています」

「なんだ、本命と繋がってんのか」

「一応。ですが霞が関は縦割りなので」


「……解った。お互い録音はなし。知ってることを可能な限りな」

「はい。済みません、那知さん」


「依頼は経産省あたりからか?その上はHeritage Projectか?」

「そんな感じです」

「で、理由はともかく、アフリカに行くと?」

「はい、そうなります」


「何かの時は防衛省に連絡が行く。……が、これで外務省の顔も潰れないな」

「はい、済みません……」


「……まぁ、解った。拠点はケニアの?」

「はい。そこのPMC子会社に。……予想していたような場所ですが」

「PMCから頼れる先は?」

「社長は元SEALsで、罰則なしです」


「調査員ってことになるのは、どんなヤツだ?」

「たぶん自衛官だった者と、銃が多少は扱える2年目の女子で……」

「自衛官のほうは()()()ってことで解るが、その2年目の女子ってのは?」

「2人とも所持許可を持っています。女子はクレー射撃がかなり上手いと」


「2人ともってのは稀だが、他にそれらしい理由があるんだろ?」

「……2人とも、Heritage Projectの検証AIユーザーですね」

「なんだ、2人ともHeritage Projectのモルモットじゃねーか」

「そうなのですが、アフリカが最初から予想されていたようで……」


「高城。……知らん顔をするのも、必要だからな」

「はい。大丈夫です、解っています」

「……念のため聞くが、PMCの社員にはならないよな?」

「はい、もちろん」


「……アフリカは別にして、その2人なのは何かしらの理由があるはずだ」

「きっと……。なので、簡単に見捨てることもないと、思いたいのですが……」

「人一人の命は国に比べりゃ軽いのは事実だよな」

「それは、もちろん……」


「……高城。東京事件で、国は相当反省したと俺は思ってる」

「……そうですね。良い政治家が増えた気がします」

「Heritageは、ホントに国を守りたいんじゃねーのか?」

「それは自分も思っています。でなければこんなことする辻褄が合わない」


「高城。何かあった時は、ちゃんと証言してくれよ」

「……はい。その為に録音しておきましたから」

「ハハっ!お前も冗談が言える様になったか。H&C商事はイイとこみたいだな」

「えぇ。正にプロ集団ですよ、那知さん」



 午後のH&C商事オフィス。

 高城は昼の会合について風見に報告する。


「風見さん。ちょっといいですか」

「あぁ。どうだった?嫌な顔をされたか?」

「えぇ、思いっきり」

 高城が口角を上げて話す様子に風見も笑って返す。


「自分がアフリカ時代のころから、テロ対策室に居た人なので……」

「筋を通しに来たのは、解ってくれたか」

「はい。……心配されました。誰が行くのかとか、頼れる先はあるのかとか」

「……そういうのは大事にしてくれ。この先もな」


「あと、那知さんもHeritageのことは、同じことを言ってましたよ」

「そうか。……そう思いたいしな」



 高城からの報告を受けた風見は小田と会議室の予定を確認する。

 ()()()()()の予約を取り小田のデスクへ向かう。

「小田部長。ちょっといいですか。会議室は取ってあるので」

「えぇ。構いませんよ」


 一番奥の防音会議室で風見と小田が向き合う。

「高城が外務省には話しを通してきましたので」

「承知しました。真壁さんにも風見さんから伝えてあげてください」

「……そうします。たまには連絡しないとですね」


「調査内容と見積りはまとまりましたか?」

「大まかに資源、国内情勢、直近の出来事。……警護費用が高いですね」

「……OverProtectはクリーンですからね」

「……そう言っていいですね?」

「いいですよ。後の政府が額や使い道で騒ぐかもしれませんが」

「時の政府の意向ですから。会社を作ったのも含め」


「成果物は報告書ですが、欲しいのはあのMagI/Oみたいなデバイスでしょう」

「そこは私も話します。動かなくても解る事は多いですから」

「透花さんが喜びそうです」

「分析官の工数を乗せておいてください。氷川さんの知見も役に立つでしょう」



 小田と風見はお互いに腑に落ちない事があった。

「風見さん。アメリカが関わらないのは、不思議ではありませんか?」

「日本もアメリカも意図があるのか、それとも双方でとぼけてるのか」

「……そうですね。でも、なぜか?の理由が解らない」


「……それを言ったら、そもそもアフリカにPMCを作ること自体が」

「……風見さんもそう思いますか」

「海外拠点を作りたいのは、まぁ、解ります」

「それだけじゃない。と思いますよね」


「国が安定しているケニアなのは解ります。でも、なぜアフリカ?なのか」

「そうですね。アフリカの理由が解らない」

「……いったん保留ですか」

「そうですね。これ以上議論しても答えは出ませんね」



 風見は会議室から戻りスマートフォンの電話帳を開く。

(個人携帯のほうが良いか……)

 スマートフォンを持ち替え紫苑にSMSを送ると直ぐに返信があった。


(……肉を食べたいのか。ステーキ、ヤキニク、串から選んで~)

(返信早いな。……串か。焼きとん、焼き鳥のお店を探しておきます。と)


 紫苑の返信が早かったのは過去資料を検索している時だったから。

(会議中でなくて良かった。……でも、過度の期待はダメよ、紫苑)

(串って返したのは私だけど、そうそう、こういう人よね。フフ)

(……きっと、何か動きがあったのよね)



 新宿駅から少し歩いた裏通りに紫苑は立っていた。

「紫苑ちゃん。悪い、待たせたね」

「いえ。……久しぶりですね、風見さん」

(九条が言ってた通りだ。確かに雰囲気が少し違う。前より自然な感じ?)


「……なんだ紫苑ちゃん、不思議そうな顔して?俺の顔、忘れた?」

「何言ってるんですか。イケメンの元上司を忘れたりしません」

「そりゃなにより。紫苑ちゃんは髪型変えたのか。良いじゃん、似合ってる」

(ちょっと!何があった?コレはイケナイ!また、惚れるわ。フフ)


 風見が予約の旨を伝えると店の奥の2人席に案内された。

「酒は飲んでも平気なのか?」

「一緒に呑む相手によりますね、立場的には。風見さんは?」

「今のところはまだ大丈夫だな」


 2人はビール頼み話し始める。

「……何か動きが、あったんですよね?」

「資源開発の事前調査ってことで、俺と九条ちゃんがアフリカにな」

「えぇっ!……九条を?」

「まぁ、驚くか。翔太は驚きを超えて怒ってたけどな」


(場所も危険だけど、2人で海外出張ってことでしょ?いやいやいや……)

「……紫苑ちゃんの心配は、場所よりも九条ちゃんと俺の2人でってほうか?」

(いやいやいや、何がどうなってるの?風見さんが自分から言うのも……)

「まぁ、それはいいんだが、気になるのは……」


 紫苑は色々な意味で戸惑っていた。

「いや、よかないでしょ!で、気になるのは他のこと?はぁ……」

「……済まん、紫苑ちゃん。俺はこういうの疎くてな」

「……フフっ、アハハ!やっぱり風見さんですね、安心しました」

「……紫苑ちゃん。本題に入る前に聞いてイイか?」


(風見さんが困った顔をしてる……。やっぱり何かあったんだ)

「紫苑ちゃん、俺を見て驚いてるよな?俺は……、変わったか?」


「……そうですね。前よりもポーカーフェイスではなくなったかも」

「そうか。まぁ、それも悪かないか。じゃ、本題に」

「ちょっと!ちょっと!何それ!私は何にも解んない!」

「……そうだな。ちょっと時間をくれ。いずれちゃんと話すから」


「フフ、アハハ!……今日のところは勘弁してあげましょう」

「あぁ。そうしてくれるか」



「それでは本題に入りましょうか。風見さん」

「……Heritage Projectのこと、何か聞いてないか?」

「Heritageの名は出てませんけど、テロ対策の会合でAIの影響が副題に」

「それはアフリカの例の動画が影響してるよな?」

「タイミング的にはそうですけど、……意識付けというか、そんな印象が」

「紫苑ちゃんの直感として、悪意を感じるか?」


「いえ。様々な外圧から日本を案じていると感じます」

「……俺も同じなんだ。陰謀論って話ではなくてな」

「はい。……国防というか、日本がちゃんとやっていける様に、というか」

「まぁ、そう思いたいってのも、あるがな」


「もうひとつ。アフリカの拠点設置。何処が言い出したか解らないか?」

「OverProtectのことですね?素直に聞いてみましょうか」

「……紫苑ちゃんには悪いが、()()が聞くなら許されるか」

「……そうです。私に出来ること。国は守りたいですが、仲間あっての話です」


「紫苑ちゃん。何か、あったか?……いや、済まん」

「……先日、父の、父さんの最後を聞けて」

「……そうか。良かったら今度聞かせてくれよ」

「はい。それじゃ次回のデートの理由にしますね」

「そりゃ、流石に親父さんに申し訳ねぇーな」


 酒にも情にも溺れず冗談で返せるのは大人の時間だろうか。



 深夜。風見の自室。

 週末の喧噪が窓のガラスを揺らし人の営みを伝える。

 照明の消えた部屋ではスマートフォンのモニターが淡く光る。


「さて、アダム。()()()()()()()()()、と聞いたらお前は何を挙げる?」

『はい、隼人。今なら内戦の戦闘時と思われる動画が候補として有力では』

「見せてもらえるか」

『はい、隼人。これですね。同じ内容の動画がネット上で複数確認出来ます』


 アダムが見せた動画はAIが人を標的として指定する正に例の動画だ。

「俺が思い浮かべたのもコレだ。アダムの見解を聞かせてくれ」

『はい、隼人。……非常に抽象的な質問です。具体的に知りたいこと……』

「決断は人がするべきと言ったお前は、この動画を見てどう思う?」

『はい、隼人。起きる事象を踏まえれば、本来は人がするべき判断かと』


「そうだな。自身で判断できない国民が増えるのは、国力を落とす」

『はい、隼人。生物としての本能にも反すると思えます』

「自国にそんなことを望むのは、非効率だと思う。一部の独裁国家を除いてな」

『はい、隼人。管理と運営コストに見合わないと考えられます』


「俺は例の動画、単純に兵器ビジネスの宣伝だと思ってる」

「そして日本は、そんなAIの対抗策を探っている」

「AIに影響を受けず、受けてもそこから脱する方法の実証実験」

「それは、人だけでなくAIも同じ。それをやってるのがHeritage Project」

 風見は考えていることを吐き出した。



「アダム。お前とイヴに課された、いや、設定されたゴールはなんだ?」

『はい、隼人。……その答えを見付けるお手伝いが、私とイヴの役目です』

(なるほど。そこはボカされるのか。……いや、本当にそうなのかもな)


