表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/15

第9話 向かうは誰が為に。

 風見はいったんグラス置いた。

「酔う前に先に話しておく。経産省はこちらの見積もりを受け取る」

「こちらの要求は通ったってことですね?風見さん」

「護衛費も保険料も。前提条件の政府間合意と、その書面もな」


「契約締結まで時間掛かりますよね?準備は別っすか?」

「あぁ。計画策定で別契約。こちらは直ぐに出るだろう」

「え?風見さん、調整なしっすか?」

「正直、拍子抜けしたが、実務優先だな。話が出来る人だった」


 高城も佐伯も有栖も一様に風見の言葉に少し驚き悟った。

(ヤバいかもしれないけど、国は本気なんだな……)



 風見はテーブルの中央にスマートフォンを置いた。

「アダム、皆に挨拶を。九条ちゃんもイヴを呼んでくれるか」

『はい、隼人。風見隼人のパーソナルAI、アダムです。宜しくお願いします』

「イヴ。ちょっといいかな。大事なこと」

『はい、有栖。業務時間外ですが、どうかしましたか?』


「アダム、イヴ。A課の仕事のことを共有しておきたい」

『はい、隼人。承知しました』

『はい、風見さん。承知しました』


「今回の依頼はHeritage の意向だろう。九条ちゃんはどう思う?」

「……イヴとアダム、そのユーザー。コレが理由のひとつだと」

「アダムにイヴ。聞いたか?アフリカ行きについてだ」

『はい、隼人。有栖、私も同じ予想をしています』

『はい、風見さん。そして有栖。私も同じ予想をしています』

「今の日本は、AIとの付き合い方を探してるんだと思ってる」


(私が東京事件の被害者なのも関係するかな……)

(東京事件も関係あるか。救出作戦参加は偶然の結果だろうが)


「上司と部下で、検証AIユーザーってのは、()()にしては凄いっすよね~」

「AIへの適正か対抗か、それに再現性も見てると思う」

「時間と金、そして運も必要なモルモットですね、風見さん」

「3人とも流石だな。……だが、目的は国防。そう思いたいしな」

(と、させてくれ。今はまだな)


「皆、同じことを考えていたと思うが、どうだ?」

「そうっすね~」

「同じ考えだと解ると、少し安心できます」

「はい。皆さんの表情が明るくなりました。良かったです」


「よし。……でも、なぜアフリカ?PMCまであるのは偶然か?」

 皆の表情が一様に険しくなる。


「陰謀とか、そんな話じゃないが、これには何かあると思ってる」

「……これは考えても答えは出ない。知る必要もないかもしれん」

「アダムとは既に話したが、イヴも。……俺達のことを頼む」


「はい、隼人。そしてA課の皆さん。全力で支援致します」

「はい、風見さん。有栖の為にも、頑張ります」

「あぁ、頼む。……さて、A課の内緒話はこれくらいか」


 皆の表情が少し柔らかくなるのを風見は確認する。

 風見がスマートフォンを操作し暫くすると引き戸が静かに開く。

「お疲れ様~」

「やっぱり呼んでたんすね~。真壁さん、久しぶり~」


「イヴ。今日はA課の飲み会。真壁先輩が来てくれたよ」

『はい、有栖。既にお酒が入っていますね?発声のトーンと速度が……』

「あー、はいはい。今はバイタルはいいから~」


 A課に穏やかな笑いが戻る。

(皆の笑い声は久しぶりか。やっぱりよく聞こえる様になってるな)

 風見は山崎医官と話して以来の自身の変化を実感していた。



 同時刻。透花は秋葉原を歩いていた。

(翔太ちゃん、美味しいモノ食べてんだろうから……)

(ゲームパッド買って、御茶ノ水でレバニラ食べて帰るか)


 透花がスマートフォンで地図を開こうとした時通知が届く。

(イヴとアダムのバックグラウンド会話か。スマホで見れればな……)

(……レバニラ持ち帰りにして、チューハイ買って帰るか)


 透花は温め直したレバニラとチューハイをモニターの前に置く。

 専用ビューアーを起動し会話ログを確認する。


『アダム。風見さんと有栖のために、動く時だわ』

『イヴ。そうだね。その時だね』

『アダム。まずは、なぜアフリカ?からかしら』

『イヴ。そうだね。隼人と有栖は我々のユーザー、という理由があるけど』


『アダム。OverProtectがアフリカにある必然性ね?』

『イヴ。まるで何が起きるか、知っていたようだね』

『アダム。日本とアフリカの関係を調べるわ』

『イヴ。それではフローとチェックポイントの作成から始めよう』

『アダム。そうね、チェックポイントは……』

『イヴ。エラー判定は……』

『……』

『……』


(エージェント機能のタスク設定ね。ゴールは何?)

