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2-3

 テオは、訓練場と書かれた扉を開いた。

 そこは学校の運動場のような、かなり開けた場所だった。冒険者ギルドの建物の裏側のようだ。

 剣を振ったり、弓矢を射ったり、模擬戦をしている人もいる。皆たくましく、強そうだ。体育会系っぽい。


「ここは冒険者が自由に使っていい場所だよ。基本的には、剣や弓の練習、指導。パーティー内での連携を確認したりとか、単純に力試しとか」


 テオは隅っこの、人がいない所に向かう。


「少し確認したいことがあるんだ」


 自分の荷物を下ろし、軽く準備運動を始める。


「ちょっと、走ってくる」


 そう言って、走って行ってしまった。俺を一人にしないでほしい。

 テオは他の人の邪魔にならない範囲で、グルグルと円を描いて走っている。

 しばらくして、息を弾ませながら戻ってきた。


「この体は、あまり、体力が、ないな。全然、走れない」


 テオは細いし、体力がありそうには見えない。両親のことや、孤児院に預けられたことから推察するに、あまり恵まれた生活ではなかったのだろう。


「俺も、走ってみたい」


 この走れそうな体で、走ってみたかったんだ。いそいそとマントを脱ぎ、リュックを下ろす。邪魔な剣も外す。

 屈伸やストレッチを念入りにして、俺は走り出した。

 最初はゆっくり、徐々に速く。

 先ほどのテオのように、グルグルと走る。

 すごい、速い。体も軽いし、疲れない。どこまでも走れそうだ。

 ほどほどにして、テオの所に戻る。


「すごい、走れたよ」


 息も切れていない。膝も痛くない。感動的だ。


「……ユウトは今まで走れなかったのか?」


 これまた、変なヤツだと思われているな。


「俺はすごい太っていて、歩くだけでも膝が痛くなるんだ。走ったりするのは、怖くて」


 普通に生活していただけで、膝に水が溜まったりもした。


「お腹も、これくらいあったし」


 手で、大きなお腹を表現する。


「……貴族なのか?」


「チガイマス」




「次は、これだ」


 そう言って、テオは置いてあった剣を手に取る。

 もともと彼の剣だ。カッコいい剣術でも披露してくれるんだろうか。

 テオは剣を両手で持って、前後に移動しながら上下に振ったり、斜めに振ったりしている。ときおりガッと地面を抉(えぐ)る音がする。様になってはいるが、剣が長すぎるようだ。

 俺が地面に座って眺めていると、テオはヨロヨロしながら戻ってきた。


「ダメだ、剣のサイズが、合わない。体が、動かない」


 けっこう動いているように見えたが。


「ユウトは、剣とか使えるか?」


「触ったこともないよ」


「……そうか」


 テオは持っていた剣を俺に渡し、どこかに行ってしまう。

 しばらくして、木で作られた剣を二本持って戻ってきた。長い方の木剣を俺に差し出す。


「少し、試してみてくれ」


 試す、俺が、剣を。

 テオは剣が上手だったんだろう。冒険者なんだし、ズバーっとカッコよくできたに違いない。

 この体に染みついた剣術の技が、今、俺のものに!


「やってみる」


 先ほどテオがやっていたように、両手で持って上から振り下ろす。足も動かしながら、何度も振る。斜めに振ったり、下から上に振り上げてみたり。突きの動きも、自然にできる。体をひねりながら横に振ってみる。一閃って感じ、カッコいい!


「ユウト、けっこうできるじゃないか」


 きっと彼はたくさん練習したり、実戦したりしてきたのだろう。体にその動きが染みつくほどに。

 なんか、ゲームで他人が一生懸命育てたキャラクターを、勝手に使って試合に勝って喜んでいる、みたいな。むなしさと、罪悪感を感じる。


「なんか、ごめんな」


「どうしたんだ? さっきまで楽しそうだったのに」


 テオの隣に座る。


「君が努力して手に入れたものを、俺が奪ってしまっているんだよな」


「オレは、大概のことはすぐできたからな。努力って言われると、ちょっと違うかもしれない」


 努力家ではなく、天才だった。


「剣も一応教わったが、一度見た動きはすぐできたからな。それにしても、以前は簡単にできたことも、この体では全然うまくいかない。オレが十歳のころは、これくらいできたはずなんだが。やはり、体力の違いか」


 天才と凡人の違いではないかな。




「あー!!」


 遠くから、若い女性の声が聞こえた。聞いたことがある声だ。

 近づいてくる人物を見る。赤茶色のサイドテールが揺れている。教会に運んでくれた人だ。名前は、何だったか。


「誰だ?」


 テオが不思議そうに尋ねる。


「倒れていたこの体を、教会に運んでくれた人だよ」


「あの、女性が?」


「運んだのは一緒にいた男性で、その人と二人で、わざわざ様子を見に来てくれたんだ」


 女性はこちらに向かって走ってくる。何か用事でもあるのだろうか。


「ここで何してるんですかー?」


 座っている俺の横にしゃがんで、話しかけてくる。


「やっぱり冒険者だったんですね。記憶は大丈夫なんですかー?」


「あ、記憶は、だいたい」


 心配してくれたのだろうか。それにしても、距離が近い。


「おい、ルミィ!」


 既視感。ガタイのいい男性が近づいてくる。今回は他にマントを羽織った女性と、細身だが引き締まった体の男性も一緒だ。皆、同じくらいの年頃に見える。冒険者パーティー、だろうか。


「ギルドで顔がいい男がいるって噂になってたが、お前かよ」


 噂になってたんだ。この顔、やっぱり目立つのか。


「もう、ドノバンうるさい!」


「この人、森で倒れてた人よね。私はサフィリア。ルミィとドノバンと、同じパーティーなの。魔術師よ」


 マントの女性も話しかけてくる。


「もう、サフィ。私が話してるの!」


「私の回復魔法だけじゃどうにもならなくて、教会に運んだんだけど。元気そうで安心したわ」


「あ、あの、助けていただいて、ありがとうございました」


 コミュ障の俺だが、お礼だけは言おうと心がけている。


「あ、そうだ! このあと時間、ありますかー? よかったらー、一緒にご飯とか、どうですかー?」


「あら、いいわね」


「サフィは来なくていいよ」


「えー、三人で一緒に行きましょうよ。ね」


 なんか、勝手に食事に行く話をされている。

 テオの目が冷たい。どうしよう。


「おい。さっき、剣振ってたよな。ちょっと手合わせしないか?」


 盛り上がっている女性をよそに、ドノバンが俺に、とんでもない提案をしてきた。

 断ろうとすると、テオが耳打ちしてくる。


「その話、乗ってみないか? どのくらいやれるか試してほしい」


 え、マジですか?

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