5-3
村長は俺たちに食事を出してくれた。
妻と息子と娘の四人家族のようだ。息子はテオより少し上くらい。娘は同じくらいだろうか。妻は茶色い髪で、子供は二人とも父親と同じ黒髪だ。
村長と息子が並び、その向かいに妻と娘。斜向かいに俺とテオが座っている。
「テオ、冒険者になったの?」
息子がテオに話しかける。
少し前までは、この村で一緒に暮らしていたのだから、普通に友達だったのだろう。
「うん」
本当のテオが、どういう人物で、どんなしゃべり方をしていたのか、俺たちは知らない。テオもあまりしゃべらないようにしているようだ。
「冒険者って、大人じゃないとダメなんじゃないの?」
娘が話し出す。
「十歳で、保護者がいればなれるんだよ」
俺が知っている知識を披露しておく。娘が俺の方を見た。
「このカッコイイお兄ちゃんは? なんで一緒に冒険者やってるの?」
「……たまたま、教会で会って」
なんて言っていいのかわからず、言葉を濁す。
「テオ、ちゃんと仕事できるの? なんかやっつけたりしたの?」
「今回が、初めてなので……」
テオは黙っているので、俺が答える。
「荷物運ぶだけなんて。全然すごくないね」
なんか、トゲのある言い方をする子だな。
「すみません」
「あ、お兄ちゃんのことじゃないよ」
俺が謝ると、バツの悪そうな顔をした。
「これからなるんだよな。すごーい冒険者に」
息子がテオに向かって、からかうような口調で言う。
「やめなさい」
村長が止めると、二人は黙ってしまった。
さっきから、妻は一言もしゃべらない。
すごく居心地が悪い。早くここから逃げ出したい。
出された食事を急いで片付ける。
「お食事ありがとうございました。つ、疲れていますので、先に休ませていただきます」
お礼を言って、俺たちはサッサと客間に引っ込んだ。
「なんか、疲れた……」
テオはグッタリとした顔をしている。俺も疲れた、精神的に。
「なんか、テオ、嫌われてる?」
村長の家を教えてくれた女性の反応を思い出す。
「父親がすごい冒険者だと信じていて、村人にもそう吹聴していたんじゃないか? 村人だって街に行くんだから、父親が実際どんな仕事をしていたか、知っていただろうし。それなのに、自分もすごい冒険者になると言って、村の仕事をサボってばかりいたみたいだからな」
「この村、来ない方がよかったんじゃ……」
自分が嫌われているであろう場所なんて、絶対行きたくないよね。
「別に、それはわかっていたことだから、いいんだけど……。テオの記憶みたいなものが、頭に次々現れるんだ。はっきりと思い出すわけじゃなくて、感情だけが浮かんでくるみたいな」
よくわからないが、別人の感情だけがあふれてくるのかな。
それは、頭がおかしくなりそうだ。
「ユウトも、オレの育った場所に行ったらそうなるかもな。すごくつまらない気持ちになれるぞ」
できればなりたくないです。
俺は、心底嫌そうな顔をしていたのだろう。
「大丈夫だよ。あそこに行くことはもう二度とない。安心してくれ」
テオが笑いながら言った。
小さい頃はお城とかで暮らしていたんだろうか。権謀術数渦巻く恐ろしい空間を想像する。
絶対行きたくない。
「すまないが、休ませてくれ。寝ていた方がマシだ」
テオはそう言って、すぐに寝てしまった。
朝になり、村長に礼を言い、家を出る。
雨はすっかり止んでおり、太陽がまぶしく輝いている。
テオの調子は良くなさそうだ。
「夢を、見てしまって……」
「辛い夢だったの?」
「いや、すごく……。何でもない」
言いたくないことなのだろうか。
昨日は雨で暗くてよくわからなかったが、村には十件以上の家が建っていた。
村人たちは農作業にでも行く様子で、遠巻きにコソコソ話しながら歩いていく。
「こっちだ」
テオは村人とは違う方向に進んでいく。
付いていくと、他から少し離れたところに小さな家があった。
なんか、屋根が傾いている。
テオはためらいなくドアを開ける。
「ここは、テオの家だ」
そのまま室内に入っていく。俺も後に続く。
「やっぱり、何もないな」
生活感のない、がらんとした部屋だ。
隅には蜘蛛の巣があり、ホコリが溜まっているのが見える。
