観測者
学院に医療班が常駐するようになった。
理由は曖昧だ。掲示にはこうある。
「軽度の霊気過敏症状への対応」
だが、軽度ではない。
実際に倒れた生徒がいる。しかも、揺れの最中に。
時間は10:33。
揺れは四秒半。
教室の空気が沈む。密度が増すように重くなり、耳の奥が詰まる。視界の端がわずかに暗くなる。
誰かが椅子からずり落ち、もう一人が机に額をつけた。呼びかけの声が上がりかけて、喉で止まる。
揺れが、強くなっている。
神代教官が初めて授業を中断した。
「全員、出力を閉じろ」
命令口調ではない。避難誘導に近い声だった。
志乃はすでに閉じている。
出す前に抑えている。抑えるのが、もう習慣になっている。
それでも内部の波は止まらない。
光として漏れないだけで、胸の奥では同じリズムが脈打ち続ける。押し上げる力が、制御の壁を内側から叩く。
神代の視線が志乃で止まった。
確信を含んだ視線。
偶然を探している目ではない。「確認」に近い目だった。
放課後。
観測室。
医療班の簡易センサーと学院の観測ユニットが接続され、モニターに複数の波形が並んでいる。
古本が無言で表示を切り替え、二本のグラフだけを残した。
「位相がずれてる」
モニターには、二本の波形。
塔の波。
そして――志乃の波。
完全には重なっていない。山の立ち上がりが、わずかに先行している。けれど相関は明確だった。偶然で出る形ではない。
古本が淡々と言う。
「一致率、82%」
西野が息を飲む。笑えない、という顔を初めてする。
志乃は画面を見つめたまま動けなかった。
自分の内側が、都市規模の設備と同期している。
あり得ない。
でも否定できない。
夜。
22:31。
志乃の胸の奥が持ち上がる。波が来る。息が浅くなる。
そして実際に――揺れた。
だが塔の明滅は、22:32。
差は広がっている。
追従が遅れているのか、先行が強まっているのか。
周期は短縮を続ける。
このままなら、いずれ――
塔は志乃に“追いつく”。
あるいは、志乃が塔を“引きずる”。
都市はまだ平穏だ。警報は鳴らない。人々は通勤し、店は開き、ニュースは天気を流す。
けれど医療班は増え、
中央塔の内部立入制限はさらに強化された。
そして神代教官は、ある申請を出す。
「綾崎志乃の精密同調検査」
それは検査という名前をした、確認だった。




