共鳴点
屋上。
風が強い。フェンスが低く唸り、制服の袖が引っ張られる。いつもなら誰かが冗談を言って場を緩めるのに、今日はそれが出てこない。風の音が会話の隙間を埋めていた。
古本が言う。
「仮説がある」
志乃を見る。視線は淡々としているのに、言葉だけが慎重だった。
「塔と志乃の間に、“共鳴点”がある」
「共鳴点……?」
志乃が繰り返すと、古本は手帳を閉じたまま続ける。
「霊気は万物に備わるエネルギーだ。なら、同質の波が一定条件で一致したとき、閉じた循環ができる可能性がある」
西野が顔をしかめる。
「閉じた循環って、何だよ」
「外部制御を通らない、二点間の直接共振」
古本は言い切った。
つまり――塔と志乃が、都市の制御を介さずにつながっている。
スカイ・ピラーの循環系から見れば“外部”。学院の安全設計から見れば“盲点”。どちらにとっても、想定外だ。
志乃は塔を見る。
距離はある。都市の中心と学院屋上。目測で届くはずがない。
だが波は距離を無視する。霊気は配線ではなく、空気でもない。だからこそ、どこまで届くのか誰も確信できない。
今日の揺れは10:19。
周期は縮み続けている。
このままなら、数日で昼と夜が重なる。
一日に二回ではなく、境界が溶ける。
揺れが「来る」のではなく、「途切れなくなる」。
都市はまだ立っている。灯も戻る。人は働き、笑い、ニュースは言葉を選ぶ。
けれど初めて、学院の正門前に記者が現れた。
制服ではない。カメラとマイク。目線の鋭さだけが、風より冷たい。
「異常」という言葉が、ついに外へ出始めた。




