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教会の敷地を出ると、似たような小さな家が立ち並んでいた。平屋がほとんどで、木造のようだ。
少し歩いていくと、二階建ての家が増えてきた。漆喰のような壁が多い。吊り看板のある家は、一階部分がお店になっているようだ。荷物を持った人が出入りしている。
まるで海外の街みたいだ。行ったことないけど。そもそもここは、異世界だ。
キョロキョロと見回していると、テオに手を引っ張られる。
「あまりウロウロするな。はぐれないようにしてくれ」
「すみません」
これでは俺の方が子供みたいだ。
「ボサっとしていると、変なヤツに目を付けられるぞ。スリとか盗人とかいるから、気をつけてくれ」
俺はテオの指示どおり、背負ったリュックの上からフード付きの黒いマントを着て、腰には剣を下げている。リュックは守れるし、剣で相手を牽制できる。
正直、剣は歩くと足に当たってすごく邪魔だ。最初はカッコいいと思ったが、だんだん嫌になってきた。
開けた場所に出た。人通りが多く、屋台も並んでいる。中央には噴水のようなものがあり、そこに座っている人もいる。
水が出ている中央の塔のような部分には、ほのかに光る水色の石がいくつか取り付けられている。宝石だろうか、とても綺麗だ。
「何か、食べるか」
テオが屋台を見回している。美味しそうな匂いのする店がいくつかあった。お腹は空いている。
屋台の中には、日用品のような、雑貨が置いてある店もあった。ふと見ると、小さいが取っ手のついた鏡のようなものが置いてある。
「お兄さん、よかったら見ていっておくれ」
店主だろうか、三十歳くらいの女性が愛想良く話しかけてくれる。
金属を磨いた物のようだが、用途は鏡に違いない。
今まで手で触ったり、メリアの態度やテオの話を聞いて、イケメンであろうことはわかっている。
教会では、オレシス先生の部屋でしか窓ガラスを見かけなかったし、あれも透明ではなく格子にはめられていた。案内してもらった礼拝堂は、なぜかいろいろなものが発光していて、鏡のように顔が映るような物はなかった。
俺はそれを手に取ると、意を決して自分の顔を見た。
「俺、カッコイイ……」
かなりのイケメンだ。芸能人みたい。絹のようなサラサラの金髪、澄んだ空のような青い瞳、まるで王子様みたいだ。
これが、今の俺? すごい、感動的なカッコよさだ。
「おい、やめろ!!」
テオに横っ腹を殴られた。
店の人もドン引きの顔をしている。
「す、すみません」
そっと商品を置き、フードで顔を隠しながら店を離れる。
しまった。めちゃくちゃ恥ずかしいことをしてしまった。
周りの人の視線が痛い。目立ってしまっているようだ。
「こんな人がたくさんいる所で、おかしなことをしないでくれ」
テオは怒っているのか、照れているのか、恥ずかしがっているのか。複雑な顔をしている。
「ごめんなさい」
「これでいいか?」
テオは、ホットドッグのようなものを売っている店を指して言った。
無言で頷くと、店主に二つ注文してくれた。お金はすべてテオが持っている。俺では相場がわからないし、硬貨の見分けも微妙だったからだ。
テオが買ってくれた食べ物を、噴水の所で座って食べる。パンは少し硬く、ソーセージはおいしかった。
「ユウトは、その、あまり街に行ったことがないのか?」
すごい田舎者だと思われている。少しはしゃぎ過ぎたようだ。大人なのに。
「いや、まあまあの街中に住んでたよ」
電車も通っているし、コンビニもスーパーもある。大都会に比べたら、田舎って言われるかもしれないが。
「差し支えなければ、ユウトの世界のことを教えてくれないか。大体でいいんだ。君の行動を見ていても、まったく想像できなくて」
俺の行動は、だいぶおかしかったようだ。
しかし、困った。どう言えば伝わるのかがわからない。一度正直に言ってみるか。
「俺のいた世界では、空を飛ぶ乗り物で移動したり、食べ物が工場で自動的に加工されたり。これくらいの小さな板状の物で世界中の人と話せたり、いろんな情報を調べたりできる」
テオが、宇宙猫みたいな顔になっている。
ですよね。知ってた。
「もしかして、ユウトは神時代の人なのか?」
「神時代?」
「数千年前は魔法文明が最盛期を誇っていて、神のような魔法が使えたらしい。この噴水のような魔導具も、神時代の遺産だと言われている。繁栄を謳歌していたが、悪魔と戦いになり、勝利はしたものの、ほとんどの技術が失われてしまったらしい」
超古代文明みたいだな。オカルトなのか、真実なのか。
「そもそも、俺の世界に魔法はないよ」
宇宙猫再び。
「す、すまない。オレから聞いておきながら」
「気にしないで。俺もこの世界のことは、わからないことだらけだし。これからいろいろ教えてもらいたいし」
「そうだな、ひとまず魔導具のことを説明しよう。この噴水のあそこに、水色のところがあるだろう。あれは魔石と言って魔力を宿している。いくつかの魔石を組み合わせることで、上から水が出続けているんだ。なぜそうなるのかはまったくわかっていない。神時代の遺産と言われる魔導具は特級魔導具と呼ばれ、今のオレたちでは再現できない。魔石の魔力も枯れることがない」
「神時代の遺産以外の魔導具もあるのか?」
「いろいろ作られてはいるが、ランプとか、点火装置、水筒。それに、普通の魔石は使うと魔力が消える」
そういえば、教会では謎の道具が発光していたな。あれのことかな。
「それと、今オレたちがこうなっている原因も、特級魔導具のせいだと思う。神時代の遺産には、こういうありえない不思議現象を起こす魔導具も多数発見されているんだ」
テオは森に行って、その魔導具を探そうとしていたのか。その魔導具を見つけて、操作すれば、元に戻る……。
噴水の水に、ゆらゆらとイケメンが映る。元に戻るその時まで、この外見にふさわしい行動を心がけよう。それにしても顔が小さいな。何頭身なんだろう。
「そろそろ、冒険者ギルドに向かおう」
ジッと水面を見つめていた俺に、テオは少し冷めた声で言った。