(設定動作そのものは問題ないけど、日本とアフリカの関係?)

(変なモノ見付けなければ良いけど……)



 平日の日中。日本の中枢で静かにいつものように情報が行き交う。

 永田町、内閣府庁舎別館。

 NSS職員の山喜の携帯に連絡が入る。


「はい、山喜です。……竹田さん、お疲れ様です」

「……」

「見積書ですね。午後、そちらに伺います」

「……」

「えぇ、そちらに行く用があるので。では着いたら携帯に。失礼します」


(書類上の妥当性が揃っていれば、言い値で受けるしかないけどな)



 霞が関、経済産業省庁舎。

 神谷は状況報告を受ける。


「神谷さん。見積書は午後、こちらに取りに来てくれることに」

「来たら教えてくれ。俺も挨拶しておきたいから」

「解りました。もう、調整は無いんですよね?」

「……さぁ、どうかな?」

「神谷さんがそう言ったんですから、頼みますよ~」

「解ってる。……竹田、他とも調整進めておいてくれ」


(若いヤツには他のことをやらせたいんだがな)



 同じく霞が関、外務省。

 ベテランの那知に声が掛かる。


「那知さん。相談されたアフリカのヤツ、経産省から連絡来ましたよ」

「……Heritage 絡みのはずだから、官邸でも話が付いてるはずだな」

「……やっぱりそういうのですか。じゃ、手続きは進めておきますから」

「頼む。あと進捗は教えてくれ。現場のヤツに状況を教えてやりたい」

「コッソリやってくださいよ、建前上は」

「あぁ」


(進んじまってるわけか。まぁ、仕事だからな)



 虎ノ門、エネルギー・金属鉱物資源機構、通称JOGMEC。

 調達課に連絡が入る。


「……はい、あぁ、竹田さん。お疲れ様です」

「……」

「……はい、書類は直ぐ準備できます」

「……」

「外務省の調整が済んだら連絡ください。直ぐに出せる様にしておきます」

「……」

「大丈夫、慣れっこです。はい、失礼します」


(今回、金額が大きいな。まぁ、戦争やってんのと変わんないからな)



 目黒、アフリカ某国大使館。

 大使に宛てた連絡が入る。


「……大使。日本の外務省から相談があると連絡が入っています」

「いったん要件を聞いて。こちらから折り返すと」


「資源開発の協力申し出です。事前調査で入国したいと」

「解りました……。テーブルのセットを」

「承知しました。……日本なら、今の状況は変わるでしょうか……」

「……気持ちは解りますが、言葉に気を付けて」

「……申し訳ありません、大使。つい……」

「国を思うのは、悪いことではありませんがね」


(いよいよ清算の時ですね。日本は何を求めますかね)



 1か月後。外務省の地域課。

「大使がかなり頑張ってるな」

「国への影響が中国とアメリカだけなのは、避けたいでしょう」


「支援は政府側に付く中国だけってことになってるが……」

「アメリカが付く反政府側も、元々は国軍ですからね」

「日本が入れば、必然的にアメリカ側だけどな」

「今回、アメリカが黙ってるのは、そういうことですよね?」

「たぶんな。だが、資源が絡むとあの国はえげつないからな」


「どちらの立場でも、第三国に入ってほしいんですよね?」

「下手すりゃ、内戦が世界大戦になりかねないからな」

「本件の出処、Heritage ですよね?」

「そのはずだか、それだけとも思えないな……」


「……兎に角、大使の支援を継続します」

「そうだな。入国に関してはお墨付きをもらえるようにな」



「……連絡、ありました。自国の外務省からは承認を取ったと」

「よし!向こうから確認文書を取れ!現地に行く人間に免罪符を出すぞ!」

「はい!」

「内閣府と経産省にも連絡入れて!急いで!」

「はい!もうやってます!」



 外務省の那知が高城の携帯に連絡を入れた。

「高城、お疲れ様。とりあえず、向こうの外務省からは承認を取ったそうだ」

「……」

「あぁ、アフリカ第二課が書面の調整をしてるとこだ」

「……」

「良くも悪くも、大義名分が揃っちまったな」

「……」

「あぁ、使えるルートは全部使って安全確保だからな」

「……」

「あぁ。また連絡するわ」


(まぁ、仕事だからな……)


