4-1
目を開くと壊れた壁が見える。
優しい風が頬をなでていった。
魔導具は光を失い、沈黙している。中身は空っぽだ。頭痛や気持ち悪さも消えている。
テオは立ち上がり、手を伸ばした姿勢のまま動かない。
コレットは血まみれのまま横たわっている。
「回復魔法!」
先ほどは体が動かなかったが、今は大丈夫だ。
急いでコレットに近づき、足に両手を置いて魔力を込める。
まだ温かい、生きてるよね?
俺の手はかなり光っている。コレットの体も光っているようだ。
テオは自然に治るものしか治せないって言っていたけれど、上級魔術師なら治せるよね?
砕けた骨、引き裂かれた筋肉、流れる血液。すべて、元どおりに。神経も血管も皮膚も。
不意に不安が押し寄せてくる。このまま治せなかったらどうしよう。もし、死んだりしたらどうしよう。
体が震え、涙が止まらない。視界はぼやけ、光があふれている。
どうか助かりますように。
祈りながら魔力を流し続ける。
どれくらい、そうしていただろうか。
「ユウト、もう大丈夫だ」
肩に触れられて振り向くと、テオが立っていた。
魔法を止めて下を見る。血溜まりが消えて、傷のない綺麗な足が目の前にあった。
少しホッとしたが、もう一つ確認しないといけないことがある。
俺は震える手でコレットの手を取り、その手首に指先を当てた。
トクトクと、温かい鼓動を感じる。
よかった。
なんとかなったようだ。
安心したら、体中の力が抜ける。
俺は大きく息を吐き、涙をぬぐった。
辺りを見渡すと、惨憺たる有様だった。
壁は半分ほど吹き飛んでいるし、部屋の中もグチャグチャだ。
防御魔法は消えてしまっていたが、壁の向こうには何もいない。魔獣はどこかへ行ってしまったようだ。
俺はそのままテオを見上げる。
テオは無表情で、コレットを見下ろしている。
俺たちは結局そのままだ。街を吹き飛ばすほどの爆発は起こらなかったが、喜べるような状況ではない。
だいぶショックを受けているんじゃないかな。大丈夫かな。
しかし、あの魔力はどこに消えてしまったのだろう。
「う、ううん……」
コレットの唇から声が漏れる。気が付いたようだ。
「コレットさん、大丈夫ですか?」
俺が話しかけると、ゆっくりと目が開く。ボーッとした表情で起き上がり、床に座り込んでいる。
「痛いところとか、ありませんか?」
見た目は綺麗になっていたが、内部や感覚のことはわからない。
「痛い? 痛いところは、ない……」
つぶやいて、壊れた壁の方を見ている。
「壁が……。え? ここは?」
コレットは不思議そうに辺りを見回している。
大丈夫だろうか。魔獣に襲われたショックで、記憶が飛んでしまったのかな。
「あの、立てますか?」
俺は彼女の足の具合が気になるので、ひとまず立ってもらう。
「え? 立てるけど」
コレットは普通に立ち上がった。
痛みも違和感もなさそうだ。よかった。
俺もひとまず立ち上がる。
コレットは立ち上がったまま、自分の胸元を見つめている。
どうしたんだろう。頭とか、大丈夫かな?
「コレットさん?」
俺が呼びかけると、パッとこちらを向く。
「……コレット?」
「ギャーーーーー!!」
突然、叫び声が響いた。
二階からのようだ。
激しく扉を開く音、階段を駆け降りる音、そして、目の前の扉が勢いよく開いた。
そこには顔色の悪いザフィールが、ハァハァ言いながら立っていた。
そういえばこの人、あの爆発に気づかなかったのかな。今まで寝ていたのだろうか。
血走った目でコレットを見て、固まっている。
どうしたんだろう。
コレットもザフィールを見て、固まっている。
「な、な、なんで、私が……」
ザフィールが震えながらコレットを指差す。
「僕が、いる」
コレットが小さくつぶやく。
「あ、あなた、誰!?」
ザフィールが部屋に入ってきて、コレットの前に立つ。
「ザフィール……」
「……私は、コレットよ」
お互いの顔をジッと見て、動かない。
俺はふと、消えた魔力のことを思い出した。
「「これってもしかして、入れ替わってるーーー!?」」
二人が同時に叫んだ。