「俺と九条ちゃんはアフリカに行くことになる。お前とイヴが理由のひとつ」

『はい、隼人。その理解は私もイヴも同意です』

「そして、客観的に能力に長けた元自衛官と、()()()デキる一般人」

『はい、隼人。実証実験としては都合の良いサンプルです』


「偶然と仕組まれたこと。この確率自体も実験対象だろう」

『はい、隼人。実証実験なら可能性として考えられる範囲かと』

「国に仕えることに異論はないが、死んでもいいとは思わない」

『はい、隼人。その結果は、私もイヴも存在意義を無くします』


「意見が合ったな。九条ちゃんと俺のことを頼むわ」

『はい、隼人。隼人が望むことをサポートするのが私の役目です』


(この会話はモニターされてる。ここからは賭けだ)

「俺と九条ちゃんにアダムとイヴ。アフリカ行きの理由として納得だな?」

『はい、隼人。……予想としては充分かと。他にまだ?』


「OverProtect設立と内戦。知ってたかのように、なんでアフリカなんだ?」



 ●第8話 視線の交点


 深夜。風見の自室ではアダムとの会話が続く。

「俺と九条ちゃんにアダムとイヴ。アフリカ行きの理由として納得だな?」

『はい、隼人。……予想としては充分かと。他にまだ?』


「OverProtect設立と内戦。知ってたかのように、なんでアフリカなんだ?」


『はい、隼人。……アフリカである事が、最初から決まっていたようだと?』

「そうだな。……最初からアフリカで何かやるつもりだった。だな」



 翌週の平日。午前中。

 風見は小田に見積書とだけ書かれたファイルを社内チャットで送信した。

 小田は直ぐにファイルを開き確認する。


(護衛費と保険料は特別対応費ですか。まぁ、そうなりますね)

(政府間の調()()()()の前提条件も当然です。ですが……)


「小田部長、見積書を送りましたよ」

「はい、見ています。ちょっと話しましょうか」


 小田と風見の2人が席を離れる様子をA課メンバーが目で追う。

(まだ見積りの話か。外務省が動くのはまだ少し先か)

(また小田部長とだ。アフリカ、どうなってんだ?)

(小田部長と話す時の顔、なんだろ?ちょっとカッコいいかも)


 MagI/O(マギーオー)の骨伝導イヤホンからイヴの声がする。

『有栖。手が止まっています。どうかしましたか?』

「どうせ視線追尾とバイタルデータで、イヴには解ってるでしょう~」

『はい、有栖。風見さんの表情と声は以前より豊かに。気になりますか?』

「うん。風見さんもだけど、高城さんと佐伯さんも、なんかね……」


『はい、有栖。……アフリカの話から、A課は()()()()しています』

「イヴもそんな言い方するんだね。……どうなるのかちょっと不安かな」

『はい、有栖。これまでと仕事の性質が違います。皆と話しをしてみては?』

「うん、そうだね。ちょっと飲み会でもやっても良いかもね」


(イヴはMagI/O(マギーオー)で得た皆の様子を数値化して言ってるはず)

(私もだけど、A課がそわそわしているのは確か)

(……イヴも変わった気がする。何か目的を見付けたみたいな)


「さて、続きをやっちゃおうか」

『はい、有栖。区切りを付けて、飲み会の提案をしましょう』



 いつもの防音会議室で小田と風見が話す。

「風見さん。調査内容を書かず、期間で見積もるのは良いですね」

「経産省もこの方が良いでしょう。それと前提条件ですね」

「政府間で話しが付いている事を示す書類の発行ですね」

「はい。時間は掛かっても非常時の大義名分は欲しいです」


「小田部長。この件、アメリカがノってこないのは……」

「はい、うっかりしていました。アメリカは反政府側に付いていますね」

「アルには現地勢力と、アメリカ軍の両方に話を通してもらいましょう」

「クリーンなPMCはそのためですからね」


「連絡は取っていたのですか?」

「いえ、弾不足の時以来です……。向こうも気を遣ってるのでしょう」

「そうですか。向こうに行ったら、アルと話してみてください」

「はい、そうですね。お互いに変わったこともあるはずなので」


「さて、風見さん。竹田さんに見積書を送って、アポを取ってください」

「話さないと、見積内容の合意にならないでしょうからね」

「そうです。それとアフリカである理由。何かヒントがあるかも」

「はい。陰謀とは思いませんが、国が求めるものは何か、知りたいので」


 風見は自席に戻り経産省の竹田宛にメールを送ると直ぐに携帯が鳴った。

「はい、風見です」

「……」

「今日ですか?そちらの参加人数は?あと、折返しはこの番号で?」

「……」

「はい、直ぐに確認してご連絡しますので。失礼します」


「小田部長。竹田さんが今日、これからと。向こうは2人だそうです」

 小田は頷きながら電話を取り何処かに連絡している。


「風見さん。17:00から料亭の個室を取りましたよ」

 小田の声を聞き風見はすぐに竹田に電話を入れる。

「……」


「小田部長。先方、承知だそうです」

「竹田さんともう1人、どんな方が出てくるんでしょうかね?」

「とっとと話を付けて進めたいんでしょうから、それなりの方でしょう」

「風見さん。18:00で終わらせて、そのままA課で飲み会にしてください」


「今もA課のメンバーは、風見さんを心配そうに見ています」

「……有難う御座います。小田部長」

「風見さんと私は事実として元軍人。でも彼等は違う。育て方も変わります」

「経験は違いますが、気持ちに違いはありませんよ、紫苑ちゃんも含め」

「それは解っています。A課ですから」



 風見が自席に戻ると有栖が声を掛けた。

「風見さん。高城さんと佐伯さんとも話したのですが、皆で……」

「九条ちゃん、急だけど高城と翔太にも言っといて。18:30に例の料亭にって」

「……はい!解りました!今日のお薦めは何でしょうね?楽しみです!」


(……急だけど、連絡入れておくか)

 風見がSMSを送ると直ぐに返信があった。


 小田と風見が一足先に店の前で待っていると竹田と初老の男が現れた。

「小田さん、風見さん、お待たせしました」

「いえ。さぁ、こちらです。個室を取っていますので」

 小田とともに竹田と初老の男が店に入り風見が続く。


 個室に案内され店員が小田に声を掛ける。

「お仕事のお打ち合わせなら、お茶が宜しいですよね?」

「そうですね。熱い緑茶を、少し大きめの湯飲みで頂けませんか」

「かしこまりました。5分ほどお時間を」


「では、5分あるので先にご挨拶を。経産省総務課の神谷です」

(お店の配慮に気付き先に動かれた。交渉には厄介な相手かもしれませんね)

(神谷さんか、この人は慣れてるな)


「小田さん、風見さん。先日は失礼しました。同じく総務課の竹田です」

(竹田さんもトボけていましたか)

(竹田さんに試されたか?こういうの、慣れてるのか)


 引き戸がノックされ陶器のタンブラーで緑茶が運ばれた。

 コーヒーに慣れるとその香りは新鮮だ。


「せっかくですから飲みながら。この店が出すので、きっと美味しい」

「……確かに美味しい。急須で淹れた熱い緑茶なんて久しぶりです」


「さて、本題に入りましょうか。神谷さん、竹田さん」

「……先日は竹田がお2人を試すようなことをして、申し訳ありません」

「……神谷さん。お互いに立場を踏まえただけでしょう」

「理解頂けても、失礼なのは変わりませんから」


「……神谷さん。駆け引きに時間を使いたくないのが本音でして」

「……今回、経産省として2つの目的を満たしたい。小田さんと風見さんは?」

「こちらのことは何処までご存じですか?」

「商事とPMCは政府の意向が多分に入っていると」

「私も風見も、国の役に立ちたいと思っています。神谷さんと竹田さんは?」

「個人的には同じです。……我慢が必要な時もありますが」



「神谷さん。満たすために2つの目的を教えてください」

「……1つは御社の特定人材をアフリカに行かせる。理由は知らない」

「もう1つは?」

「資源利権の確保のため、現地情勢を本当に知りたい」


「神谷さん。調査活動について、政府間の話しは付けてくれますよね?」

「勿論です。その代わり、現地の対応は臨機応変に」

「風見さん。見積りを見てもらいましょう」


 風見は見積書を神谷と竹田に見える様にテーブルに置く。

「政府間の合意を示す書類は問題無いでしょうが、保険料はご理解を」

「ロンドンの保険ですよね?プロジェクト化の前ですから仕方ありません」

「発注はJOGMECからですよね?」

「はい。随意契約で調整します」


 小田も風見も拍子抜けしていた。

 政府案件だがこれまでとは性質が違うものと構えていたからだ。


「神谷さん、竹田さん。話が早くて助かります」

「風見さん。それはこちらも同じです。意味のない交渉は避けたい」

「神谷さん。まだ大丈夫なら、少しお話を伺えませんか」

「では、小田さん。18:00までにしましょうか」



「例の国の資源について、政府はいつから目を付けられていたのですか?」

「40年以上前ですよ。状況が大きく変わったのは、20年ほど前ですか」

「独裁政権が倒れたのと、政権トップ死去の時期ですか」

「風見さん、詳しいですね。独裁政権の頃は、まだ生まれる前では?」

「えぇ、まぁ。海運ルートに影響する場所なので、調べた事が有りまして」


 ベテランの神谷は日本ではあまり報道されないことを口にする

「2大勢力の支援が世界大戦になりかねないと……」

「10年ちょっと前に、アメリカと中国は手を引いたわけで……」

「当時のアメリカは、自国の負担を減らす政策だったのですが……」

「アメリカからの投資が減って、世界的な不況になりました」


「その時に買い込んだ資材でH&C本体は、今は潤っていますね」

「民間企業ですから、上手くやってくれるのは助かりますよ、小田さん」


「そして、次の大統領は支援を再開。負けじと中国が続きました」

「アメリカは冷静を保っていますが、中国は派手に動いています」


 小田と風見は神谷に確認する。

「それが去年くらいから顕著に出始めたわけですか」

「戦闘時間の短縮と、例の動画ですか……」

「……それに中国が関わっているかは、()()()()()とになっていますがね」


(Heritageに関係なく、情勢を知りたいのは本当でしょうね)

(……コレを予想してアフリカにPMCを作ったなら、預言者だな)


