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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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夜への移行

揺れは、10:35。


三秒半。


教室の空気が、はっきり重くなる。さっきまで同じ体積だったはずの教室が、急に密度を増したように息が詰まる。

数名が顔色を変え、椅子の背に指をかけた。立ちくらみ――というより、身体の内側を揺すられて平衡感覚が遅れる。


志乃は目を閉じる。


(制御)


呼吸を深く、短く。霊気を外へ押し出さない。内側に沈める。

いつもの手順。いつものはず。


だが今回は、塔の揺れと同時に――


学院の霊気灯が、一瞬だけ明滅した。


ほんの瞬間。

照明が落ちたわけではない。光が“薄く”なり、次の拍で何事もなかったように戻る。


誰も声を上げない。


けれど、全員が見た。

見たうえで、見なかったふりをした。


揺れは収束する。塔は直線に戻り、教室は「いつも通り」を再開する。

ただ、霊気灯の明滅だけが、胸の奥に残った。


放課後。


帰り支度の雑音の中で、古本が低く言った。


「夜にも来る」


断言ではない。予測だ。

それでも志乃には、宣告に聞こえた。


志乃は家に戻る。


時計は22:33。


胸が、波打つ。今日一日抑えてきた“薄い揺れ”が、今は抑える前から形を持っている。

都市の外に出たわけでもないのに、都市の中心と同じリズムが近づいてくる。


22:34。


揺れ。


今度は塔も、はっきり明滅した。


昼間のような“気のせい”ではない。光が確実に脈を打ち、空気の重さが一拍遅れて追いつく。

夜に移った。——いや、「夜にも」来た。


周期は縮み続けている。


都市はまだ平穏だ。警報も鳴らない。ニュースも平常のまま。

だが揺れは、昼と夜の境目を越え始めた。時間帯を選ばなくなってきた。


制御塔が揺れているのか。

都市が揺れているのか。


それとも――


志乃が、揺れているのか。


答えのない問いだけが、胸の奥の波と一緒に残った。

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