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テオは、訓練場と書かれた扉を開いた。
そこは学校の運動場のような、かなり開けた場所だった。冒険者ギルドの建物の裏側のようだ。
剣を振ったり、弓矢を射ったり、模擬戦をしている人もいる。皆たくましく、強そうだ。体育会系っぽい。
「ここは冒険者が自由に使っていい場所だよ。基本的には、剣や弓の練習、指導。パーティー内での連携を確認したりとか、単純に力試しとか」
テオは隅っこの、人がいない所に向かう。
「少し確認したいことがあるんだ」
自分の荷物を下ろし、軽く準備運動を始める。
「ちょっと、走ってくる」
そう言って、走って行ってしまった。俺を一人にしないでほしい。
テオは他の人の邪魔にならない範囲で、グルグルと円を描いて走っている。
しばらくして、息を弾ませながら戻ってきた。
「この体は、あまり、体力が、ないな。全然、走れない」
テオは細いし、体力がありそうには見えない。両親のことや、孤児院に預けられたことから推察するに、あまり恵まれた生活ではなかったのだろう。
「俺も、走ってみたい」
この走れそうな体で、走ってみたかったんだ。いそいそとマントを脱ぎ、リュックを下ろす。邪魔な剣も外す。
屈伸やストレッチを念入りにして、俺は走り出した。
最初はゆっくり、徐々に速く。
先ほどのテオのように、グルグルと走る。
すごい、速い。体も軽いし、疲れない。どこまでも走れそうだ。
ほどほどにして、テオの所に戻る。
「すごい、走れたよ」
息も切れていない。膝も痛くない。感動的だ。
「……ユウトは今まで走れなかったのか?」
これまた、変なヤツだと思われているな。
「俺はすごい太っていて、歩くだけでも膝が痛くなるんだ。走ったりするのは、怖くて」
普通に生活していただけで、膝に水が溜まったりもした。
「お腹も、これくらいあったし」
手で、大きなお腹を表現する。
「……貴族なのか?」
「チガイマス」
「次は、これだ」
そう言って、テオは置いてあった剣を手に取る。
もともと彼の剣だ。カッコいい剣術でも披露してくれるんだろうか。
テオは剣を両手で持って、前後に移動しながら上下に振ったり、斜めに振ったりしている。ときおりガッと地面を抉る音がする。様になってはいるが、剣が長すぎるようだ。
俺が地面に座って眺めていると、テオはヨロヨロしながら戻ってきた。
「ダメだ、剣のサイズが、合わない。体が、動かない」
けっこう動いているように見えたが。
「ユウトは、剣とか使えるか?」
「触ったこともないよ」
「……そうか」
テオは持っていた剣を俺に渡し、どこかに行ってしまう。
しばらくして、木で作られた剣を二本持って戻ってきた。長い方の木剣を俺に差し出す。
「少し、試してみてくれ」
試す、俺が、剣を。
テオは剣が上手だったんだろう。冒険者なんだし、ズバーっとカッコよくできたに違いない。
この体に染みついた剣術の技が、今、俺のものに!
「やってみる」
先ほどテオがやっていたように、両手で持って上から振り下ろす。足も動かしながら、何度も振る。斜めに振ったり、下から上に振り上げてみたり。突きの動きも、自然にできる。体をひねりながら横に振ってみる。一閃って感じ、カッコいい!
「ユウト、けっこうできるじゃないか」
きっと彼はたくさん練習したり、実戦したりしてきたのだろう。体にその動きが染みつくほどに。
なんか、ゲームで他人が一生懸命育てたキャラクターを、勝手に使って試合に勝って喜んでいる、みたいな。むなしさと、罪悪感を感じる。
「なんか、ごめんな」
「どうしたんだ? さっきまで楽しそうだったのに」
テオの隣に座る。
「君が努力して手に入れたものを、俺が奪ってしまっているんだよな」
「オレは、大概のことはすぐできたからな。努力って言われると、ちょっと違うかもしれない」
努力家ではなく、天才だった。
「剣も一応教わったが、一度見た動きはすぐできたからな。それにしても、以前は簡単にできたことも、この体では全然うまくいかない。オレが十歳のころは、これくらいできたはずなんだが。やはり、体力の違いか」
天才と凡人の違いではないかな。
「あー!!」
遠くから、若い女性の声が聞こえた。聞いたことがある声だ。
近づいてくる人物を見る。赤茶色のサイドテールが揺れている。教会に運んでくれた人だ。名前は、何だったか。
「誰だ?」
テオが不思議そうに尋ねる。
「倒れていたこの体を、教会に運んでくれた人だよ」
「あの、女性が?」
「運んだのは一緒にいた男性で、その人と二人で、わざわざ様子を見に来てくれたんだ」
女性はこちらに向かって走ってくる。何か用事でもあるのだろうか。
「ここで何してるんですかー?」
座っている俺の横にしゃがんで、話しかけてくる。
「やっぱり冒険者だったんですね。記憶は大丈夫なんですかー?」
「あ、記憶は、だいたい」
心配してくれたのだろうか。それにしても、距離が近い。
「おい、ルミィ!」
既視感。ガタイのいい男性が近づいてくる。今回は他にマントを羽織った女性と、細身だが引き締まった体の男性も一緒だ。皆、同じくらいの年頃に見える。冒険者パーティー、だろうか。
「ギルドで顔がいい男がいるって噂になってたが、お前かよ」
噂になってたんだ。この顔、やっぱり目立つのか。
「もう、ドノバンうるさい!」
「この人、森で倒れてた人よね。私はサフィリア。ルミィとドノバンと、同じパーティーなの。魔術師よ」
マントの女性も話しかけてくる。
「もう、サフィ。私が話してるの!」
「私の回復魔法だけじゃどうにもならなくて、教会に運んだんだけど。元気そうで安心したわ」
「あ、あの、助けていただいて、ありがとうございました」
コミュ障の俺だが、お礼だけは言おうと心がけている。
「あ、そうだ! このあと時間、ありますかー? よかったらー、一緒にご飯とか、どうですかー?」
「あら、いいわね」
「サフィは来なくていいよ」
「えー、三人で一緒に行きましょうよ。ね」
なんか、勝手に食事に行く話をされている。
テオの目が冷たい。どうしよう。
「おい。さっき、剣振ってたよな。ちょっと手合わせしないか?」
盛り上がっている女性をよそに、ドノバンが俺に、とんでもない提案をしてきた。
断ろうとすると、テオが耳打ちしてくる。
「その話、乗ってみないか? どのくらいやれるか試してほしい」
え、マジですか?