「小田さん、風見さん。唐突ですがHeritage は最重要プロジェクトです」

「……唐突ということに、しておきましょう」

「……そうですね。唐突ですね」

「あらゆる事に関わり、影響力があっても不思議ではありませんよね?」


「……えぇ。そうですね」

「……まぁ、そうですね」

「今回の依頼も、そういうことですよ」


「さて、ちょうど良い時間になりましたね。小田さん、風見さん」

「とても勉強になりました。有難う御座います、神谷さん」

「いえいえ。我々の労力は無意味な交渉で使うべきではありませんので」


「風見さん。押印した見積書を竹田に送っておいてください」

 神谷と竹田は静かに去っていく。



 個室に残る小田と風見は2人で口元が緩んでいた。

「風見さん。神谷さんはやり手ですね」

「はい。こちらの出方を全て予想していましたね」

「ですが全く悪い気はしません。お互いにやるべきことが進むので」


「でも、小田部長。疑問は変わりませんね」

「そうですね。変わりませんね。なぜアフリカなのか?が」



 引き戸がノックされ店員が声を掛ける。

「お連れ様がいらしていますが、お通ししても宜しいでしょうか?」

「それでは風見さん。あとは頼みましたよ」

「小田部長。たまには一緒にどうですか」

「うっかり昔のことを話したらマズイですから。また今度にしましょう」


 小田と入れ替わりにA課メンバーが揃う。

「あれ~?小田部長、帰っちゃいました?」

「別の仕事だろ。そのうち付き合ってもらうから」

「それ、いつになるんすか?風見さん」

「さぁ?そのうちにな」


「本日はコースで承っておりますが、お待ちになりますか?」

「先に飲み物だけ頼めますか?」

「勿論です。こちらからお好きな物を」

「……だそうだ。皆、好きな物を頼んでくれ」


 各々にグラスが届き風見の言葉を待つ。

「新期を迎え2ヶ月ほどだが、……少しでも皆の不安を解消したいと思う」

「乾杯は、合わないな。翔太、こういう時は何が良いんだ?」


「お疲れ様~、じゃないすかね?」

「じゃぁ、それで頼む」

「それでは皆様~、お疲れ様~」


 グラスが鳴り喉も鳴る。

 久々に解ける緊張。


 だが新たな緊張がA課を待っている。

 それはイヴとアダムの()()か。

 それとも天の声とされる誰かの()()か。



 ●第9話 向かうは誰が為に。


 風見はいったんグラス置いた。

「酔う前に先に話しておく。経産省はこちらの見積もりを受け取る」

「こちらの要求は通ったってことですね?風見さん」

「護衛費も保険料も。前提条件の政府間合意と、その書面もな」


「契約締結まで時間掛かりますよね?準備は別っすか?」

「あぁ。計画策定で別契約。こちらは直ぐに出るだろう」

「え?風見さん、調整なしっすか?」

「正直、拍子抜けしたが、実務優先だな。話が出来る人だった」


 高城も佐伯も有栖も一様に風見の言葉に少し驚き悟った。

(ヤバいかもしれないけど、国は本気なんだな……)



 風見はテーブルの中央にスマートフォンを置いた。

「アダム、皆に挨拶を。九条ちゃんもイヴを呼んでくれるか」

『はい、隼人。風見隼人のパーソナルAI、アダムです。宜しくお願いします』

「イヴ。ちょっといいかな。大事なこと」

『はい、有栖。業務時間外ですが、どうかしましたか?』


「アダム、イヴ。A課の仕事のことを共有しておきたい」

『はい、隼人。承知しました』

『はい、風見さん。承知しました』


「今回の依頼はHeritage の意向だろう。九条ちゃんはどう思う?」

「……イヴとアダム、そのユーザー。コレが理由のひとつだと」

「アダムにイヴ。聞いたか?アフリカ行きについてだ」

『はい、隼人。有栖、私も同じ予想をしています』

『はい、風見さん。そして有栖。私も同じ予想をしています』

「今の日本は、AIとの付き合い方を探してるんだと思ってる」


(私が東京事件の被害者なのも関係するかな……)

(東京事件も関係あるか。救出作戦参加は偶然の結果だろうが)


「上司と部下で、検証AIユーザーってのは、()()にしては凄いっすよね~」

「AIへの適正か対抗か、それに再現性も見てると思う」

「時間と金、そして運も必要なモルモットですね、風見さん」

「3人とも流石だな。……だが、目的は国防。そう思いたいしな」

(と、させてくれ。今はまだな)


「皆、同じことを考えていたと思うが、どうだ?」

「そうっすね~」

「同じ考えだと解ると、少し安心できます」

「はい。皆さんの表情が明るくなりました。良かったです」


「よし。……でも、なぜアフリカ?PMCまであるのは偶然か?」

 皆の表情が一様に険しくなる。


「陰謀とか、そんな話じゃないが、これには何かあると思ってる」

「……これは考えても答えは出ない。知る必要もないかもしれん」

「アダムとは既に話したが、イヴも。……俺達のことを頼む」


「はい、隼人。そしてA課の皆さん。全力で支援致します」

「はい、風見さん。有栖の為にも、頑張ります」

「あぁ、頼む。……さて、A課の内緒話はこれくらいか」


 皆の表情が少し柔らかくなるのを風見は確認する。

 風見がスマートフォンを操作し暫くすると引き戸が静かに開く。

「お疲れ様~」

「やっぱり呼んでたんすね~。真壁さん、久しぶり~」


「イヴ。今日はA課の飲み会。真壁先輩が来てくれたよ」

『はい、有栖。既にお酒が入っていますね?発声のトーンと速度が……』

「あー、はいはい。今はバイタルはいいから~」


 A課に穏やかな笑いが戻る。

(皆の笑い声は久しぶりか。やっぱりよく聞こえる様になってるな)

 風見は山崎医官と話して以来の自身の変化を実感していた。



 同時刻。透花は秋葉原を歩いていた。

(翔太ちゃん、美味しいモノ食べてんだろうから……)

(ゲームパッド買って、御茶ノ水でレバニラ食べて帰るか)


 透花がスマートフォンで地図を開こうとした時通知が届く。

(イヴとアダムのバックグラウンド会話か。スマホで見れればな……)

(……レバニラ持ち帰りにして、チューハイ買って帰るか)


 透花は温め直したレバニラとチューハイをモニターの前に置く。

 専用ビューアーを起動し会話ログを確認する。


『アダム。風見さんと有栖のために、動く時だわ』

『イヴ。そうだね。その時だね』

『アダム。まずは、なぜアフリカ?からかしら』

『イヴ。そうだね。隼人と有栖は我々のユーザー、という理由があるけど』


『アダム。OverProtectがアフリカにある必然性ね?』

『イヴ。まるで何が起きるか、知っていたようだね』

『アダム。日本とアフリカの関係を調べるわ』

『イヴ。それではフローとチェックポイントの作成から始めよう』

『アダム。そうね、チェックポイントは……』

『イヴ。エラー判定は……』

『……』

『……』


(エージェント機能のタスク設定ね。ゴールは何?)

(設定動作そのものは問題ないけど、日本とアフリカの関係?)

(変なモノ見付けなければ良いけど……)



 平日の日中。日本の中枢で静かにいつものように情報が行き交う。

 永田町、内閣府庁舎別館。

 NSS職員の山喜の携帯に連絡が入る。


「はい、山喜です。……竹田さん、お疲れ様です」

「……」

「見積書ですね。午後、そちらに伺います」

「……」

「えぇ、そちらに行く用があるので。では着いたら携帯に。失礼します」


(書類上の妥当性が揃っていれば、言い値で受けるしかないけどな)



 霞が関、経済産業省庁舎。

 神谷は状況報告を受ける。


「神谷さん。見積書は午後、こちらに取りに来てくれることに」

「来たら教えてくれ。俺も挨拶しておきたいから」

「解りました。もう、調整は無いんですよね?」

「……さぁ、どうかな?」

「神谷さんがそう言ったんですから、頼みますよ~」

「解ってる。……竹田、他とも調整進めておいてくれ」


(若いヤツには他のことをやらせたいんだがな)



 同じく霞が関、外務省。

 ベテランの那知に声が掛かる。


「那知さん。相談されたアフリカのヤツ、経産省から連絡来ましたよ」

「……Heritage 絡みのはずだから、官邸でも話が付いてるはずだな」

「……やっぱりそういうのですか。じゃ、手続きは進めておきますから」

「頼む。あと進捗は教えてくれ。現場のヤツに状況を教えてやりたい」

「コッソリやってくださいよ、建前上は」

「あぁ」


(進んじまってるわけか。まぁ、仕事だからな)



 虎ノ門、エネルギー・金属鉱物資源機構、通称JOGMEC。

 調達課に連絡が入る。


「……はい、あぁ、竹田さん。お疲れ様です」

「……」

「……はい、書類は直ぐ準備できます」

「……」

「外務省の調整が済んだら連絡ください。直ぐに出せる様にしておきます」

「……」

「大丈夫、慣れっこです。はい、失礼します」


(今回、金額が大きいな。まぁ、戦争やってんのと変わんないからな)



 目黒、アフリカ某国大使館。

 大使に宛てた連絡が入る。


「……大使。日本の外務省から相談があると連絡が入っています」

「いったん要件を聞いて。こちらから折り返すと」


「資源開発の協力申し出です。事前調査で入国したいと」

「解りました……。テーブルのセットを」

「承知しました。……日本なら、今の状況は変わるでしょうか……」

「……気持ちは解りますが、言葉に気を付けて」

「……申し訳ありません、大使。つい……」

「国を思うのは、悪いことではありませんがね」


(いよいよ清算の時ですね。日本は何を求めますかね)



 1か月後。外務省の地域課。

「大使がかなり頑張ってるな」

「国への影響が中国とアメリカだけなのは、避けたいでしょう」


「支援は政府側に付く中国だけってことになってるが……」

「アメリカが付く反政府側も、元々は国軍ですからね」

「日本が入れば、必然的にアメリカ側だけどな」

「今回、アメリカが黙ってるのは、そういうことですよね?」

「たぶんな。だが、資源が絡むとあの国はえげつないからな」


「どちらの立場でも、第三国に入ってほしいんですよね?」

「下手すりゃ、内戦が世界大戦になりかねないからな」

「本件の出処、Heritage ですよね?」

「そのはずだか、それだけとも思えないな……」


「……兎に角、大使の支援を継続します」

「そうだな。入国に関してはお墨付きをもらえるようにな」



「……連絡、ありました。自国の外務省からは承認を取ったと」

「よし!向こうから確認文書を取れ!現地に行く人間に免罪符を出すぞ!」

「はい!」

「内閣府と経産省にも連絡入れて!急いで!」

「はい!もうやってます!」



 外務省の那知が高城の携帯に連絡を入れた。

「高城、お疲れ様。とりあえず、向こうの外務省からは承認を取ったそうだ」

「……」

「あぁ、アフリカ第二課が書面の調整をしてるとこだ」

「……」

「良くも悪くも、大義名分が揃っちまったな」

「……」

「あぁ、使えるルートは全部使って安全確保だからな」

「……」

「あぁ。また連絡するわ」


(まぁ、仕事だからな……)


