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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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9/81

位相差

午前10時34分。


揺れは、四秒に伸びた。


教室の空気が重く沈む。息を吸うだけで、肺の奥がひとつ遅れる。

窓の外では、スカイ・ピラーの光が一瞬だけ鈍った。


その――半拍前。


志乃の胸が跳ねた。


(早い)


塔が揺れるより、わずかに先。

誰にも区別できない程度の差。統計に落とせば誤差で片づく程度。


だが志乃には、はっきりわかる。


揺れが来る直前、体内の霊気が先に波打つ。

自分の内側が合図を出し、塔がそれに追従している――そんな錯覚が、拭えない。


いや、錯覚であってほしい。

そうでなければ、意味が変わってしまう。


昼休み。


屋上。


古本は無言でグラフを拡大した。指先だけが迷いなく動く。


「揺れの起点日がわかった」


西野が顔を上げる。


「いつだ?」


「二十一日前」


志乃は日付を聞いた瞬間、喉が渇いた。


それは――志乃が初めて塔を“強く意識した日”。

演習中、制御が越えかけた日。


古本は続ける。


「その日から周期が発生している」


偶然にしては、正確すぎる。

一致にしては、出来すぎている。


志乃は何も言えない。

言葉にした瞬間、因果に名前がついてしまう気がした。


放課後。


西野が志乃を呼び止めた。いつもの軽さがない。声が少し低い。


「昨日、父から聞いた」


一拍置いて、西野は言う。


「中央塔内部で、逆位相の波が検出されてるらしい」


「逆位相……?」


「外に出る波と、内部に戻る波が、噛み合ってない。ズレてるって」


循環が噛み合っていない。

それはつまり――霊気の流れが、乱れ始めている。


夜。


22:32。


志乃の鼓動が早まる。胸の奥の波が、時計より先に形を持つ。


22:33。


揺れ。


身体の内側が確かに持ち上がる。呼吸が浅くなる。

だが、塔の明滅は――22:34。


一分の差。


志乃のほうが先だった。


(私が起点……?)


そんなはずはない。

塔は都市の中心で、自分はただの生徒だ。


けれど波は、否定してくれない。


胸の奥で、確実に。

塔より早く、同じリズムが刻まれている。

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