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食堂には職員らしき人や、子供たちがいた。メリアはいなかった。
食事は相変わらず質素で、美味しくはない。食べられるだけありがたいのだが。
話しかけてくる人もいたが、テオが適当にあしらってくれた。話しかけてきたのは子供も大人も女性ばかりだった。
食事が済むと、テオに連れられるまま、子供たちと共に共同浴場にやって来た。
それほど大きくはなく、日によって男女を分けているらしい。今日は男の日。
俺も入っていいのか悩んだが、テオに促され、一緒に入った。
彼はテオの記憶を探りながら行動しているようで、止まったり、キョロキョロしたり、少し小動物のような動きをする。ちょっとカワイイ。
俺の裸体は、まるでギリシャの彫刻のようだった。直視するのが申し訳ない気持ちになる。
それに比べて、テオの体は細くて色艶もあまり良くない感じがする。
お風呂から出ると、別の部屋に向かう。そこにメリアがいるらしい。
結論から言うと、メリアは俺たちの話に納得し、紹介状を書いてくれることになった。
テオのことは、孤児院でも少し持て余していたようだ。知り合いがいるならそのほうがいいと、判断したのだろう。
今日中にオレシス先生と話して、明日までに紹介状を用意してくれるらしい。
明日になったら、テオと冒険者ギルドに行き、冒険者証を作る。その後、森に調査に行く予定だ。
「これで明日には冒険者だ」
テオがベッドに寝転がりながら言った。
「メリア先生、ユウトにはあんな感じなんだな」
メリアは、俺の記憶が少し戻ったことを伝えると、とても喜んでくれた。俺の手を握り胸元に引き寄せ、潤んだ目でこちらを見上げ、良かったですね、と優しい笑顔で言ってくれた。
近すぎるので、すぐに手を引いて後ろに下がった。
「優しい人だけど、ちょっと距離が近いよね。すぐ手を握ってくるし」
「オレに対してはかなりキツかったよ。目が覚めた時もすごい怒られたし。こんな怖い女性がいるのかと思ったぐらいで」
「そうなんだ」
メリアは、誰にでも優しい人ではなかったようだ。
「テオは少し乱暴な面があったみたいだからな。冒険者になりたいと言って、木の棒を振り回したり。他の子供にケンカをふっかけたり。黙って森に行ったことも、何度かあったようだ」
勝手に森に行って怪我して運ばれてきたら、怒られても仕方ないか。テオはヤンチャな子供だったようだ。
「ユウトは、メリア先生が苦手なのか?」
紹介状の話をする時、ボロを出してはいけないと思えば思うほど、うまく話せなかった。メリアが近すぎるのも気になったし。
ほとんどテオが話してくれた。
「苦手というか、今まで女性と会話することがほとんどなくて」
「ユウトの世界は女性が少ないのか?」
「そんなことはないよ。ただ、俺は、見た目があまり良くなくて。特に女性には、冷たく……というか、話しかけても無視され、俺の触れたものは消毒され、すれ違いざまには臭い、キモいと言われ……」
自分で言ってて悲しくなってきた。特に高校時代は酷かったな。バカな夢を見て、共学なんかに行くんじゃなかった。
「そんな女性がいるのか」
テオがドン引きしている。
「そもそも、人と会話することもほとんどなかったし」
働くようになると、仕事はパソコンとメール。一人暮らしで、友人もいない。買い物だってネット通販、セルフレジ。女性どころか、人類との会話すらない。
「俺の世界では、話さなくても生きていけるんだ」
「そうか……。でも、オレとは普通に話せているよな?」
「テオが子供だからかな。なんか安心できるというか、怖いとは思わない」
この体が、彼を本当の中身だと認識しているからだろうか。警戒心が湧いてこない。
「他の人だと、ちょっと無理かも。特に、大きくて怒鳴ってくるような人とは、話せないかもしれない」
「それはオレでも話したくないな」
「ユウトは人付き合いが苦手で、特に女性慣れしていないということか」
「その通りです」
テオは理解が早い。賢い子なんだろうな。
「ただ、女性には十分注意してほしい。メリア先生の態度でわかると思うが。今の君は、自分で言うのもなんだが、見た目がとても良いんだ」
「……見た目が、とても、良い」
「そう、女性は大体その顔を好ましく感じる。すぐ近寄ってきて身体を触ろうとしてくる。優しい言葉で気を引こうとしてくる。絶対に、二人きりになってはいけない」
俺の目をジッと見つめ、真剣な口調だ。俺はブンブンと首を縦に振った。女性関係でいろいろあったのだろうか。まだ若いのに、イケメンは大変だなぁ。
メリアのあの態度は、この顔のせいだったのか。確かに手をよく触ってきた。
「基本的には、オレの側を離れない方がいい。世界の差異については、その都度質問してくれ。オレの知るこの世界のすべてを話そうとしたら、数年かかりそうだ」
「あ、ありがとう」
彼は優しくていい人だ。もちろん、この体を守るためであることはわかっている。これは彼の体だ、大事にしないとな。
テオと出会ったことで、この異世界でもなんとかやっていけそうだ。
「そろそろ寝るか」
テオが明かりに手を伸ばすと、部屋は暗闇に包まれた。何がどうなってアレが光ったり消えたりするのか、さっぱりわからないが今は知らなくても良いだろう。
俺は固いベッドに寝転がった。
「お休みなさい」
朝起きて、服を着替える。メリアが繕ってくれた服ではなく、テオが選んだ別の服だ。
髪をとかすよう言われ、くしを渡される。今までは真ん中で分けられておでこが出ていたが、視界があり過ぎて気になるので、前髪を下ろした。テオには不評だった。
そんな彼は、昨日はボサッとしていた髪を綺麗にすいて、中分けにしていた。その方が落ち着くのだろうか。
テオは一度孤児院に戻り、荷物をまとめてきた。大きめのショルダーバッグを肩にかけている。ついでに子供たちに挨拶をしてきたようだ。
準備を整えて待っていると、メリアが部屋に来てくれた。
「ユウトさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
相変わらずの優しい笑顔。
「お、おはようございます。よく眠れました」
「少しでも記憶が戻って、本当に良かったです」
「あ、ありがとうございます。大変お世話になりました」
俺は頭を下げようとしたが、メリアの顔が近すぎて、後ずさってしまった。
昨日のテオの話を聞いて、余計に女性に対する苦手意識が増した気がする。
「メリア先生、紹介状は?」
テオが手を差し出す。
メリアはそれを無視して、俺に封筒を差し出した。
「こちらが冒険者ギルドへの紹介状となります。私とオレシス先生の連名になっていますので、問題なく手続きできると思います」
「あ、ありがとうございます」
チラリとテオを見ると、虚無顔になっていた。
俺は手を出して封筒を受け取る。するとメリアは、素早く俺の手を握った。
「あまり無理をせず、お身体に気をつけて下さい。もし何かありましたら、遠慮なく尋ねて下さいね。テオのことも、よろしくお願いします」
「は、はい」
「おい、行くぞ」
テオがスタスタと行ってしまう。俺は何とか手を振りほどき、テオの後を追う。
建物から出て、昨日テオと最初に会った広場を通る。大きめの門が見える。
この門の向こうはどんな感じだろうか。ちょっと、動悸がしてきたな。