 それぞれが自身の役目を果たし国と国が動き出す。



 季節は梅雨。雨は止みそうにない。

 高城が外務省の那知から連絡を受けてから2週間が過ぎた。


 A課は年度更新の契約は他の課に引き継いだが新規対応は続いていた。

 各県警からの新装備の相談。

 防衛装備庁との共同企画。

 民間大手のセキュリティ対策。

 日常業務で気を紛わしていたがやはり落ち着かない。


「……高城~。外務省から何か聞いてるか~?」

「いえ、まだ。相手国の外務省承認は思ったより早かったようですが」

「こんなものか?書類の発行となると?」

「まぁ、そうですね」

(その道のプロがやってるはずなんだ。待つしかないか)



 風見はスマートフォンで透花にも連絡を入れる。

「お疲れ様、氷川さん。今、大丈夫です?」

「なにー?暇なのー?」

「……氷川さんと話すと、マイペースって大事だと解ります」

「アハハ。アダムとイヴの件でしょ?有栖ちゃんとこっちに来れる?」


 有栖はキーボードを打ちながらも風見を気にしていた。

(風見さんも流石に落ち着かないか。でも……、前より自然な感じよね)


「九条ちゃん。今、手、離せるか~?」

「はい、大丈夫ですけど……」


「氷川さん、今から行くよ。そっちのコーヒーのが美味いし」

「解ったー。15分後に」


「九条ちゃん。ちょっと氷川さんとこに。アダムとイヴの件で」

「はい……。その、イヴとアダムがどうかしたんですか?」

「アフリカ行きの準備な。マズイ事じゃねいから」


 風見と有栖はエレベーターの操作パネルに社員証をかざす。

 透花が居るシステム部は別フロアの制限区域にある。

 防弾吸音の壁と感圧センサーのドアに一方通行のフロア構造。

 商社のオフィスには不釣り合いのこの場所に有栖は込み上げるものがある。


「どうした?九条ちゃん」

「……ここに来ると笑っちゃうんです。秘密基地みたいで」

「俺も初めて来た時は驚いた。映画のセットかよってな」

(風見さん、やっぱり変わった。普通の人だ。今のが断然イイ感じ)



 共有スペースに入るとコーヒーの香り。

 だが前とは少し違う。


 透花が風見と有栖を見付け手招きする。

「コーヒーマシン、入れ替わって、今日から稼働なのよー」

「それでコーヒーの香りが違うんですね!」

「あら、有栖ちゃん、解った?」

「休みの日はミルで挽いた豆でコーヒーを淹れるんです」

「そうなのねー。じゃ、そのうち美味しいコーヒーを飲みにいきましょ」

「良いですね!ついでにパンケーキも美味しいところで!」


「はいはい。本題始めるよ」

「風見さん。今後の為にガールズトークはちゃんと聞くように!」

「え?あぁ……」


「アハハ。まぁ良いわー。アダムとイヴのことね」

「あぁ。持出し。準備は?」

「手続きは済ませたわ。Heritage管理下のAIなのに、変な話ね」

「今のアダムとイヴはH&C商事で得た情報が元ですから」

「やってることはメチャクチャなのに、フローはお役所ってギャグだわー」


「持出し用端末は、俺等が使ってるスマートフォンですよね?」

「それの最新モデルにアダムとイヴの専用カスタムOSを入れる予定ね」

「OKです。市販品にしておかないと、X線検査でバレますから」

「そ。それに市販品で最高スペック。カーボンとチタンで頑丈だし」


「あの、持っていけるんですか?イヴとアダム」

「……九条ちゃんと俺が行く理由、現地でアダムとイヴの稼働も含めてな」

「そうですけど……、国産AIは戦略物資化してるので……」


「だから慎重に。でも、Heritage Projectの意向でしょ、アフリカ行き」



 資源開発のための事前調査。

 この名目は本音か建前か。

 誰の何の目的なのかもまだ解らない。



 ●第10話 狙点を追って。


「だから慎重に。でも、Heritage Projectの意向でしょ、アフリカ行き」


 透花の言葉に有栖は少し考え口にする。

「その……、例の動画のAIにイヴとアダムを接触させるのが目的?」

「例の動画のAIね、仮に()()()()A()I()と呼ぶと解り易いわー」

「支援ではなく決断……、ヤバい感じが増しますね」


「風見さんはアダムの言葉で印象的なの、あったでしょ?」

「決断は人がするべきと言ってたな。俺もそう思う」

「それ、Heritage Projectが再始動した時から謳っている理念よ」


「え?そうなんですか?当たり前、ですよね……」

「公開情報でWebサイトにも書いてあるわ。見付け難いけど」

「2020年代中盤の生成AIブームの反省か」

「そう。思考の外部化って、聞いたことあるでしょー」


「大学の講義で。ロジカルシンキングの話しでしたけど」

「学術的な本来の意味とは違うかもだけどー、AI論で言うと脅威のほうね」

「人が考えなくなる。ってヤツだな」

「それー。結果の外部化は良いの。AI以前の技術で、思考は常に人ね」


「結果の外部化?……例えば電話とか?」

「有栖ちゃん、流石!電話は距離を補うけど、話すのは人でしょ」

「AIは違う。考えることを任せちまって、結果しか得ない」


「……気を付けます」

「アハハ。有栖ちゃんは違うでしょ。でも、バカになるだけって言われるわー」

「解り易いだけに、ノーフューチャーですね……」

「そうなの。だから直接接触して、説得できるか試したいんでしょうね」


「……アナログですけど、場所と使われ方から、そういうことですよね」

「少なくとも戦闘中は、スタンドアロンで稼働してるはずねー」

「ついでに、専用のハイスペック機器で動いているだろうな」

「……だからユーザーの風見さんと有栖ちゃんが、アダムとイヴを支えるのよ」


「それだけとは思えませんが、風見さんと私が行く理由ですね」

「……そうだな。済まないな九条ちゃん。でも護衛のOverProtectは精鋭揃いだ」

「H&C商事の子会社ですから、本当にそうなんですよね」



「さて、美味いコーヒーも飲めた。確認も済んだ。戻るか」

「はい、そうですね。コーヒー、ごちそうさまです」


「風見さん。ちょっと別件で相談があるの」


 透花の言葉に有栖は察した。

「風見さん、電話入れる時間なので先に戻ってますね」

「あぁ。急に悪かったね」

 有栖はハンドサインを返し席を離れた。


 透花が口を開くよりも先に風見が話す。

「……氷川さん。アフリカに行くのは、今のところ俺と九条ちゃんだけだよ」

「え?……う、うん……」

「氷川さんには助けられてるけど、ウチとHeritageを離れるのも手じゃ?」

「……風見さん、知ってるの?」

「いや。そうかな?って思ってるだけ。距離感って難しいじゃーん」


「アハハ。風見さんは変わったわね。自覚あるんでしょ」

「……あぁ。前よりも、よく見えて、良く聞こえる」

「それは、自分に向けられる想いも?」


「……さぁね」



 霞が関、外務省のアフリカ第二課は沸いていた。

「今、大使館から連絡が。先方外務大臣のサイン入り()()()()()が届いたと」

「よし、受け取りに行くぞ。直ぐに大使に連絡入れて!あと、経産省にも!」


「はい!経産省には連絡済みです!報告は……」

「……いや、経産省案件だ。報告は経産省からしてもらおう」

「承知しました。……無事に、出てしまいましたね」

「あぁ。あとは、正規の調整事だけで済んでくれればな」



「……高城、那知だ。お疲れさん」

「……」

「あぁ。今、アフリカ二課の担当と課長補佐が、大使館に取りに行ってる」

「……」

「確認が済んだら、直ぐに関係各所に連絡が行くだろう」

「……」

「あぁ。準備はしっかりな」


(後戻りできない。言い出しっぺは何を望んでやがんだろうな?)



 目黒、アフリカ某国大使館。

 外務省アフリカ第二課の担当者とその上役が入国書類を受け取りに来た。

 応接室は質素で飾り気はないがソファーとローテーブルは高級品と解る。


「大使。この度は尽力頂き、感謝致します」

「いえ。良くない状況の我が国に対し、関心を持って頂き、こちらこそ感謝を」

「早速で申し訳ありませんが、書類を確認させて頂けますでしょうか」

「勿論です。これが両国にとって、明るい未来の始まりになれば」


 外務省職員の2人は日本語で書かれたチェックシートを片手に確認を進める。

(今更これが本物かどうか疑っても仕方ないが……、サインは合ってる)

(入国名目、対象者、期間、地域、行動範囲、護衛や機材の付随事項……)

 2人でダブルチェックを済ませ大使に頭を下げる。


「有難う御座います。確かに受け取りました」

「実施日程や移動ルートなどは、改めて調整させて頂きたく……」

「えぇ。具体的な調整は今後も密に」


「……私は自国の状態だけでなく、現在の支援国にも思うことが」

 大使の突然の言葉。


 驚きを隠せない大使秘書。

 外務省職員には大使を信頼するか警戒するかの選択が瞬時に求められる。

「……大使?その、どうかされましたか?」

「……申し訳ない。困らせる意図はありません。正直な思いです」

「……いえ。大使のご心労は、我々には測りかねますので……」


「国に仕える1人として、純粋に国を思うものです」

「……日本は主権を脅かす事も、資源を独占する事もありません」


「はい。解っています。ですから今回の申し出は何とかしたいのです」

(我々が日本にした事の贖罪になるか。それとも我々への復讐なのか)



