4-5
オレは、フェリクス・ジルグ・アイカ・ノルディア。十七歳。
ノルディア王国の第八王子。
十五歳の時、国を飛び出し冒険者になった。
薄暗くなっていく森の中で、テオが気まずそうに話してくれた。
王子様だったんだ。
眉目秀麗、英姿颯爽。剣術に優れ、上級魔法も操る。
完全にチートだなぁ。
「……あまり驚かないんだな」
テオは少し不満そうだ。
もっと大げさに驚いた方がよかったかな。
「そ、そんなことないよ」
「王子というのは国のトップの息子で、王位継承権が……」
「いや、王子の意味はわかるよ。なんていうか、物語みたいだなぁって」
テオの歩く速度に合わせながら、木々の間を歩いていく。
「……フェリクス様って、呼んだ方がいい?」
「やめてくれ」
テオは嫌そうな声で答える。今まで通り、テオでいこう。
「その、ノルディア王国? っていうのは、ここじゃないんだよね。遠いの?」
「まあまあ遠いな。ここからだと、二ヶ月くらい? ……テオの足だともっとかかるか」
「魔導具に詳しい人がそこにいるってこと?」
時々テオの話に出てきた、魔導具に詳しい人。その人がその国にいて、テオはそこの王子。今は俺が王子ということになる。
彼はあまり言いたくなかったようだが、俺に話しておかなければならないと、判断したのだろう。
「マーレイといって、王国の魔術院に所属している人物だ。魔導具に詳しくて、いろいろと研究している人で、中級魔術師だが、魔力に対する感度が高い」
だんだんと森の影が濃くなり、足元は暗く、テオの表情もよく見えない。
「オレは幼い頃から剣も魔法もよくできたから、神童って言われていたんだ。でもそのうち、兄やその母親たちから目を付けられるようになって……。亡くなった母親は庶民の魔術師だったらしくて、後ろ盾がなかったんだ。あまり目立たないように、剣も魔法も兄たちより劣っているように振る舞っていた。でも、マーレイには気づかれてしまって……」
テオが足元の木の根をヒョイと飛び越える。
俺は、転ばないかハラハラしながら見守っていた。
「アイツはオレの魔力があれば研究が捗るとか言って、いろいろ付き合わされたんだ。発掘とかにも連れて行かれたし、よくアイツの研究所に入り浸っていた」
「怖い人ではなさそうだね」
彼のことを上手に匿ってくれた人物のようだ。
これからその人に会いにいくんだよね。いい人そうなので、少し安心。
「ちょっと変わった人だけどな。……少し前から兄たちが、派閥というか、主に第一王子と第二王子が揉めてて、兄弟で誰を支持するか決めるとか……面倒くさくなってきたから、国を出たんだ。その時もマーレイが協力してくれて……」
王位継承者問題、というやつだな。第八王子だとそこまで関係なさそうだけど。
「冒険者になって、それからは一度も国に帰っていない。マーレイとは、時々会っているけどな。アイツのフィールドワーク先に行って、旅先で見つけた魔導具を渡したり、発掘や研究の手伝いとか。次に会うのは半年後の予定だったから、早く魔導具を調べてもらいたいなら、直接ノルディア王国に行くしかなくて」
本当は、行きたくないんだろうな。正直俺も行きたくない。
写真のない世界なら、第八王子の顔なんて国民は知らないだろうか。絵とか、ある? でもこの顔だよ、目立っていたのでは?
「この顔は……国民は知っているの?」
「顔? オレは公式の場にはほとんど出ていないから、知らないと思うぞ。ただ、兄の関係者とかに見つかると、面倒くさい。今はユウトだし……最悪、ユウト一人が連れていかれる、とか」
すごく行きたくなくなってきた。
「マーレイの研究所は城の外にあるし、大丈夫だとは思うが。今、国内がどうなっているかもよくわからないし」
「なんか、こう、マーレイさんと連絡を取る方法はないの? 魔導具とかで」
「ないから、行くしかないんだよ」
電話、いや、メールさえあれば……。
「手紙! 手紙とかは?」
「一応王国所属だから、内容確認されると思うぞ」
そうだよな。だから、フィールドワーク先で会うとかしてるんだよな……。
「さっきは最悪の可能性を言っただけで。たぶん、出来の悪い第八王子なんて、誰も気にしてないから。大丈夫だって」
なんか、テオが俺に気を使い始めた。
嫌そうにしすぎたかな。大人なのに。
「ごめん、ちょっと、心配になってしまって……」
「まぁ、なんとかなるよ。まずはコレットが言っていた店に行って、これを渡して……」
木々の隙間から光は漏れているが、視界はずいぶん暗い。魔導具の淡い光が、テオの胸元でゆらゆらと揺れているのがよくわかる。
「それ、魔獣に意味なかったんじゃ……」
コレット、思いっきり噛まれてたよな。
魔導具を回収した今、ここらの魔力は落ち着いている。魔獣は出ないだろうから、効果がなくても平気だけど。
「コレットのこと? これがどれほど効くかはわからないけど、首を噛まれなかったんだから、よかったんじゃないか?」
首をガブッとされていたら、即死だったかも。
魔獣に首を噛まれ、血まみれになるコレット……。恐ろしい想像をしてしまった。
「早く、街に行こう」
テオが一生懸命歩いている。
暗い森の中に揺れる小さな光。
彼の隣を歩く足は、しっかりと土を踏みしめ、前に進んでいく。彼のこの体で、彼を助け、守らないと。
……これからのことを考えると、不安で胃が痛くなりそうだけど。




