先行一秒
周期は、23時間41分。
前倒しは、もう“加速”と呼ぶしかない領域に入っていた。
揺れは10:24。
六秒。
志乃は揺れの前に立ち上がった。
教室の誰よりも早く。時計よりも早く。
胸が強く波打つ。呼吸が浅くなる。体内の霊気が先に持ち上がり、皮膚の内側を叩く。
その瞬間――
地下で検知アラームが鳴った。
中央塔内部、監視セクション。
先行時間、1.02秒。
「一秒を超えた」
観測員が言いかけて、声を失う。
画面の数値は冷たいまま確定している。言葉にしても、現実は薄まらない。
塔は明らかに追従していた。
偶然ではない。
誤差でもない。
志乃が先。
塔が後。
教室の窓の外で、スカイ・ピラーが鈍く明滅する。
六秒。
長い。
重い。
霊気灯が揺れ、空気が沈み、耳の奥が詰まる。誰かが呻きを飲み込み、机の脚が床を擦る。
揺れが終わっても、すぐには誰も動けなかった。
身体の命令系が、一拍遅れて戻ってくる。
放課後。
神代教官が志乃を呼んだ。廊下の人影が途切れる場所まで連れていき、言葉を選ばずに告げる。
「今日から、お前のデータは中央塔と直結される」
拒否権はない、という意味が声に含まれていた。
個人の問題ではない。都市規模の異常だ。
志乃は静かに頷いた。
恐怖はある。
それでも、どこかで納得している自分がいた。
この波は、塔から来ているのではない。
自分の内側から始まっている。




