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第10話 狙点を追って。

「だから慎重に。でも、Heritage Projectの意向でしょ、アフリカ行き」


 透花の言葉に有栖は少し考え口にする。

「その……、例の動画のAIにイヴとアダムを接触させるのが目的?」

「例の動画のAIね、仮に()()()()A()I()と呼ぶと解り易いわー」

「支援ではなく決断……、ヤバい感じが増しますね」


「風見さんはアダムの言葉で印象的なの、あったでしょ?」

「決断は人がするべきと言ってたな。俺もそう思う」

「それ、Heritage Projectが再始動した時から謳っている理念よ」


「え?そうなんですか?当たり前、ですよね……」

「公開情報でWebサイトにも書いてあるわ。見付け難いけど」

「2020年代中盤の生成AIブームの反省か」

「そう。思考の外部化って、聞いたことあるでしょー」


「大学の講義で。ロジカルシンキングの話しでしたけど」

「学術的な本来の意味とは違うかもだけどー、AI論で言うと脅威のほうね」

「人が考えなくなる。ってヤツだな」

「それー。結果の外部化は良いの。AI以前の技術で、思考は常に人ね」


「結果の外部化?……例えば電話とか?」

「有栖ちゃん、流石!電話は距離を補うけど、話すのは人でしょ」

「AIは違う。考えることを任せちまって、結果しか得ない」


「……気を付けます」

「アハハ。有栖ちゃんは違うでしょ。でも、バカになるだけって言われるわー」

「解り易いだけに、ノーフューチャーですね……」

「そうなの。だから直接接触して、説得できるか試したいんでしょうね」


「……アナログですけど、場所と使われ方から、そういうことですよね」

「少なくとも戦闘中は、スタンドアロンで稼働してるはずねー」

「ついでに、専用のハイスペック機器で動いているだろうな」

「……だからユーザーの風見さんと有栖ちゃんが、アダムとイヴを支えるのよ」


「それだけとは思えませんが、風見さんと私が行く理由ですね」

「……そうだな。済まないな九条ちゃん。でも護衛のOverProtectは精鋭揃いだ」

「H&C商事の子会社ですから、本当にそうなんですよね」



「さて、美味いコーヒーも飲めた。確認も済んだ。戻るか」

「はい、そうですね。コーヒー、ごちそうさまです」


「風見さん。ちょっと別件で相談があるの」


 透花の言葉に有栖は察した。

「風見さん、電話入れる時間なので先に戻ってますね」

「あぁ。急に悪かったね」

 有栖はハンドサインを返し席を離れた。


 透花が口を開くよりも先に風見が話す。

「……氷川さん。アフリカに行くのは、今のところ俺と九条ちゃんだけだよ」

「え?……う、うん……」

「氷川さんには助けられてるけど、ウチとHeritageを離れるのも手じゃ?」

「……風見さん、知ってるの?」

「いや。そうかな?って思ってるだけ。距離感って難しいじゃーん」


「アハハ。風見さんは変わったわね。自覚あるんでしょ」

「……あぁ。前よりも、よく見えて、良く聞こえる」

「それは、自分に向けられる想いも?」


「……さぁね」



 霞が関、外務省のアフリカ第二課は沸いていた。

「今、大使館から連絡が。先方外務大臣のサイン入り()()()()()が届いたと」

「よし、受け取りに行くぞ。直ぐに大使に連絡入れて!あと、経産省にも!」


「はい!経産省には連絡済みです!報告は……」

「……いや、経産省案件だ。報告は経産省からしてもらおう」

「承知しました。……無事に、出てしまいましたね」

「あぁ。あとは、正規の調整事だけで済んでくれればな」



「……高城、那知だ。お疲れさん」

「……」

「あぁ。今、アフリカ二課の担当と課長補佐が、大使館に取りに行ってる」

「……」

「確認が済んだら、直ぐに関係各所に連絡が行くだろう」

「……」

「あぁ。準備はしっかりな」


(後戻りできない。言い出しっぺは何を望んでやがんだろうな?)



 目黒、アフリカ某国大使館。

 外務省アフリカ第二課の担当者とその上役が入国書類を受け取りに来た。

 応接室は質素で飾り気はないがソファーとローテーブルは高級品と解る。


「大使。この度は尽力頂き、感謝致します」

「いえ。良くない状況の我が国に対し、関心を持って頂き、こちらこそ感謝を」

「早速で申し訳ありませんが、書類を確認させて頂けますでしょうか」

「勿論です。これが両国にとって、明るい未来の始まりになれば」


 外務省職員の2人は日本語で書かれたチェックシートを片手に確認を進める。

(今更これが本物かどうか疑っても仕方ないが……、サインは合ってる)

(入国名目、対象者、期間、地域、行動範囲、護衛や機材の付随事項……)