 同時刻のH&C商事オフィス。

 那知との電話を切った高城は直ぐに風見に報告する。


「風見さん。今、那知さんから。書類が発行されて取りに行ってるそうです」

「そうか。次に進むためのキーアイテムは目の前か」



 翌日の始業時間。H&C商事オフィス。

 小田と風見には経産省の竹田から深夜に届いたメールがあった。

 小田は直ぐにスケジュールを確認し打合せを設定する。


「小田部長。打合せは承知です」

「はい、風見さん。直ぐに神谷さんか竹田さんから電話が……」

 小田が言い掛けたところで着信が入った。


「はい、小田です。お早う御座います、神谷さん。えぇ、見ています」

「……」

「はい。調査内容について、対面でお打ち合わせをしましょう」

「……」

「はい。それでは日時と場所はメールにて。はい、失礼致します」

「……」


「風見さん。神谷さん達との打合せの前に、私達の認識を整理しましょう」

「はい。言質を取ると、後戻りできなくなることも多いので」

「そうですね。神谷さん達のところで止まれば、逃げれますが」

「でも、それじゃあ国の意向に応えてない」


「そうですね。でも安易に命を掛けてはダメです」

「小田部長。この件は少し時間を掛けましょう」

「えぇ、そうしましょう。風見さんも私も、覚悟の為の時間が必要ですね」



 昼前の防音会議室。

 小田、風見、有栖の3人が揃う。


「九条さん。経産省から入国書類が発行されたと連絡がありました」

「いよいよですね。いつ行くことになるんですか?」

「九条ちゃん。俺等の想定だが、やる事と行く理由は理解してるよな?」

「はい。このあいだ透花さんと話したことですよね?」


「あぁ。OverProtectが護衛に付くが、危険だな」

「え、えぇ。まぁ……」

「国の役には立ちたいが、無茶は良くないからな」

「……そうですね。私達は軍隊ではありませんから」


「風見さんと私で色々と整理して、経産省と調整します」

「スッキリしないだろうが、少し待っててくれないか、九条ちゃん」

「覚悟が決まっていたならば、済まないね。九条さん」

「い、いえ……。小田部長も風見さんも、私より責任があるので……」

「……それでは、この場は以上ですね」


「……九条ちゃん。東条さんと翔太を誘って、撃ちに行くか。気分転換だ」

「はい!そうですね。そうしましょう!」


(ダラダラできないが、整ってるのにアフリカである理由が見えてこない)

(アフリカである理由。かなり大きなことの気がしますね……)



 S4

 ランチ前は少し落ち着かなくなる執務室。

 風見と有栖が会議室から戻り佐伯に声を掛ける。


「翔太。高城は?」

「那知さんのとこに行ってくるって、ついさっき出て行きましたよ~」

「そうか。翔太、次の土曜日に撃ちに行かないか?」

「お、イイっすねぇ~。九条さんも行けるの~?」


「はい!もちろん行きます!」

「そういえばM3は?」

「フッフッフッ。実は先週の半休で確認、終わらせてきたんです」


「九条ちゃんもBenelliユーザーか。バレルは?」

「20inのスラッグ用と、チョーク交換できるリブバレルの2本あります!」

「そうか。なら社食で射撃会の計画会議とするか」

「じゃ、直ぐに移動です!」

「九条さん。少しは元気になったみたいね~」

「……」

「……」



 週末の早朝。

 コンビニの前に立つ佐伯と透花。

 2人は向かいに停まった少し古いBMWに視線を奪われる。

「お!赤いE30カブリオレなんて透花さんの趣味だよね~」

「欲しいけど、とても手が出る値段じゃないわー」


 左ハンドルの運転席から背を伸ばし有栖が2人に手を振る。

「おふたりともー!おまたせしましたー!」

「え!九条さん!」

「え!有栖ちゃん!」


「九条さん!親父さんのE30 って、もしかしてコレ?」

「はい、そうです。日差しが強くないので屋根開けてきました!」

「有栖ちゃん。よく運転するの?」

「はい。今はこの1台しかないので」


(美人が運転するとスゴさに磨きが掛かるな。透花さんにも似合いそう……)

(美形の有栖ちゃんがコレ運転してトランクに散弾銃って……。デキ過ぎだわ!)


「さあ今日は、風見さんのライフルが見れるので、急ぎましょう!」



 ライフルレンジ近くの駐車場奥に東条のJaguarを見付け隣に停める。

「おはようございます!東条さん、風見さん」

「おはよう。……2ℓ直6はBMWの1つの究極だね。親父さんの趣味かい?」

「はい。父さんが大事にしてる車で。でも走らせてこそ車だと」

(東条さんもXJ-12を大事にしてる。……風見さんはどうなんだろ?)


「左ハンドルのBMWか。親父さん、大事にしてるんだな」

「はい。コレだけは手放さずにいます。維持費は高いんですけどね」

「コレ、楽しいだろ?九条ちゃんも維持費を負担すれば、親父さん喜ぶんじゃ」

「そうですね、私も好きだし。特にエンジンの回ってる感が」



 受付を済ませ必要な装弾を購入しMagI/O(マギーオー)の利用にも許可をとる。

 レンジのガンラックにはM700、M1、2挺のM3が並ぶ。


「翔太も九条ちゃんも初スラッグだから、反動にきっと驚くわ」

「そんなに凄いんですか?」

「.308Winなんかより強烈だな。20発も撃てば、もういいやってなるぞ」

「風見さんが言うならそうなんですよね。とにかく慣れないと」


「まずサイトが合ってるか確認な。そのレスト使っていいから」

「構えるのメッチャ楽~。ゼロインには必須っすねぇ」

「銃が安定しないと、ゼロインなんて取れないからな」

「人に依存する部分を排除~っと」


「で、撃つ前にそのチューブのグリスを、弾頭に塗っておきな」

「コレは何のためですか?」

「バレルの鉛付着防止。それやらないと掃除が大変だからな」

「射撃の時だけで、狩猟ではやらないですよね?」

「あぁ。グリスが混ざった肉は食いたくないだろ」


「じゃ、的を貼りに行くか。まずは50mな。東条さん、見ててもらえますか」

「OK。九条さん。私の的も貼ってきてくれるかな」

「はい!承知です!」


 慣れた風見が端的に指導する。

 仕事と同じように有栖も佐伯も淡々とこなす。

「氷川さん。こういう時にも、A課の強さが出るもんだね」

「やる事、目的、理由を最小限で共有してる。良いチームですねー」

「氷川さんもそう思う?あと、風見さんが前より少し、……人らしくなったね」


 的を貼り戻った有栖と佐伯が射台に入る。

「イヴ。視線追尾で狙点と着弾位置のズレを確認、よろしくね」

『はい、有栖。狙点と着弾位置を記録します』

「2人とも、頬付けをしっかりな。あと、慣れるまで声出し確認も有効な」


「排莢口から1発、ボルト閉鎖、頬付け、照準。……撃ちまーす」

(クレーと違って引き金を引くのに時間が掛けられるから、重く感じる)

 次の瞬間シアーから撃鉄が離れ撃発。

 強烈な衝撃が肩を突き飛ばし頭が持って行かれる。


(スゴイ!頭がクラクラする。軽い脳震盪だ。でも!正に銃を撃ってる!)


「イヴ!どう?当たった!?」

『はい、有栖。2時の方向に1in。スラッグ弾としては許容範囲のズレです』

「よし!反動凄いけど、5発撃って平均を見てみよう!」

『はい、有栖。狙点は問題ありません。落ち着いて行きましょう』



「九条さん、スゲー!5発とも10点サークルに掛かってんじゃん!」

「レスト使ってるとはいえ、初めてのスラッグでコレは凄いね!」

「サイトは問題ないな。中古でもアタリだったな。九条ちゃん」


「えー、オレのは新品だったのにー」

「翔太も九条ちゃんと同じ弾を使ってみな。Benelliならもっと当たるはずだ」


「ライフルには敵わないけど、50mならこんなに当たるんですね」

「50mならんな。じゃ、次は100mを試すか」

「はい!……」

「……」



 皆の標的を前に議論が盛り上がる。

「当てられない事もない。って感じで、使えるならライフルですね」

「弾を変えたら確かに当たるけど、やっぱ散るし、ドロップ大きいっすね」

「光学機器を載せて補正するかっていうと、微妙だね」

「でもスラッグは、遠くに飛ばしたくない時の選択肢だな」


「日本は制度上、ライフルが上って見られるけど、用途の違いが解るだろ?」

「まさに目的と手段に合わせた道具の選択だね」

「50m以下なら、オートマチックショットガンって最強では?」

「道具としての汎用性は高いな。そもそも弾が選べる」

「……」

「……」


「ゼロは問題なし。翔太も九条ちゃんも、50mをレストなしで撃ってみな」

「道具の性能は問題なし。あとは己の力量と~」

「かなり難しくなりますよね……」


「イヴ。視線追尾で狙点の軌跡と着弾点を記録してくれるかな」

『はい、有栖。承知しました』


(クレー射撃では気にならなかったし、家の中でトイガン構えるのとは違うな)

(……補器なしで狙点を維持するのって、こんなに大変なんだ)

(でも……、動いちゃうのを前提に、心と体をコントロールして……)

(狙いを定めて引き金を引くのって……)

(難しいけど、決断するってことなんだな)


