短縮
周期は、23時間48分。
一日ごとに、十二分ずつ前倒しになる計算だった。
もう「少しずつ」ではない。露骨な加速だ。
揺れは10:28。
五秒。
教室の霊気灯が、はっきり揺れた。明滅というより、光量が波に合わせて脈を打つ。
床が鳴り、机の脚が微かに擦れる。空気が沈み、耳の奥が詰まる。
数名がその場にしゃがみ込み、ひとりは椅子からずり落ちた。
医療班がすぐ動く。担架ではない。まず呼吸と脈と、霊気過敏の兆候を拾う。手順が、もう慣れているのが怖い。
都市ニュースは、まだ触れない。
発表は短い。
「一時的な出力変動」
それだけ。原因も、影響も、塔の名前も出ない。
志乃は揺れの直前に、立ち上がっていた。
自分の波が来るのがわかる。
時計を見るより早く、胸の奥の“型”が先に立ち上がる。
塔より早い。
もう隠せない。隠す意味も、薄れていく。
神代教官が近づいた。教壇から降り、志乃のすぐ前で止まる。視線は逃げない。
「自覚はあるな」
肯定も否定もできない。
志乃はただ、小さく頷いた。
神代は声を落とす。
「お前は塔と“接続”している可能性がある」
接続。
その単語が、初めて言葉として刺さった。
志乃は否定しなかった。もう否定するための材料が、自分の中に残っていない。
媒介じゃない。偶然でもない。
霊気は、力そのものだ。
ならば同じ力が共鳴することは——あり得る。
問題は、ひとつ。
どちらが主か。
夜。
中央塔内部。
西野の父が端末を睨みつけていた。無数のログの中から、ひとつの表示だけを拡大する。
「逆位相、拡大」
塔内部の波が、外部出力の波とずれ始めている。
戻るはずの流れが戻らない。行くはずの流れが行き遅れる。
制御が追いついていない。
「このままでは循環が乱れる」
誰かが呟いた。小声だったが、室内の全員に聞こえる小声だった。
まだ崩壊じゃない。
警報を鳴らす段階でもない。
だが初めて――
「停止」の可能性が議題に上った。
都市を止める。
それは禁句に近い。口にしただけで責任が生まれる言葉だ。
揺れは毎日早まる。
志乃は塔より早く波打つ。
塔は志乃を追う。
あるいは、志乃が塔を引く。
都市はまだ平穏だ。人は生活し、灯は灯り、空は均質を装っている。
けれど均衡は、もう崩れ始めていた。




