遮断
午前10時22分。
揺れ。
七秒。
そして――
都市北区で、霊気灯が一斉に落ちた。
0.8秒。
ほんの一瞬だ。
それでも都市は「暗くなった」。
明かりが消えたという事実より、均質であるはずの光が途切れたことが、人々の身体感覚を揺さぶる。通りにいた誰もが足を止め、反射的に空を見上げた。原因を空に求める癖が、この都市には染みついている。
ニュース端末が騒ぎ始める。
一部区域で瞬間的な出力低下を確認
学院内でもざわめきが広がった。窓際の生徒が立ち上がり、廊下に人が溢れる。教師の声が飛び、すぐに掻き消える。
西野が低い声で言った。
「父から来た。内部遮断が走ったらしい」
「遮断?」
志乃が聞くより先に、古本が説明する。
「逆位相の波が強くなった。保護回路が一瞬、閉じたんだ」
塔が、自分で身を守った。
つまり。
制御が危険域に入った。
志乃は何も言えない。
自分の波が七秒続いたことを思い出す。
あの七秒、身体の内側が引き上げられ続けた。抑え込んでも底で脈打ち、止められなかった。
先行時間は1.3秒。
差は広がっている。
追従が遅れているのか、志乃の先行が強まっているのか――どちらにしても、同じ意味を持つ。
夜。
中央塔内部。
監視室の照明は明るいのに、空気は暗かった。モニターの波形と数値が増えるほど、言葉が減っていく。
制御主任が、判断を迫られる。
「このまま増幅すれば、循環が破綻する」
誰かが喉を鳴らして、次の言葉を探す。
「停止は?」
主任は答える。短く、重く。
「都市機能が半日、麻痺する」
沈黙。
誰も、その責任を取りたくない。
半日でも、都市を止めることは“事故”ではなく“事件”になる。
結論はいつもの言葉に落ちた。
「……様子を見る」
だが様子を見る余裕は、確実に削られている。
0.8秒の暗闇が、それを証明していた。




