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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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20/81

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午前10時12分。


周期は23時間12分。


揺れは、十秒。


志乃は椅子に座っていた。背筋を正しているのに、身体のどこかが沈む。

波はすでに胸を打っている。


三秒前。

二秒前。


時計ではなく、自分の内側が数えている。


先行時間――2.1秒。


(来る)


その瞬間、教室の空気が押し潰されるように重くなった。肺が膨らむ前に、外側から蓋をされる。視界の端が鈍り、机や椅子の輪郭がわずかに遅れて見える。


窓の外。


スカイ・ピラーが、はっきり歪んだ。


十秒。


長い。過去最長。


一秒、二秒と数える余裕はない。ただ「続いている」ことだけがわかる。


五秒を越えたあたりで、都市中央区の霊気灯が揺れ始めた。明滅ではなく、光量そのものが不安定に上下する。

七秒。交通管制が一部遅延する。端末の通知が遅れて重なり、街の信号が「一拍ずつ」ずれる。

九秒。保護回路が待機状態に入る。遮断準備――いつ切ってもおかしくない表示が、どこかで点っている。


十秒。


――遮断は起きなかった。


ぎりぎりで持ちこたえた。塔が耐えたのか、都市が踏ん張ったのか、それとも。


だが誰も安堵しない。

限界が見えたからだ。次は、運では済まない。


中央塔内部。


緊急会議。


制御主任が、画面の波形を指す。映像には志乃の波形が重ねられている。塔より先行する立ち上がり。明確な相関。もはや「関連がある可能性」ではなく、「関連がある形」だ。


「共鳴源を切り離すべきです」


言葉は淡々としているのに、内容だけが鋭い。


「隔離、もしくは強制的な出力封鎖」


別の技官が即座に反論した。


「封鎖すれば、逆に暴走する可能性がある。閉じ込めた圧が逃げ場を失う」


「だが、このままでは全域遮断だ」


議論は平行線をなぞる。

都市を守るか。

一人を止めるか。


その二択の残酷さが、会議室の温度を下げた。


学院。


神代教官が志乃を見つめる。視線に迷いがない。教師の顔ではなく、観測者の顔だ。


「今日の揺れ――押し返せるか」


志乃は言葉を選び、喉の奥で一度飲み込む。


「……わかりません」


正直だった。昨日の“押し返し”は、偶然に近い。

けれど今、胸の奥にある波は明確だ。塔とつながっている感覚がある。手を伸ばせば届きそうな距離に、都市の中心がある。


恐ろしいほどに。


放課後。


屋上。


西野が怒りを抑えきれず、吐き捨てるように言った。


「隔離なんてふざけてる」


古本は声を荒げない。けれど表情も変えないまま、事実だけを積む。


「理屈はわかる。共鳴点を断てば、循環は安定する“かもしれない”」


「“かもしれない”で志乃を閉じ込めるのか?」


沈黙。


志乃は塔を見る。


自分が原因なのか。

それとも、塔の“空白時間”が先なのか。


まだ因果は確定していない。

だが都市は、確定を待ってくれない。


夜。


22:59。


(夜側の山が、もうここまで来ている)


揺れ。九秒。


志乃は目を閉じた。

波が立つ。塔が応答する前に――今度は、意識的にやる。


押す。

内側から外へ。

塔に向けて。


ほんの一瞬、感覚が噛み合う。歯車の歯が、正しい溝に落ちたみたいに。


逆位相が整う。


揺れは七秒で収束した。


短い。


初めて、意図して縮めた。


中央塔内部。


監視席で声が上ずる。


「振幅減衰を確認!」


室内がざわめく。否定や疑いではない、驚きのざわめきだ。


「共鳴源からの……制御的入力……?」


隔離すべき対象が、制御因子になる可能性。


会議室の空気が変わる。


切るか。

繋ぐか。


都市は今、選択の分岐に立っていた。



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