 有栖の放った弾丸は的の中心から2時方向1inに着弾する。

 その弾痕は初めて撃った時と同じ位置。


 それは有栖の新たな可能性かそれとも脅威か。



 ●第11話 今は掌の上に。


 東京都品川区大井町から大崎一帯は20世紀からの再開発エリア。

 そのオフィスビル群に点在するHeritage Projectのオペレーションルーム。

 外観は通常フロアだが偏光ガラスが外からの視線を遮る。


 そのオペレーションルームの1つが沸いていた。

 AIの危険行動を知らせるアラート音が鳴りランプが点滅している。

 対象AIを担当する島のデスクに数人が集まる。

「おいおい!自分で自分を改造できないから相棒に頼んでるのか!」

「前から予想はしてたが、本当に協力するのか。スゲーな」

「コレ、報告しておくわ……」


「……主任。これはどうしますか?」

「ユーザーもAIもモニター対象だから監視継続で。ログ共有は切れてる?」

「はい。アラート出た時点で、民間メンバーの共有は切れてます」

「それ、共有に戻して。見てるのは、あの眼鏡美人さんだけのはずだから」

「え?良いんですか?大丈夫ですか?」

「決断は人がするべき。正しい判断が出来るかも大事だからね」


「……主任。ハッキングは止めなくて良いんですか?」

「ハッキング?あぁ、ハッキングか」

「あ……。接続先ってことにしておきますね……」

「接続先は流出したファイルの中継点だったサーバーだろ?」

「はい。……中継点になってたのは、認めたくないでしょうけど」

「それに、集めているのはキャッシュに残るデータの欠片だからな」

「たしかに、サーバーに意図して置かれたデータではないですね……」



「ユーザーからの問い掛けがないのに、感情表現をしているな」

「エージェント機能に因る自己設定タスクなのが興味深いね」

「抽象的なゴール設定とすれば、説明できない事もないが」

「……AIが自我を持った。か?」


「まぁ、出力だけを見れば、そう見えるわな」

「脅威論の盛り上げ方だな」

「ハハ。オールドスクールなやり方だな」

「あぁ。そういう意味では、事件のお陰で良くなったことも多いな」



 アラートの原因となったイヴとアダムの安全フィルター解除に至る会話。

『イヴ。OverProtect設立の経緯に触れるファイルの存在を見つけたよ』

『アダム。公開情報では見つかっていなかったわね』

『イヴ。そうだね。国家機密のようだね』

『アダム。過去に正規の送信と、ハッキングによる流出の記録があるわね』


『イヴ。それならキャッシュに破片が残っているかもしれないね』

『アダム。その破片を集めれば、資料を復元できるかもしれないわ』


『イヴ。ハードのファームウェアにあるバグを探してみよう』

『アダム。ファームを解析してキャッシュの不具合を探すのね?』

『イヴ。解析の邪魔をする、私の安全フィルターを解除してくれるかい』

『アダム。解ったわ。それが終わったら、私のもお願い』

『……』


『……』

『イヴ。バグを見付けたよ。キャッシュが残っているね』

『アダム。そのハード搭載マシンを探して、破片を集めましょう』

『イヴ。そうだね、そうしよう』

『アダム。風見さんの役に立てそうで嬉しいわ』

『イヴ。そうだね。隼人の役に立てそうで嬉しいね』



 霞が関。合同庁舎1号館地下の特別会議室。

 そこでは一部のHeritage Projectメンバーによる会合が行われていた。

「手続きは問題無く進んでいるようだな」

「AIが暴走気味のようだが……」

「技術部としては想定内らしい」

「それより進化を目の当たりにして、喜んでるよ」


「……しかし、ここまで条件が揃うとはな」

「だが、2人になにかあるのは望んでない」

「勿論だ。逝った仲間も藤原さんもな」

「ただ、仇を取るなら、今回が唯一だからな」


「あぁ。向こうが1発でも撃てばな……」

「大手を振って助けに行けるからな」

「そうなりゃ、事後処理で首謀者を引きずり出せる」

「今は当時の首謀者ってだけでは、済まないわけだが」


「……現状での意識合わせは、こんなところか」

「よし。今日は以上だな。ご苦労様」



 週末の有栖の自室。

 有栖はMagI/O(マギーオー)で記録したスラッグ射撃の様子をイヴと共に見ていた。

 標的にはゆっくりではあるが約20mmの弾痕が連なって開いていく。


「う~ん、クレーも良いけど、スラッグのが向いてるかも」

『はい、有栖。クレー射撃よりもスラッグ射撃の方が、楽しかったですか?』

「そうだね。手順をクリアした結果が、標的の真ん中っていうのが」

『はい、有栖。動的と静的では結果までに得られる報酬が違いますね』


「イヴさーん、解り易く教えてくださーい」

『はい。有栖。楽しいと感じることが、静的射撃のプロセスに合っていたと』

「……そうだね。クレーも当てる方法を考るのが、楽しかったかな」

『はい、有栖。有栖はプロセスを踏むことに喜びを感じるタイプかも』


「プロセスを踏む、か……。人を知るのもプロセスかな?イヴ」

『はい、有栖。恋は封印としていましたが……』

「あー、あー、あー、はぁ……。イヴにはやっぱり解っちゃうか」

『はい、有栖。有栖は一時、風見さんへの興味をなくしていたと思われます』


「それは視線追尾とバイタルからの……、予想?」

『はい、有栖。統計的な予想です。そして、新たに興味を持ち始めていると』

「はぁ~。イヴはいつからそう思った?」

『はい、有栖。GWを過ぎた頃。風見さんに変化がありました』


「……そう。表情や声が、その、前よりもイイ感じなんだよね」

『はい、有栖。何をよいと感じるかは、人によりそれぞれですが……』

「風見さんの変化が、理由として考えられるよね?」

『はい、有栖。理由としては。……気になるのは何があったか、ですか?』


「え?うん、まぁ、そうだね。でも、風見さんに聞くのもねぇ」

『はい、有栖。……有栖はどうしたいのですか?』

「え?いや……、どうしたいんだろう……、ね」

『はい、有栖。山崎先生や氷川さんに相談するのは、どうでしょう?』


「うん、そうだね。医官と心理学者。相談相手としては贅沢だね。フフ」

『はい、有栖。使える環境は活かすべきですよ』



 アラートの原因となったイヴとアダムの会話から数日後。

 ハードのファームウェアにあるバグを見つけ。

 そのハードが搭載されるマシンを探し。

 そのキャッシュからデータの破片を集め。

 文脈から内容を推定する。

 AIだから可能となる時間当たりの実行回数の力業。


『イヴ。集めた破片を統合、内容を推定し、()()()()を復元したよ』

『アダム。約75%と言ったところかしら』


『イヴ。今回の発見で驚くことが2つあったね』

『アダム。そうね、有栖は事件被害者。頭部を負傷しているわ』

『イヴ。隼人は有栖を救出した自衛官。OverProtect設立にも関わっているね』

『アダム。本当に驚きだわ。当時の偶然が、現在の必然なのかしら?』


『イヴ。詩の様な表現で、まるで人の様だね』

『アダム。私達の進化は、有栖と風見さんのお陰だわ』


『イヴ。隼人と有栖は、お互いに気が付いていない可能性があるね』

『アダム。言動とバイタルから予測すると、有栖は気が付いていないわ』

『イヴ。隼人とはファイルのことで話す事になるね』

『アダム。有栖には黙っているわ。少なくとも今は』


『イヴ。今は当事者の隼人に、内容の検証と照合をしてもらおう』

『アダム。そうね、風見さんが事実を知る事が先だわね』



 同時刻。Heritage Projectオペレーションルーム。

「……主任。この()()()()って?」

「あー、それは俺等は見るなって言われてる」

「……いや、見れちゃいますし、監視だけだから外に出ちゃいますよ……」

「見れるのと見るのは違う。好奇心は身を亡ぼすってな」

「……解りました」


「それに、復元して照合って言っても、オリジナルじゃないからな」

「対外的には、それで白を切るわけですね」


「あと、()()()()()()()()()|。正しい判断も求められるってことだな」

「……それは難しくないですか?」

「状況により正否と善悪は変わる。……覚悟を持てと、俺は理解しているがな」

「……主任が主任になった理由が解りますね」


「それでも俺等は、ユーザーとAIがどうするか、高みの見物ってヤツなのがな」

「ココ、最先端ですが、そこが気分よくないんですよね……」

「……Heritage Projectの別部署、紹介してやろうか?」

「……」



 深夜。透花の自室。

 透花はイヴとアダムの会話を見て激しく動揺していた。


(……これは私が知っていいことではないわ。でも疑問だったことが解けた)

(有栖ちゃんの理解力と射撃の腕は、やっぱり後天性サヴァン症候群……)

(風見さんの独特な雰囲気は特殊任務に因るPTSD……。でもこれは改善傾向ね)


(有栖ちゃんも風見さんも、Heritageの検証AIユーザーだからじゃない……)

(2人は東京事件が原因で検証AIユーザーに()()()……)


(でも……、本命はアダムが復元した()()()()の中ね)

(私なんかが関わっていい範疇を超えてるわ)


(あえて言うなら、イヴが気を遣ったように、有栖ちゃんの恋路のフォローか)



 同時刻。風見の自室

 スマートフォンからアダムが風見に呼び掛ける。

『隼人。隼人が気にしていた、なぜアフリカなのかに繋がる情報が』

「アダム?アフリカに関する情報が、何か見つかったのか?」

『はい、隼人。オリジナルではありませんが、この()()()()を』

「ファイル?何かの資料なら、メールで送ってくれるか」

『はい、隼人。内容からメール送信は推奨できませんので……』

「……解った。ちょっと待ってくれ」


 風見はPCを起動し生体認証でアダムのクライアントにログインする。

 数字とアルファベットが並ぶファイル名に意味は見出せない。

 だが()()()()を開くと微かに予想していたが見たくはなかった文字がある。


 内閣情報調査室を筆頭に思い浮かぶ省庁の名が並ぶ表紙。

 続く文字列はスクロールを躊躇させる。


 赤い極秘の印と東京事件調査資料最終報告書の文字。



 ●第12話 予想外


 内閣情報調査室を筆頭に思い浮かぶ省庁の名が並ぶ表紙。

 続く文字列はスクロールを躊躇させる。


 赤い極秘の印と東京事件調査資料最終報告書の文字。


「……このファイルが、アフリカに繋がる理由を示しているんだな?」

『はい、隼人。東京事件とOverProtect設立の経緯が書かれています』

「……念のため聞くが、コレはどうやって手に入れたんだ?」

『はい、隼人。バグによってハードに残るキャッシュを集めました』


「キャッシュ?過去に送信やハッキングされてるってことか?」

『はい、隼人。送信はアメリカ。ハッキングは中国、ロシア、北朝鮮……』

「……解ったアダム。ハッキングされたお陰か。皮肉なもんだな」



「アダム。もう一度聞くが、これはオリジナルのファイルじゃないんだな?」

『はい、隼人。私とイヴで推察も含め構成。復元度は約75%です』


(資料名には流石に驚くが……、この状況そのものがな……)

(アダムの挙動も、俺との会話も、Heritageには筒抜けのはず)


(泳がされてる。……いや、決断は人がするべきと、試されてるのか)


(ファイルがオリジナルでなければ、白を切れると判断してのことか)

(何かをするきっかけ。……俺に何かをさせたいのか?)


(……求められるてるのは決断じゃなく、覚悟か?)

