3-4
案内された部屋は、八畳ぐらいの二人部屋だった。
ベットが二つ置いてある。いつの間にか俺たちの荷物も運ばれていた。
その後コレットに手伝いを申し出たが、断られた。
冒険者証を見せて、報酬の話もした。よくわからなかったが、テオが話し合ってくれた。
食事もコレットが用意してくれた。
みんなで食べることはせず、テオと二人。
出された料理は、この世界に来てから食べた物の中で、一番美味しかった。
きちんと香辛料で味付けされた肉。サイコロステーキのように一口サイズになっていた。豚肉のようだったが、何の肉かはわからなかった。柔らかいパン。スープも野菜がたくさん入っていた。
お金持ちの食事は美味しい。たくさん食べてしまった。
「あの魔導具で間違いないだろう」
コレットが用意してくれた部屋に戻ると、テオがベットに腰かけながら小声で言った。声が聞こえるように、隣に座る。
「ザフィールは魔力量が増える魔導具だって言っていたけど、溜めた魔力が消えたタイミングを考えると、オレたちがこうなった原因はアレのせいだろう」
「彼は騙されたってこと?」
「そうだろうな。特級魔導具は、基本的には公的な研究機関に管理されているが、盗まれたり、盗掘品だったりが裏で出回ることもある。使い方のわからないものを、売りつけられたんだろう」
そんな怪しい魔導具を信じて、学校を飛び出し、三ヶ月間魔力を溜めて、気づいたら消えていたなんて。
「少し、可哀想だね」
俺がポツリとつぶやくと、テオが大きくため息をつく。
「可哀想なのはこっちだ。アイツのせいでオレたちがこんな目にあっているんだ」
怒りのにじんだ口調で、吐き捨てるように言い放った。
「ご、ごめん」
「なんでユウトが謝るんだ」
反射的に口をついた言葉が、余計に苛立たせてしまったようだ。
「いや、すまない。少し感情的になってしまった。これからのことを考えよう」
テオは頭を軽く振り、ベッドの上に仰向けに寝転んだ。
「見た感じ、上部にあった魔石に魔力を流せば起動するだろう。オレの今の魔力でもできるはずだ。前回は勝手に発動したみたいだが、手動でも問題ないはずだ。今のオレたちは不自然な状態だから、発動時に近くにいれば元に戻してくれると思うんだが」
「やってみないとわからないよね」
「今からこっそり行って、試してみないか?」
ベッドから起き上がり、大胆な提案を口にする。
「勝手にやるってこと? それは、ちょっと。コレットさんもいるんだし、絶対バレるよ」
「バレて追い出されたら元も子もないか……」
今のところ、協力することで起動時に立ち会えることになっている。
「一ヶ月後に起動するんだから、それまで待った方がいいよ。うまくいけば俺たちは元に戻る。ダメだったら……、その時は譲ってもらうなり、売ってもらうなりするとか」
「一ヶ月か、長いな」
テオが再びベッドに寝転がった。
そろそろ眠くなってきたのかな。
「そういえば、魔導具に魔力を流すのって、あれが普通なの? すごく嫌な感じがしたんだけど」
俺は魔力を流した時の、あの嫌な感じを思い出してゾクッとする。
「嫌な感じ? そういえば、ユウト魔力入れた後、変だったな」
「魔力を吸い取られるというか、こっちに入ってくるような感じ。なんか生命力そのものが奪われる気がしたんだけど」
「普通は、入れようとした分だけ入る。吸い取られるなんて感覚、ないけどな」
「ザフィールさんの体調にも、影響してると思う」
「確かに、顔色悪かったな。魔力の感覚は、中級魔術師ではほとんど感知できない。疲れやすい、くらいしか思ってないだろう」
「あと一ヶ月とはいえ、これ以上やらせない方がいいと思うんだけど……」
「すでに三ヶ月やってるからな」
彼の体調も心配だが、俺が一人でやると言って納得してくれるだろうか。魔力は少しずつ入れないといけないから、時間も余計かかってしまう。テオは今すぐにでもやりたいだろうし、正直俺も、あの嫌な感じを何度も味わうのは避けたい。