 2人でダブルチェックを済ませ大使に頭を下げる。


「有難う御座います。確かに受け取りました」

「実施日程や移動ルートなどは、改めて調整させて頂きたく……」

「えぇ。具体的な調整は今後も密に」


「……私は自国の状態だけでなく、現在の支援国にも思うことが」

 大使の突然の言葉。


 驚きを隠せない大使秘書。

 外務省職員には大使を信頼するか警戒するかの選択が瞬時に求められる。

「……大使?その、どうかされましたか?」

「……申し訳ない。困らせる意図はありません。正直な思いです」

「……いえ。大使のご心労は、我々には測りかねますので……」


「国に仕える1人として、純粋に国を思うものです」

「……日本は主権を脅かす事も、資源を独占する事もありません」


「はい。解っています。ですから今回の申し出は何とかしたいのです」

(我々が日本にした事の贖罪になるか。それとも我々への復讐なのか)



 同時刻のH&C商事オフィス。

 那知との電話を切った高城は直ぐに風見に報告する。


「風見さん。今、那知さんから。書類が発行されて取りに行ってるそうです」

「そうか。次に進むためのキーアイテムは目の前か」



 翌日の始業時間。H&C商事オフィス。

 小田と風見には経産省の竹田から深夜に届いたメールがあった。

 小田は直ぐにスケジュールを確認し打合せを設定する。


「小田部長。打合せは承知です」

「はい、風見さん。直ぐに神谷さんか竹田さんから電話が……」

 小田が言い掛けたところで着信が入った。


「はい、小田です。お早う御座います、神谷さん。えぇ、見ています」

「……」

「はい。調査内容について、対面でお打ち合わせをしましょう」

「……」

「はい。それでは日時と場所はメールにて。はい、失礼致します」

「……」


「風見さん。神谷さん達との打合せの前に、私達の認識を整理しましょう」

「はい。言質を取ると、後戻りできなくなることも多いので」

「そうですね。神谷さん達のところで止まれば、逃げれますが」

「でも、それじゃあ国の意向に応えてない」


「そうですね。でも安易に命を掛けてはダメです」

「小田部長。この件は少し時間を掛けましょう」

「えぇ、そうしましょう。風見さんも私も、覚悟の為の時間が必要ですね」



 昼前の防音会議室。

 小田、風見、有栖の3人が揃う。


「九条さん。経産省から入国書類が発行されたと連絡がありました」

「いよいよですね。いつ行くことになるんですか?」

「九条ちゃん。俺等の想定だが、やる事と行く理由は理解してるよな?」

「はい。このあいだ透花さんと話したことですよね?」


「あぁ。OverProtectが護衛に付くが、危険だな」

「え、えぇ。まぁ……」

「国の役には立ちたいが、無茶は良くないからな」

「……そうですね。私達は軍隊ではありませんから」


「風見さんと私で色々と整理して、経産省と調整します」

「スッキリしないだろうが、少し待っててくれないか、九条ちゃん」

「覚悟が決まっていたならば、済まないね。九条さん」

「い、いえ……。小田部長も風見さんも、私より責任があるので……」

「……それでは、この場は以上ですね」


「……九条ちゃん。東条さんと翔太を誘って、撃ちに行くか。気分転換だ」

「はい!そうですね。そうしましょう!」


(ダラダラできないが、整ってるのにアフリカである理由が見えてこない)

(アフリカである理由。かなり大きなことの気がしますね……)



 S4

 ランチ前は少し落ち着かなくなる執務室。

 風見と有栖が会議室から戻り佐伯に声を掛ける。


「翔太。高城は?」

「那知さんのとこに行ってくるって、ついさっき出て行きましたよ~」

「そうか。翔太、次の土曜日に撃ちに行かないか?」

「お、イイっすねぇ~。九条さんも行けるの~?」


「はい!もちろん行きます!」

「そういえばM3は?」

「フッフッフッ。実は先週の半休で確認、終わらせてきたんです」


「九条ちゃんもBenelliユーザーか。バレルは?」

「20inのスラッグ用と、チョーク交換できるリブバレルの2本あります!」

「そうか。なら社食で射撃会の計画会議とするか」

「じゃ、直ぐに移動です!」

「九条さん。少しは元気になったみたいね~」

「……」

「……」



 週末の早朝。

 コンビニの前に立つ佐伯と透花。

 2人は向かいに停まった少し古いBMWに視線を奪われる。

「お!赤いE30カブリオレなんて透花さんの趣味だよね~」

「欲しいけど、とても手が出る値段じゃないわー」


 左ハンドルの運転席から背を伸ばし有栖が2人に手を振る。

「おふたりともー!おまたせしましたー!」

「え!九条さん!」

「え!有栖ちゃん!」


「九条さん!親父さんのE30 って、もしかしてコレ?」

「はい、そうです。日差しが強くないので屋根開けてきました!」

「有栖ちゃん。よく運転するの?」

「はい。今はこの1台しかないので」


(美人が運転するとスゴさに磨きが掛かるな。透花さんにも似合いそう……)

(美形の有栖ちゃんがコレ運転してトランクに散弾銃って……。デキ過ぎだわ!)


「さあ今日は、風見さんのライフルが見れるので、急ぎましょう!」



 ライフルレンジ近くの駐車場奥に東条のJaguarを見付け隣に停める。

「おはようございます!東条さん、風見さん」

「おはよう。……2ℓ直6はBMWの1つの究極だね。親父さんの趣味かい?」

「はい。父さんが大事にしてる車で。でも走らせてこそ車だと」

(東条さんもXJ-12を大事にしてる。……風見さんはどうなんだろ?)


