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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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移送前夜

移送は二日後。


志乃の行動は制限された。


登下校には中央局の車両が同行し、校内でも三条が一定距離を保ってついてくる。近すぎず、離れすぎず――逃げ道だけを塞ぐ距離。


放課後、人気の切れた廊下で三条が淡々と訊いた。


「不自由か?」


「少しだけ」


志乃は正直に答えた。


三条は一度だけ頷く。


「理解はしている。だが今は都市の安全が優先だ」


敵ではない。

けれど味方とも言い切れない。


“立場”の人間――その言葉がいちばん近かった。


午前十時五分。


揺れ。


十二秒。


志乃の先行は3.1秒。これまでで最長。


教室の霊気灯が明確に歪んだ。明滅ではない。光の輪郭そのものが波に引っ張られ、教室の影が不自然に伸び縮みする。息を吸うと、肺の奥が一拍遅れてついてくる。


三条は即座に端末を確認した。視線が画面に貼りつき、指が操作を止めない。


塔の応答が遅れている。

逆位相が乱れている。


(押す)


志乃は意識を一点に集めた。塔へ。都市の中心へ。

内側から外へ、乱れを整えるつもりで、波を“押し返す”。


八秒で収束した。


教室に残っていた悲鳴未満の音が、遅れてほどける。医療班が動きかけて、止まる。


――だが、その瞬間。


塔とは別方向から、微弱な干渉が入った。


ほんの刹那。

なのに志乃には、引き裂かれるようにわかった。


波が、横から裂ける。胸の奥がきゅっと痛む。呼吸が詰まり、視界が一瞬だけ滲む。


三条が顔を上げた。今度は教室ではなく、空間そのものを見上げるように。


「今のは……何だ」


端末に表示された波形は、塔のものではなかった。


第三の位相。


持続、0.2秒。


記録は短い。短すぎて、偶然に見せかけられる。

それでも“確かに存在する”形をしていた。


昼休み。


屋上。


古本が低い声で言う。


「外部ノイズ、昨日より強い」


西野の顔が険しくなる。


「塔以外に、共鳴源があるってことか?」


「断定はできない。でも自然変動じゃない」


志乃は胸を押さえた。


波は塔とだけ繋がっているわけじゃない。

誰かが触れている。


そういう“感覚”が、さっきの痛みと一緒に残っている。


夕方。


中央局。


三条は解析室でデータを突き合わせていた。塔の内部ログ。例の空白、〇・四秒。そこに貼りつく微弱な異常パターン。


二十一日前。

そして今日。


一致している。


「……再現している?」


呟きは独り言のはずなのに、室内の空気が一段冷えた。


誰かが意図的に、塔と志乃の共鳴を利用している可能性。

偶然の “揺れ” を、道具にする可能性。


三条は迷いを見せずに判断した。


「移送計画は予定通り。ただし警護を増やす」


すぐに通信が返る。


了解。護送車、二台体制に変更。


夜。


志乃の部屋。


時計は22:37。


揺れ。


九秒。


志乃は目を閉じ、押し返す。もう「やる」しかない。押し返すことで短くできる――その事実が、志乃を縛ってもいる。


揺れは抑えられる。収束が見える。


だが終わり際。


窓の外、遠くの建物の影で、一瞬だけ光が瞬いた。


今度は志乃も見た。


塔ではない方向。


胸がざわつく。嫌な汗が背中に浮く。


(見られている)


直感ではない。霊気の感覚だ。

誰かが自分を観測している。塔とは違う波長で。こちらの押し返しを、試すように。


中央塔・観測室。


ログが確定する。


外部位相ノイズ強度:増大傾向

発信源:都市外縁部 推定


都市の外。


研究都市の結界、その外側。


三条は記録を見つめたまま、声を落として呟いた。


「……来る気か」


その言葉は、誰に向けたものでもない。

ただ、都市が次に迎えるものの輪郭だけを、先に認めてしまった声だった。

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