「全部、話してみたらどうかな? 俺たちがこうなってることも全部。そしたら、魔導具使わせてくれるかもしれないし、譲ってくれるかもしれないよ」
テオが大きく息を吐いた。
「難しいと思う。オレだって、もし入れ替わったなんて話を聞いても信じないよ。よっぽど親しい人ならまだしも、会ったばかりの人なんて信じられるわけがない。まだ魔力量が増える魔導具の方が現実味がある」
そうだよな。証明なんてできないし、ただの変な人だと思われて追い出されちゃうよな。
ひとまず一ヶ月待つしかないか。
隣を見ると、テオが眠っていた。きちんと布団の中に寝かせる。ここの布団はふかふかだ。
探していたであろう魔導具が見つかったんだ。今日はゆっくり寝よう。
次の日、朝早くからザフィールに魔導具が置いてある部屋に連れてこられた。
昨日よりは顔色がいい。しっかり休めたようだ。
テオは昨日と違って塩対応だ。ザフィールは気づいていないようだが。
「じゃあ、僕からやるからな」
張り切って魔導具に手を当てている。あまり張り切らないで欲しいのだが。
ゆっくりとガラス内部の魔力の量が増えていく。
「はぁ……。なんか今日は一段と疲れるな」
魔力を注いだザフィールの顔色が、一気に悪くなる。魔力はまだ全体の五分の一にも達していない。
「じゃあ、次はユウトがやってくれ」
「大丈夫ですか?」
ふらついている彼に、声をかける。
「ちょっと、休むよ。ユウトも無理しないようにな」
ザフィールはそう言って、部屋を出ていった。
「顔色、悪くなったな」
テオがつぶやく。
「あんまり、やらせたくないなぁ」
俺はそっと魔導具に触れた。これは彼にとって確実に毒になっている。
一気に魔力を入れることは可能だが、上級魔術師であることがバレるわけにはいかない。少しずつやっていくしかないが、悩ましいなぁ。
ひとまず、俺の分の魔力を入れるか。あのゾワゾワと絡みつく感じは嫌だけど、少しずつやっていくしかない。
魔導具に両手を当てた時、ノックの音が聞こえた。
「失礼します。あれ? 坊っちゃんは?」
コレットが入ってきて、ザフィールを探している。
「部屋にもどりましたよ」
テオが答えると、コレットは深くため息をつく。
「また、坊っちゃんは……」
調子が悪いのは確かだが、彼女にはただの怠慢に見えているのだろう。少し不憫だ。
「私、ちょっと食料のことで街に行ってこようと思って。もし、坊ちゃんに聞かれたら、伝えといてもらえますか?」
二人増えたら、食料は二倍消費される。それが、これから一ヶ月。
食料を運んでくれる人がいるって言っていたから、量を増やしてもらうために話に行くのだろう。
電話とか、ないんだろうな。
「す、すみません、俺たちのせいで」
「ユウトさんたちは気にしないで下さい。坊ちゃんのわがままには慣れていますので。魔獣よけの魔導具もありますし」
コレットは首からネックレスのようなものを下げている。あれが魔導具なのだろう。
「気をつけて行ってきてください」
俺がそう言うと、彼女は一礼して部屋から出ていった。
少しの間、物音がしていたがそれもなくなる。
今、この家には疲れて部屋で休んでいるザフィールと、俺とテオのみ。
「ユウト、今しかない。やろう」
テオが真剣な目で言う。
目の前に元に戻れる可能性があるんだ。試してみたい気持ちはよくわかる。
「一回だけでいい。うまくいけば、その後のことはオレが何とかする。うまくいかなかったら、今の状態に戻しておけばいいだけだ。やろう、ユウト」
森で転んで泣いていたテオ、昨日の苛立っていたテオ。普段の彼は冷静だが、心の中では元に戻りたい気持ちで一杯だったはずだ。
俺と違って、目の前にずっと自分の体がある状態だし。しかもその中身がこんなに情けないおじさん……。
彼の気持ちを尊重するべきだ。
コレットが次に一人で出かけることなんて、もうないかもしれない。
成功しても失敗しても、それほどまずいことにはならないだろう。
「わかった。やろう」
俺はしっかりとうなずいた。