「左ハンドルのBMWか。親父さん、大事にしてるんだな」

「はい。コレだけは手放さずにいます。維持費は高いんですけどね」

「コレ、楽しいだろ?九条ちゃんも維持費を負担すれば、親父さん喜ぶんじゃ」

「そうですね、私も好きだし。特にエンジンの回ってる感が」



 受付を済ませ必要な装弾を購入しMagI/Oの利用にも許可をとる。

 レンジのガンラックにはM700、M1、2挺のM3が並ぶ。


「翔太も九条ちゃんも初スラッグだから、反動にきっと驚くわ」

「そんなに凄いんですか?」

「.308Winなんかより強烈だな。20発も撃てば、もういいやってなるぞ」

「風見さんが言うならそうなんですよね。とにかく慣れないと」


「まずサイトが合ってるか確認な。そのレスト使っていいから」

「構えるのメッチャ楽~。ゼロインには必須っすねぇ」

「銃が安定しないと、ゼロインなんて取れないからな」

「人に依存する部分を排除~っと」


「で、撃つ前にそのチューブのグリスを、弾頭に塗っておきな」

「コレは何のためですか?」

「バレルの鉛付着防止。それやらないと掃除が大変だからな」

「射撃の時だけで、狩猟ではやらないですよね?」

「あぁ。グリスが混ざった肉は食いたくないだろ」


「じゃ、的を貼りに行くか。まずは50mな。東条さん、見ててもらえますか」

「OK。九条さん。私の的も貼ってきてくれるかな」

「はい!承知です!」


 慣れた風見が端的に指導する。

 仕事と同じように有栖も佐伯も淡々とこなす。

「氷川さん。こういう時にも、A課の強さが出るもんだね」

「やる事、目的、理由を最小限で共有してる。良いチームですねー」

「氷川さんもそう思う?あと、風見さんが前より少し、……人らしくなったね」


 的を貼り戻った有栖と佐伯が射台に入る。

「イヴ。視線追尾で狙点と着弾位置のズレを確認、よろしくね」

『はい、有栖。狙点と着弾位置を記録します』

「2人とも、頬付けをしっかりな。あと、慣れるまで声出し確認も有効な」


「排莢口から1発、ボルト閉鎖、頬付け、照準。……撃ちまーす」

(クレーと違って引き金を引くのに時間が掛けられるから、重く感じる)

 次の瞬間シアーから撃鉄が離れ撃発。

 強烈な衝撃が肩を突き飛ばし頭が持って行かれる。


(スゴイ!頭がクラクラする。軽い脳震盪だ。でも!正に銃を撃ってる!)


「イヴ!どう?当たった!?」

『はい、有栖。2時の方向に1in。スラッグ弾としては許容範囲のズレです』

「よし!反動凄いけど、5発撃って平均を見てみよう!」

『はい、有栖。狙点は問題ありません。落ち着いて行きましょう』



「九条さん、スゲー!5発とも10点サークルに掛かってんじゃん!」

「レスト使ってるとはいえ、初めてのスラッグでコレは凄いね!」

「サイトは問題ないな。中古でもアタリだったな。九条ちゃん」


「えー、オレのは新品だったのにー」

「翔太も九条ちゃんと同じ弾を使ってみな。Benelliならもっと当たるはずだ」


「ライフルには敵わないけど、50mならこんなに当たるんですね」

「50mならんな。じゃ、次は100mを試すか」

「はい!……」

「……」



 皆の標的を前に議論が盛り上がる。

「当てられない事もない。って感じで、使えるならライフルですね」

「弾を変えたら確かに当たるけど、やっぱ散るし、ドロップ大きいっすね」

「光学機器を載せて補正するかっていうと、微妙だね」

「でもスラッグは、遠くに飛ばしたくない時の選択肢だな」


「日本は制度上、ライフルが上って見られるけど、用途の違いが解るだろ?」

「まさに目的と手段に合わせた道具の選択だね」

「50m以下なら、オートマチックショットガンって最強では?」

「道具としての汎用性は高いな。そもそも弾が選べる」

「……」

「……」


「ゼロは問題なし。翔太も九条ちゃんも、50mをレストなしで撃ってみな」

「道具の性能は問題なし。あとは己の力量と~」

「かなり難しくなりますよね……」


「イヴ。視線追尾で狙点の軌跡と着弾点を記録してくれるかな」

『はい、有栖。承知しました』


(クレー射撃では気にならなかったし、家の中でトイガン構えるのとは違うな)

(……補器なしで狙点を維持するのって、こんなに大変なんだ)

(でも……、動いちゃうのを前提に、心と体をコントロールして……)

(狙いを定めて引き金を引くのって……)

(難しいけど、決断するってことなんだな)


 有栖の放った弾丸は的の中心から2時方向1inに着弾する。

 その弾痕は初めて撃った時と同じ位置。


 それは有栖の新たな可能性かそれとも脅威か。


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