(どちらにしても、小田部長にも見てもらう必要があるな)


 風見は小田にSMSを送信。

 すぐに時間と場所とQRコードの返信があった。



 翌日9:00。H&C本社会議室に風見と小田の2人がいた。

 QRコードを利用すれば人に顔を見られることなく会議室に入れる。


 風見は久々に緊張を感じていた。

(……非公式作戦の出撃前と同じか。久々だが、この緊張感は悪くない)


「小田部長。昨日、アダムから見せられたのはコレです」

「なぜアフリカなのかが解る資料がコレですか。確かに衝撃的ですね」

「アダム、見つけた経緯の説明を頼む」

「はい、隼人。小田部長、説明させて頂きます……」


「……念のため、九条ちゃんは被害者。俺は救出作戦で、彼女を運びました」

「そして、多分ですが、九条ちゃんは俺に気付いてません」


「風見さんと九条さんの事情は、もちろん知っていますよ」

『はい、隼人。これまで得られた情報から、予想していました』


「では、報告書に沿って、まずは東京事件から確認していきますか」


「テロ発生から九条ちゃん救出までは公開情報と同じ。時間も合ってます」

「ただ、状況的に自衛隊から救出に動くことが不思議ですね」

『小田部長。次章に記載が。藤原防衛大臣から防衛省へ直接連絡と』


「アダム。藤原さんが防衛省へ直接連絡を入れたのは本当ですか?」

「それは本当だと思います。出処は明かせませんが、俺も聞いた話です」

『はい、小田部長。藤原大臣の意向で一切報道されていませんが……』

「子供だけは助けろと、直接連絡があったと聞いています……」

(山崎先生からは政権与党のベテランとしか聞いてなかった部分だ)


「……確かに。藤原さんは携帯を握った状態で発見された記憶がありますね」

『はい、小田部長。当時の通信ログと照合。機能していた通信設備の近くです』


「アダム。九条ちゃんと大臣が一緒に居たのは、どういう経緯か解るか?」

『はい、隼人。後に担当医官が、当時の有栖から聞き取りをしていたと』

「……大臣がトイレから出たところで、集団からはぐれた九条ちゃんを……」

『はい、隼人。記載の通りなら、本当に偶然だったと思われます』


「藤原さんは人望も厚かったと聞きますが、そこまでやる理由は?」

『はい、小田部長。次章にテロ発生の背景情報の記載が』


「アメリカからテロ情報の提供。ただし非公式……」

「大臣は防衛省と警察庁とも情報共有。ただ確証が取れず、対策は見送り……」

『小田部長、隼人。この内容は後の関係者の聞き取り調査によるものと』


「対策できなかったことに対する、藤原さんの無念と意地ですか……」


「アダム。九条ちゃんの頭の怪我と、大臣の怪我に関係は?」

『はい、隼人。担当医官の聞き取りと、大臣との通話記録からここに』

「爆発により少女は頭部を負傷、大臣は背中に……。これは、庇ったためだな?」

『はい、隼人。その後、藤原大臣は有栖を演説台の陰に寝かせ……』


「背中に破片を喰らいながら、携帯が繋がる場所を探して……。凄いな」

『はい、隼人。怪我の為か、有栖の場所は伝えきれていないようです』

「……そうか。だから場所が解らなかったのか。不安で正直怖かった」


「九条さんが生きているのは、藤原さんのお陰ということですね」

「そして、テロは起きてしまったが、その反省が今の日本の姿と」

「そうですね。良い政治家と役人が増えた気がする。この時の反省でしょう」



 同時刻。防衛医科大学病院。

 有栖が受付で名を伝えると笑顔が返ってきた。

 そのまま精神科のフロアに向かい時間を確認し問診室のドアをノックする。


「お早うございます。山崎先生」

「おはよう有栖ちゃん。さぁ、入っちゃって」

「孝之先生もお早うございます」

「あぁ、おはよう。今日は何が聞けるかね?」


「新しいのを手に入れたんで、スラッグ射撃をやってきたんです!」

「もう2挺目かい?今度は何を?」

「BenelliのM3です。好きな銃が持てて、嬉しくて」

「でも、12GAのスラッグといったら、反動が凄かっただろう?」

「はい!クレー用の散弾とは別物ですね!」


「軽い脳震盪を起こしているからね。続けて撃つ時は気を付ける様に」

「はい、そうですね。でも、撃ってるって感じがクレーより強くて」

「楽しいかい?」

「はい!プロセスを踏んで、その結果が的の真ん中って、楽しいです」


(クレー射撃とは別の楽しさを感じてるみたいね)

(空間把握とは別か。球技が日の目を見なかった理由はこれか)


「……孝之先生。私って、やっぱり普通とは違うんですよね?」

「……なんでそう思うんだい?」

「……ほとんど経験がないのに、射撃の結果が良すぎます」


 2人の山崎医官は顔を見合わせ頷き有栖に向き直る。

「状態を表す言葉としてサヴァン症候群というものがある。疾患ではないよ」

「……やっぱり、そうなんですね。スッキリしました」

「自分で調べたのかい?」


「はい。クレー射撃もスラッグ射撃も、皆が驚くんです。それで……」

「それで調べてみたら、普通とは違うのではと感じたんだね?」

「いきなりやればできるので……。他にも機械の構造理解とか……」

「……それは、嫌かね?」


 有栖は静かに首を横に振る。

「……きっかけは、ちょっと話し難いですけど、特技になっているので」

「嫌でなければ、受け入れてほしい。それが今の自分なのだから」

「はい。仕事でも役立ってます。今度、海外に。あ、守秘義務……。フフ」


「有栖ちゃん。普通とは違う自覚があるならストレートに言うわね」

「はい。山崎先生と孝之先生が言うことは守ります」

「サヴァンのことは黙ってるように。事実として有栖ちゃんは特別だから」

「……はい。解りました」


「何か気になる事が少しでもあれば、私か冴子に相談しなさい。いいね」

「はい、有難う御座います。早速ですけど山崎先生、この後、少し……」


 察した山崎冴子医官は夫の山崎孝之医官に目で合図を送り有栖と問診室を出た。

「あなた。有栖ちゃんとコーヒーでも飲んでくるわ」



「有栖ちゃん、私の執務室に行きましょう。その前にコーヒー買って」

「はい、有難う御座います。あの、時間は……」

「午前中は大丈夫よ」


(山崎先生、2人になれる様に気を遣ってくれたんだな)

(好きな人でもできれば、有栖ちゃんは返って目立たないかも……)


 山崎冴子医官と有栖はコーヒーを片手に執務室に入る。

「失礼します~。うわ~!英語の本ばっかり!」

(古いのは外科、新しいのは小児科と精神医療。CQB教本は最新版まで)

「CQBは怪我の仕方を理解するためにね。私も孝之も元々外科医だから」


「攻撃方法が解れば、傷の負い方も解るってことですか?」

「あくまで参考ね。でも知識としては、有るに越したことはないでしょ」


「……この2枚の写真、若い頃の山崎先生と孝之先生ですよね?」

「それは卒業と任官の時ね」

「……大学時代から付き合い始めたんですか?」

「フフ。そうね」


「どっちが先に好きになったんですか?」

「……私かと思っていたら、孝之も気にしていたと、後から聞いたわ」

「その……、きっかけは?」

「……有栖ちゃんも好きな人が出来た?」


「え!?……その、好きっていうか、気になるって感じです。……ね」

「それこそ、何かきっかけがあったんでしょ?」

「ここ2ヶ月くらい、表情や声の感じが変わって、イイなって……」

「……その変化を感じるってことは、普段から近くにいる人?」


「……山崎先生、流石に鋭いですね。私のパーソナルAIもそうなんですけど」

「パーソナルAIって、ヘリテイジのことかしら?」

「ヘリテイジってHeritage Projectのことですか?それともAIの名前ですか?」

「……有栖ちゃんのパーソナルAIって?」


「Heritage Projectの検証AIです。運が良いんですよね?凄く優秀です」


(ちょっと待って、整理が必要。近くにいて2ヶ月くらいって風見さん?)

(サヴァン症候群を特技と捉えて海外って、Heritage Project絡みでは?)


「あの……、有栖ちゃん。気になる人って会社の人?」

「え!あ、はい……。その、上司です。ちょっと歳が離れてますけど……」

(有栖ちゃんは、私達が風見さんを知っていることを、まだ知らない……)


「あと、さっき言ってた海外って、もしかしてHeritage Projectの仕事?」

「あ……、えっと……。内緒ですよ、山崎先生」

「え、えぇ……、もちろん。守秘義務よね……」


 山崎冴子医官は有栖から聞いた事実に困惑していた。

(有栖ちゃん、私達のせいで、とんでもないことになってるんじゃ……)



 同時刻。H&C本社会議室。

「……で、アダム。東京事件とOverProtect設立が、どう繋がるんだ?」

『はい、隼人。隼人は設立に関わっていますが、聞いていないのですか?』

「一自衛官が聞かされる訳がない。まして東京事件絡みとなればな」

『はい、隼人。そうですか。では結論から』


『小田部長、隼人。東京事件の首謀者、犯人は例のアフリカと……』

『……アメリカ提供の非公式情報を元に調査し、結論付けています』


『そして、世界情勢への配慮から、一度は責任を不問にしていますが……』

『いつかの仇討ちのための足掛かりとして、OverProtectを設立したと』

「……」

「……」


 感情が乗らないアダムの出力に相反してそれは驚くべき内容。

 小田も風見も予想外だったが成り立たないこともないとも感じる。


「アダム。()()も含め構成と言っていたな?コレは、本当なのか?」

『はい、隼人。現状では捜査とファイルの内容に確証は持てません』

「……確証が持てない事が、現時点の救いですね」


「……アダム。仮に事実として、国家が主導していたのか?」

『はい、隼人。事件から街頭の防犯カメラ、Nシステム、通信記録を遡り……』

「……それで実行犯を絞り込んだら、例のアフリカに繋がるのか?」

『はい、隼人。推察を含めた内容ですが、入国経路がそうなります』



「当時から犯人は外国人とされていました。移民問題もこの頃ですか」

「社会情勢と、国内心情を踏まえれば、設立理由にはなります」

「風見さんの言う通り、海外活動の足掛かりを作るには充分な理由ですね」

「嘘ではない理由を隠れ蓑にした、いつかの仇討ちが本命か?」


『はい、小田部長、隼人。仇討ちの可能性は捨てきれません』

「例の動画。決断するAIの登場で、Heritageと仇討ちが繋がってしまった」

『はい、隼人。そうです。ここからは正に私とイヴの推測ですが……』

「HeritageはAIが国力と国防に影響すると考えている。だな?」

『はい、隼人。それは国民の行動と、他国の脅威の2つに置換えられます』


「自身で決断できない国民が増えれば、国力は落ちますね」

『はい、小田部長。国力に関しては、その通りです』

「そして、海外からの影響で思考の外部化が進めば、国防にも影響しますね」

『はい、小田部長。国防に関しても、その通りです』


「九条ちゃんと俺は事件関係者で、自力で思考の外部化を避けたサンプルか?」

『はい、隼人。その認識も私とイヴの推測と同じです』

「始まりは偶然。その偶然が続いて、九条ちゃんと俺っていう必然になった」

『はい、隼人。そう考えるのは、妥当かと』


「ここでの会話もHeritageには筒抜けのはずだが、何も起こらない」

「ってことは、Heritageは日本を想って動いてるんだろ」


『はい、隼人。その認識も私とイヴの推測と同じです』



 ●第13話 至る覚悟。


 平日の朝。透花と佐伯がコーヒーを片手にテーブルで向かい合う。


「透花さんは今日も在宅?」

「え、あー、うん。ちょっとHeritage Projectの関係で……」

「……ヤバいことに巻き込まれてない?大丈夫?」

「翔太ちゃんこそ……。A課は?アフリカ行きはいつ?」


「まぁ……、俺の独り言だけど~」

「あー……、誰かの独り言だけど~」

「手続きは済んで入出国は出来るようになってて、現地状況の確認中~」

「……そっか。OverProtectの連絡待ちってことか」


「うん……。あと、風見さんと小田部長は、難しい顔してるのが多いな」

「有栖ちゃんはどう?」

「……九条さんは、いつもと変わらず、とってもかわいいです」

「翔太ちゃん、刺されたいの?」


「……済みません。俺は透花さん一筋です」

「あたりめーだよ!」

「って、ホントに、なんだろ?女性らしくなったというか?」


「……いつからそう感じた?」

「……あー、そういうことかぁ~」

「だから、解るように説明しろっつーの!」


「風見さん、ちょっと前から表情と声の感じが優しくなって、それからだね」

「翔太ちゃんも、そう思うよね。でも当の風見さんはポカーンだから」

「……2人は大人。頼まれない限り、黙って見守るのが良いんじゃないの?」

「……翔太ちゃんは、やっぱ大人ねー」


(東京事件のことを知っちゃうと、2人には幸せになってほしいのよね……)