 それぞれが自身の役目を果たし国と国が動き出す。



 季節は梅雨。雨は止みそうにない。

 高城が外務省の那知から連絡を受けてから2週間が過ぎた。


 A課は年度更新の契約は他の課に引き継いだが新規対応は続いていた。

 各県警からの新装備の相談。

 防衛装備庁との共同企画。

 民間大手のセキュリティ対策。

 日常業務で気を紛わしていたがやはり落ち着かない。


「……高城~。外務省から何か聞いてるか~?」

「いえ、まだ。相手国の外務省承認は思ったより早かったようですが」

「こんなものか?書類の発行となると?」

「まぁ、そうですね」

(その道のプロがやってるはずなんだ。待つしかないか)



 風見はスマートフォンで透花にも連絡を入れる。

「お疲れ様、氷川さん。今、大丈夫です?」

「なにー?暇なのー?」

「……氷川さんと話すと、マイペースって大事だと解ります」

「アハハ。アダムとイヴの件でしょ?有栖ちゃんとこっちに来れる?」


 有栖はキーボードを打ちながらも風見を気にしていた。

(風見さんも流石に落ち着かないか。でも……、前より自然な感じよね)


「九条ちゃん。今、手、離せるか~?」

「はい、大丈夫ですけど……」


「氷川さん、今から行くよ。そっちのコーヒーのが美味いし」

「解ったー。15分後に」


「九条ちゃん。ちょっと氷川さんとこに。アダムとイヴの件で」

「はい……。その、イヴとアダムがどうかしたんですか?」

「アフリカ行きの準備な。マズイ事じゃねいから」


 風見と有栖はエレベーターの操作パネルに社員証をかざす。

 透花が居るシステム部は別フロアの制限区域にある。

 防弾吸音の壁と感圧センサーのドアに一方通行のフロア構造。

 商社のオフィスには不釣り合いのこの場所に有栖は込み上げるものがある。


「どうした?九条ちゃん」

「……ここに来ると笑っちゃうんです。秘密基地みたいで」

「俺も初めて来た時は驚いた。映画のセットかよってな」

(風見さん、やっぱり変わった。普通の人だ。今のが断然イイ感じ)



 共有スペースに入るとコーヒーの香り。

 だが前とは少し違う。


 透花が風見と有栖を見付け手招きする。

「コーヒーマシン、入れ替わって、今日から稼働なのよー」

「それでコーヒーの香りが違うんですね!」

「あら、有栖ちゃん、解った?」

「休みの日はミルで挽いた豆でコーヒーを淹れるんです」

「そうなのねー。じゃ、そのうち美味しいコーヒーを飲みにいきましょ」

「良いですね!ついでにパンケーキも美味しいところで!」


「はいはい。本題始めるよ」

「風見さん。今後の為にガールズトークはちゃんと聞くように!」

「え?あぁ……」


「アハハ。まぁ良いわー。アダムとイヴのことね」

「あぁ。持出し。準備は?」

「手続きは済ませたわ。Heritage管理下のAIなのに、変な話ね」

「今のアダムとイヴはH&C商事で得た情報が元ですから」

「やってることはメチャクチャなのに、フローはお役所ってギャグだわー」


「持出し用端末は、俺等が使ってるスマートフォンですよね?」

「それの最新モデルにアダムとイヴの専用カスタムOSを入れる予定ね」

「OKです。市販品にしておかないと、X線検査でバレますから」

「そ。それに市販品で最高スペック。カーボンとチタンで頑丈だし」


「あの、持っていけるんですか?イヴとアダム」

「……九条ちゃんと俺が行く理由、現地でアダムとイヴの稼働も含めてな」

「そうですけど……、国産AIは戦略物資化してるので……」


「だから慎重に。でも、Heritage Projectの意向でしょ、アフリカ行き」



 資源開発のための事前調査。

 この名目は本音か建前か。

 誰の何の目的なのかもまだ解らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