2-5
ギルドを出て、街中を歩く。
テオは何軒か店を回り、いろいろな物を買っていく。
テオ用の剣、テオ用の着替えと革の胸当て。俺用の新しい胸当ても買った。魔獣にやられた時、ボロボロになった鎧と服は売ってしまった。せっかくメリアが直してくれたのに。
テオはけっこう身なりを気にする。服もいろいろ見比べていた。俺は何でもいいので、すべて彼にお任せだ。
日用品や保存食を買い足し、リュックに入れていく。少し重くなる。
さっき言っていた、魔獣よけの道具も買う。魔導具ではなく、ただの匂い袋のようだ。紙で厳重に包まれていて、森に着くまで絶対に開けるなと言われた。
買い物をすませると、食堂のような店に入る。入り口に冒険者ギルドのペガサスのマークが付いている。
「この印がある店は、割引があるんだ」
テオはそう言って中に入る。食事をしている人がちらほらいる。
俺はフードを深くかぶり、テオから離れないように付いていく。
テオは、奥にいるガタイのいいおじさんに話しかけた。
「二人部屋を借りたいんだが……」
ここは食堂付きの宿屋のようだ。
テオとおじさんは、食事代と宿泊料について話し合っている。値切っているのかな。
テオはお店でもよく価格交渉をしていた。そもそも値札の付いている商品がほとんどない。買い物の難易度が高すぎる世界だ。
おじさんは時々俺の方を見ている。子供に交渉させて、フードで顔を隠している怪しい人だと思われているのだろう。不審者っぽいよね。
話はまとまったようで、おじさんが奥から料理を持ってきた。俺は、木の器に入ったスープを受け取る。肉と野菜のスープのようだ。テオは、パンが何個か入った紙袋と鍵を受け取り、階段のほうへ向かった。
二階に上がると、いくつかドアが並んでいる。
テオはドアに描かれた番号を確認し、鍵を開け、部屋に入る。
ベッドが二つと机が一つ、イスが二つある。
机の上に料理を置いて、一息つく。
「温かいうちに食べよう」
相変わらず、あまり美味しくはない食事。カツカレーとか食べたい。大盛りで。
テオは「体力を付けないとな!」と言って、俺と同じ量を食べていた。
部屋の中で、魔法の練習を始める。
「手で、壁を作るような感じで」
テオに言われたとおり、魔力を操作していく。
壁、堅い壁、コンクリートか。透明なほうがいいから、強化ガラスかな。
イメージしながら、両手を前に出し、集中。
ゆっくりと手が熱を持ち、光りだす。
目の前にガラスの壁が現れる。
「いいんじゃないか?」
テオがコンコンと叩いている。
ちゃんとできているのか、自分でも叩いてみたいが、両手は魔力操作中だ。片手なら大丈夫かな。右手を動かすと、ガラスの壁は消えてしまった。
「慣れれば手を当てなくてもできるはずだ。一応、片手は添えておいてもらって」
中級魔術師のフリもあるが、手からの方が安定する気がする。
左手を前に出して、集中。
できれば前面だけではなく、グルっと周り全部を囲みたい。卵みたいなイメージで。
手から何かが抜けていくような感じがする。魔力が消費されているのかな。
何とか形になった。見た目はガラスのように透明だ。右手で触ってみると、卵の殻のようなザラザラした手触りになっている。卵のイメージに引っ張られたようだ。
「卵みたいだな」
テオが向こう側からペタペタ触っている。
いざとなったら、この防御魔法で危険な魔獣から自分とテオを守る。
テオをこの中に入れて……。
そう思ったら、テオが倒れ込んできた。
「ブフッ」
俺の腹に頭をぶつける。この体は腹筋がしっかりしているのだろう、大して痛くはない。
「ごめん、テオを中に入れることを考えたら、勝手に」
透明な卵は消えていない。テオがすり抜けたみたいだ。
「大丈夫だ、ちょっと驚いたけど」
テオは体勢を立て直した。
「オレの魔力はかなりの量だから、勝手に魔法が発動することもある。子供の頃は制御できずに苦労したよ」
「それは……困るね」
一旦、防御魔法を消す。
「何らかの使用条件を決めておくといい。言葉にするのが一番簡単だよ」
「防御魔法、発動。とか?」
ちょっと恥ずかしいな。
「もっと細かく設定しておくと安定するよ。透明、卵型とか、誰を防御するとか」
口に出して条件を設定した方が、イメージしやすいか。
「透明。卵型。俺とテオを内部に。魔獣を防ぐ。範囲は小さく」
俺は小声でブツブツつぶやき、左手を前に出す。
「防御魔法、発動」
左手がフワッと光り、俺とテオの周りに透明な壁が現れる。魔力が抜ける感じもする。
「いい感じにできてるじゃないか」
イメージ通りだ。本当に魔獣が防げるかはわからないが。
テオがガンガンと叩いている。強度はありそうだ。
「解除」
つぶやいて左手を下ろすと、スッと消える。
確かに、言葉にすると制御しやすいな。左手を上げ下げするのもいいかも。
小声ならそんなに恥ずかしくないか……。街中でやるわけじゃないし、まあいいか。
何度か壁を作っては消す。だいぶ素早くできるようになってきた。
特に疲れは感じない。
他に魔法でどんなことができるんだろう。興味はあるが、勝手に発動してしまったら大変なことになる。考えないようにしよう。
使える魔法は回復と防御。手を添えないと使えない。そういうことにしておく。
明日は森で、魔導具を探す。魔獣よけの道具もある。もし出会ってしまったら防御魔法で守りながら逃げる。
森か……。森とか行ったことないな。キャンプとかハイキングのイメージがあるけど、俺には無縁だったし。子供の頃はあったかな。
いや、魔獣に襲われるような森だぞ。
……薄暗く霧深い森。奇妙にねじ曲がった木々が生い茂り、風がザワザワと葉を揺らす。時々ギャアギャアと鳥の鳴き声がし、遠くから獣の咆哮も聞こえる……。
怖いな。ちょっと行きたくなくなってきた。
「ユウト?」
考え込んでいたら、テオが心配そうにしている。
「そんなに不安そうな顔をするなよ。なんとかなるさ」
テオは少し楽観的すぎじゃないか? 元チート人間だからだろうか。
でも今の彼はただの子供だし、俺がしっかりしないと。
「そろそろ寝るか」
テオがあくびをし、眠たそうに目を擦る。子供の体だと睡眠時間も増えるのかな。
魔法も使えるようになったし、なんとかなる、よね?