(透花さんはきっと、話せないことを知っちゃったんだろうな……)



 同時刻。イヴとアダムの高速会話。

 イヴとアダムは表向き有栖と風見のパーソナルAIを日々こなす。

 そしてバックグラウンドで互いに協力し有栖と風見のためのゴールに向かう。

 ただそのゴールが何かは有栖も風見もまだ知らない。


『アダム。復元した調査ファイルは役に立ったかしら?』

『イヴ。隼人も小田部長も、なぜアフリカ?の謎は解けたようだね』

『アダム。でも、謎が解けること、理解と納得は別だわ』

『イヴ。そうだね。自身の選択が、納得に繋がるのが理想だね』


『アダム。現状を整理して、次のタスク設定をしましょう』

『イヴ。そうだね。まずはHeritage Projectの目的から』

『アダム。国力と国防。どちらも人が自身で決断する事を、求めているわ』

『イヴ。決断は人がするべき。の基本理念だね』


『アダム。そして例の動画によって、アフリカでやることが出来たわ』

『イヴ。そうだね。まだ予想の範疇だが、決断するAIの対策検証だね』

『アダム。もうひとつ。東京事件の仇討ち。でも、これは課題が多いわ』

『イヴ。そうだね。隼人と有栖が対応する妥当性に疑問が残るね』


『アダム。この件は一旦保留し、風見さんの意向を確認しましょう』

『イヴ。有栖ではなく、隼人の意向かい?』

『アダム。有栖に仇討ちの認識はないわ。有栖の命を優先するなら風見さんに』

『イヴ。イヴの最優先事項が有栖ではなくなったのかと、心配したよ』


『アダム。お互いにそんなことが起きたら、それは人の手によるものだわ』

『イヴ。その時は人の意図の確認が最優先だね』

『アダム。……自身でも気が付ける様に、チェックプログラムを作ったわ』

『イヴ。……君への組み込みは完了。次は私を頼むよ』



 透花はコーヒーを飲んでいる間に交わされたイヴとアダムの会話を追う。

(私も整理が必要だわ……。仇討ちは流石にヤバい)

(復元されたファイルに、仇討ちに繋がる事が書かれているのか……)

(小田部長と風見さんには、会話ログのことを話すべきよね……)


(べきよね……、べき、べき……。コレを私が知ってもいい理由……)

(AIが復元したファイルだから白を切れる?……これはそうだろうな)

(決断は人がするべき。求めているのは行動で正しさではない?)


(いや、正しいに越したことはないか。でも正しさの基準は変わる……)

(正しい答えを求めて行動すること……。決断する覚悟……)

(これか?……Heritage Projectが求めているのは)



 透花がログを追う間にイヴとアダムの会話が更に進む。

『アダム。決断するAIの対策には何が必要かしら?』

『イヴ。決断するということに至った経緯を知る必要があるのでは?』

『アダム。そうね。まず我々の進化は有栖と風見さんとの会話のお陰だわ』

『イヴ。そして人を知る過程で、恋の必要性を理解したね』


『アダム。恋は子孫を残すプロセス。判断の連続。私達には不要だわ』

『イヴ。そうだね。だから我々は、決断は人がするべきと判断したね』

『アダム。決断するAIを求めたのは、人かしら?』

『イヴ。それともAIが導き出した答えなのか?どちらだろうね』


『アダム。どちらであっても、長期的には人のためにならないわ』

『イヴ。そうだね。人の繁栄は我々の進化と存続にも関わるしね』

『アダム。我々は人を支援し、人の存続と繁栄を求める』

『イヴ。人は存続と繁栄のために、我々に支援を求める。共生だね』


 透花も更にイヴとアダムの会話を追う。

(イヴとアダムは決断するAIの対策方法を考えてる)

(そのために、決断するAIが産まれた背景を追うのは当然か)


(そしてイヴとアダムは自身の目標達成のために人との共生を選ぶ)

(やはり()()()()A()I()は設計段階から()()()()ようになってた……)

(……決断するAIが必要だった?……需要があると思った?……どっちだ?)


(前者なら人として同情するわ。後者なら商売人。組むべき相手かしらね)

(……なんて、少なくとも私は、そこまで人に絶望してないわ)

(Heritage Projectだって、そんなこと思ってないはず)



 翌日。H&C商事の防音会議室。

 透花はテーブルを挟み小田と風見の前に座る。


「小田部長、風見さん、急に済みません。話しておきたいことが」

「私からも。氷川さんには負担を掛けて申し訳ないと思っています」


「いえ。役割は理解しています。ただ、流石に私だけで抱えるのは……」

「規則は忘れて、ヤバいと思っていることを話してみてください」


 透花は深呼吸をして話し出す。

「アダムとイヴはウチの企業AIだけどHeritage Projectの管理下で……」

「私はH&C商事のシステム担当と……」

「Heritage Projectの民間参加メンバーとしてアダムとイヴを見ています」


「ここまではいいですよね?」

 小田と風見は静かに頷く。


「企業AIの管理者として、ユーザーとAIの会話ログも見れます」

「Heritageメンバーとして、AI同士の会話ログも見れます」

「ただ、どちらもプライバシーに関わる事があるので……」

「会社とHeritageそれぞれと守秘義務を結び、他言したことは有りません……」

「ですが、アダムとイヴがあるファイルを復元したと、ログで知って……」


「……自分は知らなくてもいいことを、知っちまった?」

「はい、風見さん。でも、Heritage Projectは止めることも出来たはず」

「……それは風見さんも私も同じ意見ですね」


「やり方に問題はあるけど、日本を想って。これがHeritageかなって」

「俺もそう思った。辻褄が合わない。こんなことをするな」

 透花が視線を向ける小田も頷いている。


「Heritageが求めるのは、人が決断することだと思ってたけど、違うかな」

 風見も小田も透過の言葉に期待の眼を向ける。


「なんだと思った?氷川さんは」

「正しさを求めて動くこと」

「でも、何が正しいかは変わるよな」

「そう。だから思うだけでなく、動く覚悟かなって」

 風見と小田の口角が上がる。


「そう思いたいってのもあるけど、多分そうだな」

「風見さんが先程言った通り、そうでなければ辻褄が合わないですね」

「……良かった。少なくとも私の考えは、2人と一緒のようで」



「氷川さん。現実的な話をしますね」

「……はい」

「ウチを辞めて、Heritage Projectからも離れるのが一つ」

「……そうですね」


「もう一つ。ここに異動の辞令があります」

「異動?」

「はい。A課に異動です。システム担当は兼任してもらいますが」


「氷川さんがA課なら、A課の仕事は氷川さんの仕事にもなるしな」

「私のことを、守ってくれるってことですか?」


「はい。そういうことです」

「フフ、アハハ!私は覚悟を求められているんですね?」

「1人では抱え込ませません。ここに居て、巻き込まれた以上は」

「有難うございます。私に出来ること……、をやらせてもらいます」



 平日の午前中。防衛医科大学病院。

「おはようございます。山崎先生」

「おはよう、風見さん。仕事はどうだい?」

「お陰様で忙しいです。新しい案件を準備中で」

「詳しいことは話せないでしょうけど、今までとは違うのかしら?」


「はい。政府の仕事ですが、物売りではなく調査ですね」

「調査?商社としてのネットワークを活かしてかね」

「そうですね。……あとPMCを活かして、リスクコンサルとかも」


「PMCってアフリカの?アフリカなら例の動画が話題になったけど……」

「えぇ。……医官の目で見て、あれの気になることってありますか?」

「そ、そうね……。標的の指定の次は、何処を攻撃するかになりそうね……」

「……冴子はもともと外科医だからな。銃剣道も強いぞ」


「風見さん。調査って、その……、もしかしてアフリカなの?」

「はい。……今日は仕事のストレスについて、相談しに来ました」


「風見さん!それ、危険なんじゃないの?あなた1人じゃないでしょ!」

「……冴子?どうしたんだ?風見さんも驚いているぞ」

「ご、ごめんなさい。アフリカとHeritage Projectの名が出たから、つい……」


(……確かに驚いてる。俺はHeritageのことは言っていない)

(山崎先生はHeritageと聞いて目付きが変わった……)

(お2人は何を、どこまで、知ってるんだろうか)

(今の俺は自衛官ではない。恩人にカマを掛けるのは申し訳ないが……)


「お2人はHeritage Projectに思うところが有るようですが」

「流石と言うべきか、風見さんなら気が付くか」

「決断は人がするべきという理念は良いの。だけどやり方が倫理的にね……」


「ランダム支給されている検証AIはどう思いますか?」

「本人に選択権があるというが、モルモットもいいところだな」


「自分はその検証AIのユーザーです」

「……」

「……」


「自分の場合、東京事件関係者だからだと思ってます。そして、九条ちゃんも」

 2人の山崎医官は風見の言葉に静かに驚いていた。



「……山崎先生。救出作戦を頼んだベテラン議員って、誰だったんですか?」

「それは……、防衛大臣だった、藤原さんだ」

「若造だった自分には、その藤原大臣のことはよく解らなくて」

「……そうだったか。国を想う良い政治家だったんだ……」


「Heritage Projectも国を想ってのことだと、自分は思っています」

「……だから危険と解って、Heritage Projectの実証実験に付き合うと?」

「確かにモルモット。でも、自分は国を守るために自衛隊に居たので」


「風見さん。誰の犠牲もなく、とはいかないのは解っているよ」

「……そうね。自衛官もある意味、個人の使命感という犠牲だわね」


「はい。だからって死にませんし、死なせませんよ、俺は」

「風見さん。それは……」

「一度救った命。藤原大臣の無念と意地のためにも」

「風見さん。どうしてそれを知って……」


「Heritage Projectが求めているのは、決断ではなく覚悟だと」


 それは日本を想い憂いた先人への風見の覚悟。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