机とイスはあるが、それだけだ。壁にある棚も、ホコリしかない。
「はー……」
テオは眉間にシワを寄せて、ため息をついている。
ここはテオにとって、一番思い出いっぱいの場所なのだろう。その分、よけい記憶が混同してくるのかもしれない。
「村人が持っていったか、売られたかな」
テオはつぶやいて、家を出た。
二人で歩いていると、池のようなものがあった。その近くには、洗濯をしているのか、三人の女性の姿が見える。
池の中央には、街にあった噴水のような物が沈んでいる。上の方から水が噴き出しているようだ。水の中にいくつかの光が揺らめいている。
「あれ、魔導具?」
「そうだな。この村には、これしかないみたいだ」
池の水は、水路によって柵の向こうに流れていく。柵の向こうには、農地が広がっていた。
「あれ、大丈夫なの? 壊れたりしないの?」
水に浸かったままだなんて。せめて設置し直すとか、できないんだろうか。
「水が出てるんだから、大丈夫なんじゃないか? 下手に触って、水が出なくなったら困るだろ」
「でもこのままにしといても、壊れるかもしれないし……」
「壊れたら、この村は終わりだな。どこかに移住するしかない」
当たり前のことのように言われる。
ベルクシーアも、生活用水は全て魔導具に頼っていたみたいだし。インフラの老朽化……。俺が考えても仕方ないか。
「ユウト、あの人たちに、テオの家の物がどうなったか聞いてきてくれ」
テオが俺の目を見つめて言う。
「……俺が?」
「オレはあの人たちとどんな関係だったかわからないし、聞くわけにはいかないだろ」
「わ、わかった」
テオの言うことももっともだ。
三人のうちの一人は、昨日村長の家を聞いた女性のようだ。それを理由に話しかけてみよう。
洗濯をしながらおしゃべりしている三人の女性。その一人に近づいて、話しかける。
「あの、昨日はありがとうございました」
三人が一斉に振り向く。
「あんた、昨日の!」
「さっき話してた人?」
「ホント、いい男じゃない」
ほぼ同時に三人がしゃべり始める。
「テオと一緒にいたって」
「あの子、冒険者になったんだって」
「村長が泊めたんでしょ」
「よく戻ってきたわね」
「孤児院に連れてかれたのに」
誰がしゃべっているのかわからない。
「あんた、テオとパーティー組んでるんだって?」
「は、はい」
俺に向けられた言葉に返事をする。
「あの子の父親のこと、知ってるのかい?」
「ネルスさん、ですよね。冒険者で、亡くなっていると……」
「そうそう、ネルス。あのろくでなし」
亡くなった人を悪く言うのは良くないと思う。
「息子さんには、自分を立派に見せたくて嘘をついていたかもしれませんが、そんなこと言わなくても……」
少しムッとして、反論する。
「嘘言ってたことじゃないよ」
「あの子はまだ知らないんじゃないか?」
「ネルスはね、稼いだ金を全部使っちまうんだよ」
「そう、全部」
「しかも、自分が食べたいもんと酒ばっか」
「それで、全部食べたら仕事に行っちまう」
「テオはご馳走食べてるって、自慢してたけどね」
「ニノが文句言ったら、殴られたって」
なにそれ、ひどい。モラハラ? DV?
「じゃあ、ネルスさんがいない時は……」
「ニノが働いてたんだよ」
ニノっていうのは、テオの母親かな。
「農作業とか手伝うだけだけどね」
「ニノは苦労してたよね」
「あんな男と一緒になるから」
「テオは父親の影響で、ちっとも手伝わないし」
「他の子供は、手伝ってるのにね」
「でも、アイツが死んでからの方が大変そうだったよ」
「食事もままならなくて、村長にねだってたんだろ」
「夜とか、会いに行ってたって」
「私も見たよ」
「村長がテオを引き取るって話も出たよね」
だんだん、嫌な話になってきた。
三人はおしゃべりに夢中だ。そっと離れる。
……しまった。テオの家の物がどうなったか、聞きたかったんだ。
もう一度会話に入るのは難しそうだし、嫌だな。どうしよう。
テオの方に目をやったが、いない。
あれ? さっきはここら辺にいたよね。
テオと話していた場所に戻るが、どこにもいない。どこに行っちゃったの?




