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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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起点

屋上。


風は弱く、フェンスの金属が陽に温まっている。けれど三人の周りだけ、会話の余白が冷たかった。視線は自然にスカイ・ピラーへ向かい、そこから外しづらくなる。


古本は紙のノートを開いた。

端末ではない。スクリーンショットでもログの写しでもない。罫線の上に、手書きの文字と時刻列が並んでいる。


「起点日が、もう一つある」


志乃と西野を見る。言い切るのに、語気は上げない。


「二十一日前の前日。中央塔で微小メンテナンスが入ってる」


西野が反射的に反応した。


「父が言ってた。出力安定化の微調整だって」


古本は頷きもせず、ノートの該当箇所を指で叩く。


「その直後から、塔の内部ログに“空白時間”がある」


「空白?」


志乃が聞き返すと、古本は淡々と答えた。


「ログが〇・四秒、消えてる」


〇・四秒。

誰も気づかないほど短い。会話なら息継ぎの隙間、まばたきの間だ。


だが、その“空白”が残っていること自体が不自然だった。

塔の中枢は、誤差を嫌う。記録を欠損させないように設計されているはずだ。


古本は続ける。


「周期は、その翌日から始まった」


志乃は喉の奥が乾くのを感じた。


二十一日前。

演習中、ふと塔を見上げた瞬間。胸が強く鳴って、霊気が一拍だけ持ち上がった。


あの日。


偶然か。

それとも――偶然に見せかけられた何かか。


志乃は塔を見た。白い直線は今日も完璧で、こちらの疑いに答える気配すらない。

その完璧さが、いちばん不安だった。

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