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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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検査室

精密同調検査室は、地下三階にあった。


学院の地下は、地上の整然さとは別の顔をしている。廊下は短く、曲がり、扉は厚い。案内表示は必要最小限で、空調の音だけが一定のリズムを刻んでいた。


志乃は白い部屋に通され、椅子に座る。


壁も床も、光を反射しすぎない白。影が薄く、距離感が曖昧になる。静けさそのものが設備の一部みたいだった。


腕には測定リング。皮膚に密着する金属が冷たい。

背には霊気導子。薄い圧迫感が肩甲骨のあたりに残る。


心拍、出力、位相――呼吸の間隔まで。

全部が数値化され、切り分けられ、画面の上で「志乃」になっていく。


ガラス越しに神代教官がいた。

その隣には見慣れない技官が一人。灰色の作業服、首から下げた識別札。学院の職員というより、都市側の人間に見えた。


スピーカー越しに声が落ちる。


「力を出す必要はない。ただ自然に呼吸しろ」


志乃は目を閉じた。


静かに。

吸って、吐く。

吸って、吐く。


けれど胸の奥には、波がある。呼吸とは別の周期が、底で脈を打っている。


モニターに波形が立ち上がる。志乃の生体波形。霊気位相。微小出力の揺れ。

そして同時刻の参照として、中央制御塔スカイ・ピラーの観測波形が重ねられた。


その瞬間、部屋がさらに静まった気がした。

誰も息を止めろと言っていないのに、息が止まる。


一致率が算出される。


89%。


「……上がっている」


誰かの小さな声が、ガラス越しに漏れた。技官か、観測員か。志乃には判別できない。ただ、その言葉だけは聞こえた。


志乃は目を開けなかった。

開けたら、自分が何かをしてしまいそうだった。


10:32。


昼の揺れ。


検査室の空気が震える。壁が鳴るわけでも床が揺れるわけでもないのに、密閉された空間が一拍だけ“しなる”。


志乃の波形が先に跳ねた。


コンマ八秒。


遅れて、塔の波形が立ち上がる。

重なり方が、昨日までと違う。追従ではなく、追いかける形だ。


技官の顔色が変わった。


「先行している……」


神代教官は何も言わない。


ただ、画面から目を離さなかった。

まばたきすら減っている。


志乃は閉じた瞼の裏で、同じ数字を反芻する。


コンマ八秒。


誤差と呼べるはずの差が、もう誤差ではない。

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