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部屋を出ると、テオは魔導具の置いてある部屋に向かう。
「ユウト、すまないが荷物を持ってきてくれるか?」
「あ、うん」
あのリュックに魔導具を入れてみるんだろうか。ちょっと無理なんじゃないかな。
ひとまず、二階の客間から剣の刺さったリュックとテオの荷物を持っていく。
部屋の扉を開けると、テオは部屋の中央に立ち、遠い目をしながら魔導具を眺めていた。
「ユウト、ごめんな」
視線はそのままに、沈んだ声で言う。
「気にしないで。荷物くらい、俺が持ってくるから」
このリュックは、テオには重いと思う。俺が運ぶのが当然だ。
「そうじゃなくて……」
先ほどのザフィールやコレットと話していた時より、テオが小さくなったように感じる。
ゆっくりとこちらを見上げる顔は、眉毛が下がって悲しそうだ。
「オレがやろうって、ユウトに無理やりやらせたのに。結局元に戻れないどころか、状況を悪くしただけだったよな」
テオが捨てられた子犬のような目をしている。
確かに結果だけを見れば、人の家の壁を破壊し、被害者を二人増やしたことになる。
俺たちは何も変わらなかったし、テオはとても悲しんでいるだろう。励ましてあげなければ。
「だ、大丈夫だよ。結局テオが言ってたみたいなすごい爆発はしなかったし。テオが魔導具を起動してくれたからだね」
「あの時は、正直オレが起動したのか、勝手に起動したのかわからなかった。何か普通の魔導具と違って変な感じがしたんだ。オレたちが入れ替わった時だって、ザフィールとコレットは街に出かけていたみたいだし、勝手に起動したはずだ。魔力が溜まって不安定になると、勝手に発動するのかもしれない」
「そ、それに、魔獣もコレットさんも、この体のおかげで何とかなったんだし、君のおかげだよ」
励ますってこれで合ってる? 単なる気休めでしかなくない?
「あ、でも、コレットさんはやり過ぎだったかな……」
俺はふと、先ほどのやりとりを思い出す。
ちゃんと治せたのはよかったけど、中級魔法の域は超えていたはず。やり過ぎないよう言われていたけど、助けることに必死で、加減ができなかった。
テオが強く言ったことで、追求はされなかった。コレットは頭を下げていたし、こちらが治したことを理解した上で、黙認してくれるつもりだと思うが。
「まあ、コレットは大丈夫だろう。証拠は何もないし、あとは結婚してくれると安心なんだが」
「テオは何でそんなに結婚させたがるの?」
ザフィールの恋を応援してるってわけでもないだろう。
「オレのせいでああなってしまったんだ。責任は果たしたい。このままだとたぶん、コレットは他の男と結婚させられる。そうなったら、いろいろ、大変なことに……」
テオの顔が険しくなる。
コレットの中身はザフィールだ。確かに大変なことになりそうだ。
「でもザフィールは父親に言ってあるって」
コレットが好きだと伝えて、二人でいることを許しているんだから、応援してくれてるってことではないんだろうか。
「せっかく入った学校を勝手に飛び出して、わけのわからない魔導具を高額で買い、別荘にこもるような男だぞ。すでに三ヶ月以上たっている。そろそろコレットの親に見切りをつけられる可能性が高い」
確かに、それだけ聞くとザフィールはろくでもない男だな。
たとえお金持ちでも、早めに結婚という決断を示さないと、見限られてしまうかもしれない。
「でも、結婚なんてそんなにすぐできないんじゃ」
今さっきザフィールが告白したばかりだ。うまくいったとして、ここから二、三年お付き合いしてから結婚するのでは?
「あの二人の場合、親が認めれば問題ないだろう」
「そ、そっか」
テオが言うんだから、そういうものなんだろう。
「荷物、触るよ」
テオはそう言って、リュックの中から何かを探している。
このリュック以上に大きな袋なんて、入っていただろうか。
しゃがんでいるテオの隣に座る。
「オレさ、ユウトのこと、あまり信じられなかったんだ」
突然、テオにひどいことを言われた。
「最初は違う世界とか、何言ってるんだって思った。でも、街中で何を見ても初めて見るみたいにキョロキョロしているし、人に会うとおびえたようにビクビクするし。魔導具も知らない、魔法も知らない……。どこかに閉じ込められていたとか、外部と一切交わらずに生きてきた人なのかも、とは思っている。もしそんな境遇だったら、違う世界と思ってもおかしくはない」
テオの考えを訂正するつもりはない。そう思われていても、特に問題はないだろう。
異世界とか、俺だって未だに意味がわからない。
俺の世界のことを、どれだけ説明しても理解できないだろうし、なぜそうなったのか、原因も説明できない。
「ただ、ユウトはいつも自分のことより、オレやその体のことを心配していた。コレットだって、必死に助けようとしていた。その体の外見や魔力を、自分の欲望のために利用してやろうとか、思いもしない人物なんだということはわかる」
テオが俺に視線を向ける。
濁りのない、透き通るような瞳が、柔らかい光を映している。
「まあ、今は君を信頼してるってことだよ」
テオが優しげに微笑んだ。
こんな顔、初めて見た。少し嬉しい。
「俺は、そう思えないかもしれないけど、ずいぶん大人だから。君たちを助けるのは当たり前だと思う。よくわからないことも多いし、テオに見捨てられたら困るし。信頼してくれるのは、とても嬉しいよ」
「見捨てたりしないよ。大事なオレの体だし」
テオはそう言って、リュックの中から、小さなカバンを取り出した。
出会って最初の頃、荷物の確認をした時に大事そうにしていたカバンだ。
サコッシュみたいな形で、綺麗な石が何個も付いた高そうなカバン。
「これは、魔導具なんだ。とても貴重なもので、知り合いから借りているんだ」
テオはそれを俺の前に置き、一つの石を指差す。
「ここに指を置いて、少しだけ魔力を流してみて」
言われた通りに指を置く。
ファスナーすらない、ただの袋のような形。
ゆっくりと魔力を流すと、すべての石が淡く光りだす。
「もういいよ。これで、開く」
テオはそのカバンを手に取り、パカっと口を開いた。
さっきまで開かなかったのかな?
「これは、その体の魔力にしか反応しないようにしてあるんだ」
指紋認証みたいなものかな。
テオはそのカバンを持って、魔導具の近くに行く。開いた口を魔導具に当てると、ヌルッと形が歪み、消えた。
「え?」
ビックリした。消えたよ?
「今、どうなったの?」
「これは、こういう魔導具なんだ」
テオはカバンの口を指でつまんで、スーッとなぞっている。
元の形のままだ。膨らんだりもしていない。
「大きいものも入るし、量もかなり入る。すごく便利なんだけど、貴重すぎて人前では使えないんだ」
四次元にでも繋がっているのだろうか。
「今はユウトにしか開けられないようになっているが、盗られたりするととても困る。十分気をつけてくれ」
再びリュックの奥に入れておくようだ。
荷運びの責任が重くなった。リュックは床に置いたりせず、常に背負っていよう。
「さて、その魔導具を、オレの知り合いの所に持って行くつもりなんだが……。いろいろと、言わなきゃいけないことがあるんだが、まあ、そのうち、そのうちちゃんと言うから」
「無理しなくても、言いたくないなら別にいいよ」
すべてを話すことが信頼ではないだろう。
カバンの魔導具のことを教えてくれたのは、俺がそれを盗んだり、悪いことに使ったりするような人じゃないと思ってくれたからだろう。それだけで十分だ。
「いや、今度、ちゃんと言うから。ひとまず戻ろう